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最強の猫人は誰だ!?
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この世界には、人間はいない。
この世界を支配する者……それは、猫人である。
猫人といっても、どこぞの萌えキャラのように猫耳の付いた人間ではない。彼らの見た目は、二足歩行する猫である。毛も生えてるし、顔にはヒゲもある。
そんな猫人だが、我々人間と同じくらいの大きさであり、肉球の付いた手で器用に物を掴むことも出来るのだ。一応、衣服も着ている。
彼らの中では、格闘の強さこそが何より尊ばれる。そのため、猫人たちは日々バトルに明け暮れていた。中でも特に強い者は、闘猫士と呼ばれて敬われていた。
そして今、猫人の中でも評判の男が降り立つ。
男の名は、ニャッキー・チェン。ニャンフーという独特のファイトスタイルで闘うグレーの毛色をした闘猫士である。彼は、闘猫士の中でも噂に名高い男と闘うため、ニャンコン地方にやって来たのだ。
「ニャッキー、大丈夫かニャ?」
セコンドを務めるサモニャンが、不安そうに尋ねる。彼はぽっちゃりした体型のハチワレで、ニャッキーの親友なのだ。
その問いに、ニャッキーは自信にみちた顔で頷いた。
「フッ、大丈夫だニャ。きっと勝って見せるニャ」
そう言うと、彼は目的地へと向かう。サモニャンは、心配そうに後から続いた。その背中には、大きなリュックを背負っている。
「貴様がニャッキーかニャ。私に挑戦するとは、いい度胸ニャ」
砂地にて彼を待ち受けていたのは、黒と白のブチ模様が特徴的な猫人である。黄色く体にぴったりフィットした服を着て、軽快な動きでシャドートレーニングをしている。
彼こそは、ブルース・ニャー。ニャークンドーというファイトスタイルで闘う、闘猫士の中でも最強といわれた男だ。
「俺はお前に勝つため、体を鍛え技を磨いてきたニャ。俺のニャンフー奥義、猫林寺猫人拳《ビョウリンジ ネコジンケン》で、今日こそお前を倒すニャ!」
ニャッキーは構える。だが、ブルースは余裕の表情だ。
「フッ、私のニャークンドーに敵うとでも思っているのか」
そう言うと、ブルースは宙に向かい鋭いサイドキックを放つ。
「ホワッニャー!」
さらに、今度は弾丸のような裏拳だ。
「ニャーチョー!」
さすがのニャッキーも、技のスピードとキレには舌を巻いていた。ブルース・ニャー、噂以上のつわものである。
だが自分とて、これまで毛玉を吐くような修業をしてきたのだ。大好きなモンプチも我慢し、練習を重ねてきた……絶対に、負けるわけにはいかない。
「ふん、そんなもので俺がビビるとでも思ってるのかニャ? 地獄に蹴落としてやるから覚悟するニャ!」
ニャッキーはその場でくるりとバック転し、低い姿勢で構える。ブルースの顔に、不敵な笑みが浮かんだ。
「いい動きだニャ。相手にとって不足なし……尋常に勝負だニャ!」
二人は、構えた姿勢で睨み合う。その場の空気を、二人の体から漂うバトルオーラが包み込んでいく。鳥や小動物はもちろんのこと、虫ですら近寄ろうとはしない。
ニャッキーは、じりじりと間合いを詰めていく。が、踏み込むことが出来ない。下手に踏み込んだが最後、ブルースの一撃必倒の打撃が放たれるのだ。
フェイントをかけつつ、ニャッキーはブルースの周囲を回る。だが、ブルースは微動だにしない。ニャッキーの額から、ひとすじの汗が流れ落ちる。
その時だった。
「ニャハハハハ! お前らは闘いに来たのか? それとも、お見合いに来たのかニャ?」
嘲る声が聞こえ、二人はそちらを見つめル。
そこには、茶トラの猫人がいた。背はさほど高くないが、筋肉質の体をしている。ブルーのジーンズを穿き、上半身は裸だ。
二人の目の前で、その猫人はいきなり開脚をして見せた。足が百八十度開く完璧なものだ。直後にすっと立ち上がり、構えて見せる。
「ニャンクロード・ニャンダムだな」
ニャッキーが言った。ニャンクロード・ニャンダム……ちょっとマイナーではあるが、それでも名を知られた闘猫士である。柔軟な体から繰り出される足技は、かなりのものらしい……もっとも、本人に会うのは初めてだが。
「ニャンダム、噂は聞いているニャ。だが、貴様の相手をしている暇などないニャ」
ブルースの言葉に、ニャンダムは顔を歪める。
「ざけんニャ! 俺を抜きにして、最強は名乗らせないニャ!」
直後、ニャンダムは飛び上がった。二人の間合いスレスレに立ち、ビュンと後ろ回し蹴りを放つ。
すると、ブルースは無言のまま手をくいっくいっと動かした。かかって来い、のジェスチャーである。
三つ巴の闘いが、いま始まろうとしていた。が、その時――
「おいおいブルース、まさか俺との決着がついた、なんて言わないよニャ?」
現れたのは、キジトラの猫人である。こちらも背は高くないが、ピンと伸びたヒゲとマッチョな体が特徴的だ。迷彩柄のミリタリーパンツを穿き、悠然とした態度で歩いて来る。
すると、ブルースの口元が歪む。
「ニャック・ノリスかニャ!?」
ニャック・ノリス……かつて、ブルース・ニャーと死闘を繰り広げた伝説の闘猫士である。その後キングコブラに噛まれたが、三日三晩苦しんだ挙げ句にキングコブラの方が死んだ……という逸話の持ち主でもある。
「俺と闘わずして、最強なんて名乗らせないニャよ」
ノリスは、自然体で他の猫人たちを見回す。複雑化し、混沌とした状況であったが……さらに混乱させる者が現れた。
「お前ら、誰に断って最強なんてほざいてるニャ? 知名度はともかく、実力なら負けないニャ」
のっそりとやって来たのは、白い毛並みと巨体そして悪人面が特徴的なドルフ・ニャングレンである。
「おいおい、まさか猫人種差別はしねえよニャ? 黒猫は仲間外れなんて言わせないニャよ」
黒い革のロングコートとサングラス姿で現れた黒い毛並みの猫人は、ウェズリー・スニャイプスである。
いずれ劣らぬ一騎当千の闘猫士たちが、ここに集結してしまった。誰が勝つのか? 緊迫する空気……だが、その雰囲気は微妙に変化していった。
猫には、集会を開くという習性がある。猫人も同じだ。初めは純粋な闘いのつもりだったが、こうまで多くの猫人が集まると、いつしか集会の雰囲気へと変わっていく。
その変化を敏感に察したのは、ニャッキーのセコンドのサモニャンと、ブルース・ニャーの息子ブランドン・ニャーであった。
「さあさあ、ここで会ったのも何かの縁ですニャ。一緒にマタタビ酒でもどうですニャ?」
宴会部長のサモニャンは、背負っていたリュックからマタタビ酒を取り出した。さらにブランドンが、皆の分のコップとつまみのカリカリを持って来る。
「ドルフ兄さん、お久しぶりですニャ。また一緒に仕事しましょうニャ。このカリカリ、なかなかいけますニャよ」
言いながら、ドルフのコップにマタタビ酒を注ぐブランドン。そう、かつて彼らは一緒に仕事をしたことがあるのだ。
「お、おう、わかったニャ」
いかつい顔だが気のいいドルフは、下手に出られると弱い。言われるがままに、ぐびぐびとマタタビ酒を飲んだ。つられて、他の者たちも飲み始めた。
かくて、闘いの場は宴会場と化した。ニャンダムが開脚し、ニャッキーが酔拳を披露し、サモニャンが腹踊りをしている中……遠くから、それを眺めている者がいた。
ニャイ気道の達人、スティーヴン・ニャガールである。バスが遅れたため、闘いの時間に間に合わなかった。なんとかバイク便に乗っけてもらい、ようやく到着してみれば……既に宴会の真っ只中であった。
今さら、出ていくことなど出来ない。ニャガールは仕方なく、毛繕いをしてごまかした。
この世界を支配する者……それは、猫人である。
猫人といっても、どこぞの萌えキャラのように猫耳の付いた人間ではない。彼らの見た目は、二足歩行する猫である。毛も生えてるし、顔にはヒゲもある。
そんな猫人だが、我々人間と同じくらいの大きさであり、肉球の付いた手で器用に物を掴むことも出来るのだ。一応、衣服も着ている。
彼らの中では、格闘の強さこそが何より尊ばれる。そのため、猫人たちは日々バトルに明け暮れていた。中でも特に強い者は、闘猫士と呼ばれて敬われていた。
そして今、猫人の中でも評判の男が降り立つ。
男の名は、ニャッキー・チェン。ニャンフーという独特のファイトスタイルで闘うグレーの毛色をした闘猫士である。彼は、闘猫士の中でも噂に名高い男と闘うため、ニャンコン地方にやって来たのだ。
「ニャッキー、大丈夫かニャ?」
セコンドを務めるサモニャンが、不安そうに尋ねる。彼はぽっちゃりした体型のハチワレで、ニャッキーの親友なのだ。
その問いに、ニャッキーは自信にみちた顔で頷いた。
「フッ、大丈夫だニャ。きっと勝って見せるニャ」
そう言うと、彼は目的地へと向かう。サモニャンは、心配そうに後から続いた。その背中には、大きなリュックを背負っている。
「貴様がニャッキーかニャ。私に挑戦するとは、いい度胸ニャ」
砂地にて彼を待ち受けていたのは、黒と白のブチ模様が特徴的な猫人である。黄色く体にぴったりフィットした服を着て、軽快な動きでシャドートレーニングをしている。
彼こそは、ブルース・ニャー。ニャークンドーというファイトスタイルで闘う、闘猫士の中でも最強といわれた男だ。
「俺はお前に勝つため、体を鍛え技を磨いてきたニャ。俺のニャンフー奥義、猫林寺猫人拳《ビョウリンジ ネコジンケン》で、今日こそお前を倒すニャ!」
ニャッキーは構える。だが、ブルースは余裕の表情だ。
「フッ、私のニャークンドーに敵うとでも思っているのか」
そう言うと、ブルースは宙に向かい鋭いサイドキックを放つ。
「ホワッニャー!」
さらに、今度は弾丸のような裏拳だ。
「ニャーチョー!」
さすがのニャッキーも、技のスピードとキレには舌を巻いていた。ブルース・ニャー、噂以上のつわものである。
だが自分とて、これまで毛玉を吐くような修業をしてきたのだ。大好きなモンプチも我慢し、練習を重ねてきた……絶対に、負けるわけにはいかない。
「ふん、そんなもので俺がビビるとでも思ってるのかニャ? 地獄に蹴落としてやるから覚悟するニャ!」
ニャッキーはその場でくるりとバック転し、低い姿勢で構える。ブルースの顔に、不敵な笑みが浮かんだ。
「いい動きだニャ。相手にとって不足なし……尋常に勝負だニャ!」
二人は、構えた姿勢で睨み合う。その場の空気を、二人の体から漂うバトルオーラが包み込んでいく。鳥や小動物はもちろんのこと、虫ですら近寄ろうとはしない。
ニャッキーは、じりじりと間合いを詰めていく。が、踏み込むことが出来ない。下手に踏み込んだが最後、ブルースの一撃必倒の打撃が放たれるのだ。
フェイントをかけつつ、ニャッキーはブルースの周囲を回る。だが、ブルースは微動だにしない。ニャッキーの額から、ひとすじの汗が流れ落ちる。
その時だった。
「ニャハハハハ! お前らは闘いに来たのか? それとも、お見合いに来たのかニャ?」
嘲る声が聞こえ、二人はそちらを見つめル。
そこには、茶トラの猫人がいた。背はさほど高くないが、筋肉質の体をしている。ブルーのジーンズを穿き、上半身は裸だ。
二人の目の前で、その猫人はいきなり開脚をして見せた。足が百八十度開く完璧なものだ。直後にすっと立ち上がり、構えて見せる。
「ニャンクロード・ニャンダムだな」
ニャッキーが言った。ニャンクロード・ニャンダム……ちょっとマイナーではあるが、それでも名を知られた闘猫士である。柔軟な体から繰り出される足技は、かなりのものらしい……もっとも、本人に会うのは初めてだが。
「ニャンダム、噂は聞いているニャ。だが、貴様の相手をしている暇などないニャ」
ブルースの言葉に、ニャンダムは顔を歪める。
「ざけんニャ! 俺を抜きにして、最強は名乗らせないニャ!」
直後、ニャンダムは飛び上がった。二人の間合いスレスレに立ち、ビュンと後ろ回し蹴りを放つ。
すると、ブルースは無言のまま手をくいっくいっと動かした。かかって来い、のジェスチャーである。
三つ巴の闘いが、いま始まろうとしていた。が、その時――
「おいおいブルース、まさか俺との決着がついた、なんて言わないよニャ?」
現れたのは、キジトラの猫人である。こちらも背は高くないが、ピンと伸びたヒゲとマッチョな体が特徴的だ。迷彩柄のミリタリーパンツを穿き、悠然とした態度で歩いて来る。
すると、ブルースの口元が歪む。
「ニャック・ノリスかニャ!?」
ニャック・ノリス……かつて、ブルース・ニャーと死闘を繰り広げた伝説の闘猫士である。その後キングコブラに噛まれたが、三日三晩苦しんだ挙げ句にキングコブラの方が死んだ……という逸話の持ち主でもある。
「俺と闘わずして、最強なんて名乗らせないニャよ」
ノリスは、自然体で他の猫人たちを見回す。複雑化し、混沌とした状況であったが……さらに混乱させる者が現れた。
「お前ら、誰に断って最強なんてほざいてるニャ? 知名度はともかく、実力なら負けないニャ」
のっそりとやって来たのは、白い毛並みと巨体そして悪人面が特徴的なドルフ・ニャングレンである。
「おいおい、まさか猫人種差別はしねえよニャ? 黒猫は仲間外れなんて言わせないニャよ」
黒い革のロングコートとサングラス姿で現れた黒い毛並みの猫人は、ウェズリー・スニャイプスである。
いずれ劣らぬ一騎当千の闘猫士たちが、ここに集結してしまった。誰が勝つのか? 緊迫する空気……だが、その雰囲気は微妙に変化していった。
猫には、集会を開くという習性がある。猫人も同じだ。初めは純粋な闘いのつもりだったが、こうまで多くの猫人が集まると、いつしか集会の雰囲気へと変わっていく。
その変化を敏感に察したのは、ニャッキーのセコンドのサモニャンと、ブルース・ニャーの息子ブランドン・ニャーであった。
「さあさあ、ここで会ったのも何かの縁ですニャ。一緒にマタタビ酒でもどうですニャ?」
宴会部長のサモニャンは、背負っていたリュックからマタタビ酒を取り出した。さらにブランドンが、皆の分のコップとつまみのカリカリを持って来る。
「ドルフ兄さん、お久しぶりですニャ。また一緒に仕事しましょうニャ。このカリカリ、なかなかいけますニャよ」
言いながら、ドルフのコップにマタタビ酒を注ぐブランドン。そう、かつて彼らは一緒に仕事をしたことがあるのだ。
「お、おう、わかったニャ」
いかつい顔だが気のいいドルフは、下手に出られると弱い。言われるがままに、ぐびぐびとマタタビ酒を飲んだ。つられて、他の者たちも飲み始めた。
かくて、闘いの場は宴会場と化した。ニャンダムが開脚し、ニャッキーが酔拳を披露し、サモニャンが腹踊りをしている中……遠くから、それを眺めている者がいた。
ニャイ気道の達人、スティーヴン・ニャガールである。バスが遅れたため、闘いの時間に間に合わなかった。なんとかバイク便に乗っけてもらい、ようやく到着してみれば……既に宴会の真っ只中であった。
今さら、出ていくことなど出来ない。ニャガールは仕方なく、毛繕いをしてごまかした。
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