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本編
【日向視点】存在を肯定するということ
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行動を記録されるのが気持ち悪かったのは事実だ。
けれど、それだけだったか。
俺のすべてを、誰よりも取りこぼさず見つめていた存在。
「やめろ」と言ったら、やめた。
ルールを守って今はこうして許可された範囲で、控えめに視線を送ってくる。
正しい。
これが正しいはずなのに、喉の奥に何かがつかえているような感覚が消えない。
「……先輩?」
「なんでもない。……早く食え」
俺は逃げるようにカレーを口に流し込んだ。
スパイスの香りはしているはずなのに、なぜか味が、よく分からなかった。
食べ終わって学食を出ようとしたら、入り口で柊とすれ違った。
「あ、日向先輩。レンと一緒ですか」
いちごミルクを持ったまま、真白を見て「楽しそうじゃん」と言った。
真白が「うん」と素直に頷く。
柊の視線がこっちに戻ってきた。どこか面白がっている。
「先輩、最近レンのこと気にしてますよねー」
「……別に」
「へぇ、そっすか」
柊がストローを咥えて、さらっと言った。
「先輩、寂しかったんじゃないですか。レンが来なくなって」
答えられなかった。
柊は何も言わずに笑って、
「じゃ、俺は飯食ってきます」と学食の中に消えていった。
残されたのは日向と真白だけだった。
「……何」
「寂しかったですか?」
柊と同じ質問。だが、真白の問いに含まれる意味はそれとは正反対だ。
寂しかったなら嬉しい。
先輩の日常に、自分の不在が穴を開けていたのならこれ以上の幸せはない。
……そんな、歪で純粋な期待が真白の表情には透けて見えた。
普通なら、否定するところだ。
だが、潤んだ瞳に見つめられ、俺の口から出たのは別の言葉だった。
「……少しだけ、な」
言ってしまった、と思った。
真白の瞳が、目に見えて輝きを増す。
「俺も寂しかったです」と、彼は弾むような声で返した。
「お前は、ルールを守って大人しくしていただろ」
「守ってました。でも、ずっと寂しかったです。
一秒だって、先輩に会いたくないと思ったことはありません」
会いたかった。それは、俺も同じだった。
単に静かになった日常を「正しい」と思い込もうとしていただけで、
心のどこかでずっと、この落ち着かない視線を求めていたのかもしれない。
「真白」
「はい」
「ルールを一つ、追加する。……これからは、俺からも連絡する。お前に会いたいときは」
真白が、石のように固まった。
「先輩から、連絡して……くれるんですか?」
「ああ。そう言ってる」
信じられないものを見るような沈黙の後、真白の大きな瞳に、じわりと涙が溜まっていく。
「泣くなよ。学食前だぞ」
「泣いてません。……嬉しい、です」
慌てて両手で顔を覆っているが、指の隙間から見える耳が真っ赤に染まっている。
後をついてくる真白の足取りは、どこかふわふわとしていて心もとない。
「先輩」
「何だ」
「これからも、俺のことを見ててくれますか?」
少しだけ考えた。
「見る」ということ。
それはこれまでの監視でも、ただの観察でもない。
一人の男として、真白の存在を肯定するということだ。
「……見てるよ」
「はいっ」
「だからお前も、変な見方をするのはやめろ。普通に見ろ」
「はい! 普通に、先輩のことだけ見てます!」
真白が眩しいくらいに笑った。
その屈託のない笑顔を正面から受け止めて、
ようやく自分の中の何かが腑に落ちた気がした。
ああ。俺、もうこいつのこと、手放したくないんだ。
けれど、それだけだったか。
俺のすべてを、誰よりも取りこぼさず見つめていた存在。
「やめろ」と言ったら、やめた。
ルールを守って今はこうして許可された範囲で、控えめに視線を送ってくる。
正しい。
これが正しいはずなのに、喉の奥に何かがつかえているような感覚が消えない。
「……先輩?」
「なんでもない。……早く食え」
俺は逃げるようにカレーを口に流し込んだ。
スパイスの香りはしているはずなのに、なぜか味が、よく分からなかった。
食べ終わって学食を出ようとしたら、入り口で柊とすれ違った。
「あ、日向先輩。レンと一緒ですか」
いちごミルクを持ったまま、真白を見て「楽しそうじゃん」と言った。
真白が「うん」と素直に頷く。
柊の視線がこっちに戻ってきた。どこか面白がっている。
「先輩、最近レンのこと気にしてますよねー」
「……別に」
「へぇ、そっすか」
柊がストローを咥えて、さらっと言った。
「先輩、寂しかったんじゃないですか。レンが来なくなって」
答えられなかった。
柊は何も言わずに笑って、
「じゃ、俺は飯食ってきます」と学食の中に消えていった。
残されたのは日向と真白だけだった。
「……何」
「寂しかったですか?」
柊と同じ質問。だが、真白の問いに含まれる意味はそれとは正反対だ。
寂しかったなら嬉しい。
先輩の日常に、自分の不在が穴を開けていたのならこれ以上の幸せはない。
……そんな、歪で純粋な期待が真白の表情には透けて見えた。
普通なら、否定するところだ。
だが、潤んだ瞳に見つめられ、俺の口から出たのは別の言葉だった。
「……少しだけ、な」
言ってしまった、と思った。
真白の瞳が、目に見えて輝きを増す。
「俺も寂しかったです」と、彼は弾むような声で返した。
「お前は、ルールを守って大人しくしていただろ」
「守ってました。でも、ずっと寂しかったです。
一秒だって、先輩に会いたくないと思ったことはありません」
会いたかった。それは、俺も同じだった。
単に静かになった日常を「正しい」と思い込もうとしていただけで、
心のどこかでずっと、この落ち着かない視線を求めていたのかもしれない。
「真白」
「はい」
「ルールを一つ、追加する。……これからは、俺からも連絡する。お前に会いたいときは」
真白が、石のように固まった。
「先輩から、連絡して……くれるんですか?」
「ああ。そう言ってる」
信じられないものを見るような沈黙の後、真白の大きな瞳に、じわりと涙が溜まっていく。
「泣くなよ。学食前だぞ」
「泣いてません。……嬉しい、です」
慌てて両手で顔を覆っているが、指の隙間から見える耳が真っ赤に染まっている。
後をついてくる真白の足取りは、どこかふわふわとしていて心もとない。
「先輩」
「何だ」
「これからも、俺のことを見ててくれますか?」
少しだけ考えた。
「見る」ということ。
それはこれまでの監視でも、ただの観察でもない。
一人の男として、真白の存在を肯定するということだ。
「……見てるよ」
「はいっ」
「だからお前も、変な見方をするのはやめろ。普通に見ろ」
「はい! 普通に、先輩のことだけ見てます!」
真白が眩しいくらいに笑った。
その屈託のない笑顔を正面から受け止めて、
ようやく自分の中の何かが腑に落ちた気がした。
ああ。俺、もうこいつのこと、手放したくないんだ。
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