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四章
71話 寝たふり / ソレーヌ(十代新婚)
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おそくなり、すみません。
ジルの秘密は今回のラストの予定でしたが、前半が長引いて入りませんでした。
今週も次回金曜の二回更新が目標です。今のところ三分の一まで進行中。
計算が間違っていなければ、 < 残り四話 > で本編は年内終了予定です!
あと少しだけ物語にお付き合いください。
<小さな設定>
結界は公共施設に張られます。図書館、学校、お城、音楽ホール。
最も多いのが魔法の使用禁止です。図書館なんかは水使用の禁止なんかもあるかもしれません。
結界は公共マナーの一部です。
↓小話は、結婚したばかりの十代のソレーヌと二十代前半のレオナールのお話。
愛されている自信は、どうやって育ったのかというお話です。
本編が恋愛の薄い時期なので、久しぶりに少し触れ合いのある話を書きたかったんです。
< 小話 >
―― 寝たふり (ソレーヌ)
結婚して早一年が経つ。
かつては両手に剣を持ち、月夜の王城の裏庭で、弱い男の求愛を力で切り捨てた。
そして今は、太陽に照らされた美しい庭で、剣ではなくティーカップを片手に夫人社交に明け暮れる。名を知らぬ者はいないアングラード侯爵、私はその妻として一つの派閥を率いなくてはいけなかった。
この生活をつまらないと思う。
楽団の音色より、ぶつかり合う剣戟の音が好きだった。
甘い焼き菓子の匂いと花の香りより、戦いに舞う砂ぼこりの香りの方が心地良かった。
裏をかき合う会話の緊張より、刃が身の側を滑る緊張のほうがずっと興奮した。
お茶会の精神的な疲れに重くなった体で、ベッドに飛び込む。腕を掲げて自分の手を見れば、以前はあった剣だこも消えてしまった。
「剣が持ちたい! 剣が持ちたい! 剣! 剣! 剣!!」
ごろごろとベットに転がると長い銀の髪が自分に絡まる。この髪も剣があったらバッサリと切ってしまいたい。
夫が剣を扱える人なら気分転換に別邸で手合わせが出来る。でも、私の夫は剣は一切持たないし、触らない。その事に触れると紫の瞳は酷く暗い色になる。理由は知っているから、口にはしたくなかった。
「間違えた! 結婚相手を間違えました! 私は私より強い騎士様と結婚する筈でした!」」
ベッドの上で泳ぐように両手と両足をばたつかせる。
自分が騎士になれないならば、私はこの国で一番強い人と結婚したかった。毎日二人で鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、絶対に楽しいと思う。
何かを間違えて、私が愛してしまったのは文官筆頭の国政管理室の人だ。優秀な人材が集まる部署はとにかく忙しい。特に期待を背負っているらしい夫は、忙しい過ぎて全然帰って来ない。
「寂しいっから、早く帰ってきて! じゃないと逃げてしまいますわよ!」
夫のいない屋敷にいる時は、ずっと一人な気がする。
結婚を反対されて、私は私らしさを隠した。
美しい邸宅に美しい庭、完璧な使用人。何もかもが生家のピロイエ伯爵家より上。釣り合わなければいけないから、アングラードに似つかわしくない私らしさを抑える。
そんな私を、儚げで美しいと使用人は褒める。口数が少ないのも控えめで結構だと喜ぶ。
「違いますから。本当の私じゃないんです……」
本当は男の子のような性格だと言われる事も、剣が好きで社交が嫌いという事も言えない。
せめて、私を知る貴方が側に居てくれたらいいのにと思う。
剣を持ってくれなくても、鍛錬に付き合ってくれなくてもいい。
つまらないと思う事を隣で聞いて、私が私らしく話すのを見て甘く笑って欲しい。
だけど、貴方はちっとも帰って来ない。
「愛が不足しています!」
ケットを頭からかぶってランプの灯を落とす。
赤みのある茶色の髪に紫の瞳。整った顔立ちは、いつも悪戯するような微笑みを浮かべる。
社交界で最も甘い顔立ちで、甘い言葉を囁くと言われたレオナール。彼との結婚生活をたくさんの夫人が羨む。
でも、一人で寝る夜と一緒に寝る夜。前者の方が多い。帰ってきてない夜を数えながら眠りに落ちる。
微睡みの中でドアが静かに閉じる音がした。剣を好む私は戦いを好む。小さな気配で簡単に覚醒するのも得意だ。
部屋の中に、私以外の甘い香りが混じる。暖かな人の気配がベッドの側に立った。
今日は帰ってきたんだと気づくと、私は寝たふりを決め込む。
気配がベットの端に静かに腰かけて、スプリングが軽く揺れる。
剣を持たない人の手は、とても柔らかくて滑らかだった。その指が私の髪を優しく梳いて、一房掬いあげる。きっと髪にキスを落としているのだと思う。
レオナールは最初は必ず、髪を愛撫する。月の光のみたいと言いながら、大切な物を扱う様に髪に触れる。そして長いキスを何度も落とす。
今宵も時間をかけて、私の髪にレオナールが触れる。何度キスを落としただろう、どのくらい唇で触れただろう。長い長い時間、私の髪に触れ続ける。
「食べたい」
低すぎない甘い声が小さく呟く。
大切な物みたいに触れるくせに、実は食べ物のとして見ていたとは初めて知った。食べないでと真剣に思う。髪には味も滋養もない。
「我慢。我慢だ、私。ソレーヌは寝てるんだ」
言い聞かせるように呟いて、レオナールが髪から手を離す。私の髪は食べられずに済む。
「可愛い寝顔に触れるだけだ」
今度は起こさない程度に指が優しく眦を撫でた。それから頬を、鼻筋を、顎を滑る様に撫でていく。
「……っ、噛みたい。食べたい」
今日のレオナールは腹ペコのヴォルハみたいだ。
お腹が空くなら先にダイニングに行ったほうがいい。大丈夫。使用人は優秀で、夜中であっても当主の夜食はすぐ用意される。
私もまた目を覚ますから、どうぞ先にお食事を。心の中でそう呟く。
指先が軽く唇を叩いた。悩むような吐息をレオナールが落として、優しく唇を何度も指が往復する。
「愛くるしい」
撫でる刺激の心地よさに僅かに口を開いて、失敗したと思う。今から閉じたら、目を覚ましてるのが分ってしまう。仕方ないので、少し開けたまま放置を決める。
「――だ、反則!」
苦痛を滲ませた艶のある声でレオナールが呟く。
レオナールの声は苦しそうな時まで、どうしてこんなに甘いのだろう。耳の奥が痺れるような気がして、思わず手を伸ばして上げたくなってしまう。
ところで、私は反則と言われる罠的な何かを、枕もとに置いただろうか。心当たりはない。
「あぁ! 可愛いから、もう少しだ」
耳元でベットが軋む音がした。耳の側に僅かに熱を感じるから、私の顔の横にレオナールの腕があるのだろう。
次に額に落ちたのは唇だった。近づいたレオナールの香りが私の中を一杯にする。
指と同じように額から触れて、頬に触れる。鼻先に落ちて、顎の先にも落ちる。耳に触れると擽る吐息に、思わず声を上げそうになった。
グッと気合で声を飲み込んで、寝たふり続ける。
いつもは、私はここで声を上げてしまって、目覚めた事になる。そこからは、いつも通りのレオナールしか見れない。
外向き好青年のレオナールは、実はかなり捻くれてる。言葉も本心が捩じれて飾りがとても多くなる。
寝てる私に呟く言葉には、装飾がない。甘い装飾だらけの言葉も嫌いじゃない。でも、装飾のない言葉は私だけしか知らない言葉だから一番好きだった。
今回はいつもより、いない時間が寂しかった。だから、もう少しだけ特別な愛しい人を楽しむ。
「ソレーヌ、好き。可愛い。好き。綺麗だ。愛してる」
私の全てに静かに唇を落としながら、甘い声が囁き続ける。
眩暈がしそうな甘さにうっとりと沈む。誰にも見せないレオナールを私だけが知る度に、私は絶対に愛されている自信を深める。
貴方は私を絶対に愛してる。
「ソレーヌ。食べたい。今すぐ。愛しい。苦しいぐらい好き」
今日は本当にお腹が空いてるのか、いつもと少し違う言葉が混ざる。でも、これは生存危機を感じてか、胸がすごくどきどきする。
撫でるように首筋を唇が滑って、肩口を軽く噛む。背筋を走る甘い感覚に思わず息を止めそうになる。
見えないケットの中で、ベットのシーツを掴んで声を上げるのを耐える。
「あぁ、駄目な流れ! これ、耐えられない! ソレーヌを起こしたい!!」
ベットが大きく軋んで体が沈んだ。被さる様に私の顔を覗き込む気配と同時に、愛しい人の重みと熱さが軽く私の体に触れる。
耳に寄せた唇が、息を遊ばせて囁く。
「起こしていい? 甘く甘く溶かすように起こすから……ごめん」
一瞬で自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
言葉通りに、レオナールの唇が耳に触れて耳朶を噛む。落ちる息を何度も飲み込むと、唇に唇が重ねられる。小さく噛んだ甘い痛みに、レオナールが食べたいのなら、私は何でも食べられてしまおうと思う。
剣をティーカップに持ち替えたのも、夢と違う結婚を望んだのも、全て貴方が好きだから。
「……んっぅ」
我慢できなくなった吐息が小さく声になって漏れる。満足気に笑う気配がして、楽し気な声が寄せた耳元で囁く。
「ただいま、私の愛しい女神様。君を夢から醒ますつもりはなかったんだ。でも、とても可愛いくて触れてしまった」
嘘ばっかりだ。起こす気満々だったのは、ちゃんと聞いていた。レオナールはやっぱり捩じれてるし、捻くれてる。
目を開けると、真っ暗だった室内には少しだけ月明かりがあった。
薄闇の中で、レオナールが最初の決まりを繰り返す。私の髪をまた掬って口づけながら、紫の瞳で幸せそうに見下ろす。
「おかえりなさい、レオナール。寂しかったから、たくさん愛を囁いて」
レオナールは私を絶対に愛してる。貴方が愛してくれるなら、私は強いから何でもできる。
そして、私は貴方を絶対に愛している。強い貴方は私を絶対に離さない。
「愛しい女神さまの望み通りに。愛してるよ」
頭を抱える様に髪を梳いて、レオナールの体の重みが私にしっかりと重なった。愛を囁きながら落とされた唇に、今度は私も望まれるままに応えていく。
私とレオナールの甘い甘い時間の二幕目が開く。
――――――
ジルの秘密は今回のラストの予定でしたが、前半が長引いて入りませんでした。
今週も次回金曜の二回更新が目標です。今のところ三分の一まで進行中。
計算が間違っていなければ、 < 残り四話 > で本編は年内終了予定です!
あと少しだけ物語にお付き合いください。
<小さな設定>
結界は公共施設に張られます。図書館、学校、お城、音楽ホール。
最も多いのが魔法の使用禁止です。図書館なんかは水使用の禁止なんかもあるかもしれません。
結界は公共マナーの一部です。
↓小話は、結婚したばかりの十代のソレーヌと二十代前半のレオナールのお話。
愛されている自信は、どうやって育ったのかというお話です。
本編が恋愛の薄い時期なので、久しぶりに少し触れ合いのある話を書きたかったんです。
< 小話 >
―― 寝たふり (ソレーヌ)
結婚して早一年が経つ。
かつては両手に剣を持ち、月夜の王城の裏庭で、弱い男の求愛を力で切り捨てた。
そして今は、太陽に照らされた美しい庭で、剣ではなくティーカップを片手に夫人社交に明け暮れる。名を知らぬ者はいないアングラード侯爵、私はその妻として一つの派閥を率いなくてはいけなかった。
この生活をつまらないと思う。
楽団の音色より、ぶつかり合う剣戟の音が好きだった。
甘い焼き菓子の匂いと花の香りより、戦いに舞う砂ぼこりの香りの方が心地良かった。
裏をかき合う会話の緊張より、刃が身の側を滑る緊張のほうがずっと興奮した。
お茶会の精神的な疲れに重くなった体で、ベッドに飛び込む。腕を掲げて自分の手を見れば、以前はあった剣だこも消えてしまった。
「剣が持ちたい! 剣が持ちたい! 剣! 剣! 剣!!」
ごろごろとベットに転がると長い銀の髪が自分に絡まる。この髪も剣があったらバッサリと切ってしまいたい。
夫が剣を扱える人なら気分転換に別邸で手合わせが出来る。でも、私の夫は剣は一切持たないし、触らない。その事に触れると紫の瞳は酷く暗い色になる。理由は知っているから、口にはしたくなかった。
「間違えた! 結婚相手を間違えました! 私は私より強い騎士様と結婚する筈でした!」」
ベッドの上で泳ぐように両手と両足をばたつかせる。
自分が騎士になれないならば、私はこの国で一番強い人と結婚したかった。毎日二人で鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、絶対に楽しいと思う。
何かを間違えて、私が愛してしまったのは文官筆頭の国政管理室の人だ。優秀な人材が集まる部署はとにかく忙しい。特に期待を背負っているらしい夫は、忙しい過ぎて全然帰って来ない。
「寂しいっから、早く帰ってきて! じゃないと逃げてしまいますわよ!」
夫のいない屋敷にいる時は、ずっと一人な気がする。
結婚を反対されて、私は私らしさを隠した。
美しい邸宅に美しい庭、完璧な使用人。何もかもが生家のピロイエ伯爵家より上。釣り合わなければいけないから、アングラードに似つかわしくない私らしさを抑える。
そんな私を、儚げで美しいと使用人は褒める。口数が少ないのも控えめで結構だと喜ぶ。
「違いますから。本当の私じゃないんです……」
本当は男の子のような性格だと言われる事も、剣が好きで社交が嫌いという事も言えない。
せめて、私を知る貴方が側に居てくれたらいいのにと思う。
剣を持ってくれなくても、鍛錬に付き合ってくれなくてもいい。
つまらないと思う事を隣で聞いて、私が私らしく話すのを見て甘く笑って欲しい。
だけど、貴方はちっとも帰って来ない。
「愛が不足しています!」
ケットを頭からかぶってランプの灯を落とす。
赤みのある茶色の髪に紫の瞳。整った顔立ちは、いつも悪戯するような微笑みを浮かべる。
社交界で最も甘い顔立ちで、甘い言葉を囁くと言われたレオナール。彼との結婚生活をたくさんの夫人が羨む。
でも、一人で寝る夜と一緒に寝る夜。前者の方が多い。帰ってきてない夜を数えながら眠りに落ちる。
微睡みの中でドアが静かに閉じる音がした。剣を好む私は戦いを好む。小さな気配で簡単に覚醒するのも得意だ。
部屋の中に、私以外の甘い香りが混じる。暖かな人の気配がベッドの側に立った。
今日は帰ってきたんだと気づくと、私は寝たふりを決め込む。
気配がベットの端に静かに腰かけて、スプリングが軽く揺れる。
剣を持たない人の手は、とても柔らかくて滑らかだった。その指が私の髪を優しく梳いて、一房掬いあげる。きっと髪にキスを落としているのだと思う。
レオナールは最初は必ず、髪を愛撫する。月の光のみたいと言いながら、大切な物を扱う様に髪に触れる。そして長いキスを何度も落とす。
今宵も時間をかけて、私の髪にレオナールが触れる。何度キスを落としただろう、どのくらい唇で触れただろう。長い長い時間、私の髪に触れ続ける。
「食べたい」
低すぎない甘い声が小さく呟く。
大切な物みたいに触れるくせに、実は食べ物のとして見ていたとは初めて知った。食べないでと真剣に思う。髪には味も滋養もない。
「我慢。我慢だ、私。ソレーヌは寝てるんだ」
言い聞かせるように呟いて、レオナールが髪から手を離す。私の髪は食べられずに済む。
「可愛い寝顔に触れるだけだ」
今度は起こさない程度に指が優しく眦を撫でた。それから頬を、鼻筋を、顎を滑る様に撫でていく。
「……っ、噛みたい。食べたい」
今日のレオナールは腹ペコのヴォルハみたいだ。
お腹が空くなら先にダイニングに行ったほうがいい。大丈夫。使用人は優秀で、夜中であっても当主の夜食はすぐ用意される。
私もまた目を覚ますから、どうぞ先にお食事を。心の中でそう呟く。
指先が軽く唇を叩いた。悩むような吐息をレオナールが落として、優しく唇を何度も指が往復する。
「愛くるしい」
撫でる刺激の心地よさに僅かに口を開いて、失敗したと思う。今から閉じたら、目を覚ましてるのが分ってしまう。仕方ないので、少し開けたまま放置を決める。
「――だ、反則!」
苦痛を滲ませた艶のある声でレオナールが呟く。
レオナールの声は苦しそうな時まで、どうしてこんなに甘いのだろう。耳の奥が痺れるような気がして、思わず手を伸ばして上げたくなってしまう。
ところで、私は反則と言われる罠的な何かを、枕もとに置いただろうか。心当たりはない。
「あぁ! 可愛いから、もう少しだ」
耳元でベットが軋む音がした。耳の側に僅かに熱を感じるから、私の顔の横にレオナールの腕があるのだろう。
次に額に落ちたのは唇だった。近づいたレオナールの香りが私の中を一杯にする。
指と同じように額から触れて、頬に触れる。鼻先に落ちて、顎の先にも落ちる。耳に触れると擽る吐息に、思わず声を上げそうになった。
グッと気合で声を飲み込んで、寝たふり続ける。
いつもは、私はここで声を上げてしまって、目覚めた事になる。そこからは、いつも通りのレオナールしか見れない。
外向き好青年のレオナールは、実はかなり捻くれてる。言葉も本心が捩じれて飾りがとても多くなる。
寝てる私に呟く言葉には、装飾がない。甘い装飾だらけの言葉も嫌いじゃない。でも、装飾のない言葉は私だけしか知らない言葉だから一番好きだった。
今回はいつもより、いない時間が寂しかった。だから、もう少しだけ特別な愛しい人を楽しむ。
「ソレーヌ、好き。可愛い。好き。綺麗だ。愛してる」
私の全てに静かに唇を落としながら、甘い声が囁き続ける。
眩暈がしそうな甘さにうっとりと沈む。誰にも見せないレオナールを私だけが知る度に、私は絶対に愛されている自信を深める。
貴方は私を絶対に愛してる。
「ソレーヌ。食べたい。今すぐ。愛しい。苦しいぐらい好き」
今日は本当にお腹が空いてるのか、いつもと少し違う言葉が混ざる。でも、これは生存危機を感じてか、胸がすごくどきどきする。
撫でるように首筋を唇が滑って、肩口を軽く噛む。背筋を走る甘い感覚に思わず息を止めそうになる。
見えないケットの中で、ベットのシーツを掴んで声を上げるのを耐える。
「あぁ、駄目な流れ! これ、耐えられない! ソレーヌを起こしたい!!」
ベットが大きく軋んで体が沈んだ。被さる様に私の顔を覗き込む気配と同時に、愛しい人の重みと熱さが軽く私の体に触れる。
耳に寄せた唇が、息を遊ばせて囁く。
「起こしていい? 甘く甘く溶かすように起こすから……ごめん」
一瞬で自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
言葉通りに、レオナールの唇が耳に触れて耳朶を噛む。落ちる息を何度も飲み込むと、唇に唇が重ねられる。小さく噛んだ甘い痛みに、レオナールが食べたいのなら、私は何でも食べられてしまおうと思う。
剣をティーカップに持ち替えたのも、夢と違う結婚を望んだのも、全て貴方が好きだから。
「……んっぅ」
我慢できなくなった吐息が小さく声になって漏れる。満足気に笑う気配がして、楽し気な声が寄せた耳元で囁く。
「ただいま、私の愛しい女神様。君を夢から醒ますつもりはなかったんだ。でも、とても可愛いくて触れてしまった」
嘘ばっかりだ。起こす気満々だったのは、ちゃんと聞いていた。レオナールはやっぱり捩じれてるし、捻くれてる。
目を開けると、真っ暗だった室内には少しだけ月明かりがあった。
薄闇の中で、レオナールが最初の決まりを繰り返す。私の髪をまた掬って口づけながら、紫の瞳で幸せそうに見下ろす。
「おかえりなさい、レオナール。寂しかったから、たくさん愛を囁いて」
レオナールは私を絶対に愛してる。貴方が愛してくれるなら、私は強いから何でもできる。
そして、私は貴方を絶対に愛している。強い貴方は私を絶対に離さない。
「愛しい女神さまの望み通りに。愛してるよ」
頭を抱える様に髪を梳いて、レオナールの体の重みが私にしっかりと重なった。愛を囁きながら落とされた唇に、今度は私も望まれるままに応えていく。
私とレオナールの甘い甘い時間の二幕目が開く。
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