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二章
26話 ゲームの先 / クレイ
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< 小さな設定 >
クレイは下町育ちで、かなりやんちゃしてました
< 小話 >
――随分昔の下町で
盤上の駒は厳しい。これを負けたら懐の中身はすっからかんだ。
「ほらほら。早く動かせよ」
囃す相手を睨みつけて黙らせる。喧嘩勝負ならまず負けない、頭も切れると自負しているのに、下町の駒取り遊び達人であるこいつにまだ一勝もできていない。くっそ! この盤たたき割ってやろうかと思っていたところに、男が塀を乗り越えてくるのが見えた。走る男の上着の端が駒を僅かに弾く。
「おっと、失礼」
優男風のいいところのぼんぼんが軽く言う。ふざけんな! こっちは持ち金がかかっているんだ。
「おい! 邪魔した落とし前つけてもらおうか?!」
とりあえず、生活費ぐらいは金持ちから巻き上げようと思って怒鳴りつける。飄々と、すまないねと男は笑う。へらへらとしている態度がむかついた。塀の向こうから、騒がしく誰かを探す声がする。こいつ追われてるのか? 簀巻きにして塀の向こうに返してやろうか……
「おっと、もう追いかけてきた。ちょっと耳を貸してくれるかな?」
そう言って肩を引いて男が俺の耳にささやく。右五を前に三つ進めたら、道が開ける。上手く君の指し手を私が読めてれば三手先で勝てるはずだ、呆然とする俺をおいて駆けだしていく。
読めてたらってなんだ?! 盤を見ただけだろう?
それでも、今はお手上げ状態だからやけくそで男の言った場所に駒を置く。
「おい。なんだこれ?! 変なところに置きやがって」
困った風でもなく男が指しかえす。あんまり変わってないから、とりあえずいつものやり方で次の駒をさしたら情勢が変わる。駒取り達人の顔が青くなって、その目線の先に答えを見つけた。次の一手で俺の勝ちだ。有り金倍増。俺の横をばたばたと優男を追いかけている様子の男たちが駆け抜ける。
「仕事してくるわ。貴族のぼんぼんだったら、喧嘩を買い取ってやったら幾らくれるかねぇ」
懐はあったかい。喧嘩を買い取るより、どうして一駒動かして、俺の勝ちが読めたのか聞いてみたかった。優男の頭の中に興味がある。
立ち上がって、追いかける男たちの背を追う。駒取り名人が情けなく声を上げる。
「クレイ。儲かったらおごれよ。負けた俺はすっからかんだ」
「金貨一枚になったらおごる。じゃあな」
武器も何にもいらない。体一つで喧嘩の肩代わりをして、この界隈で上り詰めてきた。いつもの喧嘩仕事。
それが、この後の出会いの所為で、まったく違う世界に身を置くことになるとは誰にも想像できないだろう?
世の中は何が起こるか、駒取りゲームの先よりもわからない。
クレイは下町育ちで、かなりやんちゃしてました
< 小話 >
――随分昔の下町で
盤上の駒は厳しい。これを負けたら懐の中身はすっからかんだ。
「ほらほら。早く動かせよ」
囃す相手を睨みつけて黙らせる。喧嘩勝負ならまず負けない、頭も切れると自負しているのに、下町の駒取り遊び達人であるこいつにまだ一勝もできていない。くっそ! この盤たたき割ってやろうかと思っていたところに、男が塀を乗り越えてくるのが見えた。走る男の上着の端が駒を僅かに弾く。
「おっと、失礼」
優男風のいいところのぼんぼんが軽く言う。ふざけんな! こっちは持ち金がかかっているんだ。
「おい! 邪魔した落とし前つけてもらおうか?!」
とりあえず、生活費ぐらいは金持ちから巻き上げようと思って怒鳴りつける。飄々と、すまないねと男は笑う。へらへらとしている態度がむかついた。塀の向こうから、騒がしく誰かを探す声がする。こいつ追われてるのか? 簀巻きにして塀の向こうに返してやろうか……
「おっと、もう追いかけてきた。ちょっと耳を貸してくれるかな?」
そう言って肩を引いて男が俺の耳にささやく。右五を前に三つ進めたら、道が開ける。上手く君の指し手を私が読めてれば三手先で勝てるはずだ、呆然とする俺をおいて駆けだしていく。
読めてたらってなんだ?! 盤を見ただけだろう?
それでも、今はお手上げ状態だからやけくそで男の言った場所に駒を置く。
「おい。なんだこれ?! 変なところに置きやがって」
困った風でもなく男が指しかえす。あんまり変わってないから、とりあえずいつものやり方で次の駒をさしたら情勢が変わる。駒取り達人の顔が青くなって、その目線の先に答えを見つけた。次の一手で俺の勝ちだ。有り金倍増。俺の横をばたばたと優男を追いかけている様子の男たちが駆け抜ける。
「仕事してくるわ。貴族のぼんぼんだったら、喧嘩を買い取ってやったら幾らくれるかねぇ」
懐はあったかい。喧嘩を買い取るより、どうして一駒動かして、俺の勝ちが読めたのか聞いてみたかった。優男の頭の中に興味がある。
立ち上がって、追いかける男たちの背を追う。駒取り名人が情けなく声を上げる。
「クレイ。儲かったらおごれよ。負けた俺はすっからかんだ」
「金貨一枚になったらおごる。じゃあな」
武器も何にもいらない。体一つで喧嘩の肩代わりをして、この界隈で上り詰めてきた。いつもの喧嘩仕事。
それが、この後の出会いの所為で、まったく違う世界に身を置くことになるとは誰にも想像できないだろう?
世の中は何が起こるか、駒取りゲームの先よりもわからない。
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