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第四章 Last Dinosaurs
#38 荒井涼子
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荒井涼子は、かつて地元では有名なスケバンだった。
女だてらに、単騎で数々の不良グループや半グレ、しまいにはヤクザすら叩き潰す超問題児。
そんな彼女は、当然同世代の子たちからも畏怖され、一層孤独を深めていた。
「もう、またケンカしたの?」
そんな彼女の唯一の味方。無二の親友。
朝倉美奈実。
誰にも手がつけられない涼子 を手懐けられる、たったひとりの女の子。
「そんなに絆創膏貼っちゃって。せっかくの綺麗な顔が台無しじゃん」
「……… うっせーな、ほっとけ」
札付きの悪である涼子は対照的に、
美奈実は成績優秀才色兼備な優等生。
学力は全国でもトップクラス。
スポーツ万能。ボランティア活動にも精力的で、コンクールはジャンルを問わず、賞を総なめ。生徒や教師からも人望が厚く、生徒会長も務めていた。
そんな正反対の涼子と美奈実だったが、ふたりは実の姉妹のように仲が良く、自他共にそれがずっと続くと確信していた。
――― 朝倉美奈実が、行方不明となるまでは。
忽然と姿を消した彼女。
朝倉美奈実の父親は、県警のトップである。
警察組織の威信にかけて、大規模な捜索活動が展開された。
しかし、彼女の行方を追えば追うほどに
不穏な事実が、続々と発覚していく。
朝倉美奈実は、いわば犯罪コンサルタントといえる存在だった。
違法薬物の密造密売。
多種犯罪グループの設計と運用。
売春の斡旋等。他多数。
その魔の手は政財界にまで及んでおり、捜査は急遽中断。すべては闇に葬られる。
朝倉美奈実の存在は、誰しもから忘れ去られる筈だった。
「おまえ、警察に入らねぇ?」
東雲警部補と名乗る胡散臭い刑事。
当時、朝倉美奈実を探して、裏社会で暴れ回っていた荒井涼子は思わず呆気にとられる。
かくして、荒井涼子は警察官となったのだった。
◆◆◆
セイギの病室でひと悶着あってから、次の日。
徳島東警察署の駐車場内には護送車と一般車両にカモフラージュした警察車両が複数並び、私服や制服、中には武装した警察官たちが忙しなく機敏に動き回る。
東雲警部補もそんな彼等彼女等に混じって、炎天下に苛まされながら気怠そうに調整を進めていく。
署内もまた、日常業務と並行して進められる星詠みの巫女護送準備にてんやわんやとなっており、署員たちが慌ただしく奔走する。
それを横目に、フォーチュンと荒井巡査はパイプ椅子に腰かけ、出発の時間を待っていた。
フォーチュンの表情は浮かない様子。
その瞳は悲し気に虚空を眺めている。
そんな彼女を、荒井巡査はしばらく見守っていた。
「アイツの言い分も、わからなくはないんだよなぁ……… 」
ポツリとつぶやく。
その言葉に反応を示し、フォーチュンは小首を傾げる。
「ほら、あの天パのヤツの。
今やってるオトナの喧嘩。
その責任をアンタに被せんなって話。
筋は通っていると思うんだ。
ほんと良くねぇよな、アタイ等」
荒井巡査のしおらしいその態度。
しばらくフォーチュンは呆気にとられる。
やがてそれがあまりにも可笑しくて、思わずクスクスと笑ってしまう。
「なんだよ突然。アタイ、なんか可笑しいこと云ったかよ?」
「いえ、違うんですの。その、なんというか……… お優しいのですね」
「アタイが?やめてくれよ、柄じゃない」
「うふふ。ありがとうございます。お心遣い感謝ですの。
ですが、秩序を守るというのはとても大切なことなのですの。貴女様は正しいことを行っているのですよ?」
「……… なんだかアタシが論されちゃったよ」
苦笑する荒井巡査。
そんな彼女を、フォーチュンは優しく見つめる。
(何処となくこの方。セイギ様に似ているような気がするんですの)
ぶっきらぼうで不器用で、でも何処か優しくて。
不意に、フォーチュンはものすごく真神正義に会いたくなった。
「……… アンタ、アイツのこと考えてんだろ?」
「ふぇっ?」
不意の問いかけ。
荒井巡査は優しく、ジッとフォーチュンを見つめる。
「女の勘。そりゃそうだ。アンタを命懸けで守ってくれたもんな。連絡先とか知ってんのか?」
「……… いえ、何も。そーいえばセイギ様、SNSもやってないって云ってました」
「そうか。……… なら、アタイが伝えといてやるよ」
「ホントですの?」
「あぁ、せっかく仲良くなれたのに、今どき連絡ひとつも取り合えねぇってのはな。
それに、どうせ銃を向けた事を詫びに行こうと思ってたんだ。下手な土産よりアンタとの繋がりを持ってった方が、アイツも喜ぶんじゃねぇの?」
荒井巡査はニカッと笑う。
◆◆◆
星詠みの巫女・フォーチュンを乗せた護送車が出立する。
その周囲には一般車両にカモフラージュした警察車両が脇を固め、万が一に備えて警戒する。
東雲警部補と荒井巡査は車両を見送ると、役目を終えた安心感からお互い少し気を緩める。
そんな矢先だった。
「東雲警部補ならびに荒井巡査。
国家指定暴力団・極龍會との癒着の疑いにより、逮捕する。おとなしくしろ」
突如、その場のすべての警察官たちが二人を一斉に取り囲む。
「――― どーゆーつもりだテメェら」
そんな状況にも物怖じず、負けじと荒井巡査は周囲を威圧する。
一方、東雲警部補は舌打ち。出立した護送車の方向に目を向ける。
「くそ、やられた……… 」
護送車の運転席に、通信が入る。
『こちら徳島県警、こちら徳島県警。
これより星詠みの巫女護送先を通達する。
星詠みの巫女の護送先は愛媛県四国中央市・四国会議関連施設。
これより企業連盟の派遣部隊と合流し、その指示に従ってください。
繰り返す、こちら徳島県警、こちら徳島県警―――』
女だてらに、単騎で数々の不良グループや半グレ、しまいにはヤクザすら叩き潰す超問題児。
そんな彼女は、当然同世代の子たちからも畏怖され、一層孤独を深めていた。
「もう、またケンカしたの?」
そんな彼女の唯一の味方。無二の親友。
朝倉美奈実。
誰にも手がつけられない涼子 を手懐けられる、たったひとりの女の子。
「そんなに絆創膏貼っちゃって。せっかくの綺麗な顔が台無しじゃん」
「……… うっせーな、ほっとけ」
札付きの悪である涼子は対照的に、
美奈実は成績優秀才色兼備な優等生。
学力は全国でもトップクラス。
スポーツ万能。ボランティア活動にも精力的で、コンクールはジャンルを問わず、賞を総なめ。生徒や教師からも人望が厚く、生徒会長も務めていた。
そんな正反対の涼子と美奈実だったが、ふたりは実の姉妹のように仲が良く、自他共にそれがずっと続くと確信していた。
――― 朝倉美奈実が、行方不明となるまでは。
忽然と姿を消した彼女。
朝倉美奈実の父親は、県警のトップである。
警察組織の威信にかけて、大規模な捜索活動が展開された。
しかし、彼女の行方を追えば追うほどに
不穏な事実が、続々と発覚していく。
朝倉美奈実は、いわば犯罪コンサルタントといえる存在だった。
違法薬物の密造密売。
多種犯罪グループの設計と運用。
売春の斡旋等。他多数。
その魔の手は政財界にまで及んでおり、捜査は急遽中断。すべては闇に葬られる。
朝倉美奈実の存在は、誰しもから忘れ去られる筈だった。
「おまえ、警察に入らねぇ?」
東雲警部補と名乗る胡散臭い刑事。
当時、朝倉美奈実を探して、裏社会で暴れ回っていた荒井涼子は思わず呆気にとられる。
かくして、荒井涼子は警察官となったのだった。
◆◆◆
セイギの病室でひと悶着あってから、次の日。
徳島東警察署の駐車場内には護送車と一般車両にカモフラージュした警察車両が複数並び、私服や制服、中には武装した警察官たちが忙しなく機敏に動き回る。
東雲警部補もそんな彼等彼女等に混じって、炎天下に苛まされながら気怠そうに調整を進めていく。
署内もまた、日常業務と並行して進められる星詠みの巫女護送準備にてんやわんやとなっており、署員たちが慌ただしく奔走する。
それを横目に、フォーチュンと荒井巡査はパイプ椅子に腰かけ、出発の時間を待っていた。
フォーチュンの表情は浮かない様子。
その瞳は悲し気に虚空を眺めている。
そんな彼女を、荒井巡査はしばらく見守っていた。
「アイツの言い分も、わからなくはないんだよなぁ……… 」
ポツリとつぶやく。
その言葉に反応を示し、フォーチュンは小首を傾げる。
「ほら、あの天パのヤツの。
今やってるオトナの喧嘩。
その責任をアンタに被せんなって話。
筋は通っていると思うんだ。
ほんと良くねぇよな、アタイ等」
荒井巡査のしおらしいその態度。
しばらくフォーチュンは呆気にとられる。
やがてそれがあまりにも可笑しくて、思わずクスクスと笑ってしまう。
「なんだよ突然。アタイ、なんか可笑しいこと云ったかよ?」
「いえ、違うんですの。その、なんというか……… お優しいのですね」
「アタイが?やめてくれよ、柄じゃない」
「うふふ。ありがとうございます。お心遣い感謝ですの。
ですが、秩序を守るというのはとても大切なことなのですの。貴女様は正しいことを行っているのですよ?」
「……… なんだかアタシが論されちゃったよ」
苦笑する荒井巡査。
そんな彼女を、フォーチュンは優しく見つめる。
(何処となくこの方。セイギ様に似ているような気がするんですの)
ぶっきらぼうで不器用で、でも何処か優しくて。
不意に、フォーチュンはものすごく真神正義に会いたくなった。
「……… アンタ、アイツのこと考えてんだろ?」
「ふぇっ?」
不意の問いかけ。
荒井巡査は優しく、ジッとフォーチュンを見つめる。
「女の勘。そりゃそうだ。アンタを命懸けで守ってくれたもんな。連絡先とか知ってんのか?」
「……… いえ、何も。そーいえばセイギ様、SNSもやってないって云ってました」
「そうか。……… なら、アタイが伝えといてやるよ」
「ホントですの?」
「あぁ、せっかく仲良くなれたのに、今どき連絡ひとつも取り合えねぇってのはな。
それに、どうせ銃を向けた事を詫びに行こうと思ってたんだ。下手な土産よりアンタとの繋がりを持ってった方が、アイツも喜ぶんじゃねぇの?」
荒井巡査はニカッと笑う。
◆◆◆
星詠みの巫女・フォーチュンを乗せた護送車が出立する。
その周囲には一般車両にカモフラージュした警察車両が脇を固め、万が一に備えて警戒する。
東雲警部補と荒井巡査は車両を見送ると、役目を終えた安心感からお互い少し気を緩める。
そんな矢先だった。
「東雲警部補ならびに荒井巡査。
国家指定暴力団・極龍會との癒着の疑いにより、逮捕する。おとなしくしろ」
突如、その場のすべての警察官たちが二人を一斉に取り囲む。
「――― どーゆーつもりだテメェら」
そんな状況にも物怖じず、負けじと荒井巡査は周囲を威圧する。
一方、東雲警部補は舌打ち。出立した護送車の方向に目を向ける。
「くそ、やられた……… 」
護送車の運転席に、通信が入る。
『こちら徳島県警、こちら徳島県警。
これより星詠みの巫女護送先を通達する。
星詠みの巫女の護送先は愛媛県四国中央市・四国会議関連施設。
これより企業連盟の派遣部隊と合流し、その指示に従ってください。
繰り返す、こちら徳島県警、こちら徳島県警―――』
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