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急章の弐 Who Moved My cheese?
77ターン目/初代勇者と今代勇者
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◆◆◆
遡ること、【同盟軍】が南の島で休暇を過ごしていた頃。
禁忌のモルガナにより【超勇者形態】の制限解除が施され、試験的にはじめてその潜在能力を引き出したときの話だ。
勇者タローの意識はすぐさま遮断。
気付けば彼は、精神世界/勇者特権の戦闘記録を漂っていた。
「―――よォ、遅かったじゃねぇか」
不意に声が、タローを呼び覚ます。
眼を開ける。
視界に写るのは、ひとりの男。
鋭い眼光。凛々しい太眉。今にも噛みついてきそうなギザッ歯。
野性的な雄々しい気迫。そして、赤髪。
「あなたは、いったい―――」
困惑しながら、タローは質問する。
なんとなく察している。否、知っている。
知らないはずなのに、知っている。
「俺様?いいぜ、答えてやる。俺様の名前はタケル。初代勇者/タケル―――」
「初代勇者、タケル………?」
朧気な瞼が徐々に開き、その眼孔に光が灯る。
タローはすぐさま姿勢を正し、情報の海で立ち泳ぎ。
「僕の、僕たち家族の、歴代勇者の御先祖さま………!?」
「………なんか嫌だぜ、その表現」
タケルと名乗った初代勇者はしかめっ面を浮かべる。
「まるで俺様がくそジジイみたいじゃねぇか」
「ジジイ越えて仙人っす」
「やめろ」
平然と辛辣なことをいう子孫に、御先祖さまは不満げだ。
閑話休題。
「てか、ここはいったい。僕はなんでこんなところで御先祖さまと……」
タローの今更な戸惑いに、タケルは親切丁寧にこたえる。
「ここは【勇者特権】に眠る【超勇者形態《ちょうゆうしゃモード》】の記録書庫。おまえはここに蓄積された戦闘データを追記入力することで最適化され、これまでの死地をかいくぐってきた」
「サーバー?インストール??」
「考えるな、感じろ」
情弱の今代勇者タローが困惑する中、初代勇者タケルは文脈から意図を汲めと突き放す。
「要は【超勇者形態】のデータベースだ。
これまでおまえが【超勇者形態】を使う度、全自動でこのデータベースからそのときの状況に適した戦闘データの抽出・加工が施され、且つ使用者である勇者の力量に合わせた出力加減が調整されていた。
だが今、その枷が外された。
だからおまえは今、ここにいる」
「それって【超勇者形態《ちょうゆうしゃモード》】の制限解除の話?」
タローの朧げな質問に、ご先祖さまは肯定の意で首を縦に振った。
「んなわけで、これからおまえは全自動から手作業で【超勇者形態《ちょうゆうしゃモード》】を使うことになる。つまりは【超勇者形態】のデータベースを掌握するってことだ。しかし、それらの管理権限はすべて俺様が握っている」
その言葉に込められた意味を、タローは考えずに直感する。
「つまり、アンタから奪えと?」
「そーゆーこったな、わかりやすくていいだろう?」
ふたりの間にしばし沈黙が流れる。
それはなにやら張り詰めた糸のような緊張感を孕んでおり、いつ途切れてもおかしくない、事が起きる前兆を予感させるものだった。
「最近、僕は勇者でありながら崇高さとはあまりに程遠い野蛮で単調な自分に、あなたがた歴代勇者にすこし引け目を感じていたけど―――」
不意に、情報の海がタローの右手に光の粒子を収束させる。
それらはやがて形状を象り、やがて物質に変換される。
剣。無論、それはこれから勃発するであろう戦いのための武器である。
「初代勇者がそんな感じなんだから、ちょっと救われた気がするよ」
その言葉を受け、ご先祖様ことタケルは不敵な笑みを返す。
「歴史が俺様を定義したに過ぎねぇ。俺様は勇者と名乗った覚えもねぇし、そんな崇高な自分をブランディングした覚えもねぇ」
初代勇者タケルの右手にもまた光が集束する。
聖剣セフィロト。かつて魔王イスカリオテとの戦いに赴いた際に、携えた自慢の愛剣だ。
「いつだって本能の赴くまま、自分の魂に従ってきただけだ」
剣を構える。
「そんで今は、おまえと切り結びてえ―――」
それに呼応して、タローもまた剣を構える。
初代勇者と今代勇者の間に闘気が籠る。
それは殺伐とした尖ったエネルギーではなく、溌溂としたスポーツ精神のような快活なさっぱりとした空気感。
お互いに何か期待を寄せるような、楽しみやワクワクといったプラスの感情が沸き立ってくる。
「―――光栄ですよ、初代勇者」
その感情の昂ぶりに任せるように、タローは踏み込んでゆく。
遡ること、【同盟軍】が南の島で休暇を過ごしていた頃。
禁忌のモルガナにより【超勇者形態】の制限解除が施され、試験的にはじめてその潜在能力を引き出したときの話だ。
勇者タローの意識はすぐさま遮断。
気付けば彼は、精神世界/勇者特権の戦闘記録を漂っていた。
「―――よォ、遅かったじゃねぇか」
不意に声が、タローを呼び覚ます。
眼を開ける。
視界に写るのは、ひとりの男。
鋭い眼光。凛々しい太眉。今にも噛みついてきそうなギザッ歯。
野性的な雄々しい気迫。そして、赤髪。
「あなたは、いったい―――」
困惑しながら、タローは質問する。
なんとなく察している。否、知っている。
知らないはずなのに、知っている。
「俺様?いいぜ、答えてやる。俺様の名前はタケル。初代勇者/タケル―――」
「初代勇者、タケル………?」
朧気な瞼が徐々に開き、その眼孔に光が灯る。
タローはすぐさま姿勢を正し、情報の海で立ち泳ぎ。
「僕の、僕たち家族の、歴代勇者の御先祖さま………!?」
「………なんか嫌だぜ、その表現」
タケルと名乗った初代勇者はしかめっ面を浮かべる。
「まるで俺様がくそジジイみたいじゃねぇか」
「ジジイ越えて仙人っす」
「やめろ」
平然と辛辣なことをいう子孫に、御先祖さまは不満げだ。
閑話休題。
「てか、ここはいったい。僕はなんでこんなところで御先祖さまと……」
タローの今更な戸惑いに、タケルは親切丁寧にこたえる。
「ここは【勇者特権】に眠る【超勇者形態《ちょうゆうしゃモード》】の記録書庫。おまえはここに蓄積された戦闘データを追記入力することで最適化され、これまでの死地をかいくぐってきた」
「サーバー?インストール??」
「考えるな、感じろ」
情弱の今代勇者タローが困惑する中、初代勇者タケルは文脈から意図を汲めと突き放す。
「要は【超勇者形態】のデータベースだ。
これまでおまえが【超勇者形態】を使う度、全自動でこのデータベースからそのときの状況に適した戦闘データの抽出・加工が施され、且つ使用者である勇者の力量に合わせた出力加減が調整されていた。
だが今、その枷が外された。
だからおまえは今、ここにいる」
「それって【超勇者形態《ちょうゆうしゃモード》】の制限解除の話?」
タローの朧げな質問に、ご先祖さまは肯定の意で首を縦に振った。
「んなわけで、これからおまえは全自動から手作業で【超勇者形態《ちょうゆうしゃモード》】を使うことになる。つまりは【超勇者形態】のデータベースを掌握するってことだ。しかし、それらの管理権限はすべて俺様が握っている」
その言葉に込められた意味を、タローは考えずに直感する。
「つまり、アンタから奪えと?」
「そーゆーこったな、わかりやすくていいだろう?」
ふたりの間にしばし沈黙が流れる。
それはなにやら張り詰めた糸のような緊張感を孕んでおり、いつ途切れてもおかしくない、事が起きる前兆を予感させるものだった。
「最近、僕は勇者でありながら崇高さとはあまりに程遠い野蛮で単調な自分に、あなたがた歴代勇者にすこし引け目を感じていたけど―――」
不意に、情報の海がタローの右手に光の粒子を収束させる。
それらはやがて形状を象り、やがて物質に変換される。
剣。無論、それはこれから勃発するであろう戦いのための武器である。
「初代勇者がそんな感じなんだから、ちょっと救われた気がするよ」
その言葉を受け、ご先祖様ことタケルは不敵な笑みを返す。
「歴史が俺様を定義したに過ぎねぇ。俺様は勇者と名乗った覚えもねぇし、そんな崇高な自分をブランディングした覚えもねぇ」
初代勇者タケルの右手にもまた光が集束する。
聖剣セフィロト。かつて魔王イスカリオテとの戦いに赴いた際に、携えた自慢の愛剣だ。
「いつだって本能の赴くまま、自分の魂に従ってきただけだ」
剣を構える。
「そんで今は、おまえと切り結びてえ―――」
それに呼応して、タローもまた剣を構える。
初代勇者と今代勇者の間に闘気が籠る。
それは殺伐とした尖ったエネルギーではなく、溌溂としたスポーツ精神のような快活なさっぱりとした空気感。
お互いに何か期待を寄せるような、楽しみやワクワクといったプラスの感情が沸き立ってくる。
「―――光栄ですよ、初代勇者」
その感情の昂ぶりに任せるように、タローは踏み込んでゆく。
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