黄昏に贈る王冠《ロイヤルクラウン》~無双の戦鬼は甘やかす!~

黎明煌

文字の大きさ
9 / 17
第一章「無双の戦鬼、忠誠を誓う」

「蛍でしょうか、風流ですよねぇ……ふ、ふふふ」

しおりを挟む


「兄さん、お風呂空きましたよ」

 しっとりと濡れた長い黒髪にタオルをポンポンと当てて水気を取りながら刀花が風呂場から出てきた。

「悪いわね、先にいただいたわよ」

 リゼットも同じく居間の方に入ってくる。流れる金髪は水を含みまるで大河のように流れている。
 風呂上がりで薄着の二人が入ってきたことで、小さな居間にシャンプーの華やかな香りが扇風機の風に乗って広がった。

「いやぁ外国の方ってやっぱりスタイルいいですね。こう腰のくびれが……」

 刀花が寝間着ごしに自分の腰をふにふにと摘まんでいる。一方リゼットは「浮いてた……」と自分の胸に手を当てていた。それぞれに何か思うことがあったらしい。

「まったく、風呂の入り方も知らんとは……」

 二人同時に風呂場から出てきたことから分かるように、二人は先程まで一緒にお風呂に入っていたのだ。

「し、仕方ないじゃない……初めて見るお風呂だったし」

 まぁ確かに、今の時代自動的に温度を調節してくれる風呂の方が普及しているのだろう。バランス釜などもはや過去の遺物なのやもしれん。

「もう兄さんダメですよ自分のこと棚上げしちゃ。兄さんは爆発させたじゃないですか」
「あなたの方がやらかしてるじゃないの」

 爆発するような機構になっている方が悪い。
 ジト目でこちらを見てくるリゼットを無視して立ち上がり、手を一振りして一本の透き通った細身の剣を作り出す。

「ふっ」

 刀身部分を指で挟み、先端まで一気に走らせる。刃引き完了。

「そら刀花」
「ありがとうございます♪」

 それを受け取った刀花は眼前に掲げながら扇風機の前に座って風を浴びる。

「あー夏はこれに限ります」

 冷気が風に乗り部屋を過ごしやすい温度へと変える。
 それ自体が冷気を発する氷の魔剣だ、クーラーが付いていない我が家では重宝する。

「絵面が物騒すぎる……」

 リゼットはその様子を見てドン引きしている。失礼な、刀花が考えた素晴らしいアイデアだぞ。我が妹はノーベル賞もとれるな!

「そんなお前には刃引きしないでそのままくれてやろう」
「きゃー!?」

 追加でもう一本作り出し無遠慮に放り投げた。
 それをリゼットは見事な真剣白羽取りで受け止めている。

「ほう、やるじゃないか」
「『やるじゃないか……』じゃないわよ!」

 赤い瞳を怒らせ、チャキリと硬質な音と共に切っ先をこちらに向けてガーと威嚇してくる。まるで猫だな。

「ふん、冗談だ。刃引きはしてある。それに──」

 デコピンで向けられた刀身を弾く。
 その小さな衝撃で、魔剣はサラサラと粉雪のように跡形もなく霞んで消えていった。

「刀花の安全を守る俺が危険な魔剣など貸し出すものか。冗談の通じないやつめ」
「あなたのジョークは分かりにくいのよ……」

 げんなりした様子で刀花の隣に座りこちらに無言で手を差し出す。その手にもう一振り剣を作ってやってひょいと渡した。
 刀花の真似をし扇風機に掲げると「あ、涼しい」と眉間にシワの寄っていた顔を緩めご満悦だ。

「さて、俺も風呂に入るか」

 そう言って風呂場に向かう俺を追いかける視線がある。リゼットだ。こちらの様子を観察している。

「なんだ?」
「……そういえば紋章が見当たらないと思って」
「紋章ってなんですか?」

 立ち上がり冷蔵庫から取り出した牛乳を二人分コップに注ぎながら刀花が聞く。

「眷属になった者には身体のどこかにその主人を示す紋章が現れるはずなのだけれど……」
「……銭湯やプールに入れないではないか」
「え、そこ?」

 自分の腕を確認してみる。半袖から覗く腕にはそのようなものは見受けられない。

「あなたが変に断ち斬ったから現れていないのかしら……あら、ありがとう」

 リゼットが刀花から牛乳を受け取りコクコク飲むのを尻目に上半身の服を脱ぐ。

「……」

 ない。

「……」

 ズボンも脱ぐ。「ちょっと……」「きゃっ♪」という声が聞こえたが無視する。

「……」

 ない。首を傾げる。

「………………お、ケツにあるぞ」
「ぶーーー!?(金髪美少女)」
「に、兄さん大変です、く、ふふ……紋章が、ふふ、二つに割れています」

 リゼットは牛乳を吹き出し、刀花は肩を震わせながら指摘する。身体を捻り見てみると、三日月と星を組み合わせたような不思議な円形の模様が描かれていた。ケツに。

「……ふむ」

 中途半端に下着を脱いで露になっているケツに、試しに霊力を流し込むと……、

 ──ピカーっと紋章が輝きだした。ケツの。

「に、兄さん……ごめんなさい私……ふ、ふふふ……」

 畳の上で仁王立ちとなりひたすらケツを輝かせる兄の姿に刀花、撃沈。部屋の隅で丸くなり小刻みに肩を震わせている。

「あ、あなたねぇ! いいから早くその汚いの仕舞いなさい!」
「なんだお前の紋章は汚いのか」
「そっちじゃないわよバカーーー!!」

 リゼットは怒りと羞恥で真っ赤になりながら喚いている。

「お前が刻んだのだろう、尻フェチ吸血鬼」
「あなたそれもう一回言ったら絶対許さないからね」
「ではどこフェチなのだ」
「え、指……って何言わせるの!」
「私は鎖骨です!」

 殺意すら感じる視線と元気よく答える声に肩をすくめて居間を後にする。
 まあこれならタオルで隠せば銭湯やプールには入れるだろう。

「な、なんでこんなことに……」

 しくしくと泣く吸血鬼の声をBGMに、俺はゆったりと風呂に入り疲れを癒すのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

処理中です...