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第三章 交差する物語
1-4 魔導研究発表会
しおりを挟むミズガルでは年に一度、各研究所における研究結果を発表する大会が開催される。
その名を『魔導研究発表会』
各都市に点在する研究所の成果を、全国民の前で披露し、一番評価が高かった研究所には、1年間補助金が国から支給されるのだ。
そして、この大会を長年制覇してきたのは、春樹たちの研究所ではなく、同じく都市ビフレストに在るヘムイダル研究所であった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
この世の終わりを告げられたかのような溜息が、どこからともなく聞こえてくる。
「ベンソンさん、どうしたんだ?」
「お前は今年入ったばかりだったな。"あれ"はうちの研究所じゃ、風物詩だよ。」
「風物詩…?」
「そ!お前、もうすぐ何の日か知ってるか?」
「もうすぐって…研究発表会があるな。」
「そうだ。あの溜息は発表会が近づくにつれて、大きく、そして深くなっていくのさ。」
「へぇ~、でもまた何で?」
「お前、何も知らないでこの研究所を選んだのかい?!うちはな、今まで一度も入賞すらしたことのない弱小研究所なんだぞ?」
「え!?そうなのか!?でもよ、ここにはベンソンさんがいるじゃないか!唯一、国民英雄章を受章したさ!だから俺はここを選んだんだけどなぁ。」
「馬鹿だなあ。それはもう何十年も前の話だぞ?確かに当時、ベンソンさんの研究"魔回路"は革新的だったさ。でも、今ではそれを利用・応用した技術がどんどんでてきてる。時代は流れてるんだ。」
「そうかぁ。そうだよなぁ。でも、俺はここが好きだから、選んだってのもあるからな。」
「おう。そこは俺も同じだ!ハハハ!」
そんな研究員たちの話に聞き耳を立てつつ、春樹は自分の作業を進めていた。
今年の魔導研究発表会。
大会名のネーミングセンスに、疑問を覚えたが、今年はそこで、春樹のアイデアが採用されることになっている。学に乏しい春樹だったが、この研究所に来てからの数年は、必死に努力してきたのだ。
一年目の雑用で信用を勝ち取り、2年目は物理や化学などの学問を必死に勉強した。そして昨年、ベンソンとアルバートに認められ、企画を任されるまでになったのだ。
春樹の努力を、他の研究員たちも知っていて、みんな春樹に一目置いている。そんな春樹の企画案が、研究所の命運を賭けた今年の発表会で採用されるのだ。
「何の因果か…異世界人の俺の案が採用されるなんてな…」
春樹は静かに呟いた。
そんな春樹のところに、ベンソンがやって来る。
「はっ、はっ、春樹ぃ!調子は…どっ、どうだぁ!?」
「問題ないです。ベンソンさんは相変わらずなようで。大丈夫ですか?」
「あっ、あぁ!心ッ…配ッ…するなって!大丈ビ…大丈夫だ…。」
顔が引き攣っていて、無理をしているのがすぐにわかる。春樹はそんなベンソンへと続けて声をかける。
「まぁ、俺の案について、心配するのもわかりますけど、まだまだ発表会まで時間があるんですから、今からそれじゃ持たないですよ。」
「っるせぇやい!こっ、これはもう…半っ半分はッ…癖にッ癖になってんだ!」
春樹はその返事に、笑顔で答える。
「俺ッ…俺も兄貴もッ…お前の案ッにッは…きたッ期待してんだ!おまッ…お前はッ、そのまッ…そのまま、やるべきッ…ことをッやれ!」
そう言い終えると、ベンソンはグッとガッツポーズをする。周りの研究員たちも、それに続いて拍手や叱咤激励を春樹へ飛ばしている。
(この研究所に来てよかった。ウェルさんには本当に感謝しなきゃ。)
春樹は皆からの喝采に応えながら、大きく声を張り上げる。
「みんなの期待に応えて!」
春樹のその言葉で、周りがスッと静かになる。そのタイミングを待って、春樹はもっと大きく声を張り上げた。
「絶対に優勝するぞぉぉぉぉぉ!!!」
春樹が拳を高く突き上げると、ベンソンと周りの研究員たちが、大きく咆哮を上げ、喝采の嵐が巻き起こる。
何事かと駆けつけたアルバートも、入り口に寄りかかり、皆の様子を見て、口元を緩ませていたのであった。
◆
ヘムイダル研究所。
「ベンソンたちの今年の研究内容はわかったのか?」
「いえ…今年はなかなか尻尾を握らせてくれません。だいぶセキュリティを強化しているようです。」
「チッ!使えん奴だな!引き続き、調査を進めよ!」
「もっ、申し訳ございません!失礼します!」
そう部下の研究員へ指示を出す男。
頬は痩せこけ、ニヤリと笑う目の下のクマが目立つその顔は、如何にもといった具合に悪徳感を醸し出している。
その後ろには、小太りの男がデスクに座っている。禿げ上がった頭と垂れ下がった目つきに目の下のクマが、こちらもキャラ作りに一助しており、2人はまさに悪代官と越後屋そのものだ。
「しかし、ヤゴチェよ。そこまで警戒する必要があるのか?奴らがどんな研究内容を出してこようが、うちの設備以上のことは、できるはずがないのだ。昨年も。一昨年も。奴らの内容は大したものではなかった。」
小太りの男は、ヤゴチェと呼ぶ男は問いかける。
「私もそう思っていたのです。が、今年はちょっと毛色が違うようでして…。」
「と言うと?」
ヤゴチェは頷くと、所長のデスクに置いてある小さな四角形の機械を触れた。すると壁に画像が映し出される。
「これは?誰なのだ?」
「ベンソンの研究所に数年前に入所した男です。昨年から研究企画を任されており、今年の研究発表会で、こいつの企画が発表されるようですな。」
「ただの若造ではないか。」
「はい。ですが、経歴が気になります。3年前に入所。ずっと雑用などしていたようですが、急に昨年から企画に携わっています。それに…」
ヤゴチェは、再びデスクの機械に触れると、動画が流れ始める。
「3年前と言えば、ある2人組がこの国に入国してきた時期でもあります。この映像の黒髪の青年と獣人の熊です。そして、黒髪の青年とこの金髪の青年は…」
ヤゴチェが操作すると、映像は春樹の顔写真2枚へと変わり、それが重なり合っていく。そして、全て重なった瞬間、100%と表示された。
「同一人物ということか…。」
「…はい。」
「確かに…少し気になるな。ヤゴチェよ、引き続き調査をよろしく頼むよ。」
「仰せのままに。」
ヤゴチェはそう頭を下げ、すぐさま踵を返して部屋を出ていく。
「ベンソンめぇ…色々と策を弄しているようだが、今年も勝つのは我々なのだぁ!」
そう吐き捨てて、ヤゴチェはドタドタと廊下を歩いていくのであった。
◆
カレンは笑顔で歩いている。
手に携えた籠の中をチラリと覗くと、美味しそうなサンドイッチが入っている。
満足気な笑みを浮かべて、カレンは研究所への道を足軽に歩いていく。
研究所に着くと、近くにいた研究員に問いかける。
「あの…ハルキはどこにいます?」
「あっ、お嬢!ハルキですか?多分、自分の研究部屋じゃないかな?」
「あっ、ありがとう。」
それを聞くと研究員にお礼を言って、カレンは一直線に春樹の部屋を目指す。部屋の前に着くと、深呼吸をして、気持ちを整え、ゆっくりとドアをノックする。
「どうぞ~。」
中から春樹の声が聞こえたのを確認して、カレンはドアを開けた。春樹は椅子に座って何やら書いているようだ。
「ハッ、ハルキ…調子はどう?」
「…ん?カレンじゃん?どうしたの?」
春樹は手を止めて、振り返った。
カレンは少し頬を赤らめながら、持っていた籠をテーブルへ置いて、中のものを取り出していく。
「こっ、これ…サンドイッチ作ってきたんだけど…」
「まじで?!サンキュー、丁度お腹が空いてたんだよ!」
春樹はカレンのいるテーブルに歩み寄り、腰掛ける。そして、カレンからサンドイッチを受け取って、口へと頬張った。
「どっ、どうかな…?」
カレンは恐る恐る春樹へと尋ねる。
「めっちゃうまいよ!カレンは料理が上手なんだな!」
「そっ!そんな…こと…ないよ。」
赤かった顔を余計に赤くして、カレンは謙遜する。春樹は満足そうに、サンドイッチ一個をペロリと平らげてしまった。
「昔食べたサンドイッチを思い出すなぁ。これと同じで、鳥の燻製肉とレタスを使ってた…」
春樹はそう言いながら、窓の外へ視線を向けた。青い空の下で鳥たちが楽しげに歌っている。
「それを食べた時も、綺麗な青空だったっけ…。みんな、元気かなぁ…」
物思いに耽る春樹へ、カレンは話しかける。
「ハルキはこの国に来る前は、アルフレイムにいたんだっけ?」
「そう。お世話になった人たちがいるんだ。」
「そっか…。」
カレンは下を向いた。
春樹の事をもっと知りたいと思う反面、聞いてはダメなことかもと考えてしまう自分がいて、積極的に聞くことができず、その葛藤といつも戦っている。
カレンは小さくため息をつく。そして、小さく口を開いた。
「発表会…頑張ってね。」
「おう!精一杯できる限りのことはさせて貰うつもりだよ!アルバートさんやベンソンさん、研究所のみんなの為にも…ね!」
春樹は笑顔でそう答える。
カレンもそれに笑顔で応えるのであった。
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