動物帝国

板倉恭司

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続・浮気者

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 あたしは、あいつが好きじゃない──



 まったく、何なのよあいつは!?
 
 今日、いきなりウチにやってきたあいつ。マコトと仲良さそうに話してる。ううう、なんかムカつく。
 マコトもマコトよ! なんなの、あの態度は! ヘラヘラ笑っちゃって、情けないったらありゃしない! 
 そりゃまあ、悪い女には見えないわ。通りで見かける、チャラチャラした女とほ違うってのはわかる。根は優しそうだし、香水とかいう臭い匂いのするのつけてないし、ジャラジャラしたのも付けてないしね。
 でも、あたしは騙されないんだから! マコトに相応しい女かどうか、あたしがきっちり確かめてやるのよ! 
 
 だから、まずは遠くから観察ね。 じっくり眺めてやるわ。このあたしの目をごまかせると思ったら、大間違いなんだからね!
 うわ、あいつマコトにベタベタ触ってやがる! あたしのマコトに何してんのよ! 初っ端から馴れ馴れしい! 
 もう怒った! あいつ、マコトに相応しい女じゃないわ! 

 ん、何あいつ!? あたしを見てニコニコしてるじゃない!
 ふん、どうせマコトの前で可愛い女アピールしてるだけでしょ! デカい図体しやがって! あたしは騙されないんだからね! 
 
 ちょっと何よ! マコトの奴、困った顔してるじゃない! あたしとその女、どっちを選ぶの!?
 フッ、面白いじゃないの。こうなったら、この女の前で見せつけてやるわ。あたしとマコトが、どんだけ愛し合ってるかをね。あんたなんかの入る隙間なんか、ありゃしないのよ!
 見てなさいよ……今から、地団駄踏んで悔しがらせてやるから!

 ・・・

「何が起きてるんだ……」

 誠は、唖然となっていた。
 突然、部屋に入ってきたのは飼い猫のニャムコである。今年で二歳になるハチワレの雌猫だ。体は大きくて毛はふさふさしており、コロコロとよく太っている。顔はまんまるで、お腹回りにはタプタプと肉が付いていた。
 そのニャムコに向かい、黄色い声を発した者がいる。

「この猫、すっごく可愛いじゃん!」

 声を出した女は、ニャムコの仕草を目を細めて見ている。会社での険しい表情が嘘のようだ。
 誠は、困惑した表情で両者を眺めていた。



 この女・力剛リキゴウ寅美トラミは、誠の上役なのである。
 四月から誠の上司となった彼女は、恐ろしい女だった。身長は百九十センチで体重は百キロ、柔道三段で空手二段という武闘派である。学生時代、暴漢に襲われていた社長を助けたのが縁で入社したという変わった経歴の持ち主だ。
 会社ではいつも厳しい態度であり、部下を怒鳴り散らすことはしょっちゅうである。そのため、皆から恐れられている。いずれは、パワハラで訴えられるのではないか……などと噂されていた。

 そんな彼女が、なにゆえに誠の部屋にいるのかというと……先ほど、道ばたでヤンキーに絡まれボコボコ殴られていた誠を、偶然に通りかかった寅美が助けたためである。
 ヤンキーを追っ払った後、誠の傷を治療するため、半ば無理やり家に来てしまったのだ。そう、寅美は恐ろしい女だが面倒見もいいのてある。
 当然、誠はこんな怖い女上司に長居して欲しくない。これまで、彼女を女性として見たことなど一瞬たりとてなかった。
 助けられた恩があるため、仕方なく家に入れたが、本音をいうなら、さっさと帰ってほしかった。
 しかし、とんでもないことが起きてしまった。いきなり部屋に入ってきたニャムコが、肉のたっぷりついた体を、誠に擦り寄せて来たのだ。喉をゴロゴロ言わせながら、誠のそばを離れようとしない。

「ニャムコ、本当に可愛い……」

 そんなニャムコを、寅美はうっとりとした目で見ている。傷の手当ては終わったのに、帰る気配がない。さすがに帰れとも言えない。
 どうしたものかと困惑する誠に対し、ニャムコのイチャラブぶりは激しさを増していく。
 今では、仰向けの体勢でポッコリお腹を披露しつつ、喉をゴロゴロ鳴らしながら体をくねらせているのだ。時おり、チラチラと寅美を見てもいる。挑発的な目である。
 いったい、ニャムコはどうしたのだろう……という疑問もあった。だが、今の誠は、寅美の顔から目が離せずにいた。

 力剛寅美さんて、こんな可愛い表情もするんだ……。

 これまで誠は、寅美の体の大きさや腕っぷしの強さ、そして職場で見せる怖い部分しか見ていなかった。
 しかし今は、誠の前で真逆の姿を見せている。ニャムコをうっとりした表情で見つめる顔からは、キュンとくるものを感じていた。
 これは、雨の中で捨てられた猫を撫でるヤンキーと同じ効果だろうか。そのギャップに、誠はKOされてしまった。本人も気がつかぬうちに、寅美に惹き寄せられてしまったのである。



 この日を境に、誠と寅美の仲は急速に接近していった。
 ニャムコ見たさに、寅美は適当な理由を付けては、たびたび誠の家に押しかけるようになってしまったのだ。
 誠も、そんな寅美を歓迎するようになっていた。今では、手料理でもてなすようになっている。
 皮肉にも、ニャムコが恋のキューピッドの役割を果たしてしまったのだ。


 



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