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27話 ポルカマレの街
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「おおお~!!これがかの噂の温泉郷なのですね~!」
ディネルースは目の前に広がる美しい温泉街を見て、目を輝かせながら嬉しそうに飛び跳ねた。相変わらずすました顔を浮かべていたターも、その景色にさすがに驚いている様に見える。
確かにその先に広がる景色は今まで見たことがないくらいに幻想的で、見る者の心を奪うほどだった。赤く灯る無数の提灯が、ところどころで湧き上がる湯煙を照らしながら、街の中心に広がる湯畑を赤く染め上げている。そして、その周りで肩を並べる旅館や店の明かりも相まって、そこはまるで遊郭や桃源郷を思わせる。
道ゆく人々は観光客なのだろう。
人間族やエルフ族、獣人族などの様々な種族が混在しており、皆各々の過ごし方でこの街を楽しんでいる様だった。
ここは温泉の街ポルカマリ。
この世界随一の湯量を誇る温泉郷として有名なこの街は、俺が住んでいる森の近くに在るゲイズの街から馬車を使って約3日ほどかかるブルーラグーン山脈の麓に腰を据える有名な観光地である。
「まさかディネルースのやつが、福引きで招待券を当てていたとはな……」
先日、我が家を訪れたおか……いや、あの桃色の短髪男から手渡されたのは、温泉協会長からの手紙とここポルカマレで1番高級な旅館と称される"イン・ポルカマレ"の宿泊券だった。
何でそんなものが俺に……と思った矢先、玄関に顔を出してきたディネルースがことの顛末を説明してくれたので、すぐに合点がいった。
その説明によれば、最近ゲイズの街では買い物をした人に福引券を配っていて、それを10枚貯めると1回福引きが引けるイベントを行なっていたらしい。ディネルースはよく食材や生活用品を買い出しに行ってくれていたから、自然と福引券が10枚集まる。それで試しに福引きを引いてみたところ、なんと1等賞を当ててしまったのだという。
喜んだディネルースは宛先に俺の名前を記入したので、温泉協会から俺に招待状が届いた、という訳である。
「しっかし、ディネルースは強運の持ち主だよな。」
たまたまとはいえ、くじで1等を当てるとはなかなかの強運の持ち主だなと感心する俺を見て、ターはため息をつく。
「あの女が普通にくじを引くなんて事するはずないでしょ。しかも1回で1等当てるなんて虫が良すぎるのよね。おそらくは何か操作をしたんじゃないかと考えるのが妥当でしょ。」
「え……?まじかよ。」
要はディネルースは不正を働いて、ここに来る権利を得た……ターはそう言いたいのだろう。それを悟った俺は、街のみんなに対する罪悪感に苛まれたが、そんな俺など気にする事なくターは話を続ける。
「……まぁでも、今回は別にいいんじゃないかしら。この温泉にある旅館って、人気過ぎてなかなか予約が取れない事で有名なのよ。ましてや、今日泊まる旅館なんて……」
驚く俺を見て呆れた様に肩をすくめるターだったが、そう話す彼女の顔はどことなく嬉しそうで、すましていた顔も少しだがほぐれている。そして、俺はそんな彼女の小さな笑顔にドキッとしてしまった。
どうしてそんな気持ちになったのかは俺にもわからない。突然の事で俺自身も驚いてしまったが、普段は皮肉ばかり言っている彼女が見せたその表情の中には、とても柔らかく女性的な優しさが感じられたのだ。
「とりあえずは旅館にいきましょう!チェックインして温泉に入るのです!」
はしゃぎ飽きたディネルースが、俺たちのところに戻って来てそう提案してくる。
「そ……そうだな。とりあえず旅館に行ってから、これから何をするか決めるとしようか。」
俺がそう言うと、ディネルースは嬉しそうに頭を振って旅館へと歩き出した。そんな彼女に続いて歩き出す俺の横にやって来てターは、ディネルースの背中を見ながら俺にこそりと囁いた。
「気をつけなさいよ。あの女、いつどこで何をしでかすかわからないんだから。」
「あぁ、わかってるよ。一応ここに来る前に釘は刺しておいたから、大丈夫だと思うけど。」
「それではいそうですかと言う事を聞く女じゃないと思うわ。」
ターはそう言うと、俺から離れて歩き出した。
俺は彼女の背中を見ながら今言われた事を思い返してため息をつく。
一緒に住み始めてからというもの、ディネルースは何度も俺に毒を盛ろうとしてくるし、それをいくら怒っても彼女はやめる事をしない。俺自身は薬草士という職業柄、毒に対する耐性を持っているのでほとんど意味はないのだが、やっぱり放っておく事はできない問題だった。
ターには、俺がディネルースに命を狙われる様な事をしたんじゃないかと疑われたが、そんな覚えは一切ない。
(ここは温泉街で人目もあるし……ディネルースもこんなところではさすがに毒は盛らないだろう。)
俺はそう自分に言い聞かせながら2人の後に続く。
もちろん、この後に起こる事など知る由もなく。
ディネルースは目の前に広がる美しい温泉街を見て、目を輝かせながら嬉しそうに飛び跳ねた。相変わらずすました顔を浮かべていたターも、その景色にさすがに驚いている様に見える。
確かにその先に広がる景色は今まで見たことがないくらいに幻想的で、見る者の心を奪うほどだった。赤く灯る無数の提灯が、ところどころで湧き上がる湯煙を照らしながら、街の中心に広がる湯畑を赤く染め上げている。そして、その周りで肩を並べる旅館や店の明かりも相まって、そこはまるで遊郭や桃源郷を思わせる。
道ゆく人々は観光客なのだろう。
人間族やエルフ族、獣人族などの様々な種族が混在しており、皆各々の過ごし方でこの街を楽しんでいる様だった。
ここは温泉の街ポルカマリ。
この世界随一の湯量を誇る温泉郷として有名なこの街は、俺が住んでいる森の近くに在るゲイズの街から馬車を使って約3日ほどかかるブルーラグーン山脈の麓に腰を据える有名な観光地である。
「まさかディネルースのやつが、福引きで招待券を当てていたとはな……」
先日、我が家を訪れたおか……いや、あの桃色の短髪男から手渡されたのは、温泉協会長からの手紙とここポルカマレで1番高級な旅館と称される"イン・ポルカマレ"の宿泊券だった。
何でそんなものが俺に……と思った矢先、玄関に顔を出してきたディネルースがことの顛末を説明してくれたので、すぐに合点がいった。
その説明によれば、最近ゲイズの街では買い物をした人に福引券を配っていて、それを10枚貯めると1回福引きが引けるイベントを行なっていたらしい。ディネルースはよく食材や生活用品を買い出しに行ってくれていたから、自然と福引券が10枚集まる。それで試しに福引きを引いてみたところ、なんと1等賞を当ててしまったのだという。
喜んだディネルースは宛先に俺の名前を記入したので、温泉協会から俺に招待状が届いた、という訳である。
「しっかし、ディネルースは強運の持ち主だよな。」
たまたまとはいえ、くじで1等を当てるとはなかなかの強運の持ち主だなと感心する俺を見て、ターはため息をつく。
「あの女が普通にくじを引くなんて事するはずないでしょ。しかも1回で1等当てるなんて虫が良すぎるのよね。おそらくは何か操作をしたんじゃないかと考えるのが妥当でしょ。」
「え……?まじかよ。」
要はディネルースは不正を働いて、ここに来る権利を得た……ターはそう言いたいのだろう。それを悟った俺は、街のみんなに対する罪悪感に苛まれたが、そんな俺など気にする事なくターは話を続ける。
「……まぁでも、今回は別にいいんじゃないかしら。この温泉にある旅館って、人気過ぎてなかなか予約が取れない事で有名なのよ。ましてや、今日泊まる旅館なんて……」
驚く俺を見て呆れた様に肩をすくめるターだったが、そう話す彼女の顔はどことなく嬉しそうで、すましていた顔も少しだがほぐれている。そして、俺はそんな彼女の小さな笑顔にドキッとしてしまった。
どうしてそんな気持ちになったのかは俺にもわからない。突然の事で俺自身も驚いてしまったが、普段は皮肉ばかり言っている彼女が見せたその表情の中には、とても柔らかく女性的な優しさが感じられたのだ。
「とりあえずは旅館にいきましょう!チェックインして温泉に入るのです!」
はしゃぎ飽きたディネルースが、俺たちのところに戻って来てそう提案してくる。
「そ……そうだな。とりあえず旅館に行ってから、これから何をするか決めるとしようか。」
俺がそう言うと、ディネルースは嬉しそうに頭を振って旅館へと歩き出した。そんな彼女に続いて歩き出す俺の横にやって来てターは、ディネルースの背中を見ながら俺にこそりと囁いた。
「気をつけなさいよ。あの女、いつどこで何をしでかすかわからないんだから。」
「あぁ、わかってるよ。一応ここに来る前に釘は刺しておいたから、大丈夫だと思うけど。」
「それではいそうですかと言う事を聞く女じゃないと思うわ。」
ターはそう言うと、俺から離れて歩き出した。
俺は彼女の背中を見ながら今言われた事を思い返してため息をつく。
一緒に住み始めてからというもの、ディネルースは何度も俺に毒を盛ろうとしてくるし、それをいくら怒っても彼女はやめる事をしない。俺自身は薬草士という職業柄、毒に対する耐性を持っているのでほとんど意味はないのだが、やっぱり放っておく事はできない問題だった。
ターには、俺がディネルースに命を狙われる様な事をしたんじゃないかと疑われたが、そんな覚えは一切ない。
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