灰色のエッセイ

板倉恭司

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相手を押すのは危ないよ、という話

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 ニュースなど観ていると「被害者は暴行を受け……」などという記述を目にすることがあります。
 この暴行という単語ですが、基本的に我々のような一般人は「殴る蹴る」といったものを連想するのがほとんどかと思います。が、実のところ裁判にて用いられる暴行という言葉は、非常に意味が広いのですよね。


 これは、知人のケンケン(もちろん仮名です)から聞いた話です。
 ケンケンはかつて、刑務所にて服役しておりました。その時、配置された工場にスカロン(これまた仮名です)という男がいたそうです。パッと見はドラえもんののび太のような外見でしたが、罪名は暴行だと言っておりました。
 やがて、ひょんなことからスカロンが何をやったか判明しました。この男、なんと道行く若い女の子に自分の尿をかけていたそうです。わざわざコップに自分の尿を入れ、めぼしい女の子が通るとぶっかけていたとか。
 何とも恐ろしい話ですが、スカロンの起訴された罪名は暴行だそうです。我々のイメージする暴行とは、まるで違うものですよね。法的には、暴行という罪名に分類されてしまうらしいのですよ。
 それにしても、世の中には恐ろしい奴がいますね。こればかりは気をつけようがありません。せいぜい、歩きスマホなどせず周囲には気を配る……くらいの対処法しかありません。



 少し前の話ですが、電車内で喫煙していた男に注意した高校生が、暴行を受けた事件がありました。
 この容疑者ですが、警察に対し正当防衛を主張していたそうです。顔を近づけたところ、押し返してきたから……というのが言い分のようです。
 もちろん、この事件は正当防衛にはなりません。ただ厳密に言うと、手で押すという行為は暴行になりうる可能性があります。
 たとえばの話ですが、あなたが街を歩いていて酔っ払いに絡まれたとします。しつこく近づいてきて、何やら因縁をつけてきました。うっとうしいので、手で押したとしましょう。酔っ払いは、押されてバランスを崩し転倒しました。挙げ句、怪我をしました。
 この場合、暴行と傷害で逮捕されます。仮に、頭を打ち脳挫傷で死亡した場合、暴行に傷害致死となります。
 まあ、これは極端な例ですが、手を伸ばし相手を押す……という行為は、暴行と判断されることがあるのです。これは、意外と知られていないようですね。もちろん、だからと言って喫煙した男の正当防衛という言い分は通らないのは確実です。
 ただ、この「手を伸ばし相手に触れる」という行為は、様々な問題を生む危険性を含んでいます。たとえば、警官が居丈高な態度で顔を近づけてきたとします。あなたは手を伸ばし、相手の顔を遠ざけようと押した……その時点で、公務執行妨害になります。逮捕できるようになってしまうのですよ。
 また、因縁をつけてきたチンピラが、顔を近づけてきたとします。あなたは、手を伸ばし近づけまいと押しました。すると、チンピラは派手に転びます。挙げ句、怪我をしたと主張する……こうなると、あなたが悪者になってしまうのですよ。慰謝料の名目で、金を請求されることになります。もし電車内で喫煙していた男が、そういうタイプであったなら、逆に高校生が悪者にされていた可能性もあったのです。
 そんなわけですので、相手を押すという行為は危険だという事実を知っていただけると幸いです。






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