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第一章 イクシードの女の子
プロローグ
しおりを挟む『さ~あ、試合は0-0のまま最終回へ突入です!泣いても笑っても、この回で全てが決まる!勝利の女神はどちらのチームに微笑むのかぁ!』
実況者の大きな声が球場内にこだますると、それに返すようにたくさんの歓声が空高く鳴り響いた。
晴れ渡る空に白い雲、そして、ぎっしりと埋め尽くされた観客席。そこから見渡せるグランドには、四角いベースが3つとホームベースあり、そのホームベースに向かってベンチから選手が一人歩いてくる。
その選手の姿に観客が大きく沸いた。大歓声が地響きのように全てを震わせていき、その歓声に合わせて、実況者も興奮を隠せないように声を上げた。
『そしてぇ!クライマックスにはこの人あり!今シーズン、奪三振98、ホームラン45本と絶好調!投手と打者を兼任しても、彼には何の問題もノープロブレムだぁぁぁ!バァァァァス=ロォォォォォズ選手!!』
よくわからない言い回しも、熱を帯びたこの場面では全てが受け入れられる。そして、そんな実況者の言葉に頷きながら、解説を担当する男も楽しげに話し出した。
『まさに二刀流とはこの事ですね。しかも、彼はこれでまだ23歳という若さなんだから驚きですよ。まさに天才!ベスボルに選ばれた男!ベスボル界もこれから彼が牽引していくのでしょうね。』
満足げに頷き合う実況と解説の男。
だが、周りの喧騒などまるで聞こえていないかのように、"バース=ローズ"と呼ばれた男は無表情のままバッターボックスに立った。
そして、片手に持つバットを軽々と持ち上げ、バックスクリーンを指し示した瞬間、再び大歓声が巻き起こる。
『でたぁぁぁぁ!お得意のホームラン宣言だぁぁぁ!』
バースの行動に、実況も更に興奮する。観客席から鳴るチャントも、期待度を表すかのようにその音を増した。
だが、マウンドに立つ相手チームの投手は別だ。彼は気に食わなさそうに顔を歪めてバースを睨むと、おおきく振りかぶった。
するとどうであろう…黄金のオーラが発現し、彼の体を包み込んでいくではないか。そして、オーラを纏い、振りかぶったままの彼は、小さく呟くように言葉を綴っていく。
「Po…40…Te…10…Spec…50…」
彼がそこまで告げると、頭上高く上げた両手が真っ赤に燃え盛る炎を纏った。そして、片眼を光らせ、右足をプレートに掛けると、体を捻らせながら左足を垂直に上げてこう叫ぶ。
「エクスプロージョン・ショットォォォォォォ!!」
同時に、ボールを投げるモーションを行う投手。そして、爆音と共に彼の指先から放たれたボールは、轟音を撒き散らしながらバースが立つホームへと駆け抜けていく。
『でたぁぁぁ!炎の豪腕の必殺エクスプロージョン・ショットォォォォ!ローズ選手は、これを打ち返せるのかぁぁぁ!?』
……そんな実況者の叫び声と歓声が、テレビから鳴り響いている。スポーツ中継は、まさにクライマックスだ。
しかし…
「そうだ、うるせぇぞ!おめぇら!!」
そんな太くも女性らしい声が、部屋の中に響き渡った。6畳ほどの広さの一室にあるデスクの上には、スポーツ中継が流れるテレビとは別に大きな画面が並べられており、どうやらその声の主は、テレビではなくそちらの画面を観ながら、何やらプンスカと怒っているようだ。
全身真っ赤なジャージに身を包み、金髪を二本の三つ編みにまとめ上げ、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた典型的なオタク…いや、散らかった部屋、ボサボサな髪、血色の悪い肌に頬と鼻にあるそばかす…それらを見れば、引きこもり、もしくはニートと考えてもおかしくはないだろう。
彼女がいる部屋の真っ白な壁には、たくさんのポスターたちが所狭しと肩をぶつけ合っている。アニメ、アイドル、ゲームなど、彼女の推しコンテンツがずらりと、だ。
デスクの上には、トリプルディスプレイと七色に光るキーボードが置かれており、足元には見るだけで高性能さが窺えるパソコンケースが、その存在感を主張している。
そんなデスクの前で、彼女はゲーミングチェアに胡座をかき、「うるせぇ!」だの「引っ込んどけ!」だのと、暴言を吐きまくっていたが、突然「タイショウ、よく言った!」と腹を抱えて笑い出す。そして、マグカップを口に運び、満足げな表情を浮かべると、再び画面を食い入るように見つめ出した。
情緒の不安定さは引きこもりたる所以か。
彼女の素性はわからないが、とりあえず引きこもりニートと言うことにしておこうと思う。
そんな彼女が、突然声を上げた。
「ぐももも!きた…きた…きたきたきた…キタコレェェェェェェェ!!!」
食い入るように観ていた画面に、さらに顔を寄せて眉間に皺を寄せる。穴が開きそうなくらいに、画面を見つめて叫ぶその姿は、他人が見れば狂気以外の何ものでもないだろう。鼻息を荒げ、ズレた眼鏡には気にもかけず、まるで犬のように興奮して舌を出したまま息を切らす彼女は、完全に狂者の類である。
好きなエロアニメの湧き上がるワンシーンか、はたまた、推しのアイドルのチラリでもあったのか。
大抵こういう反応は、彼ら特有の発作であると見て、まず間違いない。
そして、少し落ち着きを取り戻したかと思えば、今度は「私も祈ってるよ!」とか「今回は大丈夫だよ!」とか、誰かを慰めるように応援し始める姿は、もはや狂信者と言ってもいい。
だが、そんな彼女の祈りも、すぐに終わりを告げた。
「かぁぁぁぁぁ!まじかよぉぉぉ…またダメだったか…」
そう言って、彼女はがっくりと肩を落とした。そして、期待を裏切られた悔しさからか、今度は突然、泣き出し始めたのである。
観ていた画面を、檻の中にいる猿のようにガタガタと揺らし、「チクショウ!サクライめ!」と泣き崩れて、顔を埋めたデスクを拳で何度も叩き出す始末だ。
良く言えば、感受性が豊か…?悪く言えば、完全にヤバいタイプの人種である。
そして、こういうタイプは切り替えも早い。
彼女は顔を上げ、涙を拭うとこう告げる。
「ぐぬぬぬぬ…!こうしちゃおれん!!今すぐ私が行くからな!そして、慰めてやるから待っていろ!!」
まるで、自分ならその問題を解決できるような言い草だ。
こういった偏った考えは、大体は勘違いであることが多い。いや、200%勘違いであるのだが、今それを彼女に伝える術はないので放っておくことにしよう。
彼女は善は急げと言うように、散らかった部屋にダイブする。そして、床に散らばった服やゴミの中を、泳ぐように移動していった。その姿は…もう呆れることしかできない。
すると、突然ゴミ飛沫を上げて彼女が飛び出してきた。
だが、飛び出したその姿には驚いた。
先ほどまでの全身真っ赤なジャージから、デニムのジーンズとシンプルなTシャツへと変貌を遂げており、三つ編みを解き、ボサボサだが綺麗で長い金髪を掻き上げるその姿は、全くの別人である。
どうやって着替えたのかは不明だが、ジャージの上からではわからなかったおっぱ…あ、いや…胸はまぁまぁ大きく、くびれた腰の下には豊満なOSIRI…まるで欧米人並みのスタイルには、ついついそそられてしまう。
そして、最後に外し忘れていた眼鏡を取れば、先ほどまでの血色の悪いオタク感はスッパリと消え去っている。
単純な男子ならば、このギャップに萌え殺されるかもしれない。
「よし!では、参ろうか!」
彼女はそう一人で呟くと、部屋のドアを開け…ることなく、物凄いスピードでドアをぶち抜いて、出て行ってしまった。その勢いで巻き起こった小さな風が、部屋のポスターや切り抜きをヒラヒラと揺らしている。
その中の新聞の切り抜きの一つが、ヒラリと舞った。それは、木の葉が落ちるようにゆっくりと左右に舞いながら、ベッドの上に着地する。
『……甲子園、初優勝!』
記事が折り曲がっているため、一部は読むことができないが、いつかの高校野球の記事だろうか。なぜこんなものがオタクの部屋にあるのか…
それは今はわからない。
ただ言えることが一つある。
それは………
これはある物語の始まりだ、と言うことである。
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