Cross Navi Re:〜運命の交差〜

noah太郎

文字の大きさ
50 / 50
第三章 交差する物語

1-7 真紅の瞳とりんご飴

しおりを挟む

第二区画にある一般観戦会場。
扇型に広がった座席には、すでに多くの人が座っている。その周りには、今日こそ書き入れ時と言わんばかりに出店が広がり、買い物客で賑わっている。

会場に到着したカレンは、3方向に設置された画面がよく見える席を探して、会場内を歩いていた。

少し歩くと、ちょうど良い席を見つけ、腰を下ろす。画面にはすでにミズガル王が映し出され、開会式が行われているようだった。

カレンは拳を握りしめ、目を閉じ、祈るように腰を曲げる。


(神様、どうか今年こそは…)


そんなカレンの横の席で、ドンっと言う衝撃と、「よいしょっ」という太い声が聞こえてきた。
カレンが驚いて横を向くと、そこには縦も横もカレンの2倍はあるであろう、大きな真っ黒な毛むくじゃらが腰掛けていた。


「あれ?ごめんなさい。驚かせてしまいましたか?」


毛むくじゃらがそう言って、カレンに顔を向ける。大きな熊の顔がこちらを覗き込んでいる。


「ッ!?いっ、いえ!大丈夫で…す。」


カレンは思わず顔を背ける。そんなカレンの態度に、熊は慣れたかのように静かに笑いながら、大きなカバンから石を取り出して、観察し始めた。

カレンは一瞬、席を変えようか悩んだが、熊の顔をチラリと見て、ふとどこかで見た覚えがあることに気づいた。


(この人…どこかで…)


中々思い出せずにカレンは考え込んでいると、画面越しからミズガル王が来賓紹介を始めたことに気づく。


《それでは、本日この記念となる大会へ、ご足労いただいた来賓をご紹介しよう!まずはアルフレイム王!》


画面はミズガル王から、白黒の三つ編みをした少女に変わる。カレンはその姿を見て、豆鉄砲を喰らった顔をした。


(あっ、あれがアルフレイムの王様…小さいのに…綺麗でいて、どこか力強い…)


カレンが見惚れていると、横で熊が静かに笑った。


「ハハハハッ…結局、三つ編みにしたんだ。」


カレンはそれを聞いて、チラッと熊を見る。


(こっ、この人今、アルフレイムの王様に向かって言ったのかな…しっ、知り合い…なのかな?)


疑問に思いながらも、カレンはこの熊とどこかで会っている気がしてならなかった。
いつ、どこでかはわからないが、声に聞き覚えがあることは確かなのだ。

熊はアルフレイム王の紹介が終わると、再び石の観察に戻ってしまったが、カレンが悩んでいる間にも、来賓の紹介は続いていく。

相手が大きすぎて、顔を覗き込むだけでカレンの動きはバレてしまうため、カレンはなかなか熊の様子を伺えずにいた。

画面に目を向ける。
画面の奥では、来賓紹介はすでに終わり、今度は参加している研究所の紹介に移っている。


《今年はどんな驚きを提供してくれるのか!ヘムイダル研究所!》


その名を聞いて、カレンは一瞬、体が強張るのを感じた。あの研究所はどうにも好きになれない。特に、今画面に映っているヤゴチェという副所長が気持ち悪い。生理的にだ。

しかも、昨年の発表会でカレンがミスしてしまった時、一番煽ってきたのもまた、ヤゴチェであったからだ。

グッと目を瞑り、カレンは再び祈る体制になる。そうしている内に、アルバート研究所の名前が呼ばれた。カレンはすかさず顔を画面に向けると、春樹の凛々しい顔が映っていた。


「ハルキ!」
「おっ、ハルキ殿!」


カレンが咄嗟に声を上げた瞬間、隣からも同じ名を呼ぶ声がした。カレンが反射的に顔を横に向けると、相手もこちらに顔を向ける。


「かっ、彼の知り合い…ですか?」


熊はこちらをジッと見つめており、カレンの問いにすぐには答えない。カレンは少し居心地が悪そうに体をよじる。すると、熊は何かに気づいたように口を開いた。


「なんだ。アルバートのとこのお嬢さんじゃないですか。」

「えっ!?父のことを…知って…?」

「えぇ。そうか~3年も経つから、忘れてしまいますよね。ほら、3年前にハルキと一緒にアルバート研究所へ伺った…ウェルです。」


それを聞いて、カレンはやっと思い出した。3年前にハルキと一緒にいた熊の獣人族のことを。

「ウェル」と確かに名乗っていたが、当時のカレンは、初めて見た獣人族に怯えて、キチンと挨拶ができなかった。
しかし、疑問が一つ…こんなに大きかっただろうか。


「あっ、あの時はすみません…ちゃんとご挨拶できなくて…」

「いえいえ、それが普通の反応です。ハルキなんて一瞬驚いただけで、その後すぐに話しかけてきましたからね。」


カレンが頭を下げると、ウェルはそう言って笑った。そして、持っていた石を鞄に片付けて、今度は棒に刺さった果物を二本取り出す。そして、一本をカレンに差し出した。


「あっ…りんご飴…ですか。」

「小さい頃から好きだったでしょ?」

「えっ!?なんでそれを…?」


ウェルは、ウィンクするだけで、真紅に染まったりんご飴をカレンへと渡す。そして、そのまま彼は画面に向き直り、りんご飴を舐め始めた。

カレンもそれに続いて、画面へと目を向けて、りんご飴を舐め始める。

開会式が、ちょうど終わりを告げていた。





遠くからファンファーレの音が聞こえて来る。空を見上げると、バンバンと音を立てて、開会の合図が打ち上げられている。


(始まったようだな…)


真っ黒な立髪のような髪を靡かせて、クロスはビフレストの城門をくぐる。


(ったく…人の多さには反吐が出るな。まぁ、身を隠すにはちょうどいいんだが…)


そう考えながらクロスは、人通りの少ない路地へと入り込んだ。そして、目立たぬように王城を目指して、足早に歩を進める。

狭い路地をいくつか通り過ぎたところで、クロスは一度足を止めて、大通りの方に目を向けた。しかし大通りの姿は見えず、人が溢れかえっているのがうかがえる。

まるで人でできた壁。
クロスはそれを一瞥すると、再び足を動かし、目的地へと歩み始める。

少し薄暗い路地へと出たところで、クロスは何かに気づいて再び足を止めた。

前から数人の男が現れる。
男たちは薄気味悪い笑いを浮かべており、その手にはナイフや棒切れなどを持っている。


「よう、兄ちゃん。そんな急いでどこ行くんだ?」


一番前にいる男が、クロスに声をかける。しかし、クロスは口を閉じたまま、何も答えない。


「おい!なんとか言えや!」


後ろにいる一人が、クロスの態度に苛立ち、声を大きくするが、一番前の男は、それを制止するように手を挙げると、再びクロスに声をかける。


「何でもいいんだがよぉ。持ってるもの、全部置いて行ってもらおうかぁ。」


その問いかけにクロスは、小さく笑う。
そして、静かに口を開いた。


「なるほどなぁ。警備が中央に集中する時を狙って小銭稼ぎとは…くだらねぇ。」

「なっ、なんだとぉ!?」


クロスの言葉と余裕な態度に、男は声を荒げて、睨みつける。そして、男が目で合図を送ると、クロスの後ろにも数人の男たちが現れた。もちろん、手には数々の凶器を携えている。

クロスは小さくため息をつきながら、目を瞑ると、男たちに聞こえるように呟いた。

「まぁ、俺も急いでるわけじゃねぇし、少し遊んでやるよ。」


そう言ってクロスが目を開けると、真紅に染まった双眸が現れる。


「おっ、おま…え!その目は何なんだ!」


クロスの目を見て、男たちは動揺し始めるが、そんなことは気にせず、クロスは、


「仕事前のウォームアップにもならんだろうが…せいぜい頑張れ!!」


そういうと、男たちに一直線に突っ込んでいく。軽く出した右ストレートが、一番前にいた男の頬を、吸い込まれるように撃ち抜くと、そのまま体を反転させて、その後ろにいた男を、斜め上から蹴り下ろす。

今度は着地と同時に、反動を利用して回し蹴りを繰り出すと、横一列に並んでいた3人の男たちの上半身と下半身が、分かれたままま吹き飛んでいった。

クロスの後ろにいた男たちは、あまりに一瞬の出来事で、何が起こったのか全く理解できず、目の前でゆっくりと立ち上がるクロスを認識した瞬間、いつの間にかリーダーたちが殺られている事に気づいた。


「うわぁぁぁぁぁ!」
「なっ、何なんだお前ぇ!」


男たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ始めるが、一人…また一人と、その場に倒れ込んでいく。一人、腰を抜かして座り込んでいた男は、一人でに倒れ込む仲間たちを見て、恐怖に涙するしかなかった。


「お前で最後か…手応えすらなかったな。」


気づけば目の前に、仲間を殺した男が立っている。


「こっ、殺さないで!!命っ…命だけは!!」


そう命乞いするが、クロスは首を横に振る。


「仲間は死んだのに、お前だけ?だめだろ、そりゃぁ。はぁ…やっぱ、くだらねぇ。」


そう呟いて、男の首を跳ね飛ばす。

手についた血を払いながら、建物の間から顔を覗かせている青空を見上げる。

そして、再び目的地へと歩き出した。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―

酒の飲めない飲んだくれ
ファンタジー
俺は一度、終わりを迎えた。 でも――もう一度だけ、生きてみようと思った。 女神に導かれ、空の海を旅する青年。 特別な船と、「影」の船員たちと共に、無限の空を渡る。 絶望の果てに与えられた“過剰な恩恵”。 それは、ひとりの女神の「願い」から生まれたものだった。 彼の旅路はやがて、女神の望みそのものを問い直す。 ――絶望の果て、その先から始まる、再生のハイファンタジー戦記。 その歩みが世界を、そして自分自身を変えていく。 これは、ただの俺の旅の物語。 『祈りの果てに ― 無限の箱庭で笑う者 ―』

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...