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第一章 イクシードの女の子
17ストライク 偏属者
しおりを挟むアルとジーナとのベスボル教室が始まって、1ヶ月ほどが経ったある日の事。
「ソフィア、お前も4歳になったからな。今日からアルとジーナと一緒に、魔力について学んでもらうよ。」
朝食を終えた俺は、ジルベルトからそう告げられた。
突然の事で少々驚いてしまったが、嬉しさからすぐに大きく返事をすると、ジルベルトは小さく微笑んでくれた。
アルとの勉強会から学んだベスボルの本質…
それは、"魔力"と"スキル"を活用し、戦略を組み立てて競い合うスポーツだと言う事。ベスボル選手を目指す上では、その"魔力"の操作を確実に習得しなければならない。
俺が両頬を叩いて気合いを入れる様子を見て、ニーナが訝しんでいたのはまた別の話である。
その日の午後。
昼食を終えると、ジルベルトは子供たちを庭に集めた。
「よし、みんな集まったな。今日からソフィアが訓練に加わるから、アルとジーナはいろいろサポートしてやってくれ。」
ジルベルトの言葉に頷いた兄と姉は、俺を見て嬉しそうに笑ってくれた。
その後は2組に分かれ、魔力の増幅と操作の訓練を行った。俺の相手はもちろんジルベルトだ。今日が訓練初日である俺に、ジルベルトはまず体内の魔力の感じ方を教えてくれた。
「ソフィア、まずは体内の魔力の流れを掴む訓練だ。これができないと魔力がうまく扱えないから、しっかりと習得するんだぞ。」
「うん!」
俺は真面目な顔で力強く頷く。
ジルベルトに言われた通り、その場に座って目を閉じる。血の流れを想像して、心臓の近くにある魔力核から生み出された魔力が全身に行き渡る…そんなイメージを持てと言われた俺は、昔読んだ少年漫画の主人公が修行をするシーンを思い浮かべていた。
魔力とか、まさに異世界ファンタジーって感じだな。あの漫画では確か"気"を扱う練習をしていたんだっけ…
そんな他愛もないことを考えながら、俺は自分の血液が全身の隅から隅まで流れていくイメージを頭に浮かべる。
まぁ、これくらい俺には朝飯前だ。どんなスポーツにもイメージトレーニングは重要だし、野球でも素振りやシャドーピッチングを行う時は、十分に効果のある訓練方法だったからな。少しの時間を見つけては、繰り返し行ってきた訓練方法でもある。
加えて、今やっている事は俺の世界にはなかった魔力に関係する訓練。自分の血に混ざり合っている小さな魔力の動きを捉え、一つ一つを感じること。それがこの世界でベスボルを目指す為の第一歩…そう考えればワクワクが止まらなかった。
しかし、血液の流れはイメージできたが、この後はどうするんだろうか。特に何も感じないが、このままでいいのかな。なんか…こう…きっかけみたいなものを与えられたりするんだろうか。
そんなことを考えながら数分ほど続けていると、ジルベルトが様子を見に来た。
「どうだ、ソフィア。魔力の感覚…掴めそうか?」
「ん……よく……わかんないや。」
自分の中の血液の流れはいくらでもイメージできたのだが、魔力についてこれだと感じられるものはない。俺がそう告げると、その言葉にジルベルトは眉を顰め、しゃがみ込んで俺の手を優しく包む。
「これはどうだ?何か感じるか?」
ジルベルトがそう言うと、俺の手にふわりとした温かさが感じられた。
「少し…温かい……」
ジルベルトはその言葉に少しほっとしたようだ。再び俺の目を見て問いかけてくる。
「そうか…なら、この温かさと同じような感覚を自分の体内で感じられないか?」
だが、俺は首を横に振った。
そんな感覚など、これっぽっちも感じ得なかったのだから、嘘をついても仕方がない。
それを見たジルベルトは、再び心配そうな表情を浮かべて小さくため息をついた。
結局、その後も何度か試してみたが、俺には魔力の存在というものを感じることはできなかった。
そもそも初めて行う訓練だし、何が成功で何が失敗なのかすらわからない。魔力だって、今まで見たことも聞いたことも感じたこともないんだから、失敗しても当然ではと思う。
だが、ジルベルトの顔からは、そんな様子は一切感じられない。
「ソフィアは…魔力ないの?」
不安なり、ジルベルトにそう尋ねる俺を心配して、アルとジーナも側に来て寄り添ってくれる。俺は不安な気持ちを堪えながらジルベルトに視線を向けると、彼はその視線に複雑な表情を浮かべた。
「そんな事はあり得ん。魔力は生きるもの全てに与えられた恩恵だからな。だが、時としてそれを感じにくい人間がいると聞いた事はある。」
「魔力を感じにくい人……?そんな事あるの?」
ジーナがジルベルトにそう問いかけると、ジルベルトも難しい顔を浮かべていた。
「父さんも詳しくは知らないんだが、そういう者は大抵ある属性に偏る事が多いと聞くな。俺たち人族は本来、様々な種類の属性を持つはずなんだが…」
「そうなんだ…人族って凄いんだね。」
俺がそう驚いていると、アルが補足してくれた。
前回学んだ通り、魔力には属性があり、どんな生き物でも必ずいくつかの属性を持って生まれてくる。そして、属性というものは、基本的には種族や血筋など先天的な要素に起因するらしい。
例えば、イクシード家は人族だ。人族は、基本原則の属性を広く扱えることが特徴だそうだ。器用さを持ち合わせ、真面目に何でもこなす人族ならではの特徴だと言える。
逆に、エルフ族は風と聖属性に特化する。癒しを与え、魔を退ける力。聡明で気高いエルフ族にふさわしい属性だ。
他にも獣人にドワーフ、魔人族などこの世界にはいくつかの種族がいて、それぞれの種族の特徴に合わせた属性を持っているそうだ。
「アルの言う通り、個性は出るが種族や血筋に沿った属性を持つのが一般的なんだがな…」
ジルベルト曰く、どの種族においても、時として突然変異のように種族の枠を超えたり、外れたりする者がいるそうだ。そして、そういう者たちは大抵決まって属性が偏って生まれ、自身の体内の魔力を感じにくい体質であることが多いのだと言う。
この世界では彼らのことを『偏属者』と呼ぶ。謂わば、蔑称というやつなのだろう。
「なら…ソフィアは『ヘンゾクシャ』ってこと?」
その問いかけにアルは気まずそうに黙り、その横でジーナも不安な顔を浮かべている。
二人にそんな顔をされると、俺も落ち込んでしまうじゃないか。魔力とかスキルとか、厨二病の如く喜んでいたんだから尚更だ。
だが、そんな落ち込んだ雰囲気を切り裂くように、ジルベルトが告げた。
「ソフィア、『偏属者』は蔑称ではないから安心していい。それにお前が本当にそうかどうかは、これから調べるんだ。明日、朝一でアネモスに行こう。そこで、俺の知り合いに詳しく調べてもらえばすぐわかる。」
「え!?てことは、スーザンの所に行くの!?」
突然、目を輝かせてジーナが飛び上がった。
さっきまで一緒に落ち込んでくれていた分、彼女の態度の変わり様に驚いてしまったが、それ以上にジルベルトが呆れたように手を額に当てている。
「ジーナ、行くのは俺とソフィアだけだ。ソフィアの為に行くんであって、遊びに行くんじゃないんだから。お前は残って、母さんとアルの手伝いをするんだ。」
「え~!なんでよ!私もアネモスに行きたい!スーザンに会いたい!!」
駄々をこねるジーナに、ジルベルトは「だめだ。」と一喝する。不満気に頬を膨らませるジーナを驚いて見つめている俺の横で、アルが小さくため息をついて呟いた。
「ジーナはスーザン叔母さんが大好きだからな。」
「スーザン…?」
「…そうか。ソフィアは久しぶりか。まだ1歳くらいだったから、さすがに覚えてないよね。スーザン叔母さんの事。」
アルの話だと、スーザンとはジルベルトの姉に当たる人らしい。
スーザン…
ソフィアの記憶にはないようだな。アルの言う通り、ソフィアが小さ過ぎて覚えてないんだろう。
しかし、ジルベルトのお姉さんか…どんな人なのか確かに興味はある。それに、俺のことを調べるってどういう事なんだろう。医者か何かなんだろうか…
何にせよ、俺の体についてわかるなら教えてほしい。俺は絶対に魔力を扱えるようにならなきゃならないんだ。
ソフィアとの約束のためにも。
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