異世界トライアウト〜再挑戦は異世界で…体は美少女なんだけどね〜

noah太郎

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第一章 イクシードの女の子

6ストライク 辞退します

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「挑戦…?…し直す…?人生を…?」

「あぁ、そうだ!君が生きていた地球とは異なる世界で、新しい人生を送る…どうだ、面白そうだとは思わないか?君は幸運にも、その権利を得たのさ!」


 疑問を浮かべる俺を見て、アストラは楽しげに頷いているが、俺自身この神が言っている事について、まだ理解し切れていなかった。それに、先ほどから感じている彼女への違和感が、未だに頭の隅に引っかかっている。

ーーーさっきの違和感…何かを思い出したはずなんだけど…

 それが何だったのか全く思い出せない。思い出せないが、人生をやり直さないかなどと訳の分からない提案をしてきたこの女神に対して、俺の中では疑心と違和感がどんどん膨らんでいた。


「なんで…俺なんですか…?」


 俺は、自然とそんな疑問を口にしていた。
 生前は信仰深かったわけではないし、あの世とか輪廻転生とか、信じるかと問われれば「死んだらわかるだろ」と思っていたくらいだ。そんな俺が選ばれる理由なんてあるのだろうか。もっと信心深く、信仰心の厚い人物が選ばれるべきだと思うが…
 それに、「死んだけど、人生やり直せるよ!」といきなり言われたって、おいそれと信じられるほど俺は単純じゃない……と思う。

 だが、その問いかけにアストラは笑って答えた。


「"なんで"…か。そんなこと、どうでもいいじゃないか!重要なのは、君が"どうしたいか"だと思うが…なんたって生き返れるんだぞ?それだけでも十分ではないか?」


 見透かしたような顔をして、目の前の女神はそう笑う。
 確かに、そうかもしれない。死んで生き返れるなんて、普通はあり得ないだろうし…それに、この女神の突拍子もない提案のおかげか、自分の死に対する絶望感は薄れ、心の中に少しばかりの希望が見え隠れしていることは否めなかった。
 だが、彼女に対する疑心と違和感は、寧ろ膨らむばかりで、その言葉すら余計に疑わしく感じられてしまう。


「そうかも知れませんが…それを簡単に信じるほど、俺は単純ではないので。何故、俺は生き返る権利を得たんでしょうか。まずは、その理由を教えてください。」


 女神のペースに惑わされぬように、まずは今の現状を把握することが重要だと考えた俺は、その理由を改めてアストラに尋ねてみる。

 だが…


「ちっ…素直に生き返っとけよ…」


 俺の問いかけに対して、不意に表情を曇らせたアストラが小さく何かを呟いた。それはあまりに小さい声で聞き取れなかったため、もう一度聞き返してみたが、彼女はハッとして少し焦ったように「何でもない。」と誤魔化した。
 その態度を見て、俺の中で彼女に対する疑心が一層と募っていく。

 しかし、そんな俺をよそに、ふと何かを閃いたアストラが再び笑顔を向けてくる。


「そうだ…そうだった。君には"これ"を伝えなきゃな。」


 アストラは一人納得したように頷いている。その様子を怪しむ俺のことなど気にも止めず、彼女は楽しげにこう告げた。


「君が人生をやり直す世界にはな…実は、野球によく似たスポーツがあるんだよ。」

「野球に似た…スポーツ…?」


 その言葉に、俺は一瞬だけ心を奪われてしまった。
 生前、野球で成功するという夢が叶わなかった俺にとって、その要素はかなり熱い。野球は俺の人生であり、生き甲斐だったのだ。再び、野球ができる…夢を追うことができるという期待は、俺の心の中で野球に対する渇望を沸き上がらせていくには十分なものだった。

 胸が熱くなる…鼓動が高鳴っていく…
 いつの間にか握り締めていた拳と、口元に溢れていた笑みにハッとした。無意識のうちに転生する事を望んでいた自分に気づいて、頭を何度も横に振る。ここで彼女のペースに飲み込まれてはいけない。転生を受け入れる前に、俺にはもう一つ確認しなくちゃならない事があるのだから。
 
 だが、そんな俺を見たアストラはしたり顔を浮かべて、ほくそ笑んでいる。

ーーー完全に女神の手のひらで踊らされている。

 そう感じた俺は冷静さを取り戻すために、今の話を整理する事にした。

 まず、生き返る事については、今のところ自分にメリットしかない。再び命を得て人生を歩めるのだし、その世界には自分がやりたい事もある。だが、うまい話には…という言葉があることを忘れてはいけない。
 それに、俺が生き返る事によって、この女神が得る利が何であるかがわからない以上、安易に答えは出したくなかった。

 その理由…

 例えば、俺がその異世界を救う勇者だから?
 いや、それならば隠す必要などなく、初めからそう説明すればいいはずだ。

 なら、この女神は転生させる魂の数に、ノルマを課せられている?
 それだと幾分かは腑に落ちるが、隠すようなことでもない。それに彼女はこう言っていた。"この体は俺の魂が創り替えられてできた"と。それは、すでに転生したと言うことではないのだろうか。

 もしかして!この少女には、何か計り知れない問題があるとか…?
 この娘が、神様でも隠さなければならないほどの大きな問題を抱えていて、それを隠す手段が俺と人格を入れ替える事だとか…まぁ、それは少し飛躍しすぎかもしれないな。

 そもそも、冷静に考えてみれば、彼女はなぜ"野球"というフレーズを出したんだろうか。しかも、彼女はそれを"俺に伝えなきゃ"とも言っていたし……
 記憶を見せることができるくらいだから、俺の事は知っているんだろうけど、なんで今、それを俺に伝えなきゃならない…?伝える事で何が起きるんだ…?

 いろいろと考えを巡らせてみたが、結局たどり着けた答えは、"生前に後悔を持つ俺に、もう一度人生をやり直したいと思わせるため"と言う事だった。
 それは彼女の好意によるものかもしれないが、なぜ俺にだけそんな権利が与えられるのか。それがやっぱりわからない。

ーーーさて、どうしたものか。

 アストラにどう回答するべきか…非常に悩ましいが、さっきも言った通り、それを決める前に彼女に確認しなくちゃならない事が一つある。
 そして、それこそが、俺が生き返る事を拒んでいる一番の理由でもあった。

 それは"この娘自身がどうなるのか"という事だ。

 この女神の説明からすれば、俺の魂…いや、俺の記憶と人格はこの少女の体に宿っている。そして、俺の体はすでになく、この少女の体に創り替えられている。
 ならば、この女神が言う"人生のやり直し"とは、鈴木二郎としてではなく、あくまでも"この体"でと言うことになるのではないだろうか。

 と言うことは、だ。

 ニマニマと笑みを浮かべるアストラに向き直った俺は、冷静に彼女へと問いかけた。


 「転生の可否については、とりあえず置いておきましょう。先に貴女の話を整理すると…もし生き返った場合、俺はこの子の体で、別の世界で人生をやり直す…そういうことなんですか?」


 その言葉を聞いたアストラは、今度はとても嬉しそうに笑顔を浮かべて大きく頷いた。


「その通り、察しが良いな!やはり、野球選手は頭の回転が早くて助かる!」

「そうですか…ならお聞きしますが、もし俺がその選択肢を選んだ場合、この子の人格はどうなるんです?」

「ん?そうだな…まぁ、それはお前の人格に取り込まれる事になるだろうな。普通、一つの体には一つの人格しか存在できんし…」


 それは思った通りの回答だった。俺がもし、異世界でやり直す選択肢を選べば、この体の持ち主の魂は強制的に排除されてしまうのだろう。
 その事実を改めて理解した俺は、転生する事に対しての嫌悪感を感じていた。この娘を犠牲にしなければならないほどの価値は、俺の人生にはない。
 
 そう考えていたら、自然とある言葉が口から出てきた。


「俺は…辞退します…」

「そうかそうか!では、人生再挑戦の条件を伝え…よ…えっ!?」


 俺の言葉に、アストラは口をパックリと開けて驚愕していた。
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