動物帝国

板倉恭司

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うちにいた猫の癖

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 かつて、僕の実家には猫がいた。
 名前はベルベット……のはずだったが、いつの間にかベルと縮めて呼ばれるようになっていた。雌の三毛猫で、普段はあちこち出歩いていた。そして、お腹が空くと家に帰ってくる……という生活サイクルであった。

 今、猫は完全室内飼いが主流らしい。したがって、外で飼い猫を見かける機会もめっきり少なくなった。しかし、僕が子供の頃は、まだ外飼いの猫も少なくなかった。
 うちのベルもまた、外をウロウロするのが好きだった。時には狩りをして、虫やトカゲなどを咥えて家に持ち帰ることもあった。その時のベルは、誇らしげな顔をしていた。

 だが、それよりも困った癖があった。
 僕はよく、自室でゲームをしていた。その時は、仰向けに寝て画面を見つつコントローラーを操作する……という姿勢がほとんどだった。
 そんな時、ベルが部屋に入って来ると……二回に一回くらいの割合で、僕の胸の上に乗ってくるのだ。そして、僕の顔面に尻を押し付けてくる。
 どうにか画面は見えているが、この体勢でゲームをするのは非常につらい。ベルをどかしたいが、かといってコントローラーから手を離すわけにもいかない。そんなわけで、僕ほベルを胸に乗せ尻の匂いを嗅ぎながらゲームをするのだ。
 何とも異様な姿である。何が楽しいのかわからないが、ベルはその体勢が気に入っているようだった。僕も仕方なく受け入れていた。
 他の家族には、こんなことはしない。僕はずっと、猫なりの嫌がらせなのだろうと思っていた。



 そんなベルも、十四歳で死んだ。苦しむでもなく、朝起きて見てみたら動かなくなっていた……そんな死に方であった。今にして思えば、完全な室内飼いであったなら、もっと長生きできていたのかもしれない。
 その時、涙は出なかった。むしろ、胸にぽっかりと穴が空いたような気分だった。

 ベルが死んでから、さらに五年ほど経った。
 僕は実家を出て、都内の食品メーカーに就職した。安いアパートに住んでおり、動物を飼うことは出来ない。
 ある日のこと、僕は会社の帰りに電車に乗っていた。車内は珍しく空いており、席に座ることが出来た。隣には、女子高生の二人組がいる。
 その二人組は、とても楽しそうに会話しており、聞き耳を立てずとも話は聞こえてくる。

「うちさあ、猫飼ってるじゃん。その猫、お尻を私の顔にくっつけてくるんだよね」

「何それ、嫌がらせみたい。猫に嫌われてるんじゃないの?」

「初めはそう思ったんだけどさ、ネットで調べてみたら、本当に好きな相手にしかしないことなんだって。なんか嬉しくなっちゃった」




 僕は家に帰ると、実家にいた頃のように仰向けに寝てゲームをしてみた。
 なぜか、涙が溢れてきた。
 
 





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