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魔女たちの夜⑤
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リッカが指をパチンと鳴らすと、後ろの大木がボコボコと地面を掻き分けて、一斉に動き出した。
普段なら、せいぜい2つか3つの植物を同時に使役するのが限界であった。
しかし、この触の夜であれば、大気中の無尽蔵に湧いてくるマナを使えるので、この森の一角の木々を一斉に動かすことも可能であった。
「なんだ、これは」
まるで悪夢でも見ているかの様に周囲の大木が一斉に動き出して、自分達に襲いかかってくる様を見て、セイラムの軍人達は完全に圧倒されていた。
「これも、魔法なのか」
とある軍人は、自分の身に危険が迫っている状況にもか関わらずに、目の前で植物が意志でも得たかの様に、動き回る様に目を奪われていた。
男は今までに何十人の魔女と戦ってきたが、こんな無茶苦茶で奇天烈な魔法を見たのは生まれて初めてだった。その奇跡の力に、敵である魔女にも関わらず畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
「ふぅ、はぁ」
リッカは離れた所から木々をコントロールして、猛獣のように暴れさせ、次々と敵をなぎ倒していった。
空に浮かぶ赤い月のおかげで魔力はほぼ無尽蔵に使い放題だが、無数の植物を自分の手足の様に動かすのは神経を酷使した。
ズキズキとこめかみが痛み冷や汗が止まらなかったが、リッカは集中力を切らさぬように、自分の呼吸に意識を向け続けた。
「全員・・・やったか」
しばらくすると、大勢いたはずの敵の気配がしなくなったので、リッカは魔力の放出をストップした。
そして雑木林から出て、開けた所に足を踏み入れる。
ざっと目に入るだけでも、一人、二人、三人と周囲に黒い軍服の人が地面に倒れていて、ピクリとも動かないのが見えた。
リッカは出来るだけ、その地面に転がる人間を目に入れないようにして、まだ生き残っている人がいないか探る。
すると、ざっ、ざっ、と向こうからゆっくりと歩いて来る人の気配を感じた。
次第にその姿がハッキリと見える。
その男は、頭は綺麗に剃り上げられたスキンヘッドで、手に大きな鎌を持っていた。
セイラムの特殊部隊である、魔女狩りのクウカイその人であった。
「あら、以前にどこかで会ったかしら」
リッカはその大鎌を見て、直ぐにこの男と以前に戦った事を思い出していた。
「・・・」
クウカイは、無言で目の前の女を睨みつけている。
リッカは先手を取るように魔法を発動させると、あっという間に大木がズズッ、ズズッと音を立てて背後に集まる。
その姿は、まるで後ろに大勢の巨人を従える女王であった。
その女王を守るように、一つの大木が前に出て来る。そして、挨拶代わりに前方に立っているクウカイに向けて、木の枝を鞭の様にしならせて攻撃を仕掛けた。
「フッ」
クウカイは笑みを浮かべながら背中の大鎌を抜いて振るうと、自分に迫ってきた木の枝を一刀両断にする。
「お前は俺には勝てない。死線を潜り抜けて来たヤツの顔じゃない」
スキンヘッドの男は、首を左右に振ってゴキゴキと鳴らしながら、こんな事を言い放った。
「いつまで、そんな事を言ってられるかしら」
すると、リッカの後ろに控えている大木達から、次々と縄のように太くなった木の枝が伸びて、男の体に四方八方から迫る。
クウカイは驚異的な跳躍力で上に飛び跳ねて躱すと、その直後に地面に木の枝が激突して土煙がもくもくと上がる。
「逃がすか」
リッカは、クウカイが上空に飛び上がった瞬間にその姿を手で差し、更に別の木の枝がうねうねと大量に伸びて殺到する。
ザンッ、ザンッ、ザシュッ
しかし男は表情を変えずに、持っている大鎌を縦横無尽に振りかぶり、迫ってくる木の枝を全て切り落として着地する。
そして、挑発するようにリッカに向かってニヤリと笑って見せる。
まるで、「その程度か」とでも言いたげな表情であった。
「はーっ、本当に強いわね」
リッカはため息を付くと、お手上げとでも言うように両手を上にあげる。
「ねぇ、どうして戦わないといけないの私達。平和な世界になったらあんたも嬉しいでしょ」
リッカは無反応のクウカイに向かって、構わずに話し続ける。
「!?」
クウカイは、何か気配を感じたのか地面を見る。
すると、突如地面がボコッと割れ木の太い根っこが突如現れた。
そのの根っこがクウカイの右足にガッチリと巻き付き、そのままぐんぐんと上空に向かって伸び続けて男を逆さ吊りにする。
ブンッ
その逆さ吊りにした男を振り回して、大樹の幹に叩き付ける。
「がはっ」
クウカイはその衝撃でうめき声を挙げ、顔を強く打ったのか鼻血を出していた。
「私は平和主義なの。投降するなら、これ以上は痛めつけないわ」
リッカは少し離れた所から、逆さ吊りになっているクウカイに向かって話し掛ける。
互いの目が合うと、男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「さっき、どうして戦わないといけないのかって言ったな」
男は独り言でも言うように、ぽつりと話し始める。
「俺には、これしかないんだ」
「こうして、戦って命のやり取りをしている時だけ生の実感を得られる」
「平和になると言う事は、俺に死ねと言っている様なものだ」
クウカイはここまで言うと、満足そうに頷く。
「そんなの、自分勝手な戦闘狂じゃない」
堪らずにリッカは反論した。
「俺の居場所を奪うヤツは殺す」
瞬間、男は目をカッと見開くと、大鎌で自分を逆さ吊りにしている木の根っこを切断して、地面に猫の様にしなやかに着地をする。
そして、腰元のベルトからリボルバーを抜き取り素早く発砲する。
ダーン
発砲された弾丸は、リッカの右肩をかすめて近くの木の幹に命中した。
「あれ」
リッカは軽いふらつきを感じて、こめかみを手で押さえる。明らかに体の感覚に違和感があった。
(やばい、近づかれると殺られる)
リッカは大木を次々と動かして、自分とクウカイの間に何とか壁を作ろうとする。
しかし、集中出来ないため細かいコントロールが利かずに、中途半端に二人の間に木々を割り込ませる事しか出来ない。
クウカイは忍者の様な身軽さで、大木を三角飛びで飛び越えて、槍の様に迫ってくる無数の木の枝を切り捨て迫って来た。
赤い月の光に照らされる、その顔は血に染まり、まるで鬼の様な形相であった。
リッカは自分が冷や汗をかいて、呼吸が浅くなっている事に気が付いた。死が急速に近づいて来るのを感じて、体が危険信号を発しているのだろう。
「悪く思うな」
ついに男はリッカの目の前までたどり着き、手に持っている大鎌を天高く振り上げる。
リッカは観念したように、両手を上空に上げる。
「なんだ」
クウカイは、あと大鎌を振り下ろすだけという所で突如ふらつき始め、そのままうつ伏せに地面に倒れ込んだ。
「これは、毒か」
男は顔を僅かに動かして、痙攣している自分の手足を見ている。
「正解よ。最初から人体を麻痺させる効果のある花粉を撒いておいたの」
リッカの足元には、濃い紫色の小ぶりな花びらが付いた、20センチ位の高さの植物が沢山咲き誇っていた。その右手には、植物の種が入った袋が握られている。
「やっと、それが効いてきたってわけ」
「それなら、お前だけなぜ動けている」
「私は植物のスペシャリストよ。幼い頃からこの花の世話をしていたんだもの、この毒には耐性があるわ」
「情けは無用、とどめを刺せ」
クウカイは、静かな口調でこんな事を口にする。完全に自分が死ぬことを覚悟した態度であった。
「私は平和主義だってば、命まで取る気はないよ」
すると次の瞬間、衝撃の光景が目の前で繰り広げられた。
クウカイは止める間もなく、ぶるぶると痙攣する手で、大鎌の刃を自分の喉元に突き立てたのだ。男の喉元からは、どくどくと血が溢れ出て止まらない。
「ああっ」
リッカはその光景を見て絶句し、思わず目を逸らす。急所からこの出血量では、さすがに治癒魔法を使っても助からないだろう。
「なんでよ・・・死んだら、全て終わりじゃない」
リッカは、瀕死の状態で薄っすらと目を開けている、スキンヘッドの男に駆け寄る。
足元に倒れている男は、なぜか満足そうな表情で微かに微笑んでいた。
「足掻いてかっこ悪くても生きろよ、逃げるな」
リッカはやるせない気持ちで目には涙を浮かべて、足元で今にも死に絶えそうな男に、こんな言葉を吐いた。
そして、男の最期を看取るように呼吸が完全に停止するまで傍に付き添って、その姿を見守っていた。
普段なら、せいぜい2つか3つの植物を同時に使役するのが限界であった。
しかし、この触の夜であれば、大気中の無尽蔵に湧いてくるマナを使えるので、この森の一角の木々を一斉に動かすことも可能であった。
「なんだ、これは」
まるで悪夢でも見ているかの様に周囲の大木が一斉に動き出して、自分達に襲いかかってくる様を見て、セイラムの軍人達は完全に圧倒されていた。
「これも、魔法なのか」
とある軍人は、自分の身に危険が迫っている状況にもか関わらずに、目の前で植物が意志でも得たかの様に、動き回る様に目を奪われていた。
男は今までに何十人の魔女と戦ってきたが、こんな無茶苦茶で奇天烈な魔法を見たのは生まれて初めてだった。その奇跡の力に、敵である魔女にも関わらず畏敬の念を抱かずにはいられなかった。
「ふぅ、はぁ」
リッカは離れた所から木々をコントロールして、猛獣のように暴れさせ、次々と敵をなぎ倒していった。
空に浮かぶ赤い月のおかげで魔力はほぼ無尽蔵に使い放題だが、無数の植物を自分の手足の様に動かすのは神経を酷使した。
ズキズキとこめかみが痛み冷や汗が止まらなかったが、リッカは集中力を切らさぬように、自分の呼吸に意識を向け続けた。
「全員・・・やったか」
しばらくすると、大勢いたはずの敵の気配がしなくなったので、リッカは魔力の放出をストップした。
そして雑木林から出て、開けた所に足を踏み入れる。
ざっと目に入るだけでも、一人、二人、三人と周囲に黒い軍服の人が地面に倒れていて、ピクリとも動かないのが見えた。
リッカは出来るだけ、その地面に転がる人間を目に入れないようにして、まだ生き残っている人がいないか探る。
すると、ざっ、ざっ、と向こうからゆっくりと歩いて来る人の気配を感じた。
次第にその姿がハッキリと見える。
その男は、頭は綺麗に剃り上げられたスキンヘッドで、手に大きな鎌を持っていた。
セイラムの特殊部隊である、魔女狩りのクウカイその人であった。
「あら、以前にどこかで会ったかしら」
リッカはその大鎌を見て、直ぐにこの男と以前に戦った事を思い出していた。
「・・・」
クウカイは、無言で目の前の女を睨みつけている。
リッカは先手を取るように魔法を発動させると、あっという間に大木がズズッ、ズズッと音を立てて背後に集まる。
その姿は、まるで後ろに大勢の巨人を従える女王であった。
その女王を守るように、一つの大木が前に出て来る。そして、挨拶代わりに前方に立っているクウカイに向けて、木の枝を鞭の様にしならせて攻撃を仕掛けた。
「フッ」
クウカイは笑みを浮かべながら背中の大鎌を抜いて振るうと、自分に迫ってきた木の枝を一刀両断にする。
「お前は俺には勝てない。死線を潜り抜けて来たヤツの顔じゃない」
スキンヘッドの男は、首を左右に振ってゴキゴキと鳴らしながら、こんな事を言い放った。
「いつまで、そんな事を言ってられるかしら」
すると、リッカの後ろに控えている大木達から、次々と縄のように太くなった木の枝が伸びて、男の体に四方八方から迫る。
クウカイは驚異的な跳躍力で上に飛び跳ねて躱すと、その直後に地面に木の枝が激突して土煙がもくもくと上がる。
「逃がすか」
リッカは、クウカイが上空に飛び上がった瞬間にその姿を手で差し、更に別の木の枝がうねうねと大量に伸びて殺到する。
ザンッ、ザンッ、ザシュッ
しかし男は表情を変えずに、持っている大鎌を縦横無尽に振りかぶり、迫ってくる木の枝を全て切り落として着地する。
そして、挑発するようにリッカに向かってニヤリと笑って見せる。
まるで、「その程度か」とでも言いたげな表情であった。
「はーっ、本当に強いわね」
リッカはため息を付くと、お手上げとでも言うように両手を上にあげる。
「ねぇ、どうして戦わないといけないの私達。平和な世界になったらあんたも嬉しいでしょ」
リッカは無反応のクウカイに向かって、構わずに話し続ける。
「!?」
クウカイは、何か気配を感じたのか地面を見る。
すると、突如地面がボコッと割れ木の太い根っこが突如現れた。
そのの根っこがクウカイの右足にガッチリと巻き付き、そのままぐんぐんと上空に向かって伸び続けて男を逆さ吊りにする。
ブンッ
その逆さ吊りにした男を振り回して、大樹の幹に叩き付ける。
「がはっ」
クウカイはその衝撃でうめき声を挙げ、顔を強く打ったのか鼻血を出していた。
「私は平和主義なの。投降するなら、これ以上は痛めつけないわ」
リッカは少し離れた所から、逆さ吊りになっているクウカイに向かって話し掛ける。
互いの目が合うと、男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「さっき、どうして戦わないといけないのかって言ったな」
男は独り言でも言うように、ぽつりと話し始める。
「俺には、これしかないんだ」
「こうして、戦って命のやり取りをしている時だけ生の実感を得られる」
「平和になると言う事は、俺に死ねと言っている様なものだ」
クウカイはここまで言うと、満足そうに頷く。
「そんなの、自分勝手な戦闘狂じゃない」
堪らずにリッカは反論した。
「俺の居場所を奪うヤツは殺す」
瞬間、男は目をカッと見開くと、大鎌で自分を逆さ吊りにしている木の根っこを切断して、地面に猫の様にしなやかに着地をする。
そして、腰元のベルトからリボルバーを抜き取り素早く発砲する。
ダーン
発砲された弾丸は、リッカの右肩をかすめて近くの木の幹に命中した。
「あれ」
リッカは軽いふらつきを感じて、こめかみを手で押さえる。明らかに体の感覚に違和感があった。
(やばい、近づかれると殺られる)
リッカは大木を次々と動かして、自分とクウカイの間に何とか壁を作ろうとする。
しかし、集中出来ないため細かいコントロールが利かずに、中途半端に二人の間に木々を割り込ませる事しか出来ない。
クウカイは忍者の様な身軽さで、大木を三角飛びで飛び越えて、槍の様に迫ってくる無数の木の枝を切り捨て迫って来た。
赤い月の光に照らされる、その顔は血に染まり、まるで鬼の様な形相であった。
リッカは自分が冷や汗をかいて、呼吸が浅くなっている事に気が付いた。死が急速に近づいて来るのを感じて、体が危険信号を発しているのだろう。
「悪く思うな」
ついに男はリッカの目の前までたどり着き、手に持っている大鎌を天高く振り上げる。
リッカは観念したように、両手を上空に上げる。
「なんだ」
クウカイは、あと大鎌を振り下ろすだけという所で突如ふらつき始め、そのままうつ伏せに地面に倒れ込んだ。
「これは、毒か」
男は顔を僅かに動かして、痙攣している自分の手足を見ている。
「正解よ。最初から人体を麻痺させる効果のある花粉を撒いておいたの」
リッカの足元には、濃い紫色の小ぶりな花びらが付いた、20センチ位の高さの植物が沢山咲き誇っていた。その右手には、植物の種が入った袋が握られている。
「やっと、それが効いてきたってわけ」
「それなら、お前だけなぜ動けている」
「私は植物のスペシャリストよ。幼い頃からこの花の世話をしていたんだもの、この毒には耐性があるわ」
「情けは無用、とどめを刺せ」
クウカイは、静かな口調でこんな事を口にする。完全に自分が死ぬことを覚悟した態度であった。
「私は平和主義だってば、命まで取る気はないよ」
すると次の瞬間、衝撃の光景が目の前で繰り広げられた。
クウカイは止める間もなく、ぶるぶると痙攣する手で、大鎌の刃を自分の喉元に突き立てたのだ。男の喉元からは、どくどくと血が溢れ出て止まらない。
「ああっ」
リッカはその光景を見て絶句し、思わず目を逸らす。急所からこの出血量では、さすがに治癒魔法を使っても助からないだろう。
「なんでよ・・・死んだら、全て終わりじゃない」
リッカは、瀕死の状態で薄っすらと目を開けている、スキンヘッドの男に駆け寄る。
足元に倒れている男は、なぜか満足そうな表情で微かに微笑んでいた。
「足掻いてかっこ悪くても生きろよ、逃げるな」
リッカはやるせない気持ちで目には涙を浮かべて、足元で今にも死に絶えそうな男に、こんな言葉を吐いた。
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