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本編
【日向視点】見てるだけ
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講義が終わり、南門へと続く道。
いつもの木陰が目に入って、無意識に足を止めた。
そこに姿はない。 当たり前だ。俺がそう決めた。
「呼ぶまで来るな」と突き放したのは俺で、今日は呼んでいない。
だから、あいつがいないのはルール通り。正解のはずだった。
ポケットからスマホを取り出す。通知はない。
一度しまって、三歩歩き、また画面を点ける。やはり、通知はない。
十秒前と変わるはずがないのに、指が勝手に動く。
「……やればできるじゃん」
小さく独り言をこぼして、真白を褒めてみた。
でも、驚くほど少しも嬉しくなかった。
◇
翌日、真白から連絡が来た。
『先輩、今日会えますか』
会える。
講義は午前で終わるし、午後は予定もない。
『いいよ。12時に学食』と返したら、
短く返信すると、すぐに『はい!』と一言だけ戻ってきた。
控えめなのに喜びが伝わってくる。
少しの間を置いて、俺はもう一通メッセージを打ち込んだ。
『飯、食ったか?』 『まだです』 『じゃあ、一緒に食うぞ』 『はい!!』
感嘆符が増えた。
抑えきれない喜びが漏れ出したような返信に、つい口角が上がりそうになる。
俺は慌てて口元を引き締め、スマホをポケットに放り込んだ。
学食の入り口で、真白はちょうど12時に現れた。
落ち着かない様子で周囲をきょろきょろと見回し、
俺と目が合った瞬間、その顔がパッと花が咲いたように明るくなった。
「先輩、時間通りに来ました」
「ん、見ればわかる」
それだけで、真白はくすぐったそうに笑った。
ただ時間通りに来ただけなのに、まるで最高の褒め言葉をもらったような顔をする。
単純というか、素直すぎるというか。
……だが、その顔を向けられて悪い気はしなかった。
「何にする」と聞けば、「先輩と同じものがいいです」と即答される。
「自分で決めろ」と突き放すと、真白は少し困ったように眉を下げてから、
「……じゃあ、カレーにします」と答えた。
結局、俺も同じカレーを選んだ。
「同じになりました」
「お前が先に決めて、俺が後から決めたんだから、お前のせいじゃない」
そう言うと、真白はまた嬉しそうに目を細める。
何がそんなに嬉しいのか。
俺にはさっぱり分からない。
カレーを口に運びながら、気づけば俺は真白を見ていた。
スプーンを持つ細い指先。一定のリズムで動く口元。
時折、上目遣いでこちらを窺い、目が合うと慌てて逸らして、
でも数秒後にはまたこちらを見ている。
「真白」
「はい」
「俺のこと見てるだろ」
「見てるだけです」
見てるだけ。
それは、俺も同じだった。 さっきからこいつの食べ方や、ちょっとした癖をずっと目で追っていた。
自分から「つきまとうな」と言っておきながら、何をやっているんだ、俺は。
「先輩」
「何」
「先輩も俺のこと見てました」
「……飯の食い方が気になっただけだ」
「そうですか」
真白は嬉しそうに笑って、「嬉しいです」と言った。
「何がだよ」
「先輩に見てもらえるの、嬉しいです」
スプーンを持つ手が止まった。
真白がずっと俺を見ていたことは知っている。
それこそ、一日の行動をすべて記録するほどに。
当時はそれが執着で、気持ち悪くて、だからやめさせた。
でも、俺は本当に、あの視線を「嫌だ」と思っていたんだろうか。
いつもの木陰が目に入って、無意識に足を止めた。
そこに姿はない。 当たり前だ。俺がそう決めた。
「呼ぶまで来るな」と突き放したのは俺で、今日は呼んでいない。
だから、あいつがいないのはルール通り。正解のはずだった。
ポケットからスマホを取り出す。通知はない。
一度しまって、三歩歩き、また画面を点ける。やはり、通知はない。
十秒前と変わるはずがないのに、指が勝手に動く。
「……やればできるじゃん」
小さく独り言をこぼして、真白を褒めてみた。
でも、驚くほど少しも嬉しくなかった。
◇
翌日、真白から連絡が来た。
『先輩、今日会えますか』
会える。
講義は午前で終わるし、午後は予定もない。
『いいよ。12時に学食』と返したら、
短く返信すると、すぐに『はい!』と一言だけ戻ってきた。
控えめなのに喜びが伝わってくる。
少しの間を置いて、俺はもう一通メッセージを打ち込んだ。
『飯、食ったか?』 『まだです』 『じゃあ、一緒に食うぞ』 『はい!!』
感嘆符が増えた。
抑えきれない喜びが漏れ出したような返信に、つい口角が上がりそうになる。
俺は慌てて口元を引き締め、スマホをポケットに放り込んだ。
学食の入り口で、真白はちょうど12時に現れた。
落ち着かない様子で周囲をきょろきょろと見回し、
俺と目が合った瞬間、その顔がパッと花が咲いたように明るくなった。
「先輩、時間通りに来ました」
「ん、見ればわかる」
それだけで、真白はくすぐったそうに笑った。
ただ時間通りに来ただけなのに、まるで最高の褒め言葉をもらったような顔をする。
単純というか、素直すぎるというか。
……だが、その顔を向けられて悪い気はしなかった。
「何にする」と聞けば、「先輩と同じものがいいです」と即答される。
「自分で決めろ」と突き放すと、真白は少し困ったように眉を下げてから、
「……じゃあ、カレーにします」と答えた。
結局、俺も同じカレーを選んだ。
「同じになりました」
「お前が先に決めて、俺が後から決めたんだから、お前のせいじゃない」
そう言うと、真白はまた嬉しそうに目を細める。
何がそんなに嬉しいのか。
俺にはさっぱり分からない。
カレーを口に運びながら、気づけば俺は真白を見ていた。
スプーンを持つ細い指先。一定のリズムで動く口元。
時折、上目遣いでこちらを窺い、目が合うと慌てて逸らして、
でも数秒後にはまたこちらを見ている。
「真白」
「はい」
「俺のこと見てるだろ」
「見てるだけです」
見てるだけ。
それは、俺も同じだった。 さっきからこいつの食べ方や、ちょっとした癖をずっと目で追っていた。
自分から「つきまとうな」と言っておきながら、何をやっているんだ、俺は。
「先輩」
「何」
「先輩も俺のこと見てました」
「……飯の食い方が気になっただけだ」
「そうですか」
真白は嬉しそうに笑って、「嬉しいです」と言った。
「何がだよ」
「先輩に見てもらえるの、嬉しいです」
スプーンを持つ手が止まった。
真白がずっと俺を見ていたことは知っている。
それこそ、一日の行動をすべて記録するほどに。
当時はそれが執着で、気持ち悪くて、だからやめさせた。
でも、俺は本当に、あの視線を「嫌だ」と思っていたんだろうか。
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