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そして歯車はまわる➁
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そんな事がありながらも、あちこち歩き回り夕方近くになって、ようやく本日泊まる宿屋を見つける事が出来た。
外部から来た人は、西トウキョウに泊まらない為か、なかなか宿屋を見つけるのに骨が折れた。
さっそく、受付のお爺さんにお金を払って部屋に入る。
宿屋のボロボロの外観から想像はしていたが、泊まる部屋もやはり粗末なものだった。
狭い部屋に固くて狭いベッド、シャワーやトイレも一応は付いていたもののお世辞にも綺麗とは言えなかった。
「ジジ、もう出てきていいよ」
「うわっ」
ベッドの上でバックパックを開けると、小さなカラスが勢い良く飛び出して来て、バサバサと部屋の中を飛び回る。
「カアッ、カアッ、カアッ」
「ごめんね」
不満気に鳴くジジを見てヒイラギは謝る。
色々寄り道をして、その間ずっと時ジジはバックパックの中に閉じ込められていたのだ、怒るのも無理はないだろう。
それでも、まだ怒りが収まらないのかジジはヒイラギの肩に止まるとコツン、コツンとクチバシで特徴的なくるくるとした茶色い頭髪をつつき出す。
「ひいーっ、ジジがいじめる」
ヒイラギが顔を伏せて泣き真似をして見せると、ジジは突っつくのを辞めて心配そうにつぶらな瞳で見つめてきた。
「さあっ、ご飯にしようか」
ジジの怒りが収まったのを見て、ヒイラギはバックパックの中から、道中買ってきたパンとミルクのパックを取り出す。
ジジ用にも、プラスチック製の小皿にパンとミルクをそれぞれ用意して一緒に食事をする。
ふと、着ている赤いブルゾンのポケットの中からブルブルと振動を感じた。
「んっ、なんだ」
ヒイラギはポケットからスマートフォンを取り出して画面を見ると、何やらメールが届いているようだ。
と言っても、このスマートフォンにメールを送ってくるのは一人しか考えられない。
思った通り、メールを見るとハクと言う人物からだった。明日会う予定の共生派の男性である。
「なになに」
メールを読んで見ると、明日の待ち合わせ場所を変更してほしいとの連絡であった。
向こうが指定して来たのは、西トウキョウにある、この宿屋に来る前に通りかかったコーヒーショップで、待ち合わせ時間はそのまま13時でお願いしたいとの事だ。
場所も分かっているので、ヒイラギに取ってこの待ちあわせ場所の変更はむしろ都合が良かった。
少女は直ぐさま、「はい、大丈夫です。明日はよろしくお願いします」と、メールを返信した。
ヒイラギは夕飯を食べ終えると、ジジと一緒にシャワーを浴びた。日中動き回って、汗でベトベトになった体を洗い流すとだいぶ気分が良くなった。
そして、シャワーから出ると、先ほど買ってきたばかりのマンガ本を取り出す。少女は、うきうきとした様子でベッドに寝転がりながらマンガを読み始めた。
「はーっ、面白かった」
ヒイラギはベットに寝転がったまま、マンガ本を胸に抱えて満足気な表情をしている。
1ページずつ丁寧に読み進めて行ったので、全て読み終わる頃には夜も更けていた。
少女の横では、ジジがすでにベッドの端で黒い羽毛を丸めて寝息をたてている。
ヒイラギもベットの横にあるライトを消して眠ろうとしたが、普段から寝付きの良い彼女にしては珍しくなかなか眠りは訪れて来なかった。
明日の午後には、自分のこれからの人生を大きく変えるかもしれない人間に会うのだ、かすかに胸の中で不安が渦巻いていた。
毛布を頭から被って、そのまま何時間ベットの中でもんもんとしていたのだろうか、いつしか少女は眠りに落ちていた。
翌朝は、ヒイラギにしては遅めの11時頃に目が覚めた。
なかなか寝付けなかったのもあったが、かなりボロいとは言え久々に部屋の中でベッドで寝た事もあり、思わず寝過してしまったのだ。
ジジはすでに目覚めていて、窓縁にちょこんと乗って興味深そうに外の道行く人を眺めていた。
昨日残したパンで遅めの朝食を取ると、バックパックから丁寧に折りたたまれた衣服を取り出して着替え始める。
ヒイラギは、今日はお気に入りの赤いブルゾンではなくシンプルな黒のワンピースに着替えた。長い茶色い髪も白いシュシュで後ろで縛っているので、その姿はいつもより大人びて見える。
今日は大事な人と会うので、ヒイラギなりに最大限相手に敬意を払った服装がこれであった。
お昼過ぎまで、まったりと過ごして宿から出た。またジジをバックパックに入れる事になり、嫌がってだいぶ暴れられたが終いには観念したのか、今は大人しく中に入っている。
(やばい・・・緊張して来たかも)
ヒイラギは宿屋を出たところまでは何ともなかったのだが、待ちあわせ場所のコーヒーショップに近付くとお腹が痛くなってきた。
重い足取りで、目的地である「Forest」と言う名前のコーヒーショップの前に到着した。
大通りなので人通りが多く無事に出会えるのかと心配していると、目の前に黒いスーツを着た青年が立っていた。右手には茶色いトランクケースを持っている。
この地域はボロボロの服を着た人達が多い中、一人だけおろしたての様な綺麗な黒いスーツを着ていたのでかなり浮いていた。
(この人だ・・・)
昨日メールでも当日は黒いスーツを着ていくと言っていたので、ヒイラギは直ぐにこの青年が待ちあわせている人物だと気が付いた。
だが、緊張でなかなか自分から声を掛ける事が出来ない。
じっと無言で黒いスーツの青年を見ていると、向こうもヒイラギの視線に気付いたのかこちらに会釈して来た。話しかけるならこのタイミングしかないと思い、少女は勇気を振り絞って手を挙げる。
「もしかして」
「あの・・・」
青年と少女はほぼ同時に声をかけた。
お互いに遠慮して黙りこんでしまうが、青年は続きの言葉を口にする。
「ヒイラギさんでしょうか」
「はっ、はき。そうです」
少女は、緊張のあまり噛んでしまう。
青年は、一瞬驚いた様な表情を見せた気がするが、直ぐにニッコリと穏やかな笑みを取り戻す。
「お会い出来て良かった、ハクです。中で美味しいコーヒーでも飲みながらゆっくり話しましょう」
青年にエスコートされてヒイラギはコーヒーショップの中に入る。
男は、写真で見た時は物静かなどちらかと言うと固そうな雰囲気の人物と言う印象を受けたのだが、こうして実際に会ってみると社交的で柔らかい物腰で好感が持てた。
外部から来た人は、西トウキョウに泊まらない為か、なかなか宿屋を見つけるのに骨が折れた。
さっそく、受付のお爺さんにお金を払って部屋に入る。
宿屋のボロボロの外観から想像はしていたが、泊まる部屋もやはり粗末なものだった。
狭い部屋に固くて狭いベッド、シャワーやトイレも一応は付いていたもののお世辞にも綺麗とは言えなかった。
「ジジ、もう出てきていいよ」
「うわっ」
ベッドの上でバックパックを開けると、小さなカラスが勢い良く飛び出して来て、バサバサと部屋の中を飛び回る。
「カアッ、カアッ、カアッ」
「ごめんね」
不満気に鳴くジジを見てヒイラギは謝る。
色々寄り道をして、その間ずっと時ジジはバックパックの中に閉じ込められていたのだ、怒るのも無理はないだろう。
それでも、まだ怒りが収まらないのかジジはヒイラギの肩に止まるとコツン、コツンとクチバシで特徴的なくるくるとした茶色い頭髪をつつき出す。
「ひいーっ、ジジがいじめる」
ヒイラギが顔を伏せて泣き真似をして見せると、ジジは突っつくのを辞めて心配そうにつぶらな瞳で見つめてきた。
「さあっ、ご飯にしようか」
ジジの怒りが収まったのを見て、ヒイラギはバックパックの中から、道中買ってきたパンとミルクのパックを取り出す。
ジジ用にも、プラスチック製の小皿にパンとミルクをそれぞれ用意して一緒に食事をする。
ふと、着ている赤いブルゾンのポケットの中からブルブルと振動を感じた。
「んっ、なんだ」
ヒイラギはポケットからスマートフォンを取り出して画面を見ると、何やらメールが届いているようだ。
と言っても、このスマートフォンにメールを送ってくるのは一人しか考えられない。
思った通り、メールを見るとハクと言う人物からだった。明日会う予定の共生派の男性である。
「なになに」
メールを読んで見ると、明日の待ち合わせ場所を変更してほしいとの連絡であった。
向こうが指定して来たのは、西トウキョウにある、この宿屋に来る前に通りかかったコーヒーショップで、待ち合わせ時間はそのまま13時でお願いしたいとの事だ。
場所も分かっているので、ヒイラギに取ってこの待ちあわせ場所の変更はむしろ都合が良かった。
少女は直ぐさま、「はい、大丈夫です。明日はよろしくお願いします」と、メールを返信した。
ヒイラギは夕飯を食べ終えると、ジジと一緒にシャワーを浴びた。日中動き回って、汗でベトベトになった体を洗い流すとだいぶ気分が良くなった。
そして、シャワーから出ると、先ほど買ってきたばかりのマンガ本を取り出す。少女は、うきうきとした様子でベッドに寝転がりながらマンガを読み始めた。
「はーっ、面白かった」
ヒイラギはベットに寝転がったまま、マンガ本を胸に抱えて満足気な表情をしている。
1ページずつ丁寧に読み進めて行ったので、全て読み終わる頃には夜も更けていた。
少女の横では、ジジがすでにベッドの端で黒い羽毛を丸めて寝息をたてている。
ヒイラギもベットの横にあるライトを消して眠ろうとしたが、普段から寝付きの良い彼女にしては珍しくなかなか眠りは訪れて来なかった。
明日の午後には、自分のこれからの人生を大きく変えるかもしれない人間に会うのだ、かすかに胸の中で不安が渦巻いていた。
毛布を頭から被って、そのまま何時間ベットの中でもんもんとしていたのだろうか、いつしか少女は眠りに落ちていた。
翌朝は、ヒイラギにしては遅めの11時頃に目が覚めた。
なかなか寝付けなかったのもあったが、かなりボロいとは言え久々に部屋の中でベッドで寝た事もあり、思わず寝過してしまったのだ。
ジジはすでに目覚めていて、窓縁にちょこんと乗って興味深そうに外の道行く人を眺めていた。
昨日残したパンで遅めの朝食を取ると、バックパックから丁寧に折りたたまれた衣服を取り出して着替え始める。
ヒイラギは、今日はお気に入りの赤いブルゾンではなくシンプルな黒のワンピースに着替えた。長い茶色い髪も白いシュシュで後ろで縛っているので、その姿はいつもより大人びて見える。
今日は大事な人と会うので、ヒイラギなりに最大限相手に敬意を払った服装がこれであった。
お昼過ぎまで、まったりと過ごして宿から出た。またジジをバックパックに入れる事になり、嫌がってだいぶ暴れられたが終いには観念したのか、今は大人しく中に入っている。
(やばい・・・緊張して来たかも)
ヒイラギは宿屋を出たところまでは何ともなかったのだが、待ちあわせ場所のコーヒーショップに近付くとお腹が痛くなってきた。
重い足取りで、目的地である「Forest」と言う名前のコーヒーショップの前に到着した。
大通りなので人通りが多く無事に出会えるのかと心配していると、目の前に黒いスーツを着た青年が立っていた。右手には茶色いトランクケースを持っている。
この地域はボロボロの服を着た人達が多い中、一人だけおろしたての様な綺麗な黒いスーツを着ていたのでかなり浮いていた。
(この人だ・・・)
昨日メールでも当日は黒いスーツを着ていくと言っていたので、ヒイラギは直ぐにこの青年が待ちあわせている人物だと気が付いた。
だが、緊張でなかなか自分から声を掛ける事が出来ない。
じっと無言で黒いスーツの青年を見ていると、向こうもヒイラギの視線に気付いたのかこちらに会釈して来た。話しかけるならこのタイミングしかないと思い、少女は勇気を振り絞って手を挙げる。
「もしかして」
「あの・・・」
青年と少女はほぼ同時に声をかけた。
お互いに遠慮して黙りこんでしまうが、青年は続きの言葉を口にする。
「ヒイラギさんでしょうか」
「はっ、はき。そうです」
少女は、緊張のあまり噛んでしまう。
青年は、一瞬驚いた様な表情を見せた気がするが、直ぐにニッコリと穏やかな笑みを取り戻す。
「お会い出来て良かった、ハクです。中で美味しいコーヒーでも飲みながらゆっくり話しましょう」
青年にエスコートされてヒイラギはコーヒーショップの中に入る。
男は、写真で見た時は物静かなどちらかと言うと固そうな雰囲気の人物と言う印象を受けたのだが、こうして実際に会ってみると社交的で柔らかい物腰で好感が持てた。
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