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第二章 秋人の場合
欺瞞編 1-14 勇気試し
しおりを挟む果物を齧りながら、秋人は隣に座って、果物を齧る少女に目を向ける。
言葉が通じる少女。
街に潜入したその日の昼に、この教会で出会ったのだが、懐かれてしまったようだ。
◆
秋人が教会で仮眠を取っていると、子供たちの遊び声が聞こえてきた。煩わしく思っていると、なんと彼らは騒がしく教会に入ってきたのだ。
一瞬焦りながらも、側廊に積み重なっていた長椅子の影に身を隠した。冷静に様子を伺うと、どうやら勇気試しに来たようである。。
話を聞く限り、グループの1人が、昨晩寝ぼけて、外で用を足している時に、教会に入っていく白い影を見たという。
(寝ぼけて外でションベンするかよ、普通…)
秋人は、ツッコみたい気持ちを抑えつつ、教会に入る姿を見られていたことについて、反省する。
とりあえず、彼らの動向を見守り、飽きて帰るのを待つことにした。
「ケレゴン!ほんとに見たのかよ?!」
「本当だって!白い影が路地からスッと現れて、そこの壁の中に吸い込まれるように入っていったんだよ!」
「また、いつもの夢なんじゃないの?」
どうやら少し気の弱そうなケレゴンと呼ばれる男の子が、目撃者のようだ。周りの子達は、少し呆れたように彼の話を聞いている。
先頭に立つリーダー格のサリオン。
その横で、ス○夫的ポジションな奴がスールミア。
気の強そうな女の子がエアロス。
そして、その女の子の横に、笑顔で立っているのが、エフィルであった。
5人は少しの間、教会の中を散策していたが、すぐに何もない事に飽きたのか、リーダー格のサリオンが、大声で声をかける。
「やっぱ、何もないじゃないか!つまんねぇの!帰ろうぜ!」
その声を聞いて、スールミアとエアロスは頷くと、サリオンと一緒に、教会から出ていってしまった。ケレゴンは、寂しそうに下を向いている。
そんなケレゴンに、エフィルは近づいて声をかけた。
「あたしは信じるよ。」
ケレゴンは顔を上げて、泣きそうな顔でエフィルを見ている。そんなケレゴンにエフィルは、歯抜けの笑顔で答えるのだった。
「とりあえず、サリオンたちに追いつこうよ!」
エフィルがそう言うと、ケレゴンは頷いて、教会の出口へと駆け出した。
秋人は、ホッと胸を撫でおろしたのだが、その時に、小石を蹴ってしまった。
カツンッ
秋人が蹴った小石は、小さく音を立てて、壁へと跳ね返る。
(しまった!)
そう思った時にはすでに遅かった。ケレゴンを追いかけようとしていたエフィルが、足を止めて、こちらを伺っている。
「だっ、誰か…いるの?」
震える声で、エフィルは問いかけると、ゆっくりと音のした方へと向かい始めた。
秋人は、どうにかエフィルを交わせないか思案するが、どうにも距離が近すぎる。小さくため息をついて、ゆっくりと立ち上がった。
「ッッッ!?」
エフィルは、ビクッと体を震わせて立ち止まり、秋人へと恐れの視線を送る。
大声出されて逃げられると思っていた秋人は、意外な顔をして、静かにエフィルに話しかけた。
「驚かすつもりはないよ。君たちが出ていくまで隠れているつもりだったんだけど…って、あ~言葉通じないのか…」
致命的なことに気づいて、しまったとばかりに、秋人は額に手を当てた。
(言葉も通じないんじゃ、何を言っても意味ないじゃん。)
そう思いながら、ここからどう逃げ出すか考えようと、目の前に目を向ける。
少女は立ち尽くしたまま、怯えに染まった目をこちらに向けている。
秋人は、ため息をつくと、抜け出せそうな穴の空いている壁を見つけて、そちらに歩いていく。しかし、秋人が腰をかがめて、壁をくぐろうとしたその時、
「あ…あの…、待って!」
必死さが伝わってくる声が、秋人へ向かってかけられた。
秋人は、驚いて壁をくぐるのを止め、振り返る。少女の瞳には、怖さの中に宿る彼女の芯の強さが見えた。
胸元のペンダントをギュッと握りしめて、視線を送る少女に、秋人は驚きつつ、向き直り、声をかける。
「俺の話してることが、わかるのか?」
その問いに、少女はコクリと頷いた。
「…怖くないのか?」
「こっ、怖いのは怖い…」
「そうか。なら何で逃げない?」
「わっ、わからないけど…逃げなくてもいい気が…した。」
「なんだよ、それ…ハハ」
秋人は唐突に笑い出す。何がおかしいのかわからない。しかし、笑いが込み上げてくる。
そんな秋人を見て、エフィルも少しずつ笑い始める。表情はまだ、恐怖が抜けきれてないが、歯抜けの笑顔で、秋人と一緒に笑い始めた。
「ハッ、ハハハハハッ」
「アハハハハハハハッ」
一通り笑い終えると、2人は向き直り、顔を合わせる。
「お前、名前は?」
「エフィルミア、春の宝石と書いてエフィルミアって言うの。みんなはエフィルって呼ぶよ!お兄ちゃん…は?」
「春の宝石か…綺麗な名前だ。俺は秋人。アキトだ。」
「アキト…意味は?」
そう問われて、秋人は困ってしまう。自分の名前の意味など、親から聞いたこともない。少し考えて、秋人はこう告げる。
「アキト。フクシュウシャ…かな。」
「フクシュウシャ?」
その答えに、エフィルは首を傾げる。
秋人は気にするなとジェスチャーして、エフィルに話しかける。
「ところで、この街はなんて街だ?来たばかりで知らないとこが多いんだ。教えてくれるか?」
その問いかけに、エフィルは笑顔で答える。
「ここはトアールって街だよ!スヴァルで1番大きな街!」
「トアール…、スヴァル…か。それだけじゃよくわからないな。他に街について、知ってる事を教えてくれるか?」
「うん!いいよ!」
エフィルがそう答えた瞬間、教会の入り口の方から、ケレゴンたちの声が聞こえてきた。
「おーい、エフィル?何やってんだよ!」
「本当に何かいたのかも…」
「そんな事あるもんか!」
「でもぉ…」
そんな会話をしながら、ケレゴンたちが教会の中へと入ってくる。
振り返り、その様子を眺めていたエフィルであったが、ハッとして秋人の方へ向き直すと、そこには誰もいなくなっていた。
「どうしたんだよ、エフィル。」
「やっぱり…なんかいたの?」
「だ~か~ら~、そんなことないって!」
「でっ、でもぉ~」
誰もいない空間を、ジッと見据えるエフィルに対して、他の4人が声をかけると、エフィルはくるりと向き直って、笑顔でこう告げた。
「ううん、気のせいだったみたい!行こう!みんな!」
そう言ってエフィルは走り出して、教会の入り口で、仲間たちに「早く~」と手招きする。他の4人は顔を合わせるが、すぐにエフィルの方へと走り出した。
キャッキャッと笑いながら、教会から出て行く4人を見送り、エフィルは教会内をチラリと振り返る。
そして、ニコッと笑って、教会を後にするのであった。
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