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第三章 交差する物語
1-6 お久しぶり
しおりを挟む春樹たちが魔導研究発表会の専用会場に到着する頃には、すでに他の参加グループは集まっていた。
春樹たちの研究所が、どうやら最後のようで、ヤゴチェたちヘムイダル研究所もすでに受付を終えているようだ。
ヤゴチェが、嫌でも気づくほど舐めるようにこちらを伺っている。
春樹たちはそれを無視して、自分たちの待機場所へと移動し腰を下ろすと、会場内をぐるりと見渡した。
会場の広さは、現世界で言うコンサートホールほどで、前方にステージとスクリーンが設置されている。春樹たち研究者たちはステージの方を向いて、左側から発表順に並んで座り、待機している状態である。
春樹たちの座る席は、ステージから階段状に高くなっていく形状で、春樹たちの後ろに研究所や王宮の関係者たちが座っていて、一番後ろと左右側面に入場する入口がある。
そして、後方の入口の上には、大きなガラス窓が帯状に連なった階層があり、ミズガル王以下、要人たちが発表会を観戦する部屋になっているようだ。
「あと少しで開会ですね。これから王を始めとする要人たちが、入場してくるんですね。」
「そうだな。今年は開催150年記念だし、他の国からも来賓が来ているはずだぜ。さっきはヤゴチェの奴のせいで話そびれたが、アルフレイムからも国王が来ているらしい。」
「アルフレイムからも…?」
「おうよ!あそこの王様が他国に来るなんて、かなり珍しいからよぉ。なんたってエルフの国の王様だろ?今回の観戦者はそれ目的のやつも多い筈だぜ!」
それを聞いて、アルフレイムでの記憶が蘇ってくる。
(みんな、元気にしてるかな…もう3年も経ったのか…)
春樹が、そう物思いに耽っていると、ベンソンが正面を向いて春樹に声をかけた。
「おでましだぜ!」
その瞬間、場内に管楽器の音が激しく響き渡る。ファンファーレのような曲が短く演奏されると、会場内が暗転する。
静かにどよめく会場内。
次の瞬間、一筋のスポットが差し込んだかと思えば、正面のステージには、煌々と照らされた1人の男性が立っていたい。
青と黒を基調とした縦縞のストライプスーツを纏い、黒縁の眼鏡を携えた男。
「皆さま、本日は第150回魔導研究発表会へお越しいただき、誠にありがとうございます!」
男はそう言って、丁寧にお辞儀する。
「あれがうちの王様。名はキクヒト王だ。」
「あれが…」
ベンソンの言葉に反応し、春樹はステージ上で口上を述べる男を、じっと見据える。
初めて見る人間族の王。
名前も、どこか現世界っぽく、何故だか親近感が湧いた。
「それでは、本日この記念となる大会へ、ご足労いただいた来賓をご紹介しよう!」
挨拶が終わると、ミズガル王は来賓紹介に移る。再び暗転し、王の声とともに来賓が始まった。
「まずはアルフレイム王!」
その瞬間、後方の要人席の一つの明かりが灯り、アルフレイム王と側近の顔が現れる。春樹はそれを見て、驚愕する。
「えっ???!!!あっ、あれっ…て!?」
黒と白の髪を後ろで一つの三つ編みに束ね、フォーマルなスーツに身を包み、立って手を振る女の子。オールバックの髪型と綺麗な淡いピンクの唇が、子供っぽさを全く感じさせていない。
その後ろには白髪の男性執事と、緑髪・レンズの分厚い丸眼鏡が特徴的な女の子が立っていた。
「あれがアルフレイムの国王か。初めてお目にかかるが…容姿とは裏腹に、力強さと言うか、なんか凄みを感じるな。」
ベンソンが横で頷いていることも、頭に入ってこないほど、春樹は動揺していた。
(うっ、うそだろ?ルシっ、ルシファリスがアルフレイムの国王だったなんて!クラージュさんと…リジャンまでいる!)
「おい、春樹。…ん?春樹?おいって!」
上を見上げたまま、動かない春樹にベンソンが声をかけると、春樹は正気に戻る。
「大丈夫か…?」
「えっ?…あ…あぁ、すみません。はじめて王様を見たんで、ついつい見惚れちゃって…」
「しっかりしてくれよ?本番はこれからなんだぜ!」
「だっ、大丈夫ですよ!任せて任せて…」
春樹はベンソンをなだめながら、再び見上げると、ルシファリスと目があった。しかし、彼女は特に何の反応も示さず、くるりと振り返り、準備されていた席へと腰を下ろすのであった。
(まっ、まぁ、国王ならここに来ててもおかしくはないんだけど…この発表会にあいつが興味あるとは思えないんだが…)
他の要人たちが紹介されていく中、春樹はルシファリスたちが来た理由を考えながら席へと座り込んだ。
そんな春樹とは裏腹に、要人席ではルシファリスが高笑いしていた。
「アハハハハ!見た見た?!あいつの顔!『マジかよ』って顔してたわね。マジウケるわ!ハッハハハハハ!」
「ハルキ殿、かなり驚いておりましたな。しかし、元気そうで何よりですな。」
「やっぱり異世界人はおかしいぜ。3年前に言語を覚えたばかりの奴が、今度は最先端を行く国の、最高峰の研究発表の場にいるなんてよ!」
ルシファリスは、正面を向いて考え事をしている春樹に目をやる。
「あいつ…必死に考えてるんじゃない?私たちが来た理由を。」
「だろうな。あいつの性格を考えれば、かなり混乱してるんじゃないか?」
リジャンはそう答え、クラージュも無言で頷いている。
「ところでリジャン!?」
ルシファリスは、リジャンへと向き直る。
「どうした?」
ボサボサな髪と分厚い丸眼鏡を、自分へと向けるリジャンへ、ルシファリスは一言吐き出すように告げた。
「あんた、口調と姿があべこべなのよ。気持ち悪いから、興奮するのか静かにするのか、どっちかにしなさいな。」
「ウッ…しっ、仕方ねぇだろ…外に出るのは…苦手なんだよ。」
ルシファリスの指摘に、リジャンは珍しく小さくなる。
「ったく!国内では元気いいくせに、外に出ると、なよなよしちゃって!」
ルシファリスはそう言って、大きくため息をつく。
「しかし、キクヒトも相変わらずよね。事情を話すなり、『盛大にしてやろう』とか言い出して…。こんなの、ただ自分が目立ちたいだけじゃない。」
ルシファリスは、ステージ上で楽しげに来賓を紹介し続けるミズガル王をチラッと見る。
「たしかに。王自ら、開催の挨拶、ましてや来賓紹介までするのは、恐らくこの国…いや、キクヒトさまだけでしょうな。」
ルシファリスの愚痴に、クラージュが同調する。
「まぁ、いいわ。今日はハルキの成長の確認の他にもやる事があるから、じっくりと見させてもらいましょう。」
会場ではすでに、各研究所の紹介に移っていて、春樹たちアルバート研究所がちょうど紹介されていた。ルシファリスは足を組み直し、立ち上がる春樹を見ながら、ニヤリと笑うのであった。
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