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急章の弐 Who Moved My cheese?
78ターン目/相棒と仲良くしろよ
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◇◇◇
「ぐがががががァァ………ッッ」
不意にタローが無様に嗚咽する。
爆発的に向上する黄金に輝く魔力出力。
それに比例するかのように彼からは知性や品性というものがみるみるうちに削ぎ落され、まるで獣に近づいていくような、そんな感触を冒険王ミフネに与える。
白目を剥き出し、唾涎を溢す人の形をした獣。
【超勇者形態】の制限解除における情報処理許容範囲外による自我喪失の前兆。
最早、勇者タローを突き動かすのは戦闘本能のみである。
「---馬鹿野郎ッ」
その有様を見つめながら、冒険王ミフネは吐き捨てた。
「この程度で抜かりおってからに………!!」
「ーーーーーーーーーーーーッッ」
父親の義憤の叫びを合図に、【超勇者形態】の獣が襲い掛かってくる。
大雑把な縦斬り。
剣術と呼ぶにはあまりにも稚出な出鱈目な大振り。
冒険王ミフネはそれを流れるように回避する。
刹那、地盤が割れる。
それは斬撃というよりも激突だった。
巨大な岩石でも降ってきたかのような、そんな破壊力が地上を叩き割り、粉砕する。
廃墟の瓦礫と抉られた地質が宙へと噴出し、土砂の波となって周囲を飲みこむ。
一閃。土砂の波が切り開かれる。
冒険王ミフネだ。
彼はすぐさまタローに斬りかかる。
刃が勇者の視界に差し迫る。
が、停止。タローの長剣が、ミフネの刃を受け止める。
「ぐがァぁッ!」
そして、雄叫びと共に力づくで切り払う。
後方へ怯んだミフネに対し、獣となった勇者は剣を叩き付け、叩き付け、叩き付ける。
ミフネはこれらを剣で続々と受け流し、そして―――
●冒険王は呪文を唱えた!
▼光魔法【ロケットパンチ】発動!
タローの胸部へと最大出力を叩きつける。
会心の一撃。確かな手応えをミフネは掴む。
後方へ吹き飛ばされる獣となった勇者。
しかし、タローはそれを堪えきる。
両脚を軸に地面を大きく滑走しながら、直立のまま体勢を保つ。
その軌跡には土埃と硝煙を残して、やがて停止。
タローが顔をあげると、その眼前にはすでにミフネが迫っていた。
一撃。冒険王の剣が袈裟の形で、タローに入る。
血飛沫が舞い、鮮血が渇いた戦場を彩る。
◇◇◇
それは過去。
【超勇者形態】はじめての制限解除。
最初の精神世界への入門の頃に戻る。
初代勇者との邂逅を経て、闘いを挑んだ今代勇者タロー。
彼は激闘の末、敗北していた――
「………バケモノかよ」
圧倒的戦力差。あまりの壁の高さにタローは雑言を絞り出す。
現世界最高峰の戦力を自負する自分がまさか手も足も出ないなんて。
それは既視感。ここまで無力感を感じたのは、世界が改変される分岐点となった魔王城の決戦。
異世界転生者ブラックとの闘い。
あのときからそれなりに成長したつもりだったが、初代勇者の実力を垣間見たことにより、タローは改めて絶望と敗北の惨めさを思い出す。
「まぁ、及第点だな」
一方、タケルは満足そうに情報の海に力なく漂うタローを眺めながら一言告げる。
「元の【超勇者形態】の出力が全体の10%程度。今回の戦いで引き出せた出力は大体25%。おまえにとっての実に2倍以上の潜在能力だ。それら100%を使用する俺様の前では自覚がないだろうが、おまえは確実に強くなってんよ」
その言葉に世辞の意は込められておらず、正直な所感だけが淡々と並べられているような気がした。
満更でもない。そんな充実感が心を少し埋めてくれる。
そんな余裕がタローの脳裏にふとひとつの疑問を想起させる。
「………あんたとブラック、どっちが強い?」
「俺様」
即答。しかしそれが事実か否か。
タローには判別する術がない。
「厳密には今の俺様ならという話だ。当時、生前の俺様なら太刀打ちできなかったろうな」
「ブラックの強さは【超勇者形態】でいうとどれくらい?」
「80%程度」
「ってことはアンタを越えて100%の【超勇者形態】を使用できれば」
異世界転生者ブラックに勝てる。
今代勇者の胸中に希望が湧いてくる。
「無論可能だがおそらく現実的ではないだろうな」
「えっ?」
「まず【超勇者形態】の潜在能力解放は、【超勇者形態】使用中にしか発生しない。しかし、おそらくこの世界にその状態のおまえと渡り合えるヤツはもう限られているだろう。今回の成長速度等や敵の主力陣営を鑑みるに異世界転生者ブラックとの闘いまでにたどり着ける【超勇者形態】制限解除による数値は50%前後」
「それじゃあ足りねぇじゃん」
「ああそうだな。だがあいにく今回おまえはひとりじゃねぇ」
その言葉に、タローは首を傾げる。
だがそれと同時に、不意に視界に異常が起こる。
それはまるでノイズのように、情報の海の景観を白黒に歪め、徐々に消失させながら、遠ざけていく。
「時間か―――」
初代勇者タケルはこの事態を理解した口ぶり。
「次にここへ訪れるときは戦場だろうな」
そして、自身の子孫を眺めながらニヤリと笑みを浮かべる。
「相棒と仲良くしろよ」
景色が白く、白く、
深くなってゆく。
そして―――
◆◆◆
「―――気が付いたか、勇者」
眼前には、魔王イスカリオテ。
彼の手に抜身の短刀。
その刃はタローが握る長剣の刃を捉え、受け止めていた。
「これは、いったい………⁉」
驚愕したタローはすぐさまその剣先を納める。
そしてすぐさま思い出す。
南の島でバカンス中の彼等は、禁忌のモルガナによって施術された【超勇者形態】制限解除を試すため、島内の人通りを離れた森の中に訪れていた。
【超勇者形態】の発動。
それからの記憶はなく、いつのまにかタローは勇者特権が構築する情報の海に迷い込み―――
「【超勇者形態】に飲まれたな」
魔王が一言、結論を述べる。
「ぐがががががァァ………ッッ」
不意にタローが無様に嗚咽する。
爆発的に向上する黄金に輝く魔力出力。
それに比例するかのように彼からは知性や品性というものがみるみるうちに削ぎ落され、まるで獣に近づいていくような、そんな感触を冒険王ミフネに与える。
白目を剥き出し、唾涎を溢す人の形をした獣。
【超勇者形態】の制限解除における情報処理許容範囲外による自我喪失の前兆。
最早、勇者タローを突き動かすのは戦闘本能のみである。
「---馬鹿野郎ッ」
その有様を見つめながら、冒険王ミフネは吐き捨てた。
「この程度で抜かりおってからに………!!」
「ーーーーーーーーーーーーッッ」
父親の義憤の叫びを合図に、【超勇者形態】の獣が襲い掛かってくる。
大雑把な縦斬り。
剣術と呼ぶにはあまりにも稚出な出鱈目な大振り。
冒険王ミフネはそれを流れるように回避する。
刹那、地盤が割れる。
それは斬撃というよりも激突だった。
巨大な岩石でも降ってきたかのような、そんな破壊力が地上を叩き割り、粉砕する。
廃墟の瓦礫と抉られた地質が宙へと噴出し、土砂の波となって周囲を飲みこむ。
一閃。土砂の波が切り開かれる。
冒険王ミフネだ。
彼はすぐさまタローに斬りかかる。
刃が勇者の視界に差し迫る。
が、停止。タローの長剣が、ミフネの刃を受け止める。
「ぐがァぁッ!」
そして、雄叫びと共に力づくで切り払う。
後方へ怯んだミフネに対し、獣となった勇者は剣を叩き付け、叩き付け、叩き付ける。
ミフネはこれらを剣で続々と受け流し、そして―――
●冒険王は呪文を唱えた!
▼光魔法【ロケットパンチ】発動!
タローの胸部へと最大出力を叩きつける。
会心の一撃。確かな手応えをミフネは掴む。
後方へ吹き飛ばされる獣となった勇者。
しかし、タローはそれを堪えきる。
両脚を軸に地面を大きく滑走しながら、直立のまま体勢を保つ。
その軌跡には土埃と硝煙を残して、やがて停止。
タローが顔をあげると、その眼前にはすでにミフネが迫っていた。
一撃。冒険王の剣が袈裟の形で、タローに入る。
血飛沫が舞い、鮮血が渇いた戦場を彩る。
◇◇◇
それは過去。
【超勇者形態】はじめての制限解除。
最初の精神世界への入門の頃に戻る。
初代勇者との邂逅を経て、闘いを挑んだ今代勇者タロー。
彼は激闘の末、敗北していた――
「………バケモノかよ」
圧倒的戦力差。あまりの壁の高さにタローは雑言を絞り出す。
現世界最高峰の戦力を自負する自分がまさか手も足も出ないなんて。
それは既視感。ここまで無力感を感じたのは、世界が改変される分岐点となった魔王城の決戦。
異世界転生者ブラックとの闘い。
あのときからそれなりに成長したつもりだったが、初代勇者の実力を垣間見たことにより、タローは改めて絶望と敗北の惨めさを思い出す。
「まぁ、及第点だな」
一方、タケルは満足そうに情報の海に力なく漂うタローを眺めながら一言告げる。
「元の【超勇者形態】の出力が全体の10%程度。今回の戦いで引き出せた出力は大体25%。おまえにとっての実に2倍以上の潜在能力だ。それら100%を使用する俺様の前では自覚がないだろうが、おまえは確実に強くなってんよ」
その言葉に世辞の意は込められておらず、正直な所感だけが淡々と並べられているような気がした。
満更でもない。そんな充実感が心を少し埋めてくれる。
そんな余裕がタローの脳裏にふとひとつの疑問を想起させる。
「………あんたとブラック、どっちが強い?」
「俺様」
即答。しかしそれが事実か否か。
タローには判別する術がない。
「厳密には今の俺様ならという話だ。当時、生前の俺様なら太刀打ちできなかったろうな」
「ブラックの強さは【超勇者形態】でいうとどれくらい?」
「80%程度」
「ってことはアンタを越えて100%の【超勇者形態】を使用できれば」
異世界転生者ブラックに勝てる。
今代勇者の胸中に希望が湧いてくる。
「無論可能だがおそらく現実的ではないだろうな」
「えっ?」
「まず【超勇者形態】の潜在能力解放は、【超勇者形態】使用中にしか発生しない。しかし、おそらくこの世界にその状態のおまえと渡り合えるヤツはもう限られているだろう。今回の成長速度等や敵の主力陣営を鑑みるに異世界転生者ブラックとの闘いまでにたどり着ける【超勇者形態】制限解除による数値は50%前後」
「それじゃあ足りねぇじゃん」
「ああそうだな。だがあいにく今回おまえはひとりじゃねぇ」
その言葉に、タローは首を傾げる。
だがそれと同時に、不意に視界に異常が起こる。
それはまるでノイズのように、情報の海の景観を白黒に歪め、徐々に消失させながら、遠ざけていく。
「時間か―――」
初代勇者タケルはこの事態を理解した口ぶり。
「次にここへ訪れるときは戦場だろうな」
そして、自身の子孫を眺めながらニヤリと笑みを浮かべる。
「相棒と仲良くしろよ」
景色が白く、白く、
深くなってゆく。
そして―――
◆◆◆
「―――気が付いたか、勇者」
眼前には、魔王イスカリオテ。
彼の手に抜身の短刀。
その刃はタローが握る長剣の刃を捉え、受け止めていた。
「これは、いったい………⁉」
驚愕したタローはすぐさまその剣先を納める。
そしてすぐさま思い出す。
南の島でバカンス中の彼等は、禁忌のモルガナによって施術された【超勇者形態】制限解除を試すため、島内の人通りを離れた森の中に訪れていた。
【超勇者形態】の発動。
それからの記憶はなく、いつのまにかタローは勇者特権が構築する情報の海に迷い込み―――
「【超勇者形態】に飲まれたな」
魔王が一言、結論を述べる。
応援ありがとうございます!
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