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第三章 交差する物語
1-5 準備を始めましょう
しおりを挟む待ちに待ったその日がやってきた。
魔導研究発表会が開催されるその日。
ミズガル中の人々が、ここビフレストへと集まってくる。
お祭り騒ぎ、楽しげな雰囲気が街中に広がっていて、いつもは見ない出店が至る所に溢れている。
今年は150回目の開催と言うこともあり、他国からも一目見ようと、ミズガルへ訪れる人も多いようだ。
春樹たちの研究所内も、慌ただしく人が出入りしている。
「ハルキィィィ!準備はできたのかぁぁ?」
ベンソンの大声が飛ぶ。それに対して春樹は周りの喧騒に負けぬよう、手を挙げて返事をする。
「もちろんです。いつでも出れますよ!」
春樹の返事に、ベンソンはサムズアップで応え、目の前にいる研究員たちへ鼓舞するように話しかけた。
「お前らも準備はいいな!?今日の発表会は俺らにとって非常に重要だ!ハルキの案で、国中…いや!世界中をアッと言わせてやるんだ!その為にも、全員しっかりやってくれよ!」
「おおお!」
「やったろうぜ!!」
「まかせてくれよ!!!」
「ベンソンさん、元気になったな!!!」
ベンソンの言葉に、研究員たちの士気も最大まで上がっているようだ。
「ハルキ!お前も一言、言うんだ!」
横にやってきた春樹の腰をバシッと叩き、春樹にそう促す。
「えっ!?あ~…あまりこう言うのは苦手なんだけど…」
少し戸惑いながら、春樹は少しだけ考えて、思いついたように口を開いた。
「え~っと…よし。みんな!俺の企画を真面目に聞いてくれてありがとう!余所者の案が採用されるなんて、不満を持った人もいるかもしれないけど…みんなが協力してくれたからこそ、今日を迎えることができたと思う!俺の想いはただ一つ!!お世話になったこの研究所の名前を、世界に轟かせることだぁ!!!」
その瞬間、ベンソンの時よりも大きく研究員たちが声を上げた。春樹が少し驚いた表情を浮かべていると、アルバートが声をかける。
「お前の事を悪く思う奴は、この研究所にはいないと言う事だ。お前の案に対して、皆、純粋に面白いと思っている奴ばかりだからな。この俺を含めて、な。」
そう言って春樹の肩にポンと手を置いた。春樹は、拳を握りしめる。そして、溢れ出てくる気持ちを一気に吐き出すように、高らかに声を上げた。
「やってやるぞぉ!みんなぁ!!!」
地響きのような歓声が、辺りにこだましていた。
◆
魔導研究発表会は、王城の専用会場で行われる。
専用会場は王城内にある為、警備の面から基本的に一般人の入城はできないが、参加者を一目見ようとする者、参加者の応援者などが一同に集まる為、王城へと続く一本の大通りは、まるで帯のように人々で溢れてかえっている。
そして、参加者の入城が終わると、要人以外の人々は、街の数箇所に設置された、観戦会場へと足を運ぶのだ。
準備を終えた春樹たち一行は、発表会場へと赴くため、大通りを歩いていた。
「昨年までは応援する側だったから、今年の景色は新鮮ですね。迫力が違うというか…」
「ここを歩くのは、研究者のひとつの夢だからな。周りの奴らはみんな、自分たちの研究所に勝ってもらいたくて、必死に応援する。応援される側は会場に着くまで、アドレナリンがドバドバって感じだ。」
春樹の感嘆の声に、ベンソンが応える。
「ベンソンさんは、何度もここを歩いてるんですね。」
「…あんまりそれを言うな。何度も歩いてるが、結果は出せてねぇ。」
ベンソンは歩きながら肩を落とす。
「兄貴のおかげ、研究所のみんなのおかげで、俺はここを歩かせてもらってる。それを忘れちゃなんねぇし、それに応える義務が俺にはあんだよ。」
そう言ってベンソンは、まだ少し離れた場所に見える発表会場をグッと見据える。
「今年はアルバート研究所の旋風を巻き起こさないと、ですね!」
春樹の言葉に、ベンソンは静かに頷いた。そして、切り替えるように春樹へと話しかける。
「そういやぁ、カレンはどうしたんだ?あいつ、朝から姿が見えなかったが…」
「今年はみんなの邪魔をしないように、一般会場で観戦するって聞かなくて…たぶん第二区画の会場に行ってるんじゃないですか?」
「なんでぇ…あいつまだ気にしてんのか。」
昨年の発表会当日。
カレンは大きな失敗をしてしまっていた。発表会で使う試作品を落としてしまい、発表の時にそれが動かなかったのだった。
「あんなの、動くかどうかなんて五分五分だったんだ。あいつが気にすることじゃないだろうに…」
「それでも、カレンにとってはショックだったんでしょう。あの時は塞ぎ込んで大変でしたからね。」
発表会のあと、春樹が何度も家を訪れ、慰めてなんとか元気を取り戻したのだが…
「一番効いたは、アルバートさんからの一喝だったみたいですね。『お前は来年の邪魔もするのか!』って。部屋の前で怒鳴ったそうですよ。」
「…兄貴は相変わらずだよな。俺ならもっと落ち込むぞ…それは。」
顔を引き攣らせているベンソンに、春樹は笑いながら応える。
「だけど、それで切り替えられるカレンもすごいですよ。やっぱりあの2人は親子ですね。」
「あぁ、カレンも相当な経営者になりそうだぜ。」
ベンソンはそう言って、腕を組んで頷いた。
「そう言えば知ってるか?今年の来賓はすげぇらしいぜ!何でもアルフレ…」
話を切り替え、ベンソンが今年の来賓の話を春樹に振ろうとしたその時であった。
「やぁやぁ、アルバート研究所の諸君。今年も参加賞をもらいにきたようだな。」
その声に2人が振り向くと、いつの間にか、春樹たちの横にヘムイダル研究所の一同が歩いており、先頭をヤゴチェ副所長が歩いている。ヤゴチェは濃いクマのある目をニヤリと細め、話しかけてきた。
「ちっ…始まる前に一番会いたくない奴と出会っちまったぜ…」
ベンソンはそう小さく吐き捨てる。
「まぁまぁ、そうつれなくするな。同じ研究者ではないか。どうだ?今年は我らヘムイダルといい勝負ができそうかね?」
嫌味ったらしい表情で、ヤゴチェは問いかける。それに対してベンソンは、苛ついた態度で応えた。
「お陰さまで。今年はいい研究ができたよ!わざわざ腹の探り合いはしたくないんでね!先に行かせてもらうぜ!」
そう言って、春樹たちに手で合図をするベンソンに向かって、ヤゴチェは笑いながら話しかける。
「ハハハハ!腹の探り合いなんて、とんでもない。私はただ、今年の発表者がどんな奴なのか一目見たくてね!ハルキ殿だったかな?単によろしく頼むよ。」
ヤゴチェはそう言うと、春樹へ握手を求めるように手を差し出した。春樹はそれに無言で応える。すると手を交わした瞬間、ヤゴチェは小さく春樹に言葉をかけた。
「今年はあの名助手はいないんだろ?残念だなぁ。我々にとっても名助手だったんだが…」
そう言い放って高笑いをするヤゴチェに対して、我慢ならずに食ってかかろうとしたベンソンを、春樹が制する。
「ヤゴチェさん…でしたっけ?いろいろ嗅ぎ回ってたみたいですけど、ご苦労様ですね。研究者同士、勝負は会場でつけましょう。」
春樹は笑顔で、ヤゴチェに応えた。それを見ていたベンソンは、春樹に納得いかない気持ちをぶつけようとして、ある事に気づいてやめる。
ベンソンの前に出されている拳が、見ただけでわかるほど硬く握られ、震えていたのだ。
(ハルキ…お前って奴ぁ…)
ベンソンは言葉をグッと飲み込み、ヤゴチェを睨んだ。
「ふん!研究者同士だと!?生意気な小僧だ。まぁ、せいぜい頑張りたまえ!」
ヤゴチェは気に食わないといった表情で、舌打ちをすると、後ろの研究員たちに手で合図して、足早に会場へと歩を進めていく。そんなヤゴチェを呼び止めるように、春樹は声をかける。
「ヤゴチェさん、助手は大切にしないとダメですよ!」
その言葉に、ヤゴチェは春樹を睨みつけると、群衆に消えていった。
「ハルキ?どう言う意味だ…?」
春樹の言葉にベンソンが疑問を投げかける。
「結果は会場でわかりますから。さぁ、準備を始めましょう!」
春樹はそう答えて、会場へと向かうのであった。
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