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序章
9話 読み聞かせ / ジル
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学園とお城はそれ程離れてないです。
< 小話 >
――読み聞かせ
ケットの端を掴んでそっと肩まで掛けると、紫の瞳が楽しそうに私をじっと見つめます。
「今日も早くベッドに入りました。絵本の続きを呼んでくださいね」
愛らしい声でねだるのは寝る前の朗読です。周到に今日もベッドサイドには、続きの絵本が用意されておりました。
「ジルの声はとても良いです。お気に入りです。とてもよく眠れるのです」
少しだけ照れてそう言った顔はとても微笑ましい。思わず小さい頃お世話をしていた子供達にしていたように、その頭を撫でると嬉しそうに目を細めます。
「畏まりました。今日も少しだけでございますよ。昨日の続きから始めましょう」
そう告げて小さな椅子に座って絵本を開きます。私も小さい頃から何度も呼んで親しみのある聖女シーナの物語です。
しおりを挟んであるページを開いて、続きを読み始めます。
――
西の大地に現れた魔物がこの国を襲い始めました。
勇敢な王と臣下達はその地に魔王を倒す為に旅立ちました。
聖女シーナは毎夜、小さな王子を抱いて遠い西の空を見つめて祈ります。
どうか、ご無事で。
どうか、この国の未来を守ってください。
しかし、魔物はとても強く国王はなかなか勝つことができません。
・
・
・
・
・
・
この国は聖女の愛により救われました。
でも、聖女は二度と帰る事はありません。
ですが ――
――
困りました。途中で寝て頂く筈でしたが、結末直前でキャロル様が泣き始めてしまいました。
「ジ、ジ、ジル。かなしぃです。なんで……帰らないんですぅ……うぅっ……ひっく、ひっ」
小さな子供の泣き顔というのは、どうしてこんなにも胸を締め付けて、そして愛しいのでしょうか。
いつか遠い昔。自分がもっとも落ち着くことが出来たのが何だったのかを思います。
「キャロル様。秘密ですよ」
従者の行動としてやや逸脱しておりますが、致し方ありません。
ベッドに腰を掛けてそっと手を広げると、小さな体は直ぐに私の胸に飛び込んできました。
震えて泣くその背を撫で続けながら、私の母は私をどんな風に慰めたのかを思い出します。
急に心細くなった晩、痩せた手はどんな風に私を慰めてくれたのか。
浅い吐息はどんな風に声を掛けてくれたのか。
母と同じ様に、銀の髪に頬を寄せて、そっと背中を撫で少しだけ体を揺らします。
私はキャロル様を守る揺り籠。心を落ち着かせて、そっと優しい夢に導く揺り籠になりましょう。
「大丈夫です。私はずっとおります。ご安心下さい」
胸の中で小さな子供が何度も何度も頷きました。
どれ程の時間が経ったのでしょうか。しゃくりあげていた吐息は、規則正しい寝息に変わりました。
ゆっくりと抱き上げて、小さな体をベッドにそっと横たえます。
ケットを肩まで掛けると、絵本にしおりを挟み悲しい物語はベッドサイドに戻しました。
悲しい物語は絵本の中だけで結構です。
どんなに美しい物語になろうとも、どんなに功績が残ろうとも、
人が人を失うのは本当に悲しく辛い事ですから。
乱れた銀の髪を撫で、涙の痕が残る頬をそっと拭くと、楽しい夢を見て下さっているのかキャロル様の寝顔が綻びました。
その無垢な笑顔に私は心から祈ります。
貴方の紡ぐ未来の物語は、幸せな結末でありますように。
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