『偽物』と追放された真の聖女ですが、辺境の冷徹公爵に拾われて溺愛されています。ちなみに私を捨てた国は禁術の呪いで滅びかけているようです。

ささい

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第五話:自分を縛っていた過去を、捨てることができました

エミリシアは、レオフィリスと共に館の門前へと向かう。彼女の隣を歩むレオフィリスは、その冷徹な横顔に隠しきれない怒りを滲ませていたが、エミリシアの手を握る力はどこまでも優しかった。
館の門前にいた騎士たちは、かつて王都でエミリシアを「無能」と嘲笑った精鋭たちだった。だが、今の彼らに往時の輝きはない。呪いに蝕まれ、泥に塗れて跪く彼らの中央で、一人の男が輿から這い出した。

「エ……エミリシア……っ」

その掠れた声にエミリシアは目を瞠った。そこにいたのはかつて傲慢なまでに美しかった王太子ユーベルトだった。彼の変わり果てた姿に息を呑む。肌にはどす黒い痣が広がり、瞳からは生気が失われている。禁術の毒に侵された彼は、もはや自力で立つことすらままならず、泥の上に無様に這いつくばっていた。

「殿下……。そのようなお姿で、一体何のご用でしょう」

エミリシアの声は、自分でも驚くほど冷ややかだった。

「……助けてくれ。リディエッタは……あの女は化け物になった。禁術に失敗し、私の命まで吸い取ろうとしている……! 私を治せ。真の聖女であるお前なら、私を元通りに完治させられるはずだ!」

ユーベルトは、泥に汚れた手でエミリシアの靴に縋り付こうとした。あの日、冷たい雨の中で自分を追い出し「二度と顔を見せるな」と言い放った男。その彼が、今度は自分の命が惜しさに、ゴミのように捨てた相手に命乞いをしている。

エミリシアは、一歩後ろに下がってその手を避けた。

「……完治ですか?」

彼女は、ユーベルトの言葉をなぞるように低く繰り返した。その瞳には、慈悲など一欠片も宿っていない。

「それは、無理です」

短く、突き放すような拒絶。

ユーベルトの顔が、絶望と恐怖に歪む。

「な、なぜだ! お前は聖女だろう! 民を、私を救うのが義務のはずだ!」

「……私はあの日、貴方によってその義務を奪われました。聖女ではないと断罪され、居場所を奪われたのです。それに、殿下。貴方が蝕まれているのは、自らの欲望が生み出した呪いです。自らが招いた毒の報いは、自らの命で贖う。それが大地の理というものです」

エミリシアは、背後に立つレオフィリスの腕の中に、自ら身を寄せた。
「私には理を捻じ曲げてまで私を捨てた人を救う理由はありません。……私の祈りはもう貴方には届かないのです。さようなら、ユーベルト殿下」

「ま、待て! 行くな! エミリシア、戻れぇっ!」

ユーベルトの絶叫を、レオフィリスの冷酷な一言が遮った。

「見苦しいぞ、敗残兵。……二度と俺の女にその汚い手を伸ばすな。次があれば、その首を撥ねる」

レオフィリスが放つ圧倒的な殺気に、騎士たちは腰を抜かし、ユーベルトを抱え直して無様に逃げ帰っていった。漆黒の霧が立ち込める王都の方角へ、救いのない死地へと。
静寂が戻った門前で、レオフィリスがエミリシアを強く抱き寄せた。

「よく言った、エミリシア。あんな男のために君の心を一瞬たりとも割く必要はない」

「はい……。レオフィリス様。私、ようやく自分を縛っていた過去を、捨てることができました」

エミリシアは、レオフィリスの胸に顔を埋めた。

王都を襲う滅びの足音も、ユーベルトの呪詛も、もう彼女の耳には届かない。
ここにあるのは、愛する人の力強い鼓動と、この地に咲き誇る花の香りだけ。

かつて無能だと蔑まれ、偽物だと追放された少女は、今、本物の幸福の中で穏やかな未来へと歩み出していた。
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