1 / 1
月
しおりを挟む私は貴方が好き。
私はいつも、晴れた夜はこの公園に来る。
金網に寄り掛かり、澄んだ空気の先にある大小様々な美しい光を眺めるのが好き。でも、この公園に来る一番の理由は、貴方が居るから。
貴方はいつも決まったベンチに腰を掛けて、ちらつく電灯の薄明かりの下で本を読んでいる。艶やかな黒い髪を耳に掛け、咥えた煙草からは薄らと紫煙が上り、夜空の大きな光を水面の様に滲ませている。私はそれを、息を潜めてそっと眺めるのが好きだった。
時も忘れて見ていると、ふと本を下ろした貴方と目が合った。乾いた暖かい風が吹き抜け、貴方の煙草の香りが私の頬に柔らかく触れた。
吹き抜ける風を隔て、本を下ろした貴方がすっと手を差し伸べ、優しく微笑むと「おいで」と一言発した。暫し風が止み、訪れた静寂の中を走ったその声は、春の木漏れ日の様に澄み切った温もりを孕んでいた。私は引き寄せられる様に、無意識に貴方の手に顔を寄せると、貴方は包み込む様にそっと優しく撫でた。
細く長い指は真っ白で汚れなく、大きな手は私の頭を撫でるには少し持て余している様子で、そんなぎこちない手付きですら、私には勿体無い程の幸せだった。文字通り、身に余る程の幸せに包まれている私の様子を見た貴方は、すっと目尻を下げると私を抱き抱え、膝の上に乗せながら夜空を見上げてこう言った。
「今日は月が綺麗だね」
私は今まで見ていた夜空に浮かぶ大きな光が「月」と言う事を初めて知った。もう一度眺めた月は、一切の滲みなく夜空に明るい真円を描いている。
「私も貴方が好き。」
私がそう言うと、貴方はくすりと笑いゆっくりと頷いた。
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる