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ふたりの秘密
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今しがた、マルクは息を引き取った。
動かなくなった遺体に、イバンカはまだ縋り付いている。
「イバンカの……ぜいなのだ……」
泣き崩れる少女の横で、ジョニーも溢れる涙を拭っていた。
「違う……俺のせいだ。俺が、あんなことさえ言わなきゃ……」
その時、ザフィーが動いた。すっと少女に近づいていく。
「責任の取り合いして、どうすんだい。そんなこと言うなら、一番の責任はあたしにある。あたしが、ふたりで行くように言ったんだからね」
冷静な口調で言うと、泣いているイバンカを軽々と抱き上げた。
涙に濡れる少女の瞳を、じっと見据える。
「お嬢ちゃん、よく聞くんだ。つらいだろうけど、その涙があんたの強さに変わる時がくる。だから、今は泣きたいだけ泣きな」
「う、うわあぁぁん!」
赤ん坊のように泣きじゃくるイバンカを、ザフィーは優しく抱きしめる。同時に、彼女の右手が動いた。イバンカの赤毛を撫でつつ、小さな声で呪文を唱える。
やがて、イバンカの涙が止まった。目を閉じ、首がカクンと落ちる。眠ってしまったのだ。どうやら、魔法を使ったらしい。
「うまくいったよ。さて、こいつを埋めてやらないとね」
すると、ジョニーが顔を上げる。
「埋めるのか?」
「このまんまにしておいたら、獣に食われちまうだろう。せめて、墓くらい作ってやろうよ」
その言葉に、カーロフが口を開く。
「わかりました。私が穴を掘ります」
深く掘った穴に、マルクの遺体を埋める。皆、神妙な顔つきで見つめていた。
やがて、ミレーナかぼそっと呟く。
「見事だったよ、マルク。あんたは、最高にいい男だ」
すると、ジョニーも口を開く。
「クソ、バカ野郎が……お前は、ビビってなかったよ。つまらねえことを言って、すまなかった」
「私もあなたのように生きて、あなたのように死にます」
カーロフが言った後、ザフィーが最後を閉める。
「マルク、あんたといつか、一緒に酒が飲める日が来るかと思ってたのにね。ま、先に地獄で待ってなよ。あたしも、そのうち行くからさ」
直後、遺体に土を被せていく──
やがて、マルクの墓は完成した。皆、神妙な面持ちで眺めている。
その時、黙りこくっていたブリンケンが口を開いた。
「こうなった以上、あんたらにも知っておいてもらいたいことがある」
そう言うと、眠っているイバンカに視線を移す。少女は、すやすや眠っていた。その顔には、先ほどまで泣きじゃくっていた痕が残っている。
ややあって、ブリンケンはふたたび語り出す。しかし、その内容は彼らの想像を超えていた──
「俺とイバンカは、もともと違う星の住人なんた」
皆が唖然となる中、真っ先に口を開いたのはジョニーだ。
「はあ? 違うホシ? どういう意味だよ?」
真顔で聞かれ、ブリンケンは戸惑いの表情を浮かべる。
だが、それは一瞬だった。
「ああ、そうか。そうなるよな。わかりやすく言うとだ、俺とイバンカは、お前ら言うところの天空人なんたよ。俺の任務は、地上の状況を観察することだ。五年前からこっちに住んでいる」
その答えに、ジョニーはぽかんと口を開けた。ブリンケンとイバンカを、子供のような顔で交互に見ている。まだ、話を飲み込めていないのだろうか。
ブリンケンの方は、彼に構わず語り続ける。
「詳しく説明するとだ、この空の彼方には、バーザンという星……いや、国がある。俺の種族は、かつてその国で暮らしていたんだ。ところが、わけあってその国に住めなくなってしまった。そこで、俺の父親や母親世代は巨大な宇宙船……いや空飛ぶ島に移り、国を離れた。やがて、この星……いや、この世界にたどり着いた」
ここで、ブリンケンは言葉を止めた。皆の顔を見回す。ここまでの話が理解できているかどうか確認しているかのようだった。
その時、ジョニーが彼を睨みつけた。
「おいコラ、デタラメ言うんじゃねえよ。嘘なら、もう少し上手い嘘をつけ」
「嘘じゃねえ。これは本当の話だよ」
ブリンケンは静かな口調で答えたが、ジョニーは納得しない。
「俺たちを騙そうとしてんだろ。そんな話、どうやって信用しろって言うんだよ──」
「ブリンケンさんの言っていることは、嘘ではありません」
横から口を挟んだのはカーロフだ。ジョニーの肩に触れ、穏やかに話し続ける。
「私の知人に、天空人がいました。彼も同じことを言っていたのを覚えています。ブリンケンさんの言っていることに間違いはありません。私が保障します」
言った後、ブリンケンの方を向く。
「どうぞ、話を続けてください」
その言葉に、ブリンケンは再び語り出した。
「とにかく、難しいことは抜きだ。この世界の空には、俺たち天空人が住む空飛ぶ島みたいなものが浮かんでいる、そう考えてくれればいい。その島では、約十万人ほどの天空人が暮らしているんだ」
難しいことは抜きと言ったが、今のブリンケンの話だけでも壮大なスケールだ。ジョニーとミレーナは、完璧に飲み込めていない様子である。ザフィーは、かろうじて理解しているようだった。カーロフはというと、無言で聞いている。
そんな中、ブリンケンは語り続けた。
「俺たち天空人の中では、大きく分けると三つの派閥がある。地上人に自分たちの存在を明かし、共存共栄を目指そうという和平派。地上人を武力で制圧し、支配してしまおうという侵略派。最後は、正体を明かさずもう少し様子を見ようという、どちらでもない派だ」
「なるほどね。集団になれば、派閥が出来るってわけか。そのへんは、あたしら地上人と同じだね」
ザフィーが口を挟むと、ブリンケンは苦笑した。
「そうさ、全く同じだよ。今のところ、天空人は地上人とは接触することなく、様子を見ようという意見が優勢だ。はっきり言うと、今いきなり天空人が地上人と接触したら、大きく混乱するだろうってのが大方の意見なんだよ。それにだ、天空人の方も今のところ生活には困っていない。だから様子見してるんだよ」
そこで、ブリンケンはイバンカに視線を移す。少女は、ぐっすりと眠っていた。目を覚ます気配はない。
ブリンケンは苦笑し、再び語り出す。
「そんな中、とんでもないことが起きた。このイバンカが、島に搭載された機器を勝手に動かし、ひとりで地上に降りてきてしまったんだよ」
「この子が?」
驚いた顔で尋ねるミレーナに、ブリンケンは顔をしかめつつ頷いた。
「そうなんだよ。イバンカは、子供らの中でも優秀な上に好奇心が旺盛でな、地上に興味を抱いていたらしい。密かに、地上の言葉も勉強していた。で、大人たちの隙を見て装置を使い、地上に降りて来たってわけさ。ちなみに、天空人の掟として、許可なく地上に降りてはならない……というものがある。許可なく地上に来た者は、永久追放ということになっているんだよ」
「じゃあ、この子は追放なのかい?」
ミレーナが聞くと、ブリンケンは首を横に振った。
「いいや。イバンカはまだ十歳だ。俺たちの掟は、子供には適用されないんだよ。そもそも、こんな子供が装置を動かすなんて想定していなかったのさ。で、話を戻すと、俺はイバンカを天空の島に帰してやりたいんだよ。でないと、大変なことが起きるかもしれないんだ」
「よくわからねえけどよ、その装置とやらを使えば、また戻れるんじゃないのか?」
ようやく頭が回り始めたのか、ジョニーが尋ねた。
「それは出来ないんだ。島にある装置は、一方通行なんだよ。地上に行くことは出来るが、戻ることは出来ない。天空人が地上の世界に行くのは簡単だが、地上人が天空の世界に来るのは非常に難しいっていう仕組みなんだよ。戻るには、バルラト山にある装置を使わなきゃならないんだ」
「なんだか、厄介な話だな」
ジョニーの言葉に、ブリンケンは苦笑しつつ頷く。
「そうだな。しかし、さらに厄介なことがあるんだよ」
言った後、ブリンケンはイバンカの方をちらりと見た。少女はといえば、寝息を立てている。起きる気配はない。
すると、ブリンケンは再び語り出した。
「イバンカの両親は、今のところ和平派の中心的や存在なんだよ。派閥内でも、かなりの発言力を持っている。ところがだ、娘が地上人に殺された……なんてことになると、地上を武力で制圧せよ、という思想に変更してもおかしくはない。また、いたいけな少女が地上人に殺されたとなれば、他の連中だって考えが変わる可能性もある」
「つまり、イバンカを無事に帰さないと、戦争になる可能性が非常に高いっていうことだね」
ザフィーが顔をしかめつつ口を挟む。
「その通りだよ。しかも厄介なことに、イバンカの情報が地上の良からぬ筋の連中に漏れている。今までも、何度か狙われたからな。その連中が、ヤキ族やミッシング・リンクを雇ったんだろう」
「ちょっと待ってよ。天空人と地上人とを戦争させたい連中がいるってのかい?」
言ったのはミレーナだ。ブリンケンは、口元を歪めつつ頷く。
「ああ、いるんだよ。さっきも言ったがな、地上人を武力で制圧しようって派閥があるんだ。しかも、侵略派の中にも更に過激な連中がいるらしい。地上人は劣っている種だから、絶滅させろ……みたいなことを言っている狂信的な連中だ」
ここで、ブリンケンはふうと溜息を吐いた。一瞬の沈黙の後、再び語り出す。
「仮にイバンカが地上で殺された場合、そういう連中に開戦理由を与えてしまう。我々の仲間のいたいけな少女が、野蛮な地上人に殺された。もう、話し合う余地はない……みたいな展開になるのは間違いない。下手すると、その連中が勝手に攻撃を仕掛ける可能性もある」
言い終えると、イバンカに視線を移す。つられて、皆も眠る少女を見つめた。
イバンカは、悲しげな顔で眠ったままだ。未だに、マルクを失った悲しみが志から離れないらしい。
ややあって、ブリンケンは再び口を開いた。
「そうした事情は置いとくとしてもだ、こんな子供がわけのわからん陰謀の犠牲になろうとしてるんだぜ。あんたら、見逃せるタイプじゃないだろ」
「確かに見逃せないよ。あたしゃ、下の人間に汚いことやらせて、上でふん反り返ってるような連中が何より嫌いだから」
ザフィーが吐き捨てるように言うと、ブリンケンはくすりと笑った。
「それにだ、イバンカを無事に助けたとなれば、天空人たちも地上人のことを見直すきっかけになるだろう。少なくとも、あんたらは俺たちの島に行くことが出来るはずだ。そうしたら、凄い褒美がもらえるのは間違いない。たとえばだ、ザフィーにカーロフ、あんたらの顔の傷だって治せる。それにだ、金銀財宝だって思うがままだよ。いいか、俺たちの世界の技術を使えば、巨万の富を生み出せるんだ」
言った後、皆に向かい深々と頭を下げる。
「だから、頼む。この子を守ってやってくれ。俺が死んでも構わないが、イバンカに何かあったら終わりだ」
「言われなくても、そうするよ。こっちは、仲間を殺されたんだ。絶対に奴らの思惑通りにはさせない」
ザフィーが答えた直後、ジョニーも口を開いた。
「こいつが片付いたら、俺はヤキ族を皆殺しにしてやる。マルクを殺したことを、後悔させてやるよ」
動かなくなった遺体に、イバンカはまだ縋り付いている。
「イバンカの……ぜいなのだ……」
泣き崩れる少女の横で、ジョニーも溢れる涙を拭っていた。
「違う……俺のせいだ。俺が、あんなことさえ言わなきゃ……」
その時、ザフィーが動いた。すっと少女に近づいていく。
「責任の取り合いして、どうすんだい。そんなこと言うなら、一番の責任はあたしにある。あたしが、ふたりで行くように言ったんだからね」
冷静な口調で言うと、泣いているイバンカを軽々と抱き上げた。
涙に濡れる少女の瞳を、じっと見据える。
「お嬢ちゃん、よく聞くんだ。つらいだろうけど、その涙があんたの強さに変わる時がくる。だから、今は泣きたいだけ泣きな」
「う、うわあぁぁん!」
赤ん坊のように泣きじゃくるイバンカを、ザフィーは優しく抱きしめる。同時に、彼女の右手が動いた。イバンカの赤毛を撫でつつ、小さな声で呪文を唱える。
やがて、イバンカの涙が止まった。目を閉じ、首がカクンと落ちる。眠ってしまったのだ。どうやら、魔法を使ったらしい。
「うまくいったよ。さて、こいつを埋めてやらないとね」
すると、ジョニーが顔を上げる。
「埋めるのか?」
「このまんまにしておいたら、獣に食われちまうだろう。せめて、墓くらい作ってやろうよ」
その言葉に、カーロフが口を開く。
「わかりました。私が穴を掘ります」
深く掘った穴に、マルクの遺体を埋める。皆、神妙な顔つきで見つめていた。
やがて、ミレーナかぼそっと呟く。
「見事だったよ、マルク。あんたは、最高にいい男だ」
すると、ジョニーも口を開く。
「クソ、バカ野郎が……お前は、ビビってなかったよ。つまらねえことを言って、すまなかった」
「私もあなたのように生きて、あなたのように死にます」
カーロフが言った後、ザフィーが最後を閉める。
「マルク、あんたといつか、一緒に酒が飲める日が来るかと思ってたのにね。ま、先に地獄で待ってなよ。あたしも、そのうち行くからさ」
直後、遺体に土を被せていく──
やがて、マルクの墓は完成した。皆、神妙な面持ちで眺めている。
その時、黙りこくっていたブリンケンが口を開いた。
「こうなった以上、あんたらにも知っておいてもらいたいことがある」
そう言うと、眠っているイバンカに視線を移す。少女は、すやすや眠っていた。その顔には、先ほどまで泣きじゃくっていた痕が残っている。
ややあって、ブリンケンはふたたび語り出す。しかし、その内容は彼らの想像を超えていた──
「俺とイバンカは、もともと違う星の住人なんた」
皆が唖然となる中、真っ先に口を開いたのはジョニーだ。
「はあ? 違うホシ? どういう意味だよ?」
真顔で聞かれ、ブリンケンは戸惑いの表情を浮かべる。
だが、それは一瞬だった。
「ああ、そうか。そうなるよな。わかりやすく言うとだ、俺とイバンカは、お前ら言うところの天空人なんたよ。俺の任務は、地上の状況を観察することだ。五年前からこっちに住んでいる」
その答えに、ジョニーはぽかんと口を開けた。ブリンケンとイバンカを、子供のような顔で交互に見ている。まだ、話を飲み込めていないのだろうか。
ブリンケンの方は、彼に構わず語り続ける。
「詳しく説明するとだ、この空の彼方には、バーザンという星……いや、国がある。俺の種族は、かつてその国で暮らしていたんだ。ところが、わけあってその国に住めなくなってしまった。そこで、俺の父親や母親世代は巨大な宇宙船……いや空飛ぶ島に移り、国を離れた。やがて、この星……いや、この世界にたどり着いた」
ここで、ブリンケンは言葉を止めた。皆の顔を見回す。ここまでの話が理解できているかどうか確認しているかのようだった。
その時、ジョニーが彼を睨みつけた。
「おいコラ、デタラメ言うんじゃねえよ。嘘なら、もう少し上手い嘘をつけ」
「嘘じゃねえ。これは本当の話だよ」
ブリンケンは静かな口調で答えたが、ジョニーは納得しない。
「俺たちを騙そうとしてんだろ。そんな話、どうやって信用しろって言うんだよ──」
「ブリンケンさんの言っていることは、嘘ではありません」
横から口を挟んだのはカーロフだ。ジョニーの肩に触れ、穏やかに話し続ける。
「私の知人に、天空人がいました。彼も同じことを言っていたのを覚えています。ブリンケンさんの言っていることに間違いはありません。私が保障します」
言った後、ブリンケンの方を向く。
「どうぞ、話を続けてください」
その言葉に、ブリンケンは再び語り出した。
「とにかく、難しいことは抜きだ。この世界の空には、俺たち天空人が住む空飛ぶ島みたいなものが浮かんでいる、そう考えてくれればいい。その島では、約十万人ほどの天空人が暮らしているんだ」
難しいことは抜きと言ったが、今のブリンケンの話だけでも壮大なスケールだ。ジョニーとミレーナは、完璧に飲み込めていない様子である。ザフィーは、かろうじて理解しているようだった。カーロフはというと、無言で聞いている。
そんな中、ブリンケンは語り続けた。
「俺たち天空人の中では、大きく分けると三つの派閥がある。地上人に自分たちの存在を明かし、共存共栄を目指そうという和平派。地上人を武力で制圧し、支配してしまおうという侵略派。最後は、正体を明かさずもう少し様子を見ようという、どちらでもない派だ」
「なるほどね。集団になれば、派閥が出来るってわけか。そのへんは、あたしら地上人と同じだね」
ザフィーが口を挟むと、ブリンケンは苦笑した。
「そうさ、全く同じだよ。今のところ、天空人は地上人とは接触することなく、様子を見ようという意見が優勢だ。はっきり言うと、今いきなり天空人が地上人と接触したら、大きく混乱するだろうってのが大方の意見なんだよ。それにだ、天空人の方も今のところ生活には困っていない。だから様子見してるんだよ」
そこで、ブリンケンはイバンカに視線を移す。少女は、ぐっすりと眠っていた。目を覚ます気配はない。
ブリンケンは苦笑し、再び語り出す。
「そんな中、とんでもないことが起きた。このイバンカが、島に搭載された機器を勝手に動かし、ひとりで地上に降りてきてしまったんだよ」
「この子が?」
驚いた顔で尋ねるミレーナに、ブリンケンは顔をしかめつつ頷いた。
「そうなんだよ。イバンカは、子供らの中でも優秀な上に好奇心が旺盛でな、地上に興味を抱いていたらしい。密かに、地上の言葉も勉強していた。で、大人たちの隙を見て装置を使い、地上に降りて来たってわけさ。ちなみに、天空人の掟として、許可なく地上に降りてはならない……というものがある。許可なく地上に来た者は、永久追放ということになっているんだよ」
「じゃあ、この子は追放なのかい?」
ミレーナが聞くと、ブリンケンは首を横に振った。
「いいや。イバンカはまだ十歳だ。俺たちの掟は、子供には適用されないんだよ。そもそも、こんな子供が装置を動かすなんて想定していなかったのさ。で、話を戻すと、俺はイバンカを天空の島に帰してやりたいんだよ。でないと、大変なことが起きるかもしれないんだ」
「よくわからねえけどよ、その装置とやらを使えば、また戻れるんじゃないのか?」
ようやく頭が回り始めたのか、ジョニーが尋ねた。
「それは出来ないんだ。島にある装置は、一方通行なんだよ。地上に行くことは出来るが、戻ることは出来ない。天空人が地上の世界に行くのは簡単だが、地上人が天空の世界に来るのは非常に難しいっていう仕組みなんだよ。戻るには、バルラト山にある装置を使わなきゃならないんだ」
「なんだか、厄介な話だな」
ジョニーの言葉に、ブリンケンは苦笑しつつ頷く。
「そうだな。しかし、さらに厄介なことがあるんだよ」
言った後、ブリンケンはイバンカの方をちらりと見た。少女はといえば、寝息を立てている。起きる気配はない。
すると、ブリンケンは再び語り出した。
「イバンカの両親は、今のところ和平派の中心的や存在なんだよ。派閥内でも、かなりの発言力を持っている。ところがだ、娘が地上人に殺された……なんてことになると、地上を武力で制圧せよ、という思想に変更してもおかしくはない。また、いたいけな少女が地上人に殺されたとなれば、他の連中だって考えが変わる可能性もある」
「つまり、イバンカを無事に帰さないと、戦争になる可能性が非常に高いっていうことだね」
ザフィーが顔をしかめつつ口を挟む。
「その通りだよ。しかも厄介なことに、イバンカの情報が地上の良からぬ筋の連中に漏れている。今までも、何度か狙われたからな。その連中が、ヤキ族やミッシング・リンクを雇ったんだろう」
「ちょっと待ってよ。天空人と地上人とを戦争させたい連中がいるってのかい?」
言ったのはミレーナだ。ブリンケンは、口元を歪めつつ頷く。
「ああ、いるんだよ。さっきも言ったがな、地上人を武力で制圧しようって派閥があるんだ。しかも、侵略派の中にも更に過激な連中がいるらしい。地上人は劣っている種だから、絶滅させろ……みたいなことを言っている狂信的な連中だ」
ここで、ブリンケンはふうと溜息を吐いた。一瞬の沈黙の後、再び語り出す。
「仮にイバンカが地上で殺された場合、そういう連中に開戦理由を与えてしまう。我々の仲間のいたいけな少女が、野蛮な地上人に殺された。もう、話し合う余地はない……みたいな展開になるのは間違いない。下手すると、その連中が勝手に攻撃を仕掛ける可能性もある」
言い終えると、イバンカに視線を移す。つられて、皆も眠る少女を見つめた。
イバンカは、悲しげな顔で眠ったままだ。未だに、マルクを失った悲しみが志から離れないらしい。
ややあって、ブリンケンは再び口を開いた。
「そうした事情は置いとくとしてもだ、こんな子供がわけのわからん陰謀の犠牲になろうとしてるんだぜ。あんたら、見逃せるタイプじゃないだろ」
「確かに見逃せないよ。あたしゃ、下の人間に汚いことやらせて、上でふん反り返ってるような連中が何より嫌いだから」
ザフィーが吐き捨てるように言うと、ブリンケンはくすりと笑った。
「それにだ、イバンカを無事に助けたとなれば、天空人たちも地上人のことを見直すきっかけになるだろう。少なくとも、あんたらは俺たちの島に行くことが出来るはずだ。そうしたら、凄い褒美がもらえるのは間違いない。たとえばだ、ザフィーにカーロフ、あんたらの顔の傷だって治せる。それにだ、金銀財宝だって思うがままだよ。いいか、俺たちの世界の技術を使えば、巨万の富を生み出せるんだ」
言った後、皆に向かい深々と頭を下げる。
「だから、頼む。この子を守ってやってくれ。俺が死んでも構わないが、イバンカに何かあったら終わりだ」
「言われなくても、そうするよ。こっちは、仲間を殺されたんだ。絶対に奴らの思惑通りにはさせない」
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