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とある殺し屋のはなし➁
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「おいっ、タダじゃ返さねぇぞテメェ。俺らの島を荒らしやがって」
スキンヘッドの巨漢の男は息巻いて腰の刀剣を抜くと、フェンスの外にいる男に近づく。
「ハッ、ノーマルが何ほざいてるんだか」
パンクファッションの男がぱちんと指を鳴らすと、途端に前方のスキンヘッドの男を包み込むように大きな火柱が上がる。
「あーーーーーっ」
炎に包まれたスキンヘッドの男は、絶叫しながら膝から崩れ落ちると、直ぐに動かなくなった。周囲には、肉が焦げたようなイヤな匂いが漂う。
「紅蓮、お前はここまでだ」
リーダーである短髪の男が銃を構える。
「おっ、名前が知られているとは俺も有名になったもんだね」
紅蓮と呼ばれた男は、銃を向けられているにも関わらず、余裕そうな表情で右手をひらひらとさせて答える。
パンっ
短髪の男は躊躇なく銃の引き金を引く。放たれた銃弾は、紅蓮の顔面を目がけて飛んで来る。
しかし、紅蓮は素早く反応してそれを躱した。魔法で身体能力を強化してるのだろう、人間業とは思えない驚異的な反射神経だった。
「へへっ、そう簡単には・・・!?」
突然、耳の奥がキーンとして、平衡感覚が失われたように思わずよろけてしまう。今まで余裕そうだった紅蓮の表情が、思わずこわばる。
魔法使いにとっては、身体の感覚と言うのは生命線だ。大気中のマナを使い魔法発動させ、コントロールするのには、並外れた集中力と精密な身体機能の両方が必須である。
(この分だと炎は出せるだろうが、細かいコントロールが出来ねぇ)
紅蓮は瞬時に不利な状況を悟ったのか、後ろを振り返ると深い森に逃げ込む。
「よしっ、効いてる。逃がすな追え」
リーダーの一声で、十数人の屈強な男達は一斉に後を追いかける。
紅蓮は多少ふらついてはいるものの、その俊敏な動きは山猿のようで、自由自在に木々の間を駆け抜ける。
しかし、万全の状態ならノーマルが束になって掛かってきた所で一網打尽に出来る自信があったが、この突然の危機的状況に頭の中では思考が渦巻いていた。
(なぜだ、どうして急に。いや、今はこの状況をどう切り抜けるかだ)
たびたび後ろを振り返って状況を確認するが、黒い軍服の男達は日頃の訓練の賜物か、隊列を崩さずに早いスピードで追いかけて来る。
(引き離せない。どこかで戦闘になるのは避けられそうにねぇな)
「そうだ」
なにか閃いたのか、紅蓮は舌なめずりをすると、さらに樹海の奥深くを目指した。
セイラムの一行は、一心不乱に目の前の凶悪な魔法使いを追っていた。
「まだ例の銃弾はある、追い込んで俺達で殺るぞ」
この拠点のリーダーでもある短髪の男は、あの紅蓮に兄弟のように仲の良かった同胞を殺されていた。組織に同期として入隊して、互いに切磋琢磨し合った関係で、親友であり戦友でもあった。
その同胞のいた拠点は紅蓮に襲撃され、その場にいた隊員は、ほぼ全員が惨たらしく焼き殺されたと聞いた。
(待ってろよ。今、仇を取ってやるからな)
いつしか、紅蓮を追いかけて森の奥深くまで来てしまい、草木がびっしりと密集して壁のように周囲に生い茂っていた。
男達は、草木を掻き分けて、やっとの事で奥に進んで行く。
ガサッ、ガサッ
「やつの動きがこの地点で止まった。囲むぞ」
リーダーの男の合図で、隊員達は互いに連携できる位置を保ちながら散開して、徐々に包囲網を狭めていく。
「やあっ、お前らよく来たな」
紅蓮は一際大きな木の上に腰掛け、両手を広げ、まるで歓迎でもしているかの様なポーズを取っている。その姿を、赤い満月の光が妖しく照らし出していた。
「いたぞ、一斉にかかれ」
観念して出てきたのか、やけにあっさりと見つかった敵を前に、リーダーからの号令で男達は一斉に銃や刀剣を抜いて迫る。
「来たなっ、ここならコントロールできなくても関係ねぇよ」
紅蓮は、迫ってくる男達に向かって一気に魔力を放出する。
ドンッ
ドンッ
大きな火柱が炸裂して、密集している木々や葉っぱにあっという間に燃え広がり、辺り一面火の海になった。
今日は蝕の夜だ。いつもより大気中にマナが充満しているので、魔法使いは能力以上の力を発揮できる。
「ここならピンポイントに人間に当てる必要はねぇ、勝手に燃え広がるからな」
紅蓮は愉快そうに笑いながら、慌てふためくノーマル達を大木の上から見下ろす。
「おい、お前ら大丈夫か」
リーダーの男が必死で声を張り上げて叫ぶ。
しかし、周囲からの返答は無く、辺り一面どこを見ても炎に包まれていて、まるでこの世の地獄のようだった。
リーダーの男も、煙を大量に吸ってしまい激しく咳き込む。体内の酸素が足りずに、手足の先から痺れが襲って来る。そして、次第に意識が遠のいていった。
「ケッケッケッ、俺はここでお前らが焼け死ぬまで高みの見物でもしてるさ」
炎がどんどん大きくなって燃え上がるさまを見るのが、紅蓮は大好きだった。
自分の過去も全てキレイに消し去ってくれるようで、火を見ている間は孤独を忘れる事が出来た。
物心ついたガキの頃に、家族は全員ノーマル共に殺された。別になにかこちらから害を加えたわけではない、魔法使いのコミュニティの中で平和に暮らしていたのに、一方的に襲撃され殺戮されたのだ。
その時に俺は、この世に神なんていないし、理なんて無いと悟った。世の中は、自分が殺られる前に殺るしかない弱肉強食の世界なんだ。
一人生き延びた俺は、そこからホームレスのようにその日、その日を生き延びるために必死だった。
「んっ、そろそろか」
紅蓮は、登っていた木が燃えて倒れそうになる前に地面に飛び移り。そのまま炎の海の中を散歩した。
途中で、あの反魔法使い組織の奴らの焼死体がいくつも転がっていた。それを見ても何の感情も無かった。ただ、俺らより弱いノーマルと言う存在がこの世からいなくなっだけだ。
しばらく燃えさかる木々の中を歩き続け、数時間経っただろうか、紅蓮はようやく樹海を抜ける事ができた。赤と白の斑な頭髮が、すすで黒く汚れていた。
空を見上げると、いつの間にかもう夜は明けていて、あの赤い満月も隠れてしまっていた。
そのまま、何となくその日常的な光景をただぼうっと眺める。
夜明けの紺色の地平線に、太陽が徐々に顔を表してオレンジ色に染まっていく様子を見ていると、なぜか感動してしまった。俺は、今日も生き延びたんだなと実感した。
その光景に見惚れながら、森から離れて数歩歩く。
ダーンっ
どこからか銃声のような音が聞こえる。
「あっ?」
紅蓮は一瞬何が起きたのか分からずに、自分の体を見ると、白い服の胸のあたりからどくどくと血が溢れ出ていた。
ダーンッ
そして2発目の銃声。
今度は頭を貫かれて、そのまま地面に仰向けに倒れる。
「おいっ・・・何だよ」
ザッ、ザッ、ザッ
地面に倒れている紅蓮に、何者かが近づいてくる足音がして、すぐ横で止まった。
「卑怯だよ・・・おまえらは」
血だらけの体で瀕死の紅蓮は気力を振り絞って顔を上げると、そこに立っていた黒いスーツの男に非難がましくつぶやく。
男の傍には、狙撃用の銃身が長いライフルが置かれているのが見えた。
黒いスーツの男は腰の刀剣を抜くと、一切躊躇せずに、地面に転がる男の心臓を目がけて突き立てた。大きくビクンと痙攣した後、目を大きく見開いたまま紅蓮は絶命した。
「お前らみたいな化け物を相手に、卑怯もあるか」
黒いスーツの男は吐き捨てる様につぶやく。そして、刀剣を抜き取ると、返り血をハンカチで拭い鞘に収める。
そのまま、地面に転がる死体を前にしてスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかける。
「始末しましたよ」
電話口からは貫禄のある男性の声が聞こえてくる。
「そうか、さすが魔女狩りのユダだ」
スキンヘッドの巨漢の男は息巻いて腰の刀剣を抜くと、フェンスの外にいる男に近づく。
「ハッ、ノーマルが何ほざいてるんだか」
パンクファッションの男がぱちんと指を鳴らすと、途端に前方のスキンヘッドの男を包み込むように大きな火柱が上がる。
「あーーーーーっ」
炎に包まれたスキンヘッドの男は、絶叫しながら膝から崩れ落ちると、直ぐに動かなくなった。周囲には、肉が焦げたようなイヤな匂いが漂う。
「紅蓮、お前はここまでだ」
リーダーである短髪の男が銃を構える。
「おっ、名前が知られているとは俺も有名になったもんだね」
紅蓮と呼ばれた男は、銃を向けられているにも関わらず、余裕そうな表情で右手をひらひらとさせて答える。
パンっ
短髪の男は躊躇なく銃の引き金を引く。放たれた銃弾は、紅蓮の顔面を目がけて飛んで来る。
しかし、紅蓮は素早く反応してそれを躱した。魔法で身体能力を強化してるのだろう、人間業とは思えない驚異的な反射神経だった。
「へへっ、そう簡単には・・・!?」
突然、耳の奥がキーンとして、平衡感覚が失われたように思わずよろけてしまう。今まで余裕そうだった紅蓮の表情が、思わずこわばる。
魔法使いにとっては、身体の感覚と言うのは生命線だ。大気中のマナを使い魔法発動させ、コントロールするのには、並外れた集中力と精密な身体機能の両方が必須である。
(この分だと炎は出せるだろうが、細かいコントロールが出来ねぇ)
紅蓮は瞬時に不利な状況を悟ったのか、後ろを振り返ると深い森に逃げ込む。
「よしっ、効いてる。逃がすな追え」
リーダーの一声で、十数人の屈強な男達は一斉に後を追いかける。
紅蓮は多少ふらついてはいるものの、その俊敏な動きは山猿のようで、自由自在に木々の間を駆け抜ける。
しかし、万全の状態ならノーマルが束になって掛かってきた所で一網打尽に出来る自信があったが、この突然の危機的状況に頭の中では思考が渦巻いていた。
(なぜだ、どうして急に。いや、今はこの状況をどう切り抜けるかだ)
たびたび後ろを振り返って状況を確認するが、黒い軍服の男達は日頃の訓練の賜物か、隊列を崩さずに早いスピードで追いかけて来る。
(引き離せない。どこかで戦闘になるのは避けられそうにねぇな)
「そうだ」
なにか閃いたのか、紅蓮は舌なめずりをすると、さらに樹海の奥深くを目指した。
セイラムの一行は、一心不乱に目の前の凶悪な魔法使いを追っていた。
「まだ例の銃弾はある、追い込んで俺達で殺るぞ」
この拠点のリーダーでもある短髪の男は、あの紅蓮に兄弟のように仲の良かった同胞を殺されていた。組織に同期として入隊して、互いに切磋琢磨し合った関係で、親友であり戦友でもあった。
その同胞のいた拠点は紅蓮に襲撃され、その場にいた隊員は、ほぼ全員が惨たらしく焼き殺されたと聞いた。
(待ってろよ。今、仇を取ってやるからな)
いつしか、紅蓮を追いかけて森の奥深くまで来てしまい、草木がびっしりと密集して壁のように周囲に生い茂っていた。
男達は、草木を掻き分けて、やっとの事で奥に進んで行く。
ガサッ、ガサッ
「やつの動きがこの地点で止まった。囲むぞ」
リーダーの男の合図で、隊員達は互いに連携できる位置を保ちながら散開して、徐々に包囲網を狭めていく。
「やあっ、お前らよく来たな」
紅蓮は一際大きな木の上に腰掛け、両手を広げ、まるで歓迎でもしているかの様なポーズを取っている。その姿を、赤い満月の光が妖しく照らし出していた。
「いたぞ、一斉にかかれ」
観念して出てきたのか、やけにあっさりと見つかった敵を前に、リーダーからの号令で男達は一斉に銃や刀剣を抜いて迫る。
「来たなっ、ここならコントロールできなくても関係ねぇよ」
紅蓮は、迫ってくる男達に向かって一気に魔力を放出する。
ドンッ
ドンッ
大きな火柱が炸裂して、密集している木々や葉っぱにあっという間に燃え広がり、辺り一面火の海になった。
今日は蝕の夜だ。いつもより大気中にマナが充満しているので、魔法使いは能力以上の力を発揮できる。
「ここならピンポイントに人間に当てる必要はねぇ、勝手に燃え広がるからな」
紅蓮は愉快そうに笑いながら、慌てふためくノーマル達を大木の上から見下ろす。
「おい、お前ら大丈夫か」
リーダーの男が必死で声を張り上げて叫ぶ。
しかし、周囲からの返答は無く、辺り一面どこを見ても炎に包まれていて、まるでこの世の地獄のようだった。
リーダーの男も、煙を大量に吸ってしまい激しく咳き込む。体内の酸素が足りずに、手足の先から痺れが襲って来る。そして、次第に意識が遠のいていった。
「ケッケッケッ、俺はここでお前らが焼け死ぬまで高みの見物でもしてるさ」
炎がどんどん大きくなって燃え上がるさまを見るのが、紅蓮は大好きだった。
自分の過去も全てキレイに消し去ってくれるようで、火を見ている間は孤独を忘れる事が出来た。
物心ついたガキの頃に、家族は全員ノーマル共に殺された。別になにかこちらから害を加えたわけではない、魔法使いのコミュニティの中で平和に暮らしていたのに、一方的に襲撃され殺戮されたのだ。
その時に俺は、この世に神なんていないし、理なんて無いと悟った。世の中は、自分が殺られる前に殺るしかない弱肉強食の世界なんだ。
一人生き延びた俺は、そこからホームレスのようにその日、その日を生き延びるために必死だった。
「んっ、そろそろか」
紅蓮は、登っていた木が燃えて倒れそうになる前に地面に飛び移り。そのまま炎の海の中を散歩した。
途中で、あの反魔法使い組織の奴らの焼死体がいくつも転がっていた。それを見ても何の感情も無かった。ただ、俺らより弱いノーマルと言う存在がこの世からいなくなっだけだ。
しばらく燃えさかる木々の中を歩き続け、数時間経っただろうか、紅蓮はようやく樹海を抜ける事ができた。赤と白の斑な頭髮が、すすで黒く汚れていた。
空を見上げると、いつの間にかもう夜は明けていて、あの赤い満月も隠れてしまっていた。
そのまま、何となくその日常的な光景をただぼうっと眺める。
夜明けの紺色の地平線に、太陽が徐々に顔を表してオレンジ色に染まっていく様子を見ていると、なぜか感動してしまった。俺は、今日も生き延びたんだなと実感した。
その光景に見惚れながら、森から離れて数歩歩く。
ダーンっ
どこからか銃声のような音が聞こえる。
「あっ?」
紅蓮は一瞬何が起きたのか分からずに、自分の体を見ると、白い服の胸のあたりからどくどくと血が溢れ出ていた。
ダーンッ
そして2発目の銃声。
今度は頭を貫かれて、そのまま地面に仰向けに倒れる。
「おいっ・・・何だよ」
ザッ、ザッ、ザッ
地面に倒れている紅蓮に、何者かが近づいてくる足音がして、すぐ横で止まった。
「卑怯だよ・・・おまえらは」
血だらけの体で瀕死の紅蓮は気力を振り絞って顔を上げると、そこに立っていた黒いスーツの男に非難がましくつぶやく。
男の傍には、狙撃用の銃身が長いライフルが置かれているのが見えた。
黒いスーツの男は腰の刀剣を抜くと、一切躊躇せずに、地面に転がる男の心臓を目がけて突き立てた。大きくビクンと痙攣した後、目を大きく見開いたまま紅蓮は絶命した。
「お前らみたいな化け物を相手に、卑怯もあるか」
黒いスーツの男は吐き捨てる様につぶやく。そして、刀剣を抜き取ると、返り血をハンカチで拭い鞘に収める。
そのまま、地面に転がる死体を前にしてスマートフォンを取り出し、どこかに電話をかける。
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