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急章の弐 Who Moved My cheese?
74ターン目/邪悪蛇撃
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そんなこんなで魔王イスカリオテは、先遣隊として龍王ザハーカ率いる魔界の軍勢を人間界に送り込む。
人間という魔界共通の敵を設定した上で、彼等が築き上げた文明をついでに略奪するためである。
侵略は順調に進み、本隊による魔界侵攻の準備がまもなく完了する。
そんな矢先だった。
『りゅ、龍王ザハーカさまが人間に敗れました!』
魔界に激震が走る。
魔族が人間に負けるなど、このときまでは誰しもが想像すらしていなかった。
そもそも魔界に住む魔族がこれまで人間界に侵攻することがなかったのも、脆弱な人間を敵として認識すらしていなかったからである。
無論、誰よりもその事態に一番驚愕したのは何を隠そう、この魔王イスカリオテである。
人間から魔族に生まれ変わった彼だからこそ、体感として両者の圧倒的な性能の差異を身に染みて理解しているつもりだった。
この世界が、かつて自分が住んでいた世界とは別の法則で動いていることは理解している。
魔力。魔法。魔導器。この世はなんとも奇天烈な超常現象で構成されている。
異世界転生なんて珍妙な、文字通りの神秘を体現している自身がそんな所感を抱くのもおかしな話だと自嘲しながら、だからこそ魔王は驚いていた。
ありえない。
直感的に何やら異常な、尋常ではない不穏が急速に差し迫っていることを魔王はすぐさま理解する。
当時の魔王軍はすぐさま迎撃体制を構築。
ーーーそして、そいつは難なくそれらを突破し、魔王の前に現れる。
『よォ、俺様だぜ?』
野性的で雄々しい精神を発露する赤髪の男。
初代勇者/タケル。
この瞬間が、勇者と魔王の因縁のはじまり
◆◆◆
“聖剣セフィロト”が極光を放つ。
勇者タケルの莫大な魔力を喰らい、光属性の魔力へと変換・出力する。
それは最早、砲撃だ。
剣身から放たれた巨大な光条はその軌道を灼き払い、横薙ぎに魔王へと迫ってゆく。
そう。それはタローが龍王姫戦で見せた力業そのもの。
【強化増幅】による単純な出力強化。勇者特有の規格外の魔力総量を豊富に盛り込んだ出鱈目な近接戦闘。
但し、遠距離戦闘対応可という胡乱な戦法。
当時、魔王イスカリオテは人型の魔族であり、等身大自体は勇者となんら変わらない。
甲殻類のような皮膚。獣のような筋肉繊維。翼竜のような幾重もの翼。
そして手には“魔剣クリフォト”を携えていた。
黒く禍々しい装飾剣。
魔王が持つ闇の魔力に呼応し、黒紅に爆ぜる。
魔王もまた【強化増幅】による斬撃の拡張を放つ。
上部からの切り落とし。
双方の斬撃は同時且つ瞬く間に衝突し、ともすれば彼等を中心に爆発が起こる。地盤が割れ、大地が破砕し、光の渦が目映くすべてを飲み込み、すべてを消失させていくものの、しかし勇者と魔王は刮目し、お互いを捉える。
縮地による接敵。
そして渾身の一撃がお互いにぶつけられる。
刃と刃がぶつかり合い、大気の振動により、爆発が割れる。
刹那、高速で5、6発。剣戟が疾る。
初撃と同威力。
それらは空間の捻れを生み、勇者と魔王を囲う。
【強化増幅】により生じた爆発がドーナッツ状に変容し、彼等の周囲で破裂する。
▼勇者は呪文を唱えた!
▼魔王は呪文を唱えた!
両者共に距離を開き、間合いを取る。
すぐさま色彩豊かな魔法合戦が勃発。
属性に沿う色で様々な形状の自然現象が照射され、お互いを交錯する。
(……………強い!)
魔王イスカリオテは驚愕していた。
よもや自分と対等に渡り合える存在がこの世の中に、ましてや人間で居ようとは。
だがそれ以上に、彼は自身の内に昂りを感じていた。
(歓喜!久しく忘れていた。―――この闘いの緊張感!)
命のやり取りの中で、魔王は自身の目醒めを体感する。
それは、万能感。奇しくも魔界にはここまでイスカリオテと対等に闘える個体がいなかった。
切迫する危機感と恐怖を乗り越える自制心。
それらがシャッフルされ、脳内麻薬がドバドバ分泌される。
―――そして、確信する。
「貴様、我輩と同じ異世界転生だな!」
魔王、咆哮。
魔法による長距離戦から、再度剣による近接戦闘に持ち込む。
鍔迫り合い。
返事はなく、ただただ勇者は勇猛に笑う。
刹那、切り払い。
不意に発せられた出鱈目な強靭性に弾き跳ばされる。
そして、
●【専用魔法】×【必殺技】×【敵単体】
▼勇者は 呪文を唱えた!【成功】
【神鳥撃】発動!
黄金の鳳凰が、魔王目掛けて直進してくる。
練り込まれた高密度の魔力。触れればひとたまりもない高威力。これまでの魔法とは比べ物にならないその異質な鳥の形状を切り札と瞬時に理解した魔王イスカリオテはすぐさま判断する。
―――己も同等の切り札を使うことを。
●【専用魔法】×【必殺技】×【敵単体】
▼勇者は 呪文を唱えた!【成功】
【邪悪蛇撃】発動!
それは暗黒に燃ゆる邪悪なる蛇。
そんな形象をしたエネルギーの塊が破壊を内包して勇者へと襲いかかる。
否、その先方には放たれた黄金の鳳凰。
鳥と蛇。
両者は勇者と魔王。
彼等の間合いの中央部で見事に衝突。
刹那、再び世界を莫大な光が吸い込んでいった。
人間という魔界共通の敵を設定した上で、彼等が築き上げた文明をついでに略奪するためである。
侵略は順調に進み、本隊による魔界侵攻の準備がまもなく完了する。
そんな矢先だった。
『りゅ、龍王ザハーカさまが人間に敗れました!』
魔界に激震が走る。
魔族が人間に負けるなど、このときまでは誰しもが想像すらしていなかった。
そもそも魔界に住む魔族がこれまで人間界に侵攻することがなかったのも、脆弱な人間を敵として認識すらしていなかったからである。
無論、誰よりもその事態に一番驚愕したのは何を隠そう、この魔王イスカリオテである。
人間から魔族に生まれ変わった彼だからこそ、体感として両者の圧倒的な性能の差異を身に染みて理解しているつもりだった。
この世界が、かつて自分が住んでいた世界とは別の法則で動いていることは理解している。
魔力。魔法。魔導器。この世はなんとも奇天烈な超常現象で構成されている。
異世界転生なんて珍妙な、文字通りの神秘を体現している自身がそんな所感を抱くのもおかしな話だと自嘲しながら、だからこそ魔王は驚いていた。
ありえない。
直感的に何やら異常な、尋常ではない不穏が急速に差し迫っていることを魔王はすぐさま理解する。
当時の魔王軍はすぐさま迎撃体制を構築。
ーーーそして、そいつは難なくそれらを突破し、魔王の前に現れる。
『よォ、俺様だぜ?』
野性的で雄々しい精神を発露する赤髪の男。
初代勇者/タケル。
この瞬間が、勇者と魔王の因縁のはじまり
◆◆◆
“聖剣セフィロト”が極光を放つ。
勇者タケルの莫大な魔力を喰らい、光属性の魔力へと変換・出力する。
それは最早、砲撃だ。
剣身から放たれた巨大な光条はその軌道を灼き払い、横薙ぎに魔王へと迫ってゆく。
そう。それはタローが龍王姫戦で見せた力業そのもの。
【強化増幅】による単純な出力強化。勇者特有の規格外の魔力総量を豊富に盛り込んだ出鱈目な近接戦闘。
但し、遠距離戦闘対応可という胡乱な戦法。
当時、魔王イスカリオテは人型の魔族であり、等身大自体は勇者となんら変わらない。
甲殻類のような皮膚。獣のような筋肉繊維。翼竜のような幾重もの翼。
そして手には“魔剣クリフォト”を携えていた。
黒く禍々しい装飾剣。
魔王が持つ闇の魔力に呼応し、黒紅に爆ぜる。
魔王もまた【強化増幅】による斬撃の拡張を放つ。
上部からの切り落とし。
双方の斬撃は同時且つ瞬く間に衝突し、ともすれば彼等を中心に爆発が起こる。地盤が割れ、大地が破砕し、光の渦が目映くすべてを飲み込み、すべてを消失させていくものの、しかし勇者と魔王は刮目し、お互いを捉える。
縮地による接敵。
そして渾身の一撃がお互いにぶつけられる。
刃と刃がぶつかり合い、大気の振動により、爆発が割れる。
刹那、高速で5、6発。剣戟が疾る。
初撃と同威力。
それらは空間の捻れを生み、勇者と魔王を囲う。
【強化増幅】により生じた爆発がドーナッツ状に変容し、彼等の周囲で破裂する。
▼勇者は呪文を唱えた!
▼魔王は呪文を唱えた!
両者共に距離を開き、間合いを取る。
すぐさま色彩豊かな魔法合戦が勃発。
属性に沿う色で様々な形状の自然現象が照射され、お互いを交錯する。
(……………強い!)
魔王イスカリオテは驚愕していた。
よもや自分と対等に渡り合える存在がこの世の中に、ましてや人間で居ようとは。
だがそれ以上に、彼は自身の内に昂りを感じていた。
(歓喜!久しく忘れていた。―――この闘いの緊張感!)
命のやり取りの中で、魔王は自身の目醒めを体感する。
それは、万能感。奇しくも魔界にはここまでイスカリオテと対等に闘える個体がいなかった。
切迫する危機感と恐怖を乗り越える自制心。
それらがシャッフルされ、脳内麻薬がドバドバ分泌される。
―――そして、確信する。
「貴様、我輩と同じ異世界転生だな!」
魔王、咆哮。
魔法による長距離戦から、再度剣による近接戦闘に持ち込む。
鍔迫り合い。
返事はなく、ただただ勇者は勇猛に笑う。
刹那、切り払い。
不意に発せられた出鱈目な強靭性に弾き跳ばされる。
そして、
●【専用魔法】×【必殺技】×【敵単体】
▼勇者は 呪文を唱えた!【成功】
【神鳥撃】発動!
黄金の鳳凰が、魔王目掛けて直進してくる。
練り込まれた高密度の魔力。触れればひとたまりもない高威力。これまでの魔法とは比べ物にならないその異質な鳥の形状を切り札と瞬時に理解した魔王イスカリオテはすぐさま判断する。
―――己も同等の切り札を使うことを。
●【専用魔法】×【必殺技】×【敵単体】
▼勇者は 呪文を唱えた!【成功】
【邪悪蛇撃】発動!
それは暗黒に燃ゆる邪悪なる蛇。
そんな形象をしたエネルギーの塊が破壊を内包して勇者へと襲いかかる。
否、その先方には放たれた黄金の鳳凰。
鳥と蛇。
両者は勇者と魔王。
彼等の間合いの中央部で見事に衝突。
刹那、再び世界を莫大な光が吸い込んでいった。
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