元アサシンは前世の愛に飢える

noah太郎

文字の大きさ
29 / 42

28話 計画を立てよう

しおりを挟む
 今回俺たちが泊まるイン・ポルカマレはこの国随一の有名な高級旅館であり、温泉はもちろんのこと、設備面でも接客面でも最高級のサービスを受ける事ができる旅館だ。その反面、予約がなかなか取れない事でも有名な旅館で、常に5年先までキャンセル待ちでいっぱいらしいという話を、目の前で楽しそうにはしゃぐディネルースから教えてもらったんだが。

 そんな旅館に泊まらせてもらえるなんて、かなり幸運だなと改めて実感していた俺だったが、ターからここの宿泊料金について聞かされてゾッとした。1番安いグレードの部屋でも、俺が何年働いて用意できないほどの金額。それなのに、今回泊まるのはスイート……要は超がつくほどの最高級の部屋だった。

 チェックインを済ませて部屋に案内された俺たちは、中に入って目を疑った。煌びやかな調度品が多く飾られたその部屋は、まるで王族が住む一室の様であり、それでいて畳や障子、組子細工がふんだんに施された扉など、今まで見たことがない内装にも驚かされる。


「こんな装飾初めて見たな。」

「それは東方の辺境の国ハクトの組子ですわね。」


 俺が組子を使った扉を物珍しそうに眺めていると、ディネルースがそう教えてくれた。他にも俺の背丈ほどある壺や、掛け軸と呼ばれる大きな巻物の様な飾りなど、見ていて飽きる暇がない。
 ついつい、部屋の中を行ったり来たりしている俺を見て、ターがソファーに座りながらため息をつく。


「ユウリ、はしゃぐのもいいけどこの後はどうするの?」

「いいではありませんか。こんな高級旅館、一生に泊まれるかどうかなのですから。ゆったりと過ごしましょう。ターもブスッとしてないで、少しは楽しんだらいかがですか?」


 アメニティグッズの中から取り出した紅茶を淹れながら、ディネルースがそうクスクスと笑う。ターは少し気に食わなさそうに目を逸らしたが、ディネルースが淹れた紅茶を飲みながら外の景色を眺める様子は、まんざらでもなさそうだった。
 はしゃぎながらもその様子を見ていた俺は、いったん落ち着こうと思い、ターが座るソファーの向かいに腰を下ろした。ディネルースが持ってきた紅茶を受け取って一口含んで見ると、鼻腔を優しく撫でる様な香りが鼻を抜けて心地よい。これも今まで飲んだ事も嗅いだ事もない味と香りがするなと余韻に浸ってしまう。


「俺も仕事柄、紅茶を作ったりするけどさ。はぁ~……これは次元が違う飲み物だな。」

「ここは世界でトップクラスの旅館ですからね。使っている品物も全てが超高級ですわ。ちなみに、この紅茶もハクトでしか採れない茶葉らしいですよ。」

「ほんとすごいところに来ちゃったんだな。それもこれもディネルースのお陰なんだけどな。」

「そ……そんな!ユウリ様……その様におっしゃってもらえて、わたくし嬉しさでいっぱいです。」


 俺にお礼を告げられた事に少し驚くと、ディネルースは顔を赤くして嬉しそうにクネクネと動き出した。

ーーーでもやっぱり、これは演技なのかなぁ。

 ふと、そんな疑念が頭に浮かぶ。
 普段はこんな風に普通に接してくれるのに、彼女は突然俺に毒を盛ってくる。その理由がまったくを持ってわからないからタチが悪い。
 とは言え、もともとの出会いが出会いなだけに俺の事をまだ殺そうとしていると考えるのが妥当なのかもしれない。そして、そんな奴と一緒に住んでいる俺自体はバカなんだと自分でも感じてはいた。
 
 俺に見られて嬉しそうに体をくねらせるディネルースから視線を移動させ、1人で景色を眺めながら紅茶を嗜むターに目を向ける。
 家でもよく紅茶やコーヒーを飲んでいる彼女だが、今日のその様子はとても優雅で気品があると感じられた。俺の様な凡人にはできないゆったりとした時間の使い方。そして、それに慣れている様な振る舞いには少々驚きを隠せない。


「なに……?」

「い……いや……なんでもないよ。」
 
 
 俺の視線にすぐ気づき、ティーカップを置きながら視線だけ向けて尋ねてくるターに、俺はつい目を逸らしてティーカップを口へと運ぶ。
 その様子を見たターは肩をすくめた後、ソファーに背中を預けながら背伸びをする。


「……っ………はぁ……。それで、この後はどうするの?買い物にでも行く?近くに有名なお菓子屋さんがあるらしいけど……」

「アマトさんのスイーツ店ですね。あの方のお菓子は格別ですわよ。」


 アマト……それは俺も聞いたことがある名前だ。
 正確にはアマト=シュガーポット氏。彼が作るお菓子は珍しいものが多くて、貴族たちの間ではかなり流行っていると、ギルド長の娘のエルダから聞いた事がある。もちろん、見た目だけじゃなくて味も超一流であり、本店以外でもいろんな国にお店を数多く展開している超有名な菓子職人だ。


「それは俺も食べてみたいかも……」


 想像して涎を溢しそうになる俺に対し、ターは呆れてため息をつきながらもそれを承認してくれる。


「なら、まずはそこに行って今夜のデザートでも買う?」

「だな。その後は少し観光するか。そうすれば夕食の時間にはなるんじゃないか?」


 ターはそれについても普通に同意してくれたが、いつも否定や皮肉を言われる俺としては少しの違和感を感じてしまう。
 だが、ここでそれを聞こうとすれば、何と言われるかは目に見えている。ここは黙っているのが1番いいはず。
 俺がそんな事を考えていた矢先、突然ディネルースが全ての提案を覆してきた。


「では、まずは温泉に行きましょう!!」


 本当にこいつはマイペースな奴だとため息しか出なかった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お好きになさって下さい、私は一切気にしませんわ

Kouei
恋愛
婚約者のクレマンド様は、いつも私との約束を破ってばかり。 理由は決まって『従妹ライラ様との用事』 誕生日会にすら来なかった彼に、私はついに告げた。 「どうぞ、私以外のご令嬢をエスコートするなり、お出かけするなり、関係を持つなり、お好きになさって下さい。私は一切気にしませんわ」 二人の想いは、重なり合えるのだろうか …… ※他のサイトにも公開しています。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

どうぞお好きになさってください

みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。 婚約者の第一王子殿下は言った。 「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」 公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。 「好きになさればよろしいわ」

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...