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魔女たちの夜④
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コミュニティを出て、暗い夜道を北に向かって歩き続けると、直ぐに木々が生い茂った深い森が見えてきた。
上空には機関銃を備えた輸送用ヘリが、地上をライトで照らしながら巡回している。
森の中からは、おそらくセイラムの軍人だろうか、大勢の人間が潜んでいる気配が感じられた。
「アオモリに行くにはここを突破するしかない。行くぞ」
ユダの静かな掛け声で、三人は目の前に広がる森に向かって走り出した。
「お前ら」
森の中に足を踏み入れると、直ぐに木の影から慌てた様子の男の声が聞こえてきた。
「魔女だ、こちらに応援をよこせ」
そして、続いて別の男の話し声も聞こえてくる。
バシュン、バシュン
黒い軍服を着た男が、木の幹から半身を出すと銃を発砲して来た。
三人は、木の影に体を隠して銃撃をやり過ごす。
そして、ユダは勢い良く飛び出すと木の間を縫うように音も無く駆け抜ける。
「?!」
銃を発砲した男は呆気にとられながら目でユダを追いかけるが、その動きは素早く、暗闇の中と言うこともあり直ぐにその姿を見失った。
男は自分の身を守るために一旦その場から離れようと足を踏み出した。その瞬間、後頭部にゴリッと硬い金属を押し付けられている感触がするのを感じた。
男は、背筋が冷たくなるような恐怖を感じながらも背後を振り返る。
「遅い」
そして、背後の暗闇から静かな声がしたのとほぼ同時に「ズダンッ」と発砲音が響き渡る。男の頭から大量の血が吹き出して、そのまや地面に崩れ落ちる。
ゼロ距離からの射撃で、銃弾が頭蓋骨を貫通しており即死だった。
「ああっ」
その壮絶な光景を目の辺りにして、思わず声が出てしまったのが、その男の運の尽きだった。
ズダンッ
近くに潜んでいた、もう一人の黒い軍服の男も、数秒後には頭を銃弾で撃ち抜かれていた。
「潜んでいるやつは始末した。増援が来る前に行くぞ」
ユダは涼し気な顔で、ヒイラギとリッカが潜んでいた場所に戻ってきた。
「お疲れさま。それにしても元仲間なのに容赦ないわね」
リッカはユダの複雑な心情を察してか、おどけた様子でこんな事を口走る。
その背後のヒイラギは、暗闇の中でも表情が強張っているのが分かった。
「そんな顔をしないでくれ」
その少女の様子を見て、ユダは心の中に僅かに罪悪感のようなものを感じた。
「こうでもしないとこっちが殺られてた」
「分かってます」
ヒイラギは抑揚のない声で答える。
「とにかく、ここを早く離れましょう」
リッカは、二人の気まずい雰囲気を遮るように声をかける。
先ほど倒した男が無線で応援を呼んでいたので、ここから一刻も早く離れる必要があった。
ユダを先頭に、三人は物音を立てないように細心の注意を払いながら、夜の森の中を歩き続ける。
しばらく進んだ所で、ユダは突如ピタッと立ち止まった。
「前方から気配がする。大勢こちらに向って来ているぞ」
ヒイラギとリッカも周囲の音に聞き耳を立てて集中すると、確かに遠くでかすかに物音が聞こえて来た。
「どうする?」
リッカは、緊張感からか唇をなめる。
「別のルートから迂回して行こう」
ユダは、すぐさま判断を下す。戦場では一時の判断の遅れが、致命傷になる事を身にしみて経験してきたからだ。
三人は、10分程前に通った別れ道へ戻るために、元来た道を引き返えす。
まだ本格的な暑さにはほど遠いはずの初夏の夜だが、ヒイラギは先ほどから汗が止まらず、赤いブルゾンを肘まで巻くり上げていた。
すると先頭を歩くユダがぴたりと歩みを止めて、「待て」と、ハンドサインを出している。
そして、くるりと後方を振り返ると、横に顔を降り静かに口を開く。
「駄目だ、後方からも敵が来ている」
冷静に話すユダの口調には、わずかな焦りの色が感じられた。
「このままじゃ、いずれ囲まれますね」
ヒイラギは黙っているのに耐えきれず、全員の頭に浮かんでいるであろう事を口にした。
「私が行くよ」
リッカが、すっと右手を空に挙げて挙手をする。
「後方のやつらは私に任せて」
「えっ」
突然の申し出に、ヒイラギとユダは同時に驚きの声を出す。
「あんた達は、前方のやつらに奇襲でも何でも仕掛けて何とかして」
赤い月の光に照らされた、リッカの顔は笑っていた。覚悟を決めて吹っ切れているのか、その態度は不思議なくらい落ち着いていた。
「ただ・・・君一人で大丈夫か」
ユダは戸惑いながら話す。
このままじゃ手詰まりになるのは分かりきっていたので、この申し出はありがたかった。しかし、戦闘経験がそこまで無いであろうリッカを、一人で行かせるのは心配だった。
「ここには、植物が至る所にあって今日は触の夜よ。私なら絶対に負けない」
リッカのその言葉には、固い決意が感じられた。
「そこまで言うなら任せる」
ユダはその思いを感じ取ったのか、リッカの肩をポンと叩くと前方に歩き出す。
「でも、リッカさんを一人にするなんて」
ヒイラギは、それでも心配なのかユダの背中に話しかける。
「私は私の出来ることをやる。ヒイラギ、あなたも自分の責任を果たして」
そう目の前で話すリッカの表情を見て、少女は気付いた。
リッカは例え自分の身が犠牲になっても、ヒイラギに文書をロードに届けて欲しいと言っているのだ。
「分かりました・・・リッカさんお願い、死なないで」
ヒイラギはリッカの手を握ると、その後は後ろを振り返る事なく、すでに前方を歩くユダを追いかけた。
「さて、行きますか」
リッカは少女の背中が完全に見えなくなったのを見届けると、颯爽と敵に向かって歩き出す。
上空には機関銃を備えた輸送用ヘリが、地上をライトで照らしながら巡回している。
森の中からは、おそらくセイラムの軍人だろうか、大勢の人間が潜んでいる気配が感じられた。
「アオモリに行くにはここを突破するしかない。行くぞ」
ユダの静かな掛け声で、三人は目の前に広がる森に向かって走り出した。
「お前ら」
森の中に足を踏み入れると、直ぐに木の影から慌てた様子の男の声が聞こえてきた。
「魔女だ、こちらに応援をよこせ」
そして、続いて別の男の話し声も聞こえてくる。
バシュン、バシュン
黒い軍服を着た男が、木の幹から半身を出すと銃を発砲して来た。
三人は、木の影に体を隠して銃撃をやり過ごす。
そして、ユダは勢い良く飛び出すと木の間を縫うように音も無く駆け抜ける。
「?!」
銃を発砲した男は呆気にとられながら目でユダを追いかけるが、その動きは素早く、暗闇の中と言うこともあり直ぐにその姿を見失った。
男は自分の身を守るために一旦その場から離れようと足を踏み出した。その瞬間、後頭部にゴリッと硬い金属を押し付けられている感触がするのを感じた。
男は、背筋が冷たくなるような恐怖を感じながらも背後を振り返る。
「遅い」
そして、背後の暗闇から静かな声がしたのとほぼ同時に「ズダンッ」と発砲音が響き渡る。男の頭から大量の血が吹き出して、そのまや地面に崩れ落ちる。
ゼロ距離からの射撃で、銃弾が頭蓋骨を貫通しており即死だった。
「ああっ」
その壮絶な光景を目の辺りにして、思わず声が出てしまったのが、その男の運の尽きだった。
ズダンッ
近くに潜んでいた、もう一人の黒い軍服の男も、数秒後には頭を銃弾で撃ち抜かれていた。
「潜んでいるやつは始末した。増援が来る前に行くぞ」
ユダは涼し気な顔で、ヒイラギとリッカが潜んでいた場所に戻ってきた。
「お疲れさま。それにしても元仲間なのに容赦ないわね」
リッカはユダの複雑な心情を察してか、おどけた様子でこんな事を口走る。
その背後のヒイラギは、暗闇の中でも表情が強張っているのが分かった。
「そんな顔をしないでくれ」
その少女の様子を見て、ユダは心の中に僅かに罪悪感のようなものを感じた。
「こうでもしないとこっちが殺られてた」
「分かってます」
ヒイラギは抑揚のない声で答える。
「とにかく、ここを早く離れましょう」
リッカは、二人の気まずい雰囲気を遮るように声をかける。
先ほど倒した男が無線で応援を呼んでいたので、ここから一刻も早く離れる必要があった。
ユダを先頭に、三人は物音を立てないように細心の注意を払いながら、夜の森の中を歩き続ける。
しばらく進んだ所で、ユダは突如ピタッと立ち止まった。
「前方から気配がする。大勢こちらに向って来ているぞ」
ヒイラギとリッカも周囲の音に聞き耳を立てて集中すると、確かに遠くでかすかに物音が聞こえて来た。
「どうする?」
リッカは、緊張感からか唇をなめる。
「別のルートから迂回して行こう」
ユダは、すぐさま判断を下す。戦場では一時の判断の遅れが、致命傷になる事を身にしみて経験してきたからだ。
三人は、10分程前に通った別れ道へ戻るために、元来た道を引き返えす。
まだ本格的な暑さにはほど遠いはずの初夏の夜だが、ヒイラギは先ほどから汗が止まらず、赤いブルゾンを肘まで巻くり上げていた。
すると先頭を歩くユダがぴたりと歩みを止めて、「待て」と、ハンドサインを出している。
そして、くるりと後方を振り返ると、横に顔を降り静かに口を開く。
「駄目だ、後方からも敵が来ている」
冷静に話すユダの口調には、わずかな焦りの色が感じられた。
「このままじゃ、いずれ囲まれますね」
ヒイラギは黙っているのに耐えきれず、全員の頭に浮かんでいるであろう事を口にした。
「私が行くよ」
リッカが、すっと右手を空に挙げて挙手をする。
「後方のやつらは私に任せて」
「えっ」
突然の申し出に、ヒイラギとユダは同時に驚きの声を出す。
「あんた達は、前方のやつらに奇襲でも何でも仕掛けて何とかして」
赤い月の光に照らされた、リッカの顔は笑っていた。覚悟を決めて吹っ切れているのか、その態度は不思議なくらい落ち着いていた。
「ただ・・・君一人で大丈夫か」
ユダは戸惑いながら話す。
このままじゃ手詰まりになるのは分かりきっていたので、この申し出はありがたかった。しかし、戦闘経験がそこまで無いであろうリッカを、一人で行かせるのは心配だった。
「ここには、植物が至る所にあって今日は触の夜よ。私なら絶対に負けない」
リッカのその言葉には、固い決意が感じられた。
「そこまで言うなら任せる」
ユダはその思いを感じ取ったのか、リッカの肩をポンと叩くと前方に歩き出す。
「でも、リッカさんを一人にするなんて」
ヒイラギは、それでも心配なのかユダの背中に話しかける。
「私は私の出来ることをやる。ヒイラギ、あなたも自分の責任を果たして」
そう目の前で話すリッカの表情を見て、少女は気付いた。
リッカは例え自分の身が犠牲になっても、ヒイラギに文書をロードに届けて欲しいと言っているのだ。
「分かりました・・・リッカさんお願い、死なないで」
ヒイラギはリッカの手を握ると、その後は後ろを振り返る事なく、すでに前方を歩くユダを追いかけた。
「さて、行きますか」
リッカは少女の背中が完全に見えなくなったのを見届けると、颯爽と敵に向かって歩き出す。
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