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六月二日 将太、売人を片付ける
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午後三時にアルバイトを終えた桜田将太は、寄り道せずに真っ直ぐ自宅へと帰る。職場の同僚とは、必要なこと以外ほとんど口をきかない。もちろん、同僚たちと遊んだり飲みに行ったりなどしない。そんな下らないことに費やしている時間など、今の将太にはないのだ。
脇目も振らず真っ直ぐ自宅に帰り、着替えると同時にトレーニングが始まる。まずは、家の近くにある市民センターの体育館にあるトレーニングルームに行き、ウェイトトレーニングに励むのだ。
バーベルやダンベル、そしてマシンの並ぶトレーニングルーム。その片隅で、将太はひとり黙々とトレーニングに励む。格闘戦においては、パワーこそがもっとも重要な要素……将太はそれを理解している。どんな優れた技を持っていようとも、圧倒的なパワーと体格差の前には、為す術なく敗北してしまうのだ。ボクシングにおいて、細かく階級が分けられているのもその為である。ボクシングでは一階級違えば、パンチ力もダメージに耐えられる強さも段違いだ。
だからこそ、将太はウエイトトレーニングを欠かさない。自分の闘いには体重制などないのだ。時には、百キロを超えるような相手と闘うこともある。だからこそ、ウエイトトレーニングで最低限のパワーは付けておく。パワーはどのような状況であれ、効果を発揮できる。
見るからに華奢でひ弱な少女が、訳のわからない武術の奥義を用いて百キロを超える大男をKOできるのは、アニメやマンガなどのフィクションの世界だからだ。現実の格闘戦では、パワーの重要性は無視できない。将太はその事実を、理屈ではなく肌身で学んでいる。
トレーニングルームでのウエイトトレーニングを終えると、将太はその場でクレアチンやグルタミンといったサプリメントを摂取する。そして、またしても寄り道せずに自宅へと帰るのだ。酒は飲まないしギャンブルもやらない。風俗にも行かない。そんなものに費やす金と時間は、今の将太は持ち合わせていないのだから。
家に帰ると同時に、将太は食事をとる。鶏肉と野菜中心のメニューであり、味付けは薄い。
食事の後は、胃が落ち着くまで一時間ほど待つ。
その後、自室にある砂袋に拳や脛、足首といった部位を打ち付ける。これは、サンドバッグを叩くトレーニングとは違う。あくまでも、拳と足を強くするためのものだ。砂袋でコツコツ鍛えることにより、拳と足は鍛えられ、凶器に変わる。侍が刀を研ぐのと同じようなものだ。
拳と足の鍛練が終わると、将太は服を着替える。そして、またしても出かけるのだ。
ここからは、夜の部のトレーニングである。
深夜の繁華街を徘徊する将太は黒いパーカーを着て、フードをすっぽりと被っている。手には防刃のグローブ、足には安全靴。この格好で、将太は目立たないように街を徘徊する。
目当てのものは、すぐに見つかった。
目の前を、数人の少年たちが闊歩していた。大声で話しながら我が物顔で歩き、周囲の者たちに威嚇するような視線を送っている。こいつらは間違いなくクズだ。たとえ死んだとしても、誰も困らないだろう。
将太はニヤリと笑う。気配を殺し、彼らがひとけの無い場所に移動するまで、素知らぬ顔で後を付ける。彼らのような不良少年たちは、放っておいても、そういった場所に移動してくれるものだ。
将太は跡をつけながら、少年たちの戦力を分析する。人数は四人。全員、五十キロから六十キロ程度だ。体つきや立ち振舞い、歩き方などから察するに、格闘技の経験者はいない。いても素人に毛の生えたレベルだ。
彼らは将太の予想通り、人のいない路地裏へと入って行く。
今だ……将太は口を開いた。
「お前ら、こんな所で何やってんだよ。邪魔だろうが。さっさと家に帰れ」
後ろからそんな声をかけると、少年たちは振り返る。
「ああン!? てめえ何なんだよ! 誰にンな口きいてんだ!」
わめきながら、将太を取り囲み威嚇するような表情で睨む少年たち。その時、将太は動いた。
手近な少年の顎に、左ジャブからの右ストレートを叩き込む。何やらわめいていた少年の口は、大きく開いていたのだ。その開かれた下顎に全体重を乗せたストレートが炸裂し、少年は一瞬にして意識を刈り取られた。
他の少年たちは、ポカンとしている。目の前で何が起きたのか、事態を呑み込めていないのだ。
そもそも、彼らのような少年たちの喧嘩は、まず罵り合いから始まる。相手を大声で罵ることで相手を威圧し、同時に自らを興奮状態に持っていく。テンションを上げた状態になって、初めて手を出す。それが、彼らの喧嘩の際のセオリーだった。
しかし、将太はその第一段階をすっ飛ばし、いきなり闘いを始めてしまったのだ。少年たちは、完全に不意を突かれた形となった。
しかも、将太のパンチは素人が力任せに殴るものとは根本的に違うのだ。スピードも威力も桁違いである。
一方、将太は動き始めたら止まらない。ここで少しでも間を空けると、少年たちの内に反撃する気持ちが生まれるかもしれないのだ。闘いは始めた以上、速やかに終わらせなくてはならない。将太は、他の少年たちに猛然と襲いかかって行く──
少年たちは何も対応できぬまま、次々と倒されていった。
あっさり終わった、かに思えたが
「この野郎、いきなり何しやがる……俺は小津だ、桑原興行でヤクを捌いてんだぞ。こんなことして、ただで済むと思うな……」
倒れたうちのひとりが顔を上げ、呻きながらも脅しの言葉を口にした。よく見ると、その男だけは年齢が上だ。二十代後半から三十代前半といったところか。周りで倒れている少年たちとは、明らかに違う雰囲気である。
ヤクを捌く、つまりは違法薬物の売人だ。
「お前、小津ってのか。桑原興行ねえ……そんなの知らねえよ!」
そう言うと同時に、将太は小津の顔面を蹴り飛ばした。目の前の男に対し、強い怒りがこみ上げてくる。他者の力を当てにし、自身の力であるかのように吹聴する。それは、将太のもっとも嫌いなタイプだ。
「てめえはヤクザなのかよ? だったらヤクザらしく、カッコよく死んでみせな!」
そう言いながら、将太は蹴り続けた。
何度も、何度も──
やがて、小津と名乗った男は動かなくなった。将太は周囲を見回すと、何事も無かったかのような表情で立ち去っていく。
脇目も振らず真っ直ぐ自宅に帰り、着替えると同時にトレーニングが始まる。まずは、家の近くにある市民センターの体育館にあるトレーニングルームに行き、ウェイトトレーニングに励むのだ。
バーベルやダンベル、そしてマシンの並ぶトレーニングルーム。その片隅で、将太はひとり黙々とトレーニングに励む。格闘戦においては、パワーこそがもっとも重要な要素……将太はそれを理解している。どんな優れた技を持っていようとも、圧倒的なパワーと体格差の前には、為す術なく敗北してしまうのだ。ボクシングにおいて、細かく階級が分けられているのもその為である。ボクシングでは一階級違えば、パンチ力もダメージに耐えられる強さも段違いだ。
だからこそ、将太はウエイトトレーニングを欠かさない。自分の闘いには体重制などないのだ。時には、百キロを超えるような相手と闘うこともある。だからこそ、ウエイトトレーニングで最低限のパワーは付けておく。パワーはどのような状況であれ、効果を発揮できる。
見るからに華奢でひ弱な少女が、訳のわからない武術の奥義を用いて百キロを超える大男をKOできるのは、アニメやマンガなどのフィクションの世界だからだ。現実の格闘戦では、パワーの重要性は無視できない。将太はその事実を、理屈ではなく肌身で学んでいる。
トレーニングルームでのウエイトトレーニングを終えると、将太はその場でクレアチンやグルタミンといったサプリメントを摂取する。そして、またしても寄り道せずに自宅へと帰るのだ。酒は飲まないしギャンブルもやらない。風俗にも行かない。そんなものに費やす金と時間は、今の将太は持ち合わせていないのだから。
家に帰ると同時に、将太は食事をとる。鶏肉と野菜中心のメニューであり、味付けは薄い。
食事の後は、胃が落ち着くまで一時間ほど待つ。
その後、自室にある砂袋に拳や脛、足首といった部位を打ち付ける。これは、サンドバッグを叩くトレーニングとは違う。あくまでも、拳と足を強くするためのものだ。砂袋でコツコツ鍛えることにより、拳と足は鍛えられ、凶器に変わる。侍が刀を研ぐのと同じようなものだ。
拳と足の鍛練が終わると、将太は服を着替える。そして、またしても出かけるのだ。
ここからは、夜の部のトレーニングである。
深夜の繁華街を徘徊する将太は黒いパーカーを着て、フードをすっぽりと被っている。手には防刃のグローブ、足には安全靴。この格好で、将太は目立たないように街を徘徊する。
目当てのものは、すぐに見つかった。
目の前を、数人の少年たちが闊歩していた。大声で話しながら我が物顔で歩き、周囲の者たちに威嚇するような視線を送っている。こいつらは間違いなくクズだ。たとえ死んだとしても、誰も困らないだろう。
将太はニヤリと笑う。気配を殺し、彼らがひとけの無い場所に移動するまで、素知らぬ顔で後を付ける。彼らのような不良少年たちは、放っておいても、そういった場所に移動してくれるものだ。
将太は跡をつけながら、少年たちの戦力を分析する。人数は四人。全員、五十キロから六十キロ程度だ。体つきや立ち振舞い、歩き方などから察するに、格闘技の経験者はいない。いても素人に毛の生えたレベルだ。
彼らは将太の予想通り、人のいない路地裏へと入って行く。
今だ……将太は口を開いた。
「お前ら、こんな所で何やってんだよ。邪魔だろうが。さっさと家に帰れ」
後ろからそんな声をかけると、少年たちは振り返る。
「ああン!? てめえ何なんだよ! 誰にンな口きいてんだ!」
わめきながら、将太を取り囲み威嚇するような表情で睨む少年たち。その時、将太は動いた。
手近な少年の顎に、左ジャブからの右ストレートを叩き込む。何やらわめいていた少年の口は、大きく開いていたのだ。その開かれた下顎に全体重を乗せたストレートが炸裂し、少年は一瞬にして意識を刈り取られた。
他の少年たちは、ポカンとしている。目の前で何が起きたのか、事態を呑み込めていないのだ。
そもそも、彼らのような少年たちの喧嘩は、まず罵り合いから始まる。相手を大声で罵ることで相手を威圧し、同時に自らを興奮状態に持っていく。テンションを上げた状態になって、初めて手を出す。それが、彼らの喧嘩の際のセオリーだった。
しかし、将太はその第一段階をすっ飛ばし、いきなり闘いを始めてしまったのだ。少年たちは、完全に不意を突かれた形となった。
しかも、将太のパンチは素人が力任せに殴るものとは根本的に違うのだ。スピードも威力も桁違いである。
一方、将太は動き始めたら止まらない。ここで少しでも間を空けると、少年たちの内に反撃する気持ちが生まれるかもしれないのだ。闘いは始めた以上、速やかに終わらせなくてはならない。将太は、他の少年たちに猛然と襲いかかって行く──
少年たちは何も対応できぬまま、次々と倒されていった。
あっさり終わった、かに思えたが
「この野郎、いきなり何しやがる……俺は小津だ、桑原興行でヤクを捌いてんだぞ。こんなことして、ただで済むと思うな……」
倒れたうちのひとりが顔を上げ、呻きながらも脅しの言葉を口にした。よく見ると、その男だけは年齢が上だ。二十代後半から三十代前半といったところか。周りで倒れている少年たちとは、明らかに違う雰囲気である。
ヤクを捌く、つまりは違法薬物の売人だ。
「お前、小津ってのか。桑原興行ねえ……そんなの知らねえよ!」
そう言うと同時に、将太は小津の顔面を蹴り飛ばした。目の前の男に対し、強い怒りがこみ上げてくる。他者の力を当てにし、自身の力であるかのように吹聴する。それは、将太のもっとも嫌いなタイプだ。
「てめえはヤクザなのかよ? だったらヤクザらしく、カッコよく死んでみせな!」
そう言いながら、将太は蹴り続けた。
何度も、何度も──
やがて、小津と名乗った男は動かなくなった。将太は周囲を見回すと、何事も無かったかのような表情で立ち去っていく。
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