4 / 10
転移
4 “目を覚ました俺”
しおりを挟む
ザワザワと、雑踏の中に居るかのように五月蝿い。
人が眠ってるって言うのに…………眠っている?
何で俺は寝ていた?さっきまで学校に行くのに走っていなかったか?
一度疑問を抱いたら、今俺が横たわる場所も気になった。冷たく硬い感触が服越しに伝わってくるからだ。
起き上がろうと手に力を込めた事により、俺の右手が何かを――旭の手を握っている事に気付いて目を開けながらそちらへと顔を向ける。良かった、旭が居る。俺が仰向けで、旭が俯せだ。右手同士を繋げていた。
俺達は気を失っていたらしい。意識を落とす前のあの光は、何だったんだろう。
未だにぼんやりとして視界も怪しい頭を抱えながら上体を起こす。すると、周囲のざわめきがより強くなったように感じられた。
『ひっ!?』
『おい嘘だろ…気を付けろ!』
『そんな、何故魔族が…!』
まぞく…?頭を振り目を擦って改めて周囲を見渡す。ドライアイスでも使ったかのように煙が床付近に漂っているが、俺は自分が先程まで居た通学路とは違う場所に居ることが分かった。
「…何処だ、ここ。」
まるで大聖堂の中のような、パッと見石造りの天井の高い建物の中だった。壁にはステンドグラスも並んでいる。俺達が寝転がっていた場所は、祭壇か?正面に大勢の人が居て見下ろせるくらい高い。
『な、何かを言ったぞ!』
『呪いの言葉か!?』
俺が小さく呟いた言葉に対して驚かれている。いきなりの展開で思考回路が追い付いていない。
『儀式は失敗したのか!?』
『そんな、まさか……いや待て!もう一人居るぞ!』
『殿下、お待ちください!危険です!』
声のする方を見ると、壇上にも俺達以外の人が居たらしい。半円を描くように俺と旭を囲っていた。
その服装は白を基調としたローブの様なもので、名前はど忘れしたが結婚式で神父が着ているようなものだ。そして一枚の布をフードの様に被って顔を隠している。
そんな彼等の後ろには、白い鎧を身に纏った兵士の様な人達。何だこのコスプレ軍団は。
そして、その中でも一人だけ顔を出している、長いくすんだ金髪を持つ男はローブ軍団に左右から腕を掴まれて動きを止められているようだ。
金の髪。本来なら俺も持つその色。隣でまだ眠っている、長髪の男よりも鮮やかなプラチナブロンドと呼ばれる髪を持つ片割れへと視線を落とす。煙は散っていて、さっきよりも旭がよく見える。旭を起こさねぇと…。
「旭…起きろ。」
『金の髪!神子様だ!』
『倒れていらっしゃるぞ!』
『衛兵何をしている!あの魔族を捕らえよ!』
旭の肩を掴んで軽く揺すると、ガチャガチャと金属音を鳴らして近付いてきた兵士もどき達。……金属音?まさか本物の鎧?
思わず動きを止めていると、頭に強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。グラつく頭、遅れてやってきた痛み。
「うぐッ!」
『神子様に触るな!汚らわしい魔族め!』
殴られたのだと理解するよりも早く、彼等が言っている“まぞく”が俺の事なんだと、頭の中にストンと落ちてきた。
更に腹を蹴られて俯せにさせられたかと思うと、首を冷たい何かで押さえられた。兵士が持っていた槍の石突きらしい物が視界の隅に見えるが頭と腹の痛みでそれどころじゃない。噎せて息がうまくできない。
流石の俺も、悪意ある言葉を幾度と無く向けられはしても暴力を受けた事は無いからだ。取っ組み合いの喧嘩だってした事は無い。
初めての息が詰まるという感覚に、長い前髪の下で涙目になる。
『神子は無事か!』
『は…はい、眠っておられるだけのようです。』
「っケホ………さひ…。」
何なんだ、俺は何でいきなりこんな目にあっている?何故何もしていないのに殴られ、蹴られなきゃいけない。背中に乗っかってくる重みで、見えないがもしかしたら踏まれているかもしれない。
こんな場所に、眠ったままの旭…彼等の言う“みこ”は旭の事だろうかと頭の片隅で思うが、いきなり暴力を奮ってくる奴等だ。危険なんてもんじゃない、旭を連れて早く逃げなきゃ、殺されてしまうかもしれない。
押さえ付けてくる柄のせいで動きづらい頭を動かして旭を見ると、長髪とローブの一人が旭に触れていた。
「っ、触るな!旭に触んじゃねぇ!」
『なっ、いきなり暴れ始めたぞ!』
「旭、起きろ旭!お前だけでも逃げろ!旭ぃっ!」
両手を地面について起き上がろうと必死にもがく。
『また呪いの言葉!?ま、まさか神子様を呪うつもりでは!』
『なんておぞましい!早くその穢らわしい魔族を神域から連れ出して牢へ繋げ!』
『はっ!』
「さっきからまぞくって何だよ!?何で俺の言葉通じてないんだ…!離せ、旭!」
殴られながらも暴れるのをやめないでいると、後頭部を殴られたらしい。痛みを感じるよりも早く、俺の意識は闇に落ちていった。
人が眠ってるって言うのに…………眠っている?
何で俺は寝ていた?さっきまで学校に行くのに走っていなかったか?
一度疑問を抱いたら、今俺が横たわる場所も気になった。冷たく硬い感触が服越しに伝わってくるからだ。
起き上がろうと手に力を込めた事により、俺の右手が何かを――旭の手を握っている事に気付いて目を開けながらそちらへと顔を向ける。良かった、旭が居る。俺が仰向けで、旭が俯せだ。右手同士を繋げていた。
俺達は気を失っていたらしい。意識を落とす前のあの光は、何だったんだろう。
未だにぼんやりとして視界も怪しい頭を抱えながら上体を起こす。すると、周囲のざわめきがより強くなったように感じられた。
『ひっ!?』
『おい嘘だろ…気を付けろ!』
『そんな、何故魔族が…!』
まぞく…?頭を振り目を擦って改めて周囲を見渡す。ドライアイスでも使ったかのように煙が床付近に漂っているが、俺は自分が先程まで居た通学路とは違う場所に居ることが分かった。
「…何処だ、ここ。」
まるで大聖堂の中のような、パッと見石造りの天井の高い建物の中だった。壁にはステンドグラスも並んでいる。俺達が寝転がっていた場所は、祭壇か?正面に大勢の人が居て見下ろせるくらい高い。
『な、何かを言ったぞ!』
『呪いの言葉か!?』
俺が小さく呟いた言葉に対して驚かれている。いきなりの展開で思考回路が追い付いていない。
『儀式は失敗したのか!?』
『そんな、まさか……いや待て!もう一人居るぞ!』
『殿下、お待ちください!危険です!』
声のする方を見ると、壇上にも俺達以外の人が居たらしい。半円を描くように俺と旭を囲っていた。
その服装は白を基調としたローブの様なもので、名前はど忘れしたが結婚式で神父が着ているようなものだ。そして一枚の布をフードの様に被って顔を隠している。
そんな彼等の後ろには、白い鎧を身に纏った兵士の様な人達。何だこのコスプレ軍団は。
そして、その中でも一人だけ顔を出している、長いくすんだ金髪を持つ男はローブ軍団に左右から腕を掴まれて動きを止められているようだ。
金の髪。本来なら俺も持つその色。隣でまだ眠っている、長髪の男よりも鮮やかなプラチナブロンドと呼ばれる髪を持つ片割れへと視線を落とす。煙は散っていて、さっきよりも旭がよく見える。旭を起こさねぇと…。
「旭…起きろ。」
『金の髪!神子様だ!』
『倒れていらっしゃるぞ!』
『衛兵何をしている!あの魔族を捕らえよ!』
旭の肩を掴んで軽く揺すると、ガチャガチャと金属音を鳴らして近付いてきた兵士もどき達。……金属音?まさか本物の鎧?
思わず動きを止めていると、頭に強い衝撃を受けて吹き飛ばされた。グラつく頭、遅れてやってきた痛み。
「うぐッ!」
『神子様に触るな!汚らわしい魔族め!』
殴られたのだと理解するよりも早く、彼等が言っている“まぞく”が俺の事なんだと、頭の中にストンと落ちてきた。
更に腹を蹴られて俯せにさせられたかと思うと、首を冷たい何かで押さえられた。兵士が持っていた槍の石突きらしい物が視界の隅に見えるが頭と腹の痛みでそれどころじゃない。噎せて息がうまくできない。
流石の俺も、悪意ある言葉を幾度と無く向けられはしても暴力を受けた事は無いからだ。取っ組み合いの喧嘩だってした事は無い。
初めての息が詰まるという感覚に、長い前髪の下で涙目になる。
『神子は無事か!』
『は…はい、眠っておられるだけのようです。』
「っケホ………さひ…。」
何なんだ、俺は何でいきなりこんな目にあっている?何故何もしていないのに殴られ、蹴られなきゃいけない。背中に乗っかってくる重みで、見えないがもしかしたら踏まれているかもしれない。
こんな場所に、眠ったままの旭…彼等の言う“みこ”は旭の事だろうかと頭の片隅で思うが、いきなり暴力を奮ってくる奴等だ。危険なんてもんじゃない、旭を連れて早く逃げなきゃ、殺されてしまうかもしれない。
押さえ付けてくる柄のせいで動きづらい頭を動かして旭を見ると、長髪とローブの一人が旭に触れていた。
「っ、触るな!旭に触んじゃねぇ!」
『なっ、いきなり暴れ始めたぞ!』
「旭、起きろ旭!お前だけでも逃げろ!旭ぃっ!」
両手を地面について起き上がろうと必死にもがく。
『また呪いの言葉!?ま、まさか神子様を呪うつもりでは!』
『なんておぞましい!早くその穢らわしい魔族を神域から連れ出して牢へ繋げ!』
『はっ!』
「さっきからまぞくって何だよ!?何で俺の言葉通じてないんだ…!離せ、旭!」
殴られながらも暴れるのをやめないでいると、後頭部を殴られたらしい。痛みを感じるよりも早く、俺の意識は闇に落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる