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月
しおりを挟む私は貴方が好き。
私はいつも、晴れた夜はこの公園に来る。
金網に寄り掛かり、澄んだ空気の先にある大小様々な美しい光を眺めるのが好き。でも、この公園に来る一番の理由は、貴方が居るから。
貴方はいつも決まったベンチに腰を掛けて、ちらつく電灯の薄明かりの下で本を読んでいる。艶やかな黒い髪を耳に掛け、咥えた煙草からは薄らと紫煙が上り、夜空の大きな光を水面の様に滲ませている。私はそれを、息を潜めてそっと眺めるのが好きだった。
時も忘れて見ていると、ふと本を下ろした貴方と目が合った。乾いた暖かい風が吹き抜け、貴方の煙草の香りが私の頬に柔らかく触れた。
吹き抜ける風を隔て、本を下ろした貴方がすっと手を差し伸べ、優しく微笑むと「おいで」と一言発した。暫し風が止み、訪れた静寂の中を走ったその声は、春の木漏れ日の様に澄み切った温もりを孕んでいた。私は引き寄せられる様に、無意識に貴方の手に顔を寄せると、貴方は包み込む様にそっと優しく撫でた。
細く長い指は真っ白で汚れなく、大きな手は私の頭を撫でるには少し持て余している様子で、そんなぎこちない手付きですら、私には勿体無い程の幸せだった。文字通り、身に余る程の幸せに包まれている私の様子を見た貴方は、すっと目尻を下げると私を抱き抱え、膝の上に乗せながら夜空を見上げてこう言った。
「今日は月が綺麗だね」
私は今まで見ていた夜空に浮かぶ大きな光が「月」と言う事を初めて知った。もう一度眺めた月は、一切の滲みなく夜空に明るい真円を描いている。
「私も貴方が好き。」
私がそう言うと、貴方はくすりと笑いゆっくりと頷いた。
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