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第2章 借金返済こそが魔王討伐への近道

二十四話 納得のいかない分配方法

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 俺が討伐して得た報酬を、なぜかテーブルの上に並べて取り分け始めた。

「なんで、俺が貰ったゴルドを我が物顔で貰おうとしているんだ?」

 縄に縛られたままの俺は、身動きが一切とれない状態。
 そんな俺の言葉を軽く無視して、黙々と作業を進める。

「ブラウスっ!? あなた今、内ポケットにゴルドを隠さなかった?!」
「そ、そんなわけないじゃないですかっ! 仲間を疑うなんて、人のすることじゃないですよ!」
「いーや。僕はずっと見てたけど、3万ゴルドほどは盗んでいたね?」

 メロの助言で、イルカがブラウスの内ポケットに手を突っ込む。

「やっぱり盗んでいるじゃない!?」
「もー! どうしてバラしちゃうんですかっ!?」
「このゴルドは僕の自由にも直結してくるからね。盗むなら、ばれないようにだよ?」

 イルカには見えないようにして、メロはくすねたゴルドをこっそりと、ブラウスにだけ見せる。

「あー! メロさんも盗んでいます! 私のが終わった後に、メロさんの身体検査も求めます!」
「なんですって!? これはみんなで平等に分けるものよ! 独り占めは許さないわ!」

 うん…………俺が貰ったゴルドだけどね?
 追加で言わしてもらうと、あなた達三人は、全員の分を合わせても十万ゴルドくらいだけどね?

「ふふふ。いくらでも調べるといいよ。絶対に、僕の体からは出てこないからね?」

 メロの言う通り、イルカがいくら探しても盗んだゴルドは出てこなかった。

「全部合わせて、57万ゴルド…………四人で分けると、一人当たり…………?」
「16万ゴルドくらいだね」
「そう! ようやく、私たちの借金返済物語が進み始めた感じじゃない?」

 借金返済は全員が分担して払うことになった。
 俺とイルカは20万ゴルドほど。
 ブラウスは60万ゴルド。メロは40万ゴルドになっている。
 借金は作ったやつが返すべき! と断固として意見を曲げないイルカが納得してくれるだけのゴルドを提示するのは、相当難しかったようだ。
 本当なら今回のクエスト報酬で、俺の分の借金は返済しきれるはずだったが…………まあ、それは別にいいだろう。結局、パーティーとしての借金だから俺一人が返せても意味がないしな。

「とは言っても、まだ半分ほどありますけどね…………」
「でも、これは大きな一歩だ。ゆっくりだけど、俺たちのペースで返していこう」

 そしたら、こいつらとは完全に縁を切って、新しいメンバーを探すんだ。
 俺にだけ惚れている魔導少女とか、心の傷も癒してくれるお姉さま系の回復術士、何をさせても完璧に受け答えできる万能女神が欲しい。
 …………そんなこと言ったら、こいつらに何をされるか分からないから、口が裂けても言えないけど。

「そういえば、ハルト君に渡していたものがあったね?」
「うん? なんか貰ったか? ぜんぜん覚えてないが…………」

 メロが俺の腰に手をまわして、後ろのポケットに手を入れる。

「物体移動スキル…………使うたびに素晴らしさを実感するよ」

 それは、さきほどまでブラウスが持っていたゴルド。
 なるほど、メロは咄嗟に俺の方にユニークスキルを使って、イルカにバレないようにしたのか。

「あの二人には黙っておいてくれよ? 僕は他の人以上にゴルドが必要だから…………ね?」
「へいへい。そうかよ…………」
「なにしてるの~、早く行きましょう?」

 イルカに呼ばれて、俺とメロは席を立つ。
 しかし、俺はここで黙っているほど、性格が良くないので。

「メロがゴルドを拾ったみたいだぞ~? 夕飯はメロに奢ってもらおうぜ?」
「なっ…………!?」

 俺の言葉に反応して、二人が一斉に振り向く。

「本当なの!? それなら私、ブドウ酒を浴びるだけ飲みたいわ!」
「私は新作の揚げ物が食べたいですっ!」
「…………え、あははは…………全然いいよ?」

 ぎろりと俺の方に『殺』視線を送ってくるが、自業自得だ。
 今後、ネタ晴らしをするときは人を選ぶといい。
 …………少なくとも、メンバーに噓を吐くときは最後まで突き通すべきだ。
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