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急章の弐 Who Moved My cheese?

75ターン目/惑星の加護

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 ◆◆◆

 鉄拳が炸裂する。
 肉を穿たれる音と共に、視界が一瞬、暗転。
 すぐさま意識を取り戻し、魔王イスカリオテはここが宙であることを思い出す。
 空中戦。魔王と大賢者は灰と瓦礫となった世界都市の上空を縦横無尽に駆け巡っていた。
 魔力放出による推進力で行われる空中移動。
 その最中。
 当初は遠距離型の魔法攻撃の撃ち合いで構成された闘いは、いつしか近接戦闘に変容。
 脳筋同士による肉弾戦が謳歌される。

 そして、魔王は一度競り負けた―――。

「!?」
 驚愕の表情を浮かべる蒼髪の魔王。
 無理もない。
 現在、イスカリオテは【超魔王形態ちょうまおうモード】をすでに展開している・・・・・・
 制限解除状態。潜在能力の25%
 今、安定して引き出せる最大出力・・・・
 アグリー細胞による強化にされたハッカイを一撃で討ち破った破竹の異能。
 その膂力。その速度。その魔力量。
 最早敵なし。否、せいぜい異世界転生者ブラックと勇者タローくらいと過信していた。
 そう思っていた矢先だった。

「冒険王ミフネの【超勇者形態《ちょうゆうしゃモード》】制限解除に伴い、儂はそのノウハウとメカニズム、これまでの叡智を駆使して新たな魔法を開発した。
 名を【惑星の加護ガイアフォース】。
 かつて魔剣公ヴァシレウス戦において旧連合軍が編み出した【全強化魔法集約パッケージ】を基盤ベースに開発した無限魔力供給システム・・・・・・・・・・
 その性能は【全強化魔法集約パッケージ】の完全な上位互換・・・・
 魔法の情報処理を集団で統制していた【全強化魔法集約パッケージ】に対して、
 それらをすべて儂らが暮らすこの母なる大地に任せるのが【惑星の加護ガイアフォース】だ」

「………なるほど、灰色のホグワーツらしい大がかりな仕掛けだ」
 魔王は苦笑。その審美眼で眼前の出鱈目な魔法を解析する。
「世界中を回った先々で巡りあった遺跡、遺産、図書館や美術館などの魔法的資産・・・・・を保管した建造物。それらを龍脈を経由して仲介装置ハブとして繋ぎ、惑星規模の魔方陣・・・として展開。惑星が内包する魔力を抽出し、自身と接続することで無尽蔵に供給する。現代文明の魔導器による生活基盤インフラを彷彿とさせる魔法構造。
 貴様の知見がなければたちまち破綻してしまう超精密な大規模魔法」

「無論、儂もまだまだ使い馴染みがなくてのう。おぬしらと同じ最大上限の25%・・・・・・・・といったところか」

 つまり、この闘いはチキンレース。
 どこまで自身の能力上昇バフの潜在能力を引き出せるのか。且つそのあまりの情報処理ないし肉体への負荷に自我を保てるのかが勝利の鍵となる。

「フッ、まるで【超勇者形態ちょうゆうしゃモード】のバーゲンセールだのう」
 ふと大賢者/“灰色のホグワーツ”がほくそ笑んだ。

 かくして、【超勇者形態ちょうゆうしゃモード】を模倣した二つの術式がぶつかり合う。
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