灰色のエッセイ

板倉恭司

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ちびサップの話

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 かつて、ボブ・サップという格闘家がいました。身長は百九十センチオーバーで、体重も百五十キロを超える巨漢です。
 二〇〇二年に、日本の格闘技界に忽然と現れ、瞬く間にスターへとのし上がりました。当時、総合格闘技では世界最強とまで言われていたアントニオ・ホドリコ・ノゲイラと対戦しノゲイラを大いに苦しめ、敗れはしたものの存在を格闘技ファンに印象付けました。
 さらにKー1のリングでは、ミスター・パーフェクトとの異名を持つアーネスト・ホーストをもKOしたのです。これは大番狂わせでしたね。その後、二〇〇三年の大晦日に行われた曙との試合では、瞬間視聴率において紅白歌合戦を上回るという偉業を成し遂げています。
 当時、日本でもっとも有名な格闘家だったのではないでしょうか。一時の勢いは本当に凄かったです。



 さて、話は変わりますが……昔、私の実家の近くに木造アパートかありました。二階建てで、築ウン十年という建物です。家賃は安く、三万円と聞きました。
 住んでいる人間はというと、怪しげな人ばかりでした。職業不詳な人ばかりでして、明らかにカタギではない人もいました。
 その中に、ひとりの外国人がいました。黒人なのですが、背は低く百六十センチほどで小柄な体格です。ただ愛嬌ある顔立ちで、いつもニコニコしていました。職業不詳でしたが、近所に住む我々は特に気にも留めていませんでした。実際、ヤクザや怪しげな商売をしてる人たちも大勢住んでるような地域でしたし、公園ではホームレスが寝ている……そんな環境でした。
 しかも、件の黒人は背が低いため圧迫感が無く、親しみやすい顔立ちです。警戒心を起こさせる要因はありません。我々は、名前も知らぬ黒人を普通に近所の住人として受け入れていました。

 しばらくして、近所に住む小学生たちの口から「ちびサップ」という言葉を耳にするようになりました。どうも、例の黒人のようです。言われてみれば、顔はボブ・サップに似ています。
 やがて近所のオッサンオバサンたちも「昨日、ちびサップがさ~」のような感じで世間話をするようになりました。
 そんな矢先のことでした。突然、ちびサップが消えてしまったのです。理由は、オーバーステイにより強制送還されてしまったのことでした……。
 





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