元アサシンは前世の愛に飢える

noah太郎

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21話 おーっほっほっほっ

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「もうすぐ着きますよ。俺が来たのが3日くらい前だから、まだたくさんあるはずです。」


 目指すのは数日前に行ったあの岩場だ。あの時は突然魔物に襲われはしたが、今回はそんな事はないだろう。
 横を歩くディネルースにそう告げると、彼女は「ありがとうございます。」とこぼしてとても優しい笑顔を俺に向けてくれた。
 それを見て、やっぱり人助けは気持ちがいいものだと改めて感じる。彼女の態度が素晴らし過ぎて、ほんとどっかの誰かさんとは大違いだ。

 そんな事を考えながらチラリと後方に目を向けると、不満げに歩くターの姿が見えた。時折、こちらを睨んでいる事は背中に刺さる視線で感じていたが、そんなに怒る必要があるのかと素直に疑問に思ってしまう。
 どうせ、俺がディネルースと仲良く話しているのが気に食わないのだろう。朝食を食べている時からそんな節が見受けられたし、それに彼女を一晩泊めた事にも不満があるようだ。
 そもそも、ターだって無理やり俺の家に上がり込んでいる訳で、ディネルースを非難できる立場ではないはずなのに、なんとも自分勝手で面倒くさいやつだと思う。

 俺だってディネルースを家に置くつもりはさらさらない。そもそもだが、助けてもらったその場で突然襲いかかってくる様な女を家に置いていたら、俺自身に危険が及ぶ事は明白だ。これ以上平穏な暮らしを邪魔されたくはないので、この月見草の採取が終わったらディネルースはそのまま街へと送るつもりだし、できればターもそのまま街に残ってくれたらいいのにと思っている。
 
 そこまで考えて今後の生活を改めて想像したら、なんだか大きなため息が出てしまった。


「ユウリ様?大丈夫ですか?」

「あ……いえ、なんでもないですよ。」


 ディネルースの配慮に感謝を述べつつ、月見草の群生地に向けて俺は足を急がせると、数日前と変わらず岩場に広がる月見草たちが顔を出した。


「ここです。これだけ群生するのも珍しいですよね。」


 そう言って笑いかけると、ディネルースも同じ様に笑って頷いてくれる。その事が嬉しくて、ついつい月見草について語ってしまう。


「この岩に根を張る様子が好きなんですよ。過酷な環境でも負けない強さを感じるし、彼らを見てると自分も強く生きなきゃなって考えさせられます。」

「わかりますわ。彼らは月の光を養分にひっそりと育つ植物……彼らを見ていると、自分自身の事のように思えてならないんです。」


 彼女が月見草を自分自身に例えた事について少し気になったが、それを今聞くのは野暮と言うものだ。誰にだって聞かれたくない過去というものはある。
 俺はその事には触れず、ディネルースと少しの間だけ月見草について語り合った。もちろん、後ろで不貞腐れたようにそっぽを向いている誰かさんは放っておいて。
 自分の好きな話題というだけあって、彼女との会話が楽しくて仕方なかった。これが言葉のキャッチボールなんだと改めて感じさせられる。ターとじゃ絶対にこうはいかないし、冷たい態度を取られて嫌な気分になるだけだからな。


「それじゃ、さっそく採取しましょうか。」

「はい。そうですね。」


 ディネルースにそう告げて、俺は月見草の採取に取り掛かった。数日前に来たばかりだが、これは解毒剤の材料になるから取れる時には取っておくべきだ。もちろん、生態系への配慮は忘れずに、だが。

 片手がいっぱいになる程度の月見草を採り終えた頃、横にターが立っている事に気づいた。
 見上げてみると、彼女は立ったまま腕を組んでおり、少し離れた場所で月見草を採っているディネルースをずっと見据えている。


「あの女……注意した方がいいわ。」

「え……?なんだよ、突然。」

「昨日もあんな風に襲われたでしょ。だから、気をつけるべきだと言っているの。」

「あぁ、その事ね。わかってるよ。これが終わったら街まで送ってさよならだからな。ついでに君もそうしてくれるとありがたいんだけど……」

「街まで送るのは賛成ね。彼女、森の中で目を離すと何をしでかすかわからないし……」


 最後の部分だけ無視された事に少しイラッとしたが、それよりもターのその言葉に少し疑問が浮かんだ。
 まるでターはディネルースの事を知っている様な言い方だ。まぁ、俺の思い過ごしかもしれないけど。


「君はあの人の事、知ってるのか?」

「……まさか。知るわけないじゃない。あんなビッチ女なんて。」


 率直に尋ねたところで、彼女がそうとしか答えない事はわかっていたが。
 彼女が浮かべる嫌悪感は、昨日の事に対してなのだろうか。本当に、俺がディネルースに押し倒された事について感情を露わにしているのだろうか。
 それは彼女にしかわからない事だが、何かが俺の中で引っ掛かっていた。
 しかし、それが何なのかを想像したところで答えにはたどり着けないだろう。今はさっさとディネルースを街へ送り、元の静かな生活にーーー正確には戻れないがーーー戻る事が先決だ。

 頭を切り替えよう。
 そう思って立ち上がった矢先、ターが突然身構えた。


「お……おい……何を……」

「ぼーっとしてないで!構えなさい!!」


 彼女がそう叫んで睨んでいるのは、ディネルースがいる方向だ。その必死さに気づいて、俺もとっさに同じ方へと視線を向けると、そこには異形と化したディネルースの姿があった。


「おーほっほっほっほっ!!ユウリさまぁ!!わたくしと遊んでくださいませぇぇぇ!!!」
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