4 / 19
第一章 イクシードの女の子
3ストライク 青雲色の瞳は強き心の証
しおりを挟む『親善ベスボル大会の会場はこちら』
そう大きく書かれた看板の横を通り、アル、ジーナ、ソフィアの三人は目的の会場に到着した。
広場には、大会に参加する者や応援に来た者など、すでに多くの人が集まっており、チームメンバーと打ち合わせをしたり、笑い合ったりと、皆思い思いの時間を過ごしているようだ。
空は晴天。
雲一つない青空が広がっていて、体を動かすにはもってこいの日和だろう。
ここ、辺境都市サウスはクレス帝国の都市の一つであり、都市の発展と新しい一年の豊穣、そして、市民の健康への祈りを込め、年に一度、市民によるスポーツ大会が行われている。
今日、ここに集まった人々の目的が、まさに"それ"なのだ。
「ダンカンさんはどこかな…」
ソフィアを背負ったアルとその横を歩くジーナは、主催者であるダンカンという男を探し、会場を歩いていく。
途中、知り合いに何人か会ったので、挨拶がてらダンカンの居場所を聞いてみると、運営の控え室にいるという情報を得ることができた。
しばらく歩いていくと、『運営控え室』と書かれた大きなテントを見つけ、三人は中へと入っていく。
入ったところで立ち止まり、アルは中を見渡した。テント内は思った以上に広く感じられ、奥の方にはパーテーションで区切られた小部屋のようなものも、いくつかあるようだ。
「こんにちは!ダンカンさん、居ますか?」
アルが元気よくそう告げると、奥の方から「こっちだ。」と聞き覚えのある声が飛んできた。アルはジーナとソフィアを引き連れて、声が聞こえた方へと進んでいく。
区切られた部屋の前を3つほど進んだところで、目的の人物の巨躯を見つけた。椅子からはみ出すほど大きな体の持ち主は、何やら書類に目を通しているようだ。
その男こそ、アルたちが探していたダンカンその人である。
アルたちが来たことに気づくと、ダンカンは書類から目を離し、ニカッと豪快な笑みを浮かべた。椅子を軋ませながら立ち上がり、アルたちに目の前のソファに座るように促すと、自分もその反対側のソファへと腰掛ける。その振動で、ジーナとソフィアが飛び上がった。
「アル、よく来たな!父上や母上はご健在かな?」
「えぇ、お陰様で…ダンカンさんの計らいで家族元気に過ごせてます。」
アルの言葉にダンカンは「そうかそうか。」と満足げにうなずいた。
「ジーナも大きくなって…生まれた時はこんな豆粒みたいだったのに…」
「そ…そんなに小さくないもん…」
人差し指と親指で小ささを表現するダンカンに対し、ジーナは少し怯えているようだ。その様子を見たアルは、無理もないかとクスリと笑った。
ダンカンも、ジーナの様子を気にすることなく、ガハハハッと豪快に笑っているから問題はない。
「あれからもう3年ですからね。ソフィアもこの通り、大きくなりましたよ。ほら、ソフィア。ご挨拶して。」
アルがそう言って、自分の後ろに隠れているソフィアを紹介すると、ダンカンは目を輝かせて喜んだ。
「君がソフィアかい?!あ~生まれた時はあんなに小さかったのに…いくつになった?」
「み…3つ…」
ソフィアも少し怯えているが、アルの背の後ろから手を伸ばして3本の指を立てる。その様子に、ダンカンは再び大きく笑った。
「ガッハッハッ!ジーナもソフィアもお母さんに似て美人だな!度胸もある!!アルもしっかりしているし、これなら、イクシードも安泰だな!!」
大声で笑うダンカンの豪快さに、ジーナとソフィアは気圧されている。それを見ながら、アルが一緒になって笑っていると、ダンカンの使用人が淹れたお茶を運んできて、皆に配ってくれた。もちろん、ジーナとソフィアには果物を搾ったジュースだ。
好物を前にして、態度を一変させた妹たちを見て小さく笑うと、アルはダンカンへと向き直る。
「ところでダンカンさん、今日のベスボル大会のことなんだけど…」
「あぁ…そうだったな。ジルベルトからは聞いてるよ。お前が、今日の大会に出たがっているってことをな…」
ダンカンは真面目な顔に戻り、お茶のカップをテーブルへと置いた。しかし、アルはそんなダンカンの雰囲気に怖気付くことなく、はっきりとこう告げる。
「確かに俺はまだ9歳だけど…大人に負けるとは思ってません!毎日、父さんと山で鍛えているんだ!だからお願いです。今日の大会への参加を、認めていただけませんか?一度でいいから、ベスボルをやってみたいんです!」
真っ直ぐで純粋な青雲色の瞳が、こちらを見据えている。それを見て、ダンカンは彼の母親のニーナのことを思い出していた。
ニーナはクレス帝国の公爵令嬢であったが、なんの因果かジルベルトに嫁ぎ、この地にやってきた。
ジルベルトがニーナと共に挨拶に来たいと言うので、どんなに甘やかされたお嬢さまが来るのかと小馬鹿にしていたのだが、彼女と会い、その瞳を見て息を飲んだことを覚えている。
ダンカン家はこの地を治める男爵家だが、この辺境の地を任されているのは、ダンカンが単に権力の弱い貴族だからではなく、あくまでも彼がこの地を良くしたいと思い、願い出たからだ。
ダンカン自身、爵位の違いに物怖じしない精神力を持ち合わせており、これまでも位の高い貴族たちと対等に渡り合ってきた。だからこそ、騎士の身分でありながら、男爵まで昇り詰めることができたという自負が、ダンカンにはあった。
そんな彼が、公爵令嬢がこの地に嫁ぐと聞いて黙っているわけがない。
ーーー公爵令嬢がこの地に嫁ぐだと?何か帝国の意図が…?
だが、今思えばそう考えていた自分が恥ずかしく思える。初めて会ったニーナは、真っ直ぐな青雲色の瞳で自分を見据えてこう告げた。
『ダンカン様、お初にお目にかかります。ニーナ=ジャスティスと申します。そして、ここからはただのニーナです。よろしくお願いします。』
にっこりと笑うその表情には、嘘も画策もない…
ただ純粋に一人の男を愛し、嫁いできたという気概を持った一人の女性が、そこに居たのだ。
(母親の気概まで受け継いだか…その純粋さには感服するな。)
ダンカンはそう感じながらも、アルに対して睨むような厳しい視線を向けた。
だが、アルは負けずに目を逸らすことはない。それに、ジーナとソフィアは雰囲気に少し怯えているようだが、兄を応援したいのか、グッとその場で歯を食いしばり、堪えている。
その様子を見たダンカンは、「イクシードには勝てないな」と小さく呟いて息を吐く。そして、大きく笑ってアルにこう告げた。
「良かろう!お前さんの参加を許可する!まぁ、この街の住人なら、お前の強さはよぉく知っているし、反対意見は出るまい。チームを紹介してやるから、そこに入るといい。それと、ジーナとソフィアは、ちゃんと危なくないようにすること。いいね?」
「あっ…ありがとうございます!」
ダンカンの言葉に、アルはホッとして嬉しそうに笑った。それにつられて、ジーナもソフィアも大きく喜びの声を上げる。
「アル兄、やったね!!」
「アウ兄!しゅごい!だいしゅきぃ~♪」
思いっきり抱きついてくる妹たちに、苦笑いを浮かべるアル。ダンカンは三人の様子を微笑ましく思いながら、その口を開いた。
「もうまもなく開会式だ。それまでに、チームに合流しておきなさい。」
その言葉に、アルは大きく返事をするのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる