異世界トライアウト〜再挑戦は異世界で…体は美少女なんだけどね〜

noah太郎

文字の大きさ
18 / 19
第一章 イクシードの女の子

閑話 ラルの悩み

しおりを挟む

 俺の名前はラル。
 肉屋のサムの息子、ラルだ。
 ソフィアと同い年で幼馴染みでもあり、そして、最近ソフィアの事で悩んでいる。

 あいつの家は街の外れにあるから、俺の店からは遠い。だけど、小さい頃からアルとジーナに連れられて街に来ていたソフィアと、よく一緒に遊んでいた事もあって、あいつの事はよく知っているつもりだ。
 
 ソフィアはとてもお淑やかな気の弱い女の子だった。
 虫や動物なんか全然ダメで、触ることさえできない。だから、いつも俺が守ってやっていたんだ。
 イクシードの兄妹の中で一番弱虫なソフィア。ジーナだって女だけど、けっこうやんちゃな性格をしているのに。あのジルおじさんの娘とは到底思えないほど、泣き虫で弱虫なのに。

 だけど、あの事件があってから、あいつはどこか変わっちゃったんだ。そう…豊穣祭のベスボル大会で、頭にボールを受けてから。
 無事だったと聞いてホッとしたけど、今までのお淑やかさはどこへやら…まるで男にでもなったみたいに性格が変わっちゃった。
 今まで触れなかった虫や動物をホイホイと掴み上げるし、大人といる時以外は言葉遣いも少し男っぽい。
 もっと言えば、ベスボルをしたいとわがままを言ってジルおじさんによく怒られている。それでも諦め切れないのか、最近はよく街のグランドに来て、他の子供たちがベスボルをやっているのを楽しげに眺めている。

 いったい、ソフィアに何があったんだろう。
 元気に過ごしてるからそれはそれでいいんだけど、なんだか別人みたいに思えて不安になる。
 父さんに聞いてみても「元気があっていいじゃないか。」って笑ってるだけだし…母さんも特に気にしてはいないみたい。
 だから、あいつがうちに買い物に来た時に、直接聞いてやったんだ。


「ソフィア!お前は誰だ!」


 俺の言葉に、目の前の幼馴染みは首を傾げている。
 そして、何かに気づいたように笑いかけてきた。


「ラル…今、自分で言ったじゃない。ソフィアはソフィアだよ。」

「そ…そうじゃなくて…」


 その笑顔に見惚れて動揺した俺に、ソフィアは再び笑いかけると、ニーナと帰っていってしまった。
 結局はぐらかされた。でも、やっぱり諦められない。あいつは本当にソフィアなのか?俺が守ってやっていた幼馴染みなのか?ソフィアはソフィアだけど、本当にあれは俺が知るソフィアなのか?
 よくわからなくなってきたから、それを解決する為に別の作戦を考えることにした。


 数日後、俺はソフィアの家を訪れた。


「あら、ラル。どうしたの?そんな荷物背負って…」

「ニーナおばさん、こんにちは!ソフィアはいますか?」


 聞けば、家の手伝いで近くの川へ水汲みに行っているそうだ。ニーナおばさんに礼を告げ、俺は川へと駆け出した。
 少し行くと、木組みの容器に水を汲むソフィアの姿が見えて、つい口元が緩んで笑みが溢れた。


「あれ…?ラルじゃん。どうしたの?その荷物…なに?」


 俺に気づいて、少し驚いた様にこちらを見るソフィアに、乱れた息を整えながらこう告げる。


「ハァハァ…ソフィア…俺と…ベスボルで勝負しろ!」

「え…?」


 ソフィアは驚いていた。
 だが、そうでなくては意味がない。驚いてもらわなくちゃ…。人間、思いもよらない出来事が起きた時に本音や本性が出ると、前にアルから聞いた事があるからな。
 さぁ、なんて答えるんだ?ソフィア!
 だけど、俺の目論みは失敗に終わる。ソフィアはすぐに笑みを浮かべ、目を輝かせて俺に駆け寄ってきたからだ。


「いいよ!やろうやろう!ベスボルで勝負!楽しそう!」


 作戦の失敗を悟って呆然としていると、彼女は遠慮なく顔を近づけてきた。
 なんなんだ、こいつ!やっぱりおかしい!こんなのソフィアじゃない!


「どうするどうする?"私"さ、一回しか打席に立った事ないんだよね!ラルが投げてくれる?それとも、私が投げた方がいいかな?ねぇねぇ!!」

「ち……近ぇよ!あぁ、もう!なんなんだお前は!」


 ソフィアの勢いに我慢できず、俺は彼女を払い除ける様に距離を取ったが、ソフィアはそんな事は特に気にしておらず、目を輝かせて俺の言葉を待っている。
 その様子に俺は小さく舌打ちをした。


「はぁ…そんな事言われなくても、今からやるよ!交互に投げ合って打つ。場所はあそこの広場だ。」


 俺が指差してそう告げると、ソフィアはさらに目を輝かせて頷いた。




 広場に移動すると、俺は持っていた袋から道具を出す。
 ベスボル用のバットにボール、それとSゾーン簡易構築具。誕生日に、俺が父さんから買ってもらった子供専用ベスボル道具一式だ。
 道具を見て目を輝かせるソフィアをよそに、俺はボールを手に取ると、それをソフィアに手渡した。


「まずはお前が投手な…そんで俺が打つ。終わったら交代だ。相手を抑えるか、ヒット級の打球を打てば1ポイント。2ポイントの差がついたら勝負アリだ。いいな!」


 ソフィアは受け取ったボールを眺めて、さらに目を輝かせてた。


「何これ…穴があるね!一年前にも見て疑問だったんだぁ!」


 こう言うの…なんて言うんだっけ?水を得た…魚?…ったく、喜び過ぎだ。こいつの頭、本当にどうなってんだよ。
 そう呆れ返りもしたが、そもそもここに来たのは、ただソフィアと勝負しに来たわけじゃない。ちゃんと計画を立ててここに来たんだ。


「ソフィア、一つ約束しろ!」


 さすがのソフィアも、俺の様子が変わった事に気づいたようだ。ボールを見ていた目をこちらに向ける。


「俺が勝ったら、俺の質問に正直に答えるって!」


 ソフィアは少し考えるように視線だけを斜め上に向け、すぐに俺を見て面白そうに笑った。


「いいよ!でも、私が勝ったら?ラルは何をしてくれるの?」

「…えっ!?何って…それは……その…」


 ソフィアは腕を組んで俺を見ている。
 しまった…考えてなかった。
 そもそも、負けるなんて考えてなかったし……
 …って、そうだ!負けるはずなんてないんだ!俺がソフィアに…女に絶対に負けるはずなんてない!


「へっ!俺は絶対に負けないもんね!負けたらお前の言う事をなんでも聞いてやる!」


 それを聞いたソフィアは、ニマァッと笑って「約束ね。」と告げた。




 ソフィアはマウンドに立っている。
 何やら地面を蹴って窪みを作っているようだが、俺にはあいつが何をしているのか理解できなかった。
 …と、勝負の前にSゾーンを準備しないとな。
 そう考えて手に持っていた構築具を起動すると、魔力で構築された長方形の枠が姿を現し、それは自動で自分の位置を調節し、程よい位置で動きを止めた。


「ソフィア!こっちはいつでもいいぞ!お前のタイミングで投げて来い!」


 ソフィアは未だに地面を蹴りながら、その言葉に手を挙げて返事をする。
 あいつ、さっきから何をしてんだ…訳わからん。だけど、なんだかさっきまでと雰囲気が違うのは気のせいだろうか。なんだか殺気立ってる…?あのソフィアが…?
 疑問に思いつつ、手に持つバットで何度か素振りをしていると、ソフィアから準備ができたと声がかかる。
 俺はSゾーンの前に立ち、バットを構えて大きく叫ぶ。


「どっからでもかかってきやがれ!」


 ソフィアはそれを聞いて、興奮隠さずに目を輝かせ鼻息を荒くした。


「ラル!勝負だねぇ!!」


 ソフィアはボールを持ったまま、両手を大きく振りかぶる。そして、右足を前に出し、左膝を腰の位置まで上げると同時に、胸の位置に両手を下ろした。
 一瞬、ソフィアの瞳が2色に輝いた気がしたが、その堂々とした姿にすぐに目を奪われてしまった。
 ソフィアはそのまま腰を前方に少しずらし、ゆっくりと重心を移動する。そして、右足を大地を力強く握りしめるように蹴り出し、左足を大きく前に踏み出しながらこう笑った。


「いっけぇぇぇぇぇ!!!!」


 その瞬間、ソフィアの手元からまるで砲撃を放ったかのような剛速球が投げられ、俺の目の前を一瞬で通過していったのだ。ボールは轟音と共に俺の後ろの大木にぶつかり、枝葉を揺らす。
 Sゾーンはストライクの判定を示しているが、理解が追いついていない俺の耳に、その知らせは届かない。

 は………?な……なんだ今のは…?
 声にならず、驚く俺にソフィアはこう笑った。


「バァーン!スッッットラァァァイク!」


 嬉しそうに飛び跳ねて喜んでいるソフィア。
 その姿を見て、俺は思った。
 こいつは…本当にソフィアじゃないんじゃないか、と。
 そして、こうも誓った。

 約束を…絶対守らせてやる、と。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...