22 / 42
21話 おーっほっほっほっ
しおりを挟む
「もうすぐ着きますよ。俺が来たのが3日くらい前だから、まだたくさんあるはずです。」
目指すのは数日前に行ったあの岩場だ。あの時は突然魔物に襲われはしたが、今回はそんな事はないだろう。
横を歩くディネルースにそう告げると、彼女は「ありがとうございます。」とこぼしてとても優しい笑顔を俺に向けてくれた。
それを見て、やっぱり人助けは気持ちがいいものだと改めて感じる。彼女の態度が素晴らし過ぎて、ほんとどっかの誰かさんとは大違いだ。
そんな事を考えながらチラリと後方に目を向けると、不満げに歩くターの姿が見えた。時折、こちらを睨んでいる事は背中に刺さる視線で感じていたが、そんなに怒る必要があるのかと素直に疑問に思ってしまう。
どうせ、俺がディネルースと仲良く話しているのが気に食わないのだろう。朝食を食べている時からそんな節が見受けられたし、それに彼女を一晩泊めた事にも不満があるようだ。
そもそも、ターだって無理やり俺の家に上がり込んでいる訳で、ディネルースを非難できる立場ではないはずなのに、なんとも自分勝手で面倒くさいやつだと思う。
俺だってディネルースを家に置くつもりはさらさらない。そもそもだが、助けてもらったその場で突然襲いかかってくる様な女を家に置いていたら、俺自身に危険が及ぶ事は明白だ。これ以上平穏な暮らしを邪魔されたくはないので、この月見草の採取が終わったらディネルースはそのまま街へと送るつもりだし、できればターもそのまま街に残ってくれたらいいのにと思っている。
そこまで考えて今後の生活を改めて想像したら、なんだか大きなため息が出てしまった。
「ユウリ様?大丈夫ですか?」
「あ……いえ、なんでもないですよ。」
ディネルースの配慮に感謝を述べつつ、月見草の群生地に向けて俺は足を急がせると、数日前と変わらず岩場に広がる月見草たちが顔を出した。
「ここです。これだけ群生するのも珍しいですよね。」
そう言って笑いかけると、ディネルースも同じ様に笑って頷いてくれる。その事が嬉しくて、ついつい月見草について語ってしまう。
「この岩に根を張る様子が好きなんですよ。過酷な環境でも負けない強さを感じるし、彼らを見てると自分も強く生きなきゃなって考えさせられます。」
「わかりますわ。彼らは月の光を養分にひっそりと育つ植物……彼らを見ていると、自分自身の事のように思えてならないんです。」
彼女が月見草を自分自身に例えた事について少し気になったが、それを今聞くのは野暮と言うものだ。誰にだって聞かれたくない過去というものはある。
俺はその事には触れず、ディネルースと少しの間だけ月見草について語り合った。もちろん、後ろで不貞腐れたようにそっぽを向いている誰かさんは放っておいて。
自分の好きな話題というだけあって、彼女との会話が楽しくて仕方なかった。これが言葉のキャッチボールなんだと改めて感じさせられる。ターとじゃ絶対にこうはいかないし、冷たい態度を取られて嫌な気分になるだけだからな。
「それじゃ、さっそく採取しましょうか。」
「はい。そうですね。」
ディネルースにそう告げて、俺は月見草の採取に取り掛かった。数日前に来たばかりだが、これは解毒剤の材料になるから取れる時には取っておくべきだ。もちろん、生態系への配慮は忘れずに、だが。
片手がいっぱいになる程度の月見草を採り終えた頃、横にターが立っている事に気づいた。
見上げてみると、彼女は立ったまま腕を組んでおり、少し離れた場所で月見草を採っているディネルースをずっと見据えている。
「あの女……注意した方がいいわ。」
「え……?なんだよ、突然。」
「昨日もあんな風に襲われたでしょ。だから、気をつけるべきだと言っているの。」
「あぁ、その事ね。わかってるよ。これが終わったら街まで送ってさよならだからな。ついでに君もそうしてくれるとありがたいんだけど……」
「街まで送るのは賛成ね。彼女、森の中で目を離すと何をしでかすかわからないし……」
最後の部分だけ無視された事に少しイラッとしたが、それよりもターのその言葉に少し疑問が浮かんだ。
まるでターはディネルースの事を知っている様な言い方だ。まぁ、俺の思い過ごしかもしれないけど。
「君はあの人の事、知ってるのか?」
「……まさか。知るわけないじゃない。あんなビッチ女なんて。」
率直に尋ねたところで、彼女がそうとしか答えない事はわかっていたが。
彼女が浮かべる嫌悪感は、昨日の事に対してなのだろうか。本当に、俺がディネルースに押し倒された事について感情を露わにしているのだろうか。
それは彼女にしかわからない事だが、何かが俺の中で引っ掛かっていた。
しかし、それが何なのかを想像したところで答えにはたどり着けないだろう。今はさっさとディネルースを街へ送り、元の静かな生活にーーー正確には戻れないがーーー戻る事が先決だ。
頭を切り替えよう。
そう思って立ち上がった矢先、ターが突然身構えた。
「お……おい……何を……」
「ぼーっとしてないで!構えなさい!!」
彼女がそう叫んで睨んでいるのは、ディネルースがいる方向だ。その必死さに気づいて、俺もとっさに同じ方へと視線を向けると、そこには異形と化したディネルースの姿があった。
「おーほっほっほっほっ!!ユウリさまぁ!!わたくしと遊んでくださいませぇぇぇ!!!」
目指すのは数日前に行ったあの岩場だ。あの時は突然魔物に襲われはしたが、今回はそんな事はないだろう。
横を歩くディネルースにそう告げると、彼女は「ありがとうございます。」とこぼしてとても優しい笑顔を俺に向けてくれた。
それを見て、やっぱり人助けは気持ちがいいものだと改めて感じる。彼女の態度が素晴らし過ぎて、ほんとどっかの誰かさんとは大違いだ。
そんな事を考えながらチラリと後方に目を向けると、不満げに歩くターの姿が見えた。時折、こちらを睨んでいる事は背中に刺さる視線で感じていたが、そんなに怒る必要があるのかと素直に疑問に思ってしまう。
どうせ、俺がディネルースと仲良く話しているのが気に食わないのだろう。朝食を食べている時からそんな節が見受けられたし、それに彼女を一晩泊めた事にも不満があるようだ。
そもそも、ターだって無理やり俺の家に上がり込んでいる訳で、ディネルースを非難できる立場ではないはずなのに、なんとも自分勝手で面倒くさいやつだと思う。
俺だってディネルースを家に置くつもりはさらさらない。そもそもだが、助けてもらったその場で突然襲いかかってくる様な女を家に置いていたら、俺自身に危険が及ぶ事は明白だ。これ以上平穏な暮らしを邪魔されたくはないので、この月見草の採取が終わったらディネルースはそのまま街へと送るつもりだし、できればターもそのまま街に残ってくれたらいいのにと思っている。
そこまで考えて今後の生活を改めて想像したら、なんだか大きなため息が出てしまった。
「ユウリ様?大丈夫ですか?」
「あ……いえ、なんでもないですよ。」
ディネルースの配慮に感謝を述べつつ、月見草の群生地に向けて俺は足を急がせると、数日前と変わらず岩場に広がる月見草たちが顔を出した。
「ここです。これだけ群生するのも珍しいですよね。」
そう言って笑いかけると、ディネルースも同じ様に笑って頷いてくれる。その事が嬉しくて、ついつい月見草について語ってしまう。
「この岩に根を張る様子が好きなんですよ。過酷な環境でも負けない強さを感じるし、彼らを見てると自分も強く生きなきゃなって考えさせられます。」
「わかりますわ。彼らは月の光を養分にひっそりと育つ植物……彼らを見ていると、自分自身の事のように思えてならないんです。」
彼女が月見草を自分自身に例えた事について少し気になったが、それを今聞くのは野暮と言うものだ。誰にだって聞かれたくない過去というものはある。
俺はその事には触れず、ディネルースと少しの間だけ月見草について語り合った。もちろん、後ろで不貞腐れたようにそっぽを向いている誰かさんは放っておいて。
自分の好きな話題というだけあって、彼女との会話が楽しくて仕方なかった。これが言葉のキャッチボールなんだと改めて感じさせられる。ターとじゃ絶対にこうはいかないし、冷たい態度を取られて嫌な気分になるだけだからな。
「それじゃ、さっそく採取しましょうか。」
「はい。そうですね。」
ディネルースにそう告げて、俺は月見草の採取に取り掛かった。数日前に来たばかりだが、これは解毒剤の材料になるから取れる時には取っておくべきだ。もちろん、生態系への配慮は忘れずに、だが。
片手がいっぱいになる程度の月見草を採り終えた頃、横にターが立っている事に気づいた。
見上げてみると、彼女は立ったまま腕を組んでおり、少し離れた場所で月見草を採っているディネルースをずっと見据えている。
「あの女……注意した方がいいわ。」
「え……?なんだよ、突然。」
「昨日もあんな風に襲われたでしょ。だから、気をつけるべきだと言っているの。」
「あぁ、その事ね。わかってるよ。これが終わったら街まで送ってさよならだからな。ついでに君もそうしてくれるとありがたいんだけど……」
「街まで送るのは賛成ね。彼女、森の中で目を離すと何をしでかすかわからないし……」
最後の部分だけ無視された事に少しイラッとしたが、それよりもターのその言葉に少し疑問が浮かんだ。
まるでターはディネルースの事を知っている様な言い方だ。まぁ、俺の思い過ごしかもしれないけど。
「君はあの人の事、知ってるのか?」
「……まさか。知るわけないじゃない。あんなビッチ女なんて。」
率直に尋ねたところで、彼女がそうとしか答えない事はわかっていたが。
彼女が浮かべる嫌悪感は、昨日の事に対してなのだろうか。本当に、俺がディネルースに押し倒された事について感情を露わにしているのだろうか。
それは彼女にしかわからない事だが、何かが俺の中で引っ掛かっていた。
しかし、それが何なのかを想像したところで答えにはたどり着けないだろう。今はさっさとディネルースを街へ送り、元の静かな生活にーーー正確には戻れないがーーー戻る事が先決だ。
頭を切り替えよう。
そう思って立ち上がった矢先、ターが突然身構えた。
「お……おい……何を……」
「ぼーっとしてないで!構えなさい!!」
彼女がそう叫んで睨んでいるのは、ディネルースがいる方向だ。その必死さに気づいて、俺もとっさに同じ方へと視線を向けると、そこには異形と化したディネルースの姿があった。
「おーほっほっほっほっ!!ユウリさまぁ!!わたくしと遊んでくださいませぇぇぇ!!!」
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる