バーンアウト・ウイッチ

波丘

文字の大きさ
4 / 54

とある魔女のはなし④

しおりを挟む
 帰り際にミズタは、「これからの旅に必要になるだろうから」と、何やら巾着袋をテーブルの上に置いていった。
 巾着袋を持ってみると、ずっしりと重く、中を見ると紙幣や硬貨が詰まっていた。
 この旅に必要だと思って、ミズタがノーマルの間で流通しているお金を掻き集めてくれたのだ。コミュニティ内にいる、ノーマルの人に頼んで譲ってもらっただけではここまで集まらないはずだ。きっと、闇市場で入手したものもある事だろう。
 その苦労を考えると、ミズタへの感謝が溢れて思わず泣きそうになる。
 ヒイラギは思いを受け止める様に、しばらくその巾着袋を大事そうに胸に抱きしめていた。

 その後、ヒイラギはジジと一緒にシャワーを浴びて部屋に戻って来ると、そのままベットにぱたんと後ろ向きで倒れ込む。
(この、思い出深い我が家で寝るのも今日で最後か)
 そうして感傷に浸っているのも、つかの間、直ぐにウトウトし始めていつしかヒイラギは眠りに落ちていた。

 ~
 めらめらと燃えさかる炎。
 周囲の建屋に、次々と火が移っていく。
 そして、周りの喧騒。
 ダーンッ
 目の前で銃弾が母親の胸を貫いた。
 いくら凄腕の魔女でも、さすがに急所を撃ち抜かれたら治癒魔法をかける暇もなく一瞬で絶命した事だろう。
 あれほど、生命力に満ち溢れていた母親が嘘みたい。
 ダーンッ 
 立て続けに銃声が聞こえる
 そして、いつしかわたしも致命傷を負っていた。 
 ドサッ
 地面に崩れ落ち、目の前が一瞬で真っ暗になる。
 生にしがみつくように、必死で腹這いに這って何とか建屋の中に隠れようともがく。
 気が付くと、目の前に茶色い皮靴が見えた。
 誰かが目の前に立っているようだ。
 「遅かったか・・・彼女はもう」
 「超越者になれる才能を持っていたのに・・・道を誤ってしまったばかりに」
 何やら目の前に立っている男は、ぶつぶつと呟いている。
 痛む体で、ゆっくりと頭を上に向ける。
 そこには、立派なサンタクロースの様な白い髭を蓄えた老人がいた。
 わたしの事を気の毒そうな表情で見下ろしている。
 そっとしゃがんで、地面を這っているわたしの顔に、その立派な髭を蓄えた顔を近づけてくる。
 「娘か、まだこんな小さな子が可哀想に」
 老人は眉をひそめて、悲しげな表情をしている。
 「お嬢ちゃん、生きたいかい?」
 唐突な質問。
 生きたいかって、そりゃ当然だろう。
 「かはっ、いきたい」
 なけなしの気力を振りしぼって答える。
 老人は、その様子を見てコクリとうなずく。
 地面に這っているわたしの体を両腕で掴むと、ゴロンとあお向けにひっくり返す。
 「げほっ」
 あお向けひっくり返された衝撃で、体に激痛が走り思わずむせてしまう。
 老人に右腕を頭の後ろに入れられて支えられると、ゆっくりと上半身を起こされる。
 自分の体が目に入る、腹部に銃弾を受けたのか、どくどくとお腹から赤い血が流れるのが止まらない。
 「少しキツイかもしれんが、我慢しな」
 老人は空いている左手を、自分の心臓に当てると赤くまばゆいばかりの光を放ち始めた。
 そして、その赤く輝く左手をわたしの心臓辺りに当てる。 
 瞬間、感じていた痛みが、感覚が全てが吹き飛んだ。
 否、時間差で全身が発火したような、さらに激しく荒々しい痛みが全身を襲って来た。
 ガタッ、ガタッ
 あまりの痛さに全身が激しく痙攣する。
 次第に、その燃え上がるような感覚は遠ざかる。
 そして気が付いた。
 わたしの中に何か、が入っている事に。
 ~

 「ぜえっ、はぁっ」
 ヒイラギは、体には汗をびっしょりとかき、呼吸が乱れた状態で目が覚めた。
(また、あの夢をみたのか)
 彼女にとってはあれは、遠い昔のトラウマとも言える忌まわしき記憶だった。あの夜から、この少女の人生がまさに一変したのだ。
 枕元のすぐ傍で、黒々とした体を丸めてすやすやと寝ているジジを起こさぬ様に、静かにベットを出る。
 そして、キッチンに行くと、コップに水をなみなみと注ぎ、それを一気に飲み干した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...