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二章
29話 朝の笑顔 / マリーゼ
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< 小さな設定 >
マリーゼの身長は155センチぐらいです。
12歳キャロルは150センチにちょっとたりないぐらいになりました。
< 小話 >
――公になる前のある一日
短い銀の髪を梳いていく。以前よりあっという間に終わってしまうのが、悲しい。物足りなくて、今日はお嬢様が髪を切って以来、初めて私からやり直しを申し出る。
「もう少し趣向を変えても宜しいですか?」
「もちろんです! かっこよくして下さい!」
鏡の中で紫色の目が楽しそうに笑う。
――マリーゼ。助けて下さい。私を男の子にしてください
そう言われて、乱暴に切った髪を直しながら、何度大声で泣きそうになっただろう。
ご成功を祈っております、お坊ちゃま。そう笑顔で送り出した後、銀の髪を拾いながら泣いた。
その晩も、成功を褒めて寝かしつけた後、自室で枕に顔を押し付けて泣き疲れるまで泣いた。
悲しかった。どうして? 理由が分からなかったけど、紫の瞳に決して引かない意志があったのは分っていた。
「こんな感じはどうですか?」
有りがちだけど、後ろに撫でつけてみる。綺麗な顔立ちがはっきりとして、なかなか華やかな出来栄えだ。
「かっこいい! 大人みたいですよね? あ、でも額は気になります」
やり取りに懐かしさを思い出す。長い髪を三つ編みにして、お団子にして、二人で毎日色々してきた。
「では、違うのにしましょう」
満足の出来栄えだと、お嬢様はいつも蕩けそうな笑顔になる。
短い髪にクリームをつけて跳ねるように髪に癖をつけていく。あっという間で手応えのない髪を整える作業だ。
鏡に映る顔を確認する。思ったのと少し違う。お嬢様が貴公子ならもっと上品さが欲しいと思った。
癖を残すところと撫でつけるところを微妙に変えていく。私が一番知っているから、誰より一番うまくできる。久しぶりに夢中になって髪を整える。
「これは自信作です」
緩やかな癖をつけた甘い雰囲気に清潔感のある仕上がり。鏡の中で、紫の瞳に銀の髪の貴公子が顔を綻ばせる。
「マリーゼ、最高です! これは大好き!」
蕩けそうな笑顔にようやく私は、この笑顔があればいいんだって気付く。
小さい頃から毎日見ていた朝一番の私だけの笑顔。
この笑顔に会えなかった数日、私は何をやっていたの?
「ありがとうございます。お……」
「やっぱり短い髪は今までと勝手が違いますか?」
鏡に映るお嬢様の僅かに心配を浮かべた顔に、私は落ち込んで自分が手を抜いていたのだと気づく。そして、お嬢様はそれに気づいて不安になっていた事も理解する。侍女失格!
「申し訳ございません。今、いろいろ考案中です。もう少しで完成なので、お楽しみにしていてくださいね」
鏡の中の嬉しそうな顔に私の心が一気に浮上する。
髪を恋しむ暇があれば、この笑顔を恋しむのを何故忘れた!
長さなんて関係ない大切な方の笑顔は私の手で作ることができる。私の仕事は、この方の朝一番の笑顔を作る事!
「国一番の貴公子にするとお約束いたしました。ノエルお坊ちゃま」
蕩けるように鏡の中で、私の大切な貴公子が笑う。
私の「お坊ちゃまデザインノート」の初日は始まりの日より少し遅く、この日から始まった。
マリーゼの身長は155センチぐらいです。
12歳キャロルは150センチにちょっとたりないぐらいになりました。
< 小話 >
――公になる前のある一日
短い銀の髪を梳いていく。以前よりあっという間に終わってしまうのが、悲しい。物足りなくて、今日はお嬢様が髪を切って以来、初めて私からやり直しを申し出る。
「もう少し趣向を変えても宜しいですか?」
「もちろんです! かっこよくして下さい!」
鏡の中で紫色の目が楽しそうに笑う。
――マリーゼ。助けて下さい。私を男の子にしてください
そう言われて、乱暴に切った髪を直しながら、何度大声で泣きそうになっただろう。
ご成功を祈っております、お坊ちゃま。そう笑顔で送り出した後、銀の髪を拾いながら泣いた。
その晩も、成功を褒めて寝かしつけた後、自室で枕に顔を押し付けて泣き疲れるまで泣いた。
悲しかった。どうして? 理由が分からなかったけど、紫の瞳に決して引かない意志があったのは分っていた。
「こんな感じはどうですか?」
有りがちだけど、後ろに撫でつけてみる。綺麗な顔立ちがはっきりとして、なかなか華やかな出来栄えだ。
「かっこいい! 大人みたいですよね? あ、でも額は気になります」
やり取りに懐かしさを思い出す。長い髪を三つ編みにして、お団子にして、二人で毎日色々してきた。
「では、違うのにしましょう」
満足の出来栄えだと、お嬢様はいつも蕩けそうな笑顔になる。
短い髪にクリームをつけて跳ねるように髪に癖をつけていく。あっという間で手応えのない髪を整える作業だ。
鏡に映る顔を確認する。思ったのと少し違う。お嬢様が貴公子ならもっと上品さが欲しいと思った。
癖を残すところと撫でつけるところを微妙に変えていく。私が一番知っているから、誰より一番うまくできる。久しぶりに夢中になって髪を整える。
「これは自信作です」
緩やかな癖をつけた甘い雰囲気に清潔感のある仕上がり。鏡の中で、紫の瞳に銀の髪の貴公子が顔を綻ばせる。
「マリーゼ、最高です! これは大好き!」
蕩けそうな笑顔にようやく私は、この笑顔があればいいんだって気付く。
小さい頃から毎日見ていた朝一番の私だけの笑顔。
この笑顔に会えなかった数日、私は何をやっていたの?
「ありがとうございます。お……」
「やっぱり短い髪は今までと勝手が違いますか?」
鏡に映るお嬢様の僅かに心配を浮かべた顔に、私は落ち込んで自分が手を抜いていたのだと気づく。そして、お嬢様はそれに気づいて不安になっていた事も理解する。侍女失格!
「申し訳ございません。今、いろいろ考案中です。もう少しで完成なので、お楽しみにしていてくださいね」
鏡の中の嬉しそうな顔に私の心が一気に浮上する。
髪を恋しむ暇があれば、この笑顔を恋しむのを何故忘れた!
長さなんて関係ない大切な方の笑顔は私の手で作ることができる。私の仕事は、この方の朝一番の笑顔を作る事!
「国一番の貴公子にするとお約束いたしました。ノエルお坊ちゃま」
蕩けるように鏡の中で、私の大切な貴公子が笑う。
私の「お坊ちゃまデザインノート」の初日は始まりの日より少し遅く、この日から始まった。
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