49 / 49
四章
71話 寝たふり / ソレーヌ(十代新婚)
しおりを挟む
おそくなり、すみません。
ジルの秘密は今回のラストの予定でしたが、前半が長引いて入りませんでした。
今週も次回金曜の二回更新が目標です。今のところ三分の一まで進行中。
計算が間違っていなければ、 < 残り四話 > で本編は年内終了予定です!
あと少しだけ物語にお付き合いください。
<小さな設定>
結界は公共施設に張られます。図書館、学校、お城、音楽ホール。
最も多いのが魔法の使用禁止です。図書館なんかは水使用の禁止なんかもあるかもしれません。
結界は公共マナーの一部です。
↓小話は、結婚したばかりの十代のソレーヌと二十代前半のレオナールのお話。
愛されている自信は、どうやって育ったのかというお話です。
本編が恋愛の薄い時期なので、久しぶりに少し触れ合いのある話を書きたかったんです。
< 小話 >
―― 寝たふり (ソレーヌ)
結婚して早一年が経つ。
かつては両手に剣を持ち、月夜の王城の裏庭で、弱い男の求愛を力で切り捨てた。
そして今は、太陽に照らされた美しい庭で、剣ではなくティーカップを片手に夫人社交に明け暮れる。名を知らぬ者はいないアングラード侯爵、私はその妻として一つの派閥を率いなくてはいけなかった。
この生活をつまらないと思う。
楽団の音色より、ぶつかり合う剣戟の音が好きだった。
甘い焼き菓子の匂いと花の香りより、戦いに舞う砂ぼこりの香りの方が心地良かった。
裏をかき合う会話の緊張より、刃が身の側を滑る緊張のほうがずっと興奮した。
お茶会の精神的な疲れに重くなった体で、ベッドに飛び込む。腕を掲げて自分の手を見れば、以前はあった剣だこも消えてしまった。
「剣が持ちたい! 剣が持ちたい! 剣! 剣! 剣!!」
ごろごろとベットに転がると長い銀の髪が自分に絡まる。この髪も剣があったらバッサリと切ってしまいたい。
夫が剣を扱える人なら気分転換に別邸で手合わせが出来る。でも、私の夫は剣は一切持たないし、触らない。その事に触れると紫の瞳は酷く暗い色になる。理由は知っているから、口にはしたくなかった。
「間違えた! 結婚相手を間違えました! 私は私より強い騎士様と結婚する筈でした!」」
ベッドの上で泳ぐように両手と両足をばたつかせる。
自分が騎士になれないならば、私はこの国で一番強い人と結婚したかった。毎日二人で鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、絶対に楽しいと思う。
何かを間違えて、私が愛してしまったのは文官筆頭の国政管理室の人だ。優秀な人材が集まる部署はとにかく忙しい。特に期待を背負っているらしい夫は、忙しい過ぎて全然帰って来ない。
「寂しいっから、早く帰ってきて! じゃないと逃げてしまいますわよ!」
夫のいない屋敷にいる時は、ずっと一人な気がする。
結婚を反対されて、私は私らしさを隠した。
美しい邸宅に美しい庭、完璧な使用人。何もかもが生家のピロイエ伯爵家より上。釣り合わなければいけないから、アングラードに似つかわしくない私らしさを抑える。
そんな私を、儚げで美しいと使用人は褒める。口数が少ないのも控えめで結構だと喜ぶ。
「違いますから。本当の私じゃないんです……」
本当は男の子のような性格だと言われる事も、剣が好きで社交が嫌いという事も言えない。
せめて、私を知る貴方が側に居てくれたらいいのにと思う。
剣を持ってくれなくても、鍛錬に付き合ってくれなくてもいい。
つまらないと思う事を隣で聞いて、私が私らしく話すのを見て甘く笑って欲しい。
だけど、貴方はちっとも帰って来ない。
「愛が不足しています!」
ケットを頭からかぶってランプの灯を落とす。
赤みのある茶色の髪に紫の瞳。整った顔立ちは、いつも悪戯するような微笑みを浮かべる。
社交界で最も甘い顔立ちで、甘い言葉を囁くと言われたレオナール。彼との結婚生活をたくさんの夫人が羨む。
でも、一人で寝る夜と一緒に寝る夜。前者の方が多い。帰ってきてない夜を数えながら眠りに落ちる。
微睡みの中でドアが静かに閉じる音がした。剣を好む私は戦いを好む。小さな気配で簡単に覚醒するのも得意だ。
部屋の中に、私以外の甘い香りが混じる。暖かな人の気配がベッドの側に立った。
今日は帰ってきたんだと気づくと、私は寝たふりを決め込む。
気配がベットの端に静かに腰かけて、スプリングが軽く揺れる。
剣を持たない人の手は、とても柔らかくて滑らかだった。その指が私の髪を優しく梳いて、一房掬いあげる。きっと髪にキスを落としているのだと思う。
レオナールは最初は必ず、髪を愛撫する。月の光のみたいと言いながら、大切な物を扱う様に髪に触れる。そして長いキスを何度も落とす。
今宵も時間をかけて、私の髪にレオナールが触れる。何度キスを落としただろう、どのくらい唇で触れただろう。長い長い時間、私の髪に触れ続ける。
「食べたい」
低すぎない甘い声が小さく呟く。
大切な物みたいに触れるくせに、実は食べ物のとして見ていたとは初めて知った。食べないでと真剣に思う。髪には味も滋養もない。
「我慢。我慢だ、私。ソレーヌは寝てるんだ」
言い聞かせるように呟いて、レオナールが髪から手を離す。私の髪は食べられずに済む。
「可愛い寝顔に触れるだけだ」
今度は起こさない程度に指が優しく眦を撫でた。それから頬を、鼻筋を、顎を滑る様に撫でていく。
「……っ、噛みたい。食べたい」
今日のレオナールは腹ペコのヴォルハみたいだ。
お腹が空くなら先にダイニングに行ったほうがいい。大丈夫。使用人は優秀で、夜中であっても当主の夜食はすぐ用意される。
私もまた目を覚ますから、どうぞ先にお食事を。心の中でそう呟く。
指先が軽く唇を叩いた。悩むような吐息をレオナールが落として、優しく唇を何度も指が往復する。
「愛くるしい」
撫でる刺激の心地よさに僅かに口を開いて、失敗したと思う。今から閉じたら、目を覚ましてるのが分ってしまう。仕方ないので、少し開けたまま放置を決める。
「――だ、反則!」
苦痛を滲ませた艶のある声でレオナールが呟く。
レオナールの声は苦しそうな時まで、どうしてこんなに甘いのだろう。耳の奥が痺れるような気がして、思わず手を伸ばして上げたくなってしまう。
ところで、私は反則と言われる罠的な何かを、枕もとに置いただろうか。心当たりはない。
「あぁ! 可愛いから、もう少しだ」
耳元でベットが軋む音がした。耳の側に僅かに熱を感じるから、私の顔の横にレオナールの腕があるのだろう。
次に額に落ちたのは唇だった。近づいたレオナールの香りが私の中を一杯にする。
指と同じように額から触れて、頬に触れる。鼻先に落ちて、顎の先にも落ちる。耳に触れると擽る吐息に、思わず声を上げそうになった。
グッと気合で声を飲み込んで、寝たふり続ける。
いつもは、私はここで声を上げてしまって、目覚めた事になる。そこからは、いつも通りのレオナールしか見れない。
外向き好青年のレオナールは、実はかなり捻くれてる。言葉も本心が捩じれて飾りがとても多くなる。
寝てる私に呟く言葉には、装飾がない。甘い装飾だらけの言葉も嫌いじゃない。でも、装飾のない言葉は私だけしか知らない言葉だから一番好きだった。
今回はいつもより、いない時間が寂しかった。だから、もう少しだけ特別な愛しい人を楽しむ。
「ソレーヌ、好き。可愛い。好き。綺麗だ。愛してる」
私の全てに静かに唇を落としながら、甘い声が囁き続ける。
眩暈がしそうな甘さにうっとりと沈む。誰にも見せないレオナールを私だけが知る度に、私は絶対に愛されている自信を深める。
貴方は私を絶対に愛してる。
「ソレーヌ。食べたい。今すぐ。愛しい。苦しいぐらい好き」
今日は本当にお腹が空いてるのか、いつもと少し違う言葉が混ざる。でも、これは生存危機を感じてか、胸がすごくどきどきする。
撫でるように首筋を唇が滑って、肩口を軽く噛む。背筋を走る甘い感覚に思わず息を止めそうになる。
見えないケットの中で、ベットのシーツを掴んで声を上げるのを耐える。
「あぁ、駄目な流れ! これ、耐えられない! ソレーヌを起こしたい!!」
ベットが大きく軋んで体が沈んだ。被さる様に私の顔を覗き込む気配と同時に、愛しい人の重みと熱さが軽く私の体に触れる。
耳に寄せた唇が、息を遊ばせて囁く。
「起こしていい? 甘く甘く溶かすように起こすから……ごめん」
一瞬で自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
言葉通りに、レオナールの唇が耳に触れて耳朶を噛む。落ちる息を何度も飲み込むと、唇に唇が重ねられる。小さく噛んだ甘い痛みに、レオナールが食べたいのなら、私は何でも食べられてしまおうと思う。
剣をティーカップに持ち替えたのも、夢と違う結婚を望んだのも、全て貴方が好きだから。
「……んっぅ」
我慢できなくなった吐息が小さく声になって漏れる。満足気に笑う気配がして、楽し気な声が寄せた耳元で囁く。
「ただいま、私の愛しい女神様。君を夢から醒ますつもりはなかったんだ。でも、とても可愛いくて触れてしまった」
嘘ばっかりだ。起こす気満々だったのは、ちゃんと聞いていた。レオナールはやっぱり捩じれてるし、捻くれてる。
目を開けると、真っ暗だった室内には少しだけ月明かりがあった。
薄闇の中で、レオナールが最初の決まりを繰り返す。私の髪をまた掬って口づけながら、紫の瞳で幸せそうに見下ろす。
「おかえりなさい、レオナール。寂しかったから、たくさん愛を囁いて」
レオナールは私を絶対に愛してる。貴方が愛してくれるなら、私は強いから何でもできる。
そして、私は貴方を絶対に愛している。強い貴方は私を絶対に離さない。
「愛しい女神さまの望み通りに。愛してるよ」
頭を抱える様に髪を梳いて、レオナールの体の重みが私にしっかりと重なった。愛を囁きながら落とされた唇に、今度は私も望まれるままに応えていく。
私とレオナールの甘い甘い時間の二幕目が開く。
――――――
ジルの秘密は今回のラストの予定でしたが、前半が長引いて入りませんでした。
今週も次回金曜の二回更新が目標です。今のところ三分の一まで進行中。
計算が間違っていなければ、 < 残り四話 > で本編は年内終了予定です!
あと少しだけ物語にお付き合いください。
<小さな設定>
結界は公共施設に張られます。図書館、学校、お城、音楽ホール。
最も多いのが魔法の使用禁止です。図書館なんかは水使用の禁止なんかもあるかもしれません。
結界は公共マナーの一部です。
↓小話は、結婚したばかりの十代のソレーヌと二十代前半のレオナールのお話。
愛されている自信は、どうやって育ったのかというお話です。
本編が恋愛の薄い時期なので、久しぶりに少し触れ合いのある話を書きたかったんです。
< 小話 >
―― 寝たふり (ソレーヌ)
結婚して早一年が経つ。
かつては両手に剣を持ち、月夜の王城の裏庭で、弱い男の求愛を力で切り捨てた。
そして今は、太陽に照らされた美しい庭で、剣ではなくティーカップを片手に夫人社交に明け暮れる。名を知らぬ者はいないアングラード侯爵、私はその妻として一つの派閥を率いなくてはいけなかった。
この生活をつまらないと思う。
楽団の音色より、ぶつかり合う剣戟の音が好きだった。
甘い焼き菓子の匂いと花の香りより、戦いに舞う砂ぼこりの香りの方が心地良かった。
裏をかき合う会話の緊張より、刃が身の側を滑る緊張のほうがずっと興奮した。
お茶会の精神的な疲れに重くなった体で、ベッドに飛び込む。腕を掲げて自分の手を見れば、以前はあった剣だこも消えてしまった。
「剣が持ちたい! 剣が持ちたい! 剣! 剣! 剣!!」
ごろごろとベットに転がると長い銀の髪が自分に絡まる。この髪も剣があったらバッサリと切ってしまいたい。
夫が剣を扱える人なら気分転換に別邸で手合わせが出来る。でも、私の夫は剣は一切持たないし、触らない。その事に触れると紫の瞳は酷く暗い色になる。理由は知っているから、口にはしたくなかった。
「間違えた! 結婚相手を間違えました! 私は私より強い騎士様と結婚する筈でした!」」
ベッドの上で泳ぐように両手と両足をばたつかせる。
自分が騎士になれないならば、私はこの国で一番強い人と結婚したかった。毎日二人で鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、鍛錬して、戦って、絶対に楽しいと思う。
何かを間違えて、私が愛してしまったのは文官筆頭の国政管理室の人だ。優秀な人材が集まる部署はとにかく忙しい。特に期待を背負っているらしい夫は、忙しい過ぎて全然帰って来ない。
「寂しいっから、早く帰ってきて! じゃないと逃げてしまいますわよ!」
夫のいない屋敷にいる時は、ずっと一人な気がする。
結婚を反対されて、私は私らしさを隠した。
美しい邸宅に美しい庭、完璧な使用人。何もかもが生家のピロイエ伯爵家より上。釣り合わなければいけないから、アングラードに似つかわしくない私らしさを抑える。
そんな私を、儚げで美しいと使用人は褒める。口数が少ないのも控えめで結構だと喜ぶ。
「違いますから。本当の私じゃないんです……」
本当は男の子のような性格だと言われる事も、剣が好きで社交が嫌いという事も言えない。
せめて、私を知る貴方が側に居てくれたらいいのにと思う。
剣を持ってくれなくても、鍛錬に付き合ってくれなくてもいい。
つまらないと思う事を隣で聞いて、私が私らしく話すのを見て甘く笑って欲しい。
だけど、貴方はちっとも帰って来ない。
「愛が不足しています!」
ケットを頭からかぶってランプの灯を落とす。
赤みのある茶色の髪に紫の瞳。整った顔立ちは、いつも悪戯するような微笑みを浮かべる。
社交界で最も甘い顔立ちで、甘い言葉を囁くと言われたレオナール。彼との結婚生活をたくさんの夫人が羨む。
でも、一人で寝る夜と一緒に寝る夜。前者の方が多い。帰ってきてない夜を数えながら眠りに落ちる。
微睡みの中でドアが静かに閉じる音がした。剣を好む私は戦いを好む。小さな気配で簡単に覚醒するのも得意だ。
部屋の中に、私以外の甘い香りが混じる。暖かな人の気配がベッドの側に立った。
今日は帰ってきたんだと気づくと、私は寝たふりを決め込む。
気配がベットの端に静かに腰かけて、スプリングが軽く揺れる。
剣を持たない人の手は、とても柔らかくて滑らかだった。その指が私の髪を優しく梳いて、一房掬いあげる。きっと髪にキスを落としているのだと思う。
レオナールは最初は必ず、髪を愛撫する。月の光のみたいと言いながら、大切な物を扱う様に髪に触れる。そして長いキスを何度も落とす。
今宵も時間をかけて、私の髪にレオナールが触れる。何度キスを落としただろう、どのくらい唇で触れただろう。長い長い時間、私の髪に触れ続ける。
「食べたい」
低すぎない甘い声が小さく呟く。
大切な物みたいに触れるくせに、実は食べ物のとして見ていたとは初めて知った。食べないでと真剣に思う。髪には味も滋養もない。
「我慢。我慢だ、私。ソレーヌは寝てるんだ」
言い聞かせるように呟いて、レオナールが髪から手を離す。私の髪は食べられずに済む。
「可愛い寝顔に触れるだけだ」
今度は起こさない程度に指が優しく眦を撫でた。それから頬を、鼻筋を、顎を滑る様に撫でていく。
「……っ、噛みたい。食べたい」
今日のレオナールは腹ペコのヴォルハみたいだ。
お腹が空くなら先にダイニングに行ったほうがいい。大丈夫。使用人は優秀で、夜中であっても当主の夜食はすぐ用意される。
私もまた目を覚ますから、どうぞ先にお食事を。心の中でそう呟く。
指先が軽く唇を叩いた。悩むような吐息をレオナールが落として、優しく唇を何度も指が往復する。
「愛くるしい」
撫でる刺激の心地よさに僅かに口を開いて、失敗したと思う。今から閉じたら、目を覚ましてるのが分ってしまう。仕方ないので、少し開けたまま放置を決める。
「――だ、反則!」
苦痛を滲ませた艶のある声でレオナールが呟く。
レオナールの声は苦しそうな時まで、どうしてこんなに甘いのだろう。耳の奥が痺れるような気がして、思わず手を伸ばして上げたくなってしまう。
ところで、私は反則と言われる罠的な何かを、枕もとに置いただろうか。心当たりはない。
「あぁ! 可愛いから、もう少しだ」
耳元でベットが軋む音がした。耳の側に僅かに熱を感じるから、私の顔の横にレオナールの腕があるのだろう。
次に額に落ちたのは唇だった。近づいたレオナールの香りが私の中を一杯にする。
指と同じように額から触れて、頬に触れる。鼻先に落ちて、顎の先にも落ちる。耳に触れると擽る吐息に、思わず声を上げそうになった。
グッと気合で声を飲み込んで、寝たふり続ける。
いつもは、私はここで声を上げてしまって、目覚めた事になる。そこからは、いつも通りのレオナールしか見れない。
外向き好青年のレオナールは、実はかなり捻くれてる。言葉も本心が捩じれて飾りがとても多くなる。
寝てる私に呟く言葉には、装飾がない。甘い装飾だらけの言葉も嫌いじゃない。でも、装飾のない言葉は私だけしか知らない言葉だから一番好きだった。
今回はいつもより、いない時間が寂しかった。だから、もう少しだけ特別な愛しい人を楽しむ。
「ソレーヌ、好き。可愛い。好き。綺麗だ。愛してる」
私の全てに静かに唇を落としながら、甘い声が囁き続ける。
眩暈がしそうな甘さにうっとりと沈む。誰にも見せないレオナールを私だけが知る度に、私は絶対に愛されている自信を深める。
貴方は私を絶対に愛してる。
「ソレーヌ。食べたい。今すぐ。愛しい。苦しいぐらい好き」
今日は本当にお腹が空いてるのか、いつもと少し違う言葉が混ざる。でも、これは生存危機を感じてか、胸がすごくどきどきする。
撫でるように首筋を唇が滑って、肩口を軽く噛む。背筋を走る甘い感覚に思わず息を止めそうになる。
見えないケットの中で、ベットのシーツを掴んで声を上げるのを耐える。
「あぁ、駄目な流れ! これ、耐えられない! ソレーヌを起こしたい!!」
ベットが大きく軋んで体が沈んだ。被さる様に私の顔を覗き込む気配と同時に、愛しい人の重みと熱さが軽く私の体に触れる。
耳に寄せた唇が、息を遊ばせて囁く。
「起こしていい? 甘く甘く溶かすように起こすから……ごめん」
一瞬で自分の顔が真っ赤になったのが分かった。
言葉通りに、レオナールの唇が耳に触れて耳朶を噛む。落ちる息を何度も飲み込むと、唇に唇が重ねられる。小さく噛んだ甘い痛みに、レオナールが食べたいのなら、私は何でも食べられてしまおうと思う。
剣をティーカップに持ち替えたのも、夢と違う結婚を望んだのも、全て貴方が好きだから。
「……んっぅ」
我慢できなくなった吐息が小さく声になって漏れる。満足気に笑う気配がして、楽し気な声が寄せた耳元で囁く。
「ただいま、私の愛しい女神様。君を夢から醒ますつもりはなかったんだ。でも、とても可愛いくて触れてしまった」
嘘ばっかりだ。起こす気満々だったのは、ちゃんと聞いていた。レオナールはやっぱり捩じれてるし、捻くれてる。
目を開けると、真っ暗だった室内には少しだけ月明かりがあった。
薄闇の中で、レオナールが最初の決まりを繰り返す。私の髪をまた掬って口づけながら、紫の瞳で幸せそうに見下ろす。
「おかえりなさい、レオナール。寂しかったから、たくさん愛を囁いて」
レオナールは私を絶対に愛してる。貴方が愛してくれるなら、私は強いから何でもできる。
そして、私は貴方を絶対に愛している。強い貴方は私を絶対に離さない。
「愛しい女神さまの望み通りに。愛してるよ」
頭を抱える様に髪を梳いて、レオナールの体の重みが私にしっかりと重なった。愛を囁きながら落とされた唇に、今度は私も望まれるままに応えていく。
私とレオナールの甘い甘い時間の二幕目が開く。
――――――
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の大きな勘違い
神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。
もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし
封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。
お気に入り、感想お願いします!
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………
naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話………
でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ?
まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら?
少女はパタンッと本を閉じる。
そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて──
アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな!
くははははっ!!!
静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
こんばんは。
53話中心と一歩ですが、始めのクラス分けの部分にドニが騎士科にもいて、ディエリがいませんよ。
もか様
いつも、ありがとうございます。
ドニ → ディエリに修正致しました。
大きな見落としでしたので、本当に助かりました。
楽しく読ませて頂いてます。
まだまだ暑いですが、物語の世界では夏はどう過ごすものなのでしょうね。
もか様
感想、有難うございます。
この世界の気候の設定は、温暖で落差が少ないイメージです。
春は小春日和ぐらい、夏は時々すごく暑いぐらい、秋は涼しくて、冬は寒くても雪はふらない。
37話の小話として、「ある暑い日の話」を作らせて頂きました楽しんで頂けたら嬉しいです。