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二人の星①
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「まずは、近くのコミュニティを目指しましょう」
翌朝、皆で朝食を食べていると、リッカがこんな事を言い出した。
着ていた白いローブは脱ぎ捨て、カーキ色のシャツに黒のハーフパンツにサンダルのラフな格好をしている。
「イバラキで、旅の荷物を全て無くしてしまったんだもの。一度装備を整えないと、このままじゃアオモリにたどり着く前に行き倒れてしまうわ」
三人は昨日は、レズリーが送ってくれた森でそのまま野宿をしていた。
寝袋を無くしたのでそのまま柔らかい草の上に寝て、火を起こす道具も無いので暖も取れず、調理も出来ないので、そこら辺に生えているベリー類や木のみを食べて飢えをしのいだ。
初夏の比較的暖かな季節だったが、深夜は冷え込み、寒さのため、ほとんどまともに眠れなかった。
「賛成です」
ヒイラギもローブは脱いで、赤いブルゾンにジーンズのハーフパンツの格好をしている。一晩経っても心の傷は癒えていないらしく、明らかに元気がなく口数も少なかった。
「僕も賛成だが、ここが一体どこなのか分かるのかい。見た感じ、森のかなり奥深くにいそうだが」
「闇雲に動き回っても体力を消耗するだけだからね」
リアリストの青年らしく、黒いスーツに付いた草を払いながら当然の疑問を口にする。
「私を誰だと思ってるの、魔女と同時に植物学者でもあるのよ。この森にも、過去にフィールドワークで来たことがあるはず」
リッカは、黒い綺麗な長髪をなびかせて腕を組み自信ありげな口ぶりだ。
「そうね、この植物群と土の状態から察するにおそらくここはフクシマの・・・夜ノ森よ・・・たぶん」
「自信が無さそうじゃないか」
青年は、疑わしそうにジトッとした目で見つめる。
「ちょっと待ってなさい。私の魔法に掛かればこれくらい」
リッカは、近くにある数十メートルはあろう一際背の高い木の傍まで歩く。そして、右手を前に出し大木に触れて、意識を集中し始めた。
すると、大木の複数の枝が絡まり合い、巨大な手のように広がり地面まで降りて来た。
その枝で出来た巨大な手のひらに体を乗せると、みるみると上昇して木のてっぺんあたりの高さで止まる。
リッカは、木のてっぺん付近から遠くを見渡し、ある方角を指差した。
「向こうに煙突が見える。たぶん数キロくらい歩けば街があるはず」
地上にいるヒイラギと青年は、その報告を聞いて顔を見合わせて喜び合った。
三人は、さっそく煙突の見えた方角に向かって歩き始めた。
途中迷いながらも数時間ほど歩き続けると、木々が生い茂っている森を抜けて視界が開ける。
なだらかな平原が広がっており、直ぐ前方に、レンガ造りの建物が立ち並ぶ街が見えた。
街の手前まで来た所で、青年は立ち止まり、躊躇いがちに口を開く。
「あの、僕はこの街に入っても大丈夫なのか?だってここは魔女達の街だろう」
すでに街の中に足を踏み入れていたリッカは、後ろを振り向いてなんともなさそうな様子で話し出す。
「大丈夫、大多数の魔女はあんたらノーマルの事を何とも思っていないよ。一部の過激派の連中だけさ、あんたらを敵だと思っているのは」
「そ、そうなのか」
その言葉を聞いても納得出来ないらしく、青年は警戒した様子で、ヒイラギとリッカの後ろに続いて街に足を踏み入れる。
街の中に入ってみると、ノーマルの首都であるトウキョウと比べるとさすがに見劣りするが、道も石畳が敷かれてしっかりと整備されており、住宅だけではなく色んなお店なども至るところにあり活気が感じられた。
数百人以上の規模の、かなり大きな魔女たちのコミュニティだった。
「本当に大丈夫なんだな」
青年は、きょろきょろと周囲を見回しながらつぶやく。
そこら辺を歩いている魔女達も、魔力が流れていないこの男がノーマルである事は気づいているはずだが、好奇の目が向けられるだけで特に危害を加えようとする者はいなかった。
「私も驚いています。魔女のコミュニティは、もっとノーマルに対して悪い感情を持っているものだと思ってました」
ヒイラギはノーマルと共生している特殊なコミュニティで生まれ育ったので、こういった魔女だけのコミュニティの内情は良く知らなかった。
「だから、ノーマルが過剰に反応して、魔女を毛嫌いしてるだけだって。それに一部の魔女が反応しているだけさ」
「それより、早くご飯でも食べよう」
リッカは空腹が限界を迎えているのか、お腹をさすっている。
すでに時刻はお昼近くになっているが、昨日の午後から口にしたのはわずかな木の実とベリー類だけであった。
ぐーーーっ
すると、何者かのお腹の鳴る大きな音が周囲に響き渡った。
「私も何か食べたい」
どうやらこの音の主であるらしい、ヒイラギが恥ずかしそうにつぶやく。
「そうだな、早いところ飯屋に行こう」
青年は、きょろきょろと周囲を見渡すと、一つの建物を指差した。
「あそこはどうかな」
小さなレンガ造りの建物の前に、メニュー表らしい置き看板が出ていた。
建物の中に入ると、丸テーブルが3つだけ並ぶ小ぢんまりとしたレストランで、どうやら二階は宿屋になっているようだった。
三人は揃ってこの店の看板メニューらしい、玉ねぎカレーライスを注文する。
10分ほどで、白くて丸いお皿に盛り付けられた、カレーライスが運ばれてくる。
リッカは一口、カレーを食べると、頬に手をあてて満面の笑みを浮かべる。
「おっ、これはなかなかイケるね」
スパイスの効いたルーの中に、玉ねぎの優しい甘みが染み渡っており、さらにザグ切りで入っている玉ねぎのシャキシャキとした食感も心地よかった。
ヒイラギと青年も、もくもくと夢中でカレーライスを口に運んでいる。
食事を終えると、ヒイラギとリッカが半分ずつお金を出して代金を支払う。
「あんた、女の子にお金を支払わせるなんてどういう了見なの」
リッカが呆れたように、隣で申し訳さなそうな顔をしている青年の方を見る。
「しょうがないじゃないか。僕が魔女の間で流通している貨幣を持っているわけないだろう」
「後でちゃんと返しに来なさいよ」
リッカは、本気なのか冗談なのか分からない事を言い出す。おそらく冗談だろうが、リッカは事あるごとに生真面目なこの青年をからかう癖があった。
「・・・分かってるよ」
青年はため息を混じりにつぶやく。
「ちょうどここの二階が宿屋みたいだし、今日はここに泊まりましょう」
リッカはそう言うと、受付のお婆さんに代金を支払い二階の部屋に案内してもらう。
通された部屋は、ベッドが2つだけ置かれており、他に調度品などは一切ない簡素さだったが、ずっと野宿続きだったヒイラギ達にとってはこれで充分だった。
2階には宿泊者用の部屋が3部屋あり、どっちみちベッドの数が足りなかったので、青年用にもう一部屋を別で取った。
「あんた、この代金は後で・・・」
「分かったよ!後でちゃんと返すって」
リッカが、また先程と同じ事を言おうとしていたので、青年はそれを遮る様に大声を出す。
今日泊まる宿も確保出来たので、早速買い出しに行こうという話になった。
「ヒイラギあなたは部屋で休んでいて。旅の荷物は二人で買い揃えてくるから」
「でも・・・」
「いいから、無理しないの」
昨日から元気がなく、ふさぎ込んでいたヒイラギを気づかってか、リッカは無理やり少女を部屋の中に押し込める。
ヒイラギだけ宿屋に残して、リッカと青年は外に出た。
「優しいんだな・・・まるで、あの子のお姉さんみたいだ」
青年は外に出ると直ぐに口を開く。
「あの子の人生は辛すぎる事ばかりだからね。周りに一人ぐらい、あの子の事を気づかってくれる大人がいても良いじゃない」
リッカは少し悲しげな表情でこんな事を口にした。
二人は大通りを歩きながらお店を物色する。
広い石畳の大通りにはゴミ一つ落ちておらず清潔で、レンガ造りのどっしりとした建物が立ち並んでいた。
レンガ造りの建物にはどれも煙突が付いており、冬は大雪が降る寒い地域なので部屋の中に暖炉でもあるのだろう。
「これからの旅は、そこら中に点在しているコミュニティを泊まり歩きながらアオモリを目指すつもりだから、寝袋とか調理器具とか大きな荷物は不要よ」
「バックパックに最低限の着替えと保存食だけ買えば充分ね」
リッカは、これからの旅の方針と必要な物について話し出す。
「なるほど」
隣を歩く青年は相づちを打ち、その後で神妙な表情になる。
「リッカさん、折り入ってお願いがあるのですが・・・」
「なによ、そんなかしこまって」
「個人的に必要な物がありまして。どうか、お金を貸していただけないでしょうか」
青年は、そのまま土下座でもせんばかりの勢いでその場で深々と頭を下げる。
周囲の通行人は、何事かと好奇の目を二人に向けている。
翌朝、皆で朝食を食べていると、リッカがこんな事を言い出した。
着ていた白いローブは脱ぎ捨て、カーキ色のシャツに黒のハーフパンツにサンダルのラフな格好をしている。
「イバラキで、旅の荷物を全て無くしてしまったんだもの。一度装備を整えないと、このままじゃアオモリにたどり着く前に行き倒れてしまうわ」
三人は昨日は、レズリーが送ってくれた森でそのまま野宿をしていた。
寝袋を無くしたのでそのまま柔らかい草の上に寝て、火を起こす道具も無いので暖も取れず、調理も出来ないので、そこら辺に生えているベリー類や木のみを食べて飢えをしのいだ。
初夏の比較的暖かな季節だったが、深夜は冷え込み、寒さのため、ほとんどまともに眠れなかった。
「賛成です」
ヒイラギもローブは脱いで、赤いブルゾンにジーンズのハーフパンツの格好をしている。一晩経っても心の傷は癒えていないらしく、明らかに元気がなく口数も少なかった。
「僕も賛成だが、ここが一体どこなのか分かるのかい。見た感じ、森のかなり奥深くにいそうだが」
「闇雲に動き回っても体力を消耗するだけだからね」
リアリストの青年らしく、黒いスーツに付いた草を払いながら当然の疑問を口にする。
「私を誰だと思ってるの、魔女と同時に植物学者でもあるのよ。この森にも、過去にフィールドワークで来たことがあるはず」
リッカは、黒い綺麗な長髪をなびかせて腕を組み自信ありげな口ぶりだ。
「そうね、この植物群と土の状態から察するにおそらくここはフクシマの・・・夜ノ森よ・・・たぶん」
「自信が無さそうじゃないか」
青年は、疑わしそうにジトッとした目で見つめる。
「ちょっと待ってなさい。私の魔法に掛かればこれくらい」
リッカは、近くにある数十メートルはあろう一際背の高い木の傍まで歩く。そして、右手を前に出し大木に触れて、意識を集中し始めた。
すると、大木の複数の枝が絡まり合い、巨大な手のように広がり地面まで降りて来た。
その枝で出来た巨大な手のひらに体を乗せると、みるみると上昇して木のてっぺんあたりの高さで止まる。
リッカは、木のてっぺん付近から遠くを見渡し、ある方角を指差した。
「向こうに煙突が見える。たぶん数キロくらい歩けば街があるはず」
地上にいるヒイラギと青年は、その報告を聞いて顔を見合わせて喜び合った。
三人は、さっそく煙突の見えた方角に向かって歩き始めた。
途中迷いながらも数時間ほど歩き続けると、木々が生い茂っている森を抜けて視界が開ける。
なだらかな平原が広がっており、直ぐ前方に、レンガ造りの建物が立ち並ぶ街が見えた。
街の手前まで来た所で、青年は立ち止まり、躊躇いがちに口を開く。
「あの、僕はこの街に入っても大丈夫なのか?だってここは魔女達の街だろう」
すでに街の中に足を踏み入れていたリッカは、後ろを振り向いてなんともなさそうな様子で話し出す。
「大丈夫、大多数の魔女はあんたらノーマルの事を何とも思っていないよ。一部の過激派の連中だけさ、あんたらを敵だと思っているのは」
「そ、そうなのか」
その言葉を聞いても納得出来ないらしく、青年は警戒した様子で、ヒイラギとリッカの後ろに続いて街に足を踏み入れる。
街の中に入ってみると、ノーマルの首都であるトウキョウと比べるとさすがに見劣りするが、道も石畳が敷かれてしっかりと整備されており、住宅だけではなく色んなお店なども至るところにあり活気が感じられた。
数百人以上の規模の、かなり大きな魔女たちのコミュニティだった。
「本当に大丈夫なんだな」
青年は、きょろきょろと周囲を見回しながらつぶやく。
そこら辺を歩いている魔女達も、魔力が流れていないこの男がノーマルである事は気づいているはずだが、好奇の目が向けられるだけで特に危害を加えようとする者はいなかった。
「私も驚いています。魔女のコミュニティは、もっとノーマルに対して悪い感情を持っているものだと思ってました」
ヒイラギはノーマルと共生している特殊なコミュニティで生まれ育ったので、こういった魔女だけのコミュニティの内情は良く知らなかった。
「だから、ノーマルが過剰に反応して、魔女を毛嫌いしてるだけだって。それに一部の魔女が反応しているだけさ」
「それより、早くご飯でも食べよう」
リッカは空腹が限界を迎えているのか、お腹をさすっている。
すでに時刻はお昼近くになっているが、昨日の午後から口にしたのはわずかな木の実とベリー類だけであった。
ぐーーーっ
すると、何者かのお腹の鳴る大きな音が周囲に響き渡った。
「私も何か食べたい」
どうやらこの音の主であるらしい、ヒイラギが恥ずかしそうにつぶやく。
「そうだな、早いところ飯屋に行こう」
青年は、きょろきょろと周囲を見渡すと、一つの建物を指差した。
「あそこはどうかな」
小さなレンガ造りの建物の前に、メニュー表らしい置き看板が出ていた。
建物の中に入ると、丸テーブルが3つだけ並ぶ小ぢんまりとしたレストランで、どうやら二階は宿屋になっているようだった。
三人は揃ってこの店の看板メニューらしい、玉ねぎカレーライスを注文する。
10分ほどで、白くて丸いお皿に盛り付けられた、カレーライスが運ばれてくる。
リッカは一口、カレーを食べると、頬に手をあてて満面の笑みを浮かべる。
「おっ、これはなかなかイケるね」
スパイスの効いたルーの中に、玉ねぎの優しい甘みが染み渡っており、さらにザグ切りで入っている玉ねぎのシャキシャキとした食感も心地よかった。
ヒイラギと青年も、もくもくと夢中でカレーライスを口に運んでいる。
食事を終えると、ヒイラギとリッカが半分ずつお金を出して代金を支払う。
「あんた、女の子にお金を支払わせるなんてどういう了見なの」
リッカが呆れたように、隣で申し訳さなそうな顔をしている青年の方を見る。
「しょうがないじゃないか。僕が魔女の間で流通している貨幣を持っているわけないだろう」
「後でちゃんと返しに来なさいよ」
リッカは、本気なのか冗談なのか分からない事を言い出す。おそらく冗談だろうが、リッカは事あるごとに生真面目なこの青年をからかう癖があった。
「・・・分かってるよ」
青年はため息を混じりにつぶやく。
「ちょうどここの二階が宿屋みたいだし、今日はここに泊まりましょう」
リッカはそう言うと、受付のお婆さんに代金を支払い二階の部屋に案内してもらう。
通された部屋は、ベッドが2つだけ置かれており、他に調度品などは一切ない簡素さだったが、ずっと野宿続きだったヒイラギ達にとってはこれで充分だった。
2階には宿泊者用の部屋が3部屋あり、どっちみちベッドの数が足りなかったので、青年用にもう一部屋を別で取った。
「あんた、この代金は後で・・・」
「分かったよ!後でちゃんと返すって」
リッカが、また先程と同じ事を言おうとしていたので、青年はそれを遮る様に大声を出す。
今日泊まる宿も確保出来たので、早速買い出しに行こうという話になった。
「ヒイラギあなたは部屋で休んでいて。旅の荷物は二人で買い揃えてくるから」
「でも・・・」
「いいから、無理しないの」
昨日から元気がなく、ふさぎ込んでいたヒイラギを気づかってか、リッカは無理やり少女を部屋の中に押し込める。
ヒイラギだけ宿屋に残して、リッカと青年は外に出た。
「優しいんだな・・・まるで、あの子のお姉さんみたいだ」
青年は外に出ると直ぐに口を開く。
「あの子の人生は辛すぎる事ばかりだからね。周りに一人ぐらい、あの子の事を気づかってくれる大人がいても良いじゃない」
リッカは少し悲しげな表情でこんな事を口にした。
二人は大通りを歩きながらお店を物色する。
広い石畳の大通りにはゴミ一つ落ちておらず清潔で、レンガ造りのどっしりとした建物が立ち並んでいた。
レンガ造りの建物にはどれも煙突が付いており、冬は大雪が降る寒い地域なので部屋の中に暖炉でもあるのだろう。
「これからの旅は、そこら中に点在しているコミュニティを泊まり歩きながらアオモリを目指すつもりだから、寝袋とか調理器具とか大きな荷物は不要よ」
「バックパックに最低限の着替えと保存食だけ買えば充分ね」
リッカは、これからの旅の方針と必要な物について話し出す。
「なるほど」
隣を歩く青年は相づちを打ち、その後で神妙な表情になる。
「リッカさん、折り入ってお願いがあるのですが・・・」
「なによ、そんなかしこまって」
「個人的に必要な物がありまして。どうか、お金を貸していただけないでしょうか」
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