3 / 19
第一章 イクシードの女の子
2ストライク おやすみなさい…
しおりを挟むーーーだ!
………
……て…あれ?こ…ここは…どこだ?
突然、肌で感じられる爽やかな雰囲気に、俺は疑問を感じた。少し視線を動かしてみれば、薄っすらと…ぼんやりと見える視界の先で、吹き抜ける心地のよい風が真っ白なカーテンを揺らしている。
ここは…どこだろう。天国…ではなさそうだな…。俺は…どうなったんだ?これは…ベッドの上に横になっているのか…?
そうだ!"あの女性"は助かったのだろうか…突き飛ばしてしまったし…もし助かったのなら、会って謝りたいんだが…
綺麗なエメラルドブルーの瞳が記憶に蘇るが、それと同時に悍ましい感触も蘇ってきた。
自分の骨の砕ける音…肉が潰れ…破裂する音…圧縮された血液が体中から飛び出す音…それと同時に、エンジン音が頭の上を掠めていく…
思い出して体が自然と震え出した…
もうあの感覚は思い出したくない…
自ずと涙が溢れ出してくる…だが、俺はある異変に気づいた。
ーーー声が……出ない?
声を出そうとしたのに「アァッ」とか「アウアッ」とか、そんな言葉とは言い難いものが口から溢れてくるのだ。
もしかして俺…脳のどこかに損傷を受けたのだろうか…言葉が出ないということは、おそらくはそういう事なのかもしれないな。
そう落胆するも、今度は体を動かそうと試みて、再び落胆した。手も足も、上手く動かすことができなかったからだ。
やはり全身不随とかになってるのだろうか…確かにあれだけ車に踏み潰されたんだから、そうなってもおかしくないか…逆に生きてるだけでも奇跡かもしれないな。ただ…これで本当に諦めがつく…
どこからか安堵感が胸に広がっていく。重荷を下ろしたようなそんな安心感が……
と、そこでドアが開く音がした。コツコツと誰かの足音が近づいて来て、突然、俺の顔を覗き込んでくる。
「ーーーー※ーー※ーーーーー?」
日本人…ではない銀髪の青い瞳の女性が俺に笑いかけてきたが、彼女の言葉はわからなかった。
というよりも、理解できないと言った方が正しいかもしれない。喋ることもできず、脳か耳の機能までも失っている…そう考えたら悲しくなってきた。
この人は、俺の世話を担当してくれる看護師の人だろうか。まったく…こんな生きてるかどうかすらわからない俺の担当だなんて、この人も難儀だな…
「ーー※ーーーー※ーーー!」
銀髪の女性が手招いて誰かを呼んだ。すると、今度は金髪で、真っ赤な瞳の男性が笑顔で覗き込んでくる。
ん?男…?ということは、俺の担当医師だろうか…いや、決めつけるのは良くないな。女性が医師で男性が看護師の可能性だってあるんだ。
「ーーー※ー※ーー※ーーーー!!」
男性は嬉しそうに…いや、どこかニヤニヤしているようなそんな気もするが…かなりダレた笑顔を向けてくるので、少し気色が悪い。
そんな彼が突然、俺の顔に手を伸ばして頬っぺたを指で突ついてきた。
な…なんだ?触診か…?でも…なんだか…雰囲気が少し違うような…
「ー※ーーー※ーーーーー!」
「ーーー※※ー※ーーー!」
男性は横にいる女性に笑顔で何かを話し、女性も嬉しそうに何かを答えているが、やはり、なんと言っているかはわからない。
というか、重症者の俺を前にして、よく笑っていられるな…この二人は…不謹慎じゃないか?
そんなことを考えているうちに、急に眠気が襲ってきた。
あぁ…眠たい…いろいろと思い出したから疲れたなぁ…どうせ、この体はもう動かないんだ。たくさん無理させてきたこの体を休ませてやるのもいいか。これからは眠ってゆっくりする日々も、悪くはないなぁ…
ウトウトと視界が閉じていく中、ぼんやりと二人の笑顔が浮かぶ。
そして…
「おやすみなさい。可愛い私たちの…」
俺の意識はそこで途切れた。
~~~~~
「アル兄!待ってよぉ~!!」
銀髪の綺麗な髪を三つ編みにまとめた少女は、苦しそうに走りながら大声でそう叫んだ。すると、前を走る金髪の少年がそれに気づいて振り返る。その背には、自分と同じ金髪の小さな少女を背負っていた。
「ジーナ!早くしろよ!遅れちゃうだろ!」
「だってぇ…ハァハァ…アル兄、早いんだもぉん!」
やっとのことで兄の下へと辿り着いた少女は、息も絶え絶えに自分の膝に両手をついた。よほど必死に走っていたのだろう。額から流れる大量の汗がそれを物語っている。
それを見た少年は呆れたようにため息をつき、ジーナと呼んだ少女にこう告げた。
「俺はソフィアを背負って走ってるんだぞ!それ、わかってんのか?」
「わかってるよ!でもアル兄、体力あり過ぎ…ハァハァ…」
「ジーナは毎日の訓練を怠るから、そういうことになるんだ。」
「ハァ…違うって!アル兄が凄すぎるんだよ!ねぇ~ソフィア♪」
息を整え終え、兄に反論する余裕ができたのか。ジーナは、兄に背負われている妹を仲間に引き込もうと笑いかける。
「アウ兄はしゅごいしゅごいよぉ~♪」
背中で楽しげに笑い、手を叩く一番下の妹にそう言われ、アルは嬉しくも恥ずかしそうに頬を赤くした。
ジーナもそれを見てニヤニヤと笑っている。
「相変わらず、アル兄はソフィアには弱いよね~!ソフィアばっかり甘やかしてさ。私も一応、妹なんですけど…」
「仕方ないだろ!ソフィアはまだ3つなんだから!お前はもう6つになったんだ!シャンとしろよ、シャンと!」
「ジー姉はシャンとすゆよ!」
「げげぇ~」
仲間に引き込んだと思った妹から痛恨の一撃を食らい、げっそりとするジーナ。それとは対照的に、アルの背中でソフィアはキャッキャッと笑っている。
「あ~ん!もうだめぇ~もう走れないよぉ~!」
ジーナが座り込み、疲れた顔でそう告げた。それを見たアルは、再び呆れて声を上げる。
「いい加減にしろよな!そんなんじゃ、ほんとに間に合わないじゃないか。お前が観たいから一緒に来るって言ったんだろ!」
「だってぇ~!もぉ~アル兄ぃ~お願ぁ~い!」
「……ったく…もう!」
大きくため息をついたアルは、一度ソフィアを地面に下ろした。ソフィアはこれから何をするのかわかっているようで、すぐにジーナの背中に飛び乗った。それを確認したアルは、ソフィアを背負ったジーナを軽々と背負い上げ、再び走り始める。
「はぁ~快適だぁ♪最初っからこうすればよかったんだよねぇ♪」
「ねぇ~♪」
ジーナの言葉に合わせて、面白そうに相槌を打つソフィア。その様子に、アルは走りながらため息をついてジーナを叱る。
「今日だけだからな!ジーナはもっと体力つけないとダメだぞ!」
「わかってるって…あっ!見えたよ!」
アルの言葉にジーナは反省する様子もなく、楽しげにある方向を指差した。アルとソフィアがその先に視線を向ければ、丘の下に広がる大きな広場にたくさんの人が集まっている様子が窺える。
「お~!けっこう集まってるな!」
「今日は6チームくらい作るって、ダンカンさんが言ってたもんね!」
「いっそう、やる気が出てきたぞ!よし、行こう!」
アルはそう笑みを浮かべて、ジーナとソフィアを背に乗せたまま広場に向けて走り出した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる