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第2章 借金返済こそが魔王討伐への近道

二十三話 意外なところで臨時収入を得る

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 歩いている途中で、生き残りのデズが苦しそうに、這いつくばっているのを見かけた。
 
「イルカ君の攻撃を半端に喰らったせいで、生き残ってしまったんだね」
「なんだか、可哀想ですね……」

 二人がちらりと俺の方を見てくる。
 どうした? 
 俺がこいつのことを始末しろと?
 アンデッドの見た目は人間とさして変わらない。
 二人も討伐するのは、抵抗があるのだろう。

「分かったよ。俺が倒せばいいんだろう?」

 ダガーナイフで脳天を突き刺し、経験値となって消えてしまった。

「うん? なんか落としたな……」
「それは『賢者の重石』だね。確か、どこかの国ではお守りとか、大事な人に渡す時に使われていたはずだよ?」
「もしかして、この人が生きていた時、持っていたものかもしれませんね……」
「うーん……捨てるのも勿体ないし、有り難く使わせてもらうか」

 俺は『賢者の重石』をアイテムポーチに付けておく。

「そういえば、デズのリーダでペムスみたいなのがいたはずだが、そいつはどこにいたんだ? デズの数が多すぎて、全く見当たらなかったが……」
「今年はデズを大量に召喚しただけで、ペムス本人は『夢入り墓地』で待っていたみたいです。ペムスはとても臆病な性格ですからね。中々、自分から出向くことは少ないみたいですよ」

 あの討伐報酬は危険度で付けたれたものじゃなくて、討伐のしづらさで付けたものだったのか。
 はじめから、討伐できるのを想定されてないゴルドの設定金額なのは、俺たちが弱いことを重々承知なのだろう。

「僕も噂程度でしか聞いたことないけど、ペムスは可愛い女の子みたいだよ。『夢入り墓地』の由来は、ペムスの可愛さに魅了された人が、デズになろうとするからなんだよね」
「なにそれ、めっちゃ怖い。死ぬほど可愛いとか、拗れ過ぎだろ」

 とは言いつつも、俺も一度は会ってみたいと思うのは男の子だから仕方ない。

「絶対に、一人で勝手に行こうとしないで下さいよ? ハルトさんなら、意思がよわよわなので簡単にデズになっちゃいそうなので……」
「ブラウス君がここまで言ってくれてるんだから、約束は守ってくれるよね?」
「…………多分、大丈夫…………」
「たぶん?」
「行かないから、その顔やめてくれ。ブラウスのじと目は悲しい気持ちになるんだよ……」

 なんてことを言いながら、ギルド協会に到着すると、すでに到着していた冒険者が緊急クエストの報酬を受け取っていた。

「ミルザさんは『デズ』を32体討伐いたしましたので、」
「よっし。これで来月までは生き残れる……っ!」

 高額な報酬に感極まって泣いてしまう冒険者や、デズの中でも珍しい種類を討伐できた冒険者が高額な取り引きを行っていて、本当に夢があるなと思った。

「次の方、こちらの方へどうぞ!」
「どうせ、借金返済にあてるんだし全員で行っても問題ないだろ?」
「そうだね。僕たちが討伐できた数なんて、たかが知れているけど……」
「イルカさんの討伐報酬に期待しましょうっ!?」

 呼ばれた方に向かって、俺たちはそれぞれギルドカードを提示する。

「ねぇ、どうしてよっ! なんで私が討伐したデズは報酬が受け取れないの?!」

 聞き馴染みのある声がギルド協会に響き渡り、他の冒険者も驚いていた。

「えっと。イルカさんが使ったスキルなんですが、どうやらこの世界では本来使えないはずのスキルなんですよ。ギルド協会で登録されているスキルでないと、情報の読み取りが出来なくなってしまうんです」
「はぁ?! そんなの今からでも登録すればいいじゃないっ! 私が誰か分かって言ってるの?」
「すみません、ご存知ではないです……」
「イルカ様よ、イルカ様っ! はぁ。あなたじゃ話にならないわ。上の人を連れてきてちょうだい? 私が直談判するわ」

 厄介なクレーマーがいたもんだ。
 ここで他人のふりをしてもいいが、それだとギルド嬢が可哀想なので、強制的にイルカを連行する。

「なにやってんだ、お前。お姉さんが困っているだろ?」
「だって、みんなの救世主である私が一ゴルドも貰えないのよっ! 法律がどうとかそういう問題じゃないわ。お礼金として私に献上しないさい」
「すみませんね。こいつはすぐに連れていくんで……」

 ぎゃーぎゃと騒ぐイルカを無理やり引っ張り出して、ブラウスとメロに抑えておくように伝える。

「うちのメンバーが暴れ出しそうなんで、早めに集計お願いしますっ!」
「分かりました…………」

 変な注文で申し訳ないが、イルカを連れて早くここを出たい気持ちの方が強い。
 ギルド嬢さんは慣れた手つきで、報酬のゴルドを目の前に積んでいく。

「集計終わりました……あの、一つだけいいですか?」
「なんでしょう?!」
「ハルトさんが討伐したデズなんですが、どうやら元は貴族だったらしく、大変珍しい種類のデズとなっていたので……50万ゴルドとなります」
「50万ゴルド?!」

 まじか。
 適当に討伐したデズがそんな価値があったなんて。
 予想外の臨時収入に思わず口角が上がってしまう。
 そのことを聞き逃さないうちのメンバーは、俺が報酬を受け取ると、すぐに寄ってきた。

「僕たちも頑張ったよね?」
「実は欲しい剣があったんですよぉ~?」
「ねぇ、ハルト…………いや、ハルト様? 私にも少し分けてくれないかしら?」
「しょうがない奴らだなぁ~…………と、言ってる隙に…………」

 俺はゴルドを持って、ギルド協会を飛び出す。

「これで、新しいパーティーを作るんだ……っ?! もう追いつくのかよ?!」

 逃げる俺を追って、今までにないあいつらの連携プレイを繰り出す。
 本気になったあいつらから逃げられるはずもなく、縄に縛られ、連れ戻された。
 


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