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第1章

2 布団

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 眩しい。
 そろそろ起きる時間だろうか。

「まぁ、仕事も何もやってないから、このまま寝ていてもいいんだけど」

 独り言を呟きながら目を覚ました俺は、体を起こした瞬間、唖然とした。
 
「あれ……、外……?」

 目を疑うとはまさにこのことなんだろうか。
 アパートの狭い一室で眠りについていたはずの俺は、気がつくと野外で寝ていたのだ。

「うわっ……、俺の寝相、悪すぎ……? なんてなぁ、それはないよな」

 ご丁寧に布団は敷いてあるし、足元には部屋で履いていたスリッパもある。
 服装は寝る前のジャージ姿だ。
 ただ、フローリングだったはずの床は、草の生い茂る地面になっている。
 壁は当然消え、まばらな樹木が見える。
 そして見知った天井は無く、空には太陽と雲が仲良く浮かんでいる。

「俺が芸人とかだったらドッキリ番組だと断定するんだけど、そういうのと縁のない一般人だし……」

 そもそもここは日本なんだろうか。
 どことなく木々や茂みが見慣れない植物ばかりのように感じる。
 気のせいだよな。
 遠くからよくわからない生物の鳴き声のようなものも聞こえるけど。
 ……なんか段々怖くなってきた。
 これってもしかして。
 いやいや、まさか、そんななぁ。

「でもどうしたもんか。ここから移動するにしても、敷いてある布団はどうすんだよ」

 呟きながら、布団に手をやる。
 その時、頭に思いついた言葉があった。

「収納! ……なんてな」

 冗談交じりに呟いた瞬間。
 目の前の布団が唐突に消えた。

「え、えええええええええええっ!?」

 俺は尻もちをついてしまう。
 目の錯覚でなければ、俺の体温でほんのりぬくかった布団が、視界から跡形もなく消え去ったように見える。
 きょろきょろとあたりを見回すが、愛着のある白い物体は影も形も見えない。
 どこへいったのかと愕然としている俺の頭に浮かんだ言葉があった。

「……放出」

 その瞬間、目の前の空間に再び白い布団が現れたのだ。
 俺は恐る恐る手を伸ばすと、柔らかい感触が指先に伝わる。
 目の錯覚とかそんなちゃちなもんじゃない。
 俺はモアイ像のように完全に固まった。
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