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悪霊のBAN踊り(2)
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翌日、上野は八時に目を覚ました。例によって、起床直後に立ち上がり深呼吸する。次いで、床に土下座した。
「あらゆる生命の源である地球よ、今日も元気に活動できることを深く感謝する。ありがとう」
言った後、朝のルーティンであるラジオ体操を行なう。
体操を終えた時、どこから奇妙な声が聞こえてきた。
「いちま~い、にま~い、さんま~い……」
どうやら女の声らしい。言うまでもなく、ここには上野しかいないはずなのだ。
しかし、上野は声を完全に無視し朝食の用意を始める。冷蔵庫を開けると、大きなタッパーを取り出した。
タッパーの蓋を開けると、おにぎりがいくつも入っている。上野はおにぎりを手に取り、一口かじる。
「うむ、冷え切っているが味は問題ないな。それにしても、米は美味い。やはり、日本人は米を食わねばならん」
そんなことを言いながら、上野はおにぎりを平らげていく。
食べ終えた時、またしても声が聞こえてきた。
「ああ、一枚たりない……」
どうやら、声の主は台所にいるらしい。しかし、上野はそちらを見ようともしなかった。
「何が足りないのだ。ったく、一枚くらい無くても困らんだろうが」
ボソッと言うと、上野はテレビのリモコンを手にした。まず電源をいれる。
画面には、井戸が映っていた。レンガ造りのものである。
「なんだ、この番組は?」
上野が呟いた時だった。突然、井戸の中から手が出てくる。
続いて、頭が出てきた。黒髪に覆われている。顔を完全に隠しているほどの長さだ
さらに、体が出てきた。着ているものは、真っ白のドレスだ。体型からして女装した男とも思えないし、おそらく女であろう。
井戸から出てきた女は、こちらをじっと見ている。いったい何が起こるのだろうか。上野は首を傾げた。
ややあって、女は歩き出した。ゆっくりと、こちらに近づいて来る。それに伴い、女の姿も大きくなっていく。
が、女は途中でよろめいた。見えない壁にぶつかったらしい。両手で顔を押さえ、その場にうずくまる。
やがて女は、きっと顔を上げた。髪に覆われ表情は見えないが、怒っているようだ。
次の瞬間、女は動いた。足を高く上げ、見えない壁を思い切り蹴る。
しかも、一発では終わらない。さらに足を上げ、バシバシ蹴りを入れ続けている。だが、壁はびくともしていない。
もっとも、上野の目にはひとりでバカ踊りをしているようにしか見えなかった。
「なんだこれは。実につまらん」
ボソッと呟くと、上野はチャンネルを変えた。
画面には、二足歩行の三毛猫が映っている。台所にて、エプロン姿で洗い物をしていた。
そこに、二足歩行の豚が近づいていく。三毛猫より背は高く、体も大きい。さらに、いかにもスケベそうな顔つきである。後ろから三毛猫に近づき、尻尾をちょいちょいと触る。
と、三毛猫は振り向いた。洗い物の手を止め睨みつける。
「やめるニャ! 尻尾さわるのはセクハラニャ!」
怒鳴ると、洗い物を再開する。
しかし、豚はやめようとしない。なおも、三毛猫の尻尾をちょいちょいと触る。
と、三毛猫がついにキレた。
「フシャー! いい加減にするニャ!」
怒鳴った時、画面の外から河童と鴉天狗が現れる。豚をボコボコにぶん殴った挙げ句、倒れた豚をふたりして運び出してしまった。
そこから画面は切り替わり、三毛猫と河童と鴉天狗が楽しく食事をしている場面になる。三人はちゃぶ台を囲み、美味しそうにご飯を食べている。
やがて、三毛猫がカメラの方を向いた。
「セクハラは、とってもいけないことだニャ。みんなは、してはいけないニャよ」
そう言うと、再びご飯を食べる。おかずは、大皿に盛られた大量のトンカツであった。
「うむ。セクハラはよくないな。子供のうちから教えるのは、実に素晴らしいことだ」
呟きながら、上野は己の荷物をチェックし始めた。
その時、またしても声が聞こえてきた。
「いちま~い、にま~い、さんま~い……」
先ほどと、全く同じ内容である。いったい何を数えているのだろうか。上野は声を無視し、スマホをいじり始めた。
「ああ、一枚足りない……」
また、そんなセリフが聞こえてきた。だが、上野は無視してスマホの画面を見つめている。
しばらくして、上野は立ち上がった。荷物の中から、古いゲーム機を取り出す。コードを伸ばし、テレビにくっつける。
少し時間はかかったが、ようやくコードを付け終わった。電源を入れ、ゲームをスタートさせる。
画面には、数人のおっさんが並んでいる。徒競走のゲームらしい。全員、白いランニングに短パン姿であり、故・山下清先生のごとき姿である。頭には馬のような耳が生えており、尻には尻尾が生えていた。なんとも異様な眺めだ。
そして、上野はコントロールを持っていない。ただただ、ボーッと画面を見つめているだけだ。
しばらくして、レースはスタートした。ランニングに短パンのおっさんたちが懸命に走り、抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げている。
当然ながら、上野は何も操作していない。その目は、画面をつまらなさそうに見つめている。
やがて、ひとりのおっさんが一番にゴールした。途端に、歓声が聞こえてくる。勝ったおっさんは、嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねている。
直後、画面は電光掲示板へと移った。オッズらしきものが表示されている。
「このウマおやじとかいうゲーム、売れ残るのも仕方ないな」
上野は呟くと、電源を切った。冷蔵庫を開け、中からまたしてもタッパーを取り出す。
開けると、そこにはサンドイッチが入っていた。
「うむ。米がなければ、麦を食えばよいのだ。パンもまた、実に美味い」
そんなことを言いつつ、旺盛な食欲でサンドイッチを平らげていった。
食べ終えた上野は、またしても荷物を開ける。何をするかと思えば、中からソフトビニール人形を大量に取り出した。
出てきた人形に統一性はない。特撮によくある等身大の変身ヒーローやアニメの巨大ロボット、さらには怪獣や覆面レスラーなどが、ごちゃまぜに入れられている。
上野は、ひとつひとつを丁寧に取り出していった。テーブルに乗せ、何やら思案げな表情になる。
やがて、ふたつの人形を立たせ向かい合わせた。片方は三つの頭を持つドラゴンのような姿の怪獣。もう片方は、虎の覆面を被ったプロレスラーだ。設定上、大きさはまるで違うはずなのだが、それは関係ないらしい。
上野は、ウンウンと頷いた。
「うむ、龍虎対決の図だな。なかなか素晴らしい。とりあえずは、これでいこう」
ひとり呟くと、カメラを取り出し撮影する。
しかも、それは一度では終わらなかった。彼は、ストップモーションアニメを撮影するつもりなのだ。テーブルの上に乗ったソフビ人形を少しずつ動かし、カメラの位置を変え撮影していった。
時おり休憩を挟みつつも、凄まじい集中力で撮影していく。時間が経つのも忘れ、作業に没頭しているのだ。
いつの間にか、外は暗くなっている。にもかかわらず、上野は作業の手を止めようとはしない。
その時、ドアを叩く音がした。
上野は首を捻る。時計を見れば、夜の九時を過ぎているのだ。訪問するには、少しばかり遅い時間だろう。それ以前に、ここは空き家である。誰かが訪問する可能性はないはずなのだ。
他にもおかしな点がある。ノック音が、明らかに変なのだ。通常なら、トントンという硬いものが当たる音のはずである。しかし、今のはペチペチという感じの音だ。
上野は、そっとドアを開けてみた。だが、何もいない。
これも霊の仕業か……と思った時、またしても声が聞こえてきた。
「ここにいますニャ。下を見てくださいニャ」
「あらゆる生命の源である地球よ、今日も元気に活動できることを深く感謝する。ありがとう」
言った後、朝のルーティンであるラジオ体操を行なう。
体操を終えた時、どこから奇妙な声が聞こえてきた。
「いちま~い、にま~い、さんま~い……」
どうやら女の声らしい。言うまでもなく、ここには上野しかいないはずなのだ。
しかし、上野は声を完全に無視し朝食の用意を始める。冷蔵庫を開けると、大きなタッパーを取り出した。
タッパーの蓋を開けると、おにぎりがいくつも入っている。上野はおにぎりを手に取り、一口かじる。
「うむ、冷え切っているが味は問題ないな。それにしても、米は美味い。やはり、日本人は米を食わねばならん」
そんなことを言いながら、上野はおにぎりを平らげていく。
食べ終えた時、またしても声が聞こえてきた。
「ああ、一枚たりない……」
どうやら、声の主は台所にいるらしい。しかし、上野はそちらを見ようともしなかった。
「何が足りないのだ。ったく、一枚くらい無くても困らんだろうが」
ボソッと言うと、上野はテレビのリモコンを手にした。まず電源をいれる。
画面には、井戸が映っていた。レンガ造りのものである。
「なんだ、この番組は?」
上野が呟いた時だった。突然、井戸の中から手が出てくる。
続いて、頭が出てきた。黒髪に覆われている。顔を完全に隠しているほどの長さだ
さらに、体が出てきた。着ているものは、真っ白のドレスだ。体型からして女装した男とも思えないし、おそらく女であろう。
井戸から出てきた女は、こちらをじっと見ている。いったい何が起こるのだろうか。上野は首を傾げた。
ややあって、女は歩き出した。ゆっくりと、こちらに近づいて来る。それに伴い、女の姿も大きくなっていく。
が、女は途中でよろめいた。見えない壁にぶつかったらしい。両手で顔を押さえ、その場にうずくまる。
やがて女は、きっと顔を上げた。髪に覆われ表情は見えないが、怒っているようだ。
次の瞬間、女は動いた。足を高く上げ、見えない壁を思い切り蹴る。
しかも、一発では終わらない。さらに足を上げ、バシバシ蹴りを入れ続けている。だが、壁はびくともしていない。
もっとも、上野の目にはひとりでバカ踊りをしているようにしか見えなかった。
「なんだこれは。実につまらん」
ボソッと呟くと、上野はチャンネルを変えた。
画面には、二足歩行の三毛猫が映っている。台所にて、エプロン姿で洗い物をしていた。
そこに、二足歩行の豚が近づいていく。三毛猫より背は高く、体も大きい。さらに、いかにもスケベそうな顔つきである。後ろから三毛猫に近づき、尻尾をちょいちょいと触る。
と、三毛猫は振り向いた。洗い物の手を止め睨みつける。
「やめるニャ! 尻尾さわるのはセクハラニャ!」
怒鳴ると、洗い物を再開する。
しかし、豚はやめようとしない。なおも、三毛猫の尻尾をちょいちょいと触る。
と、三毛猫がついにキレた。
「フシャー! いい加減にするニャ!」
怒鳴った時、画面の外から河童と鴉天狗が現れる。豚をボコボコにぶん殴った挙げ句、倒れた豚をふたりして運び出してしまった。
そこから画面は切り替わり、三毛猫と河童と鴉天狗が楽しく食事をしている場面になる。三人はちゃぶ台を囲み、美味しそうにご飯を食べている。
やがて、三毛猫がカメラの方を向いた。
「セクハラは、とってもいけないことだニャ。みんなは、してはいけないニャよ」
そう言うと、再びご飯を食べる。おかずは、大皿に盛られた大量のトンカツであった。
「うむ。セクハラはよくないな。子供のうちから教えるのは、実に素晴らしいことだ」
呟きながら、上野は己の荷物をチェックし始めた。
その時、またしても声が聞こえてきた。
「いちま~い、にま~い、さんま~い……」
先ほどと、全く同じ内容である。いったい何を数えているのだろうか。上野は声を無視し、スマホをいじり始めた。
「ああ、一枚足りない……」
また、そんなセリフが聞こえてきた。だが、上野は無視してスマホの画面を見つめている。
しばらくして、上野は立ち上がった。荷物の中から、古いゲーム機を取り出す。コードを伸ばし、テレビにくっつける。
少し時間はかかったが、ようやくコードを付け終わった。電源を入れ、ゲームをスタートさせる。
画面には、数人のおっさんが並んでいる。徒競走のゲームらしい。全員、白いランニングに短パン姿であり、故・山下清先生のごとき姿である。頭には馬のような耳が生えており、尻には尻尾が生えていた。なんとも異様な眺めだ。
そして、上野はコントロールを持っていない。ただただ、ボーッと画面を見つめているだけだ。
しばらくして、レースはスタートした。ランニングに短パンのおっさんたちが懸命に走り、抜きつ抜かれつのデッドヒートを繰り広げている。
当然ながら、上野は何も操作していない。その目は、画面をつまらなさそうに見つめている。
やがて、ひとりのおっさんが一番にゴールした。途端に、歓声が聞こえてくる。勝ったおっさんは、嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねている。
直後、画面は電光掲示板へと移った。オッズらしきものが表示されている。
「このウマおやじとかいうゲーム、売れ残るのも仕方ないな」
上野は呟くと、電源を切った。冷蔵庫を開け、中からまたしてもタッパーを取り出す。
開けると、そこにはサンドイッチが入っていた。
「うむ。米がなければ、麦を食えばよいのだ。パンもまた、実に美味い」
そんなことを言いつつ、旺盛な食欲でサンドイッチを平らげていった。
食べ終えた上野は、またしても荷物を開ける。何をするかと思えば、中からソフトビニール人形を大量に取り出した。
出てきた人形に統一性はない。特撮によくある等身大の変身ヒーローやアニメの巨大ロボット、さらには怪獣や覆面レスラーなどが、ごちゃまぜに入れられている。
上野は、ひとつひとつを丁寧に取り出していった。テーブルに乗せ、何やら思案げな表情になる。
やがて、ふたつの人形を立たせ向かい合わせた。片方は三つの頭を持つドラゴンのような姿の怪獣。もう片方は、虎の覆面を被ったプロレスラーだ。設定上、大きさはまるで違うはずなのだが、それは関係ないらしい。
上野は、ウンウンと頷いた。
「うむ、龍虎対決の図だな。なかなか素晴らしい。とりあえずは、これでいこう」
ひとり呟くと、カメラを取り出し撮影する。
しかも、それは一度では終わらなかった。彼は、ストップモーションアニメを撮影するつもりなのだ。テーブルの上に乗ったソフビ人形を少しずつ動かし、カメラの位置を変え撮影していった。
時おり休憩を挟みつつも、凄まじい集中力で撮影していく。時間が経つのも忘れ、作業に没頭しているのだ。
いつの間にか、外は暗くなっている。にもかかわらず、上野は作業の手を止めようとはしない。
その時、ドアを叩く音がした。
上野は首を捻る。時計を見れば、夜の九時を過ぎているのだ。訪問するには、少しばかり遅い時間だろう。それ以前に、ここは空き家である。誰かが訪問する可能性はないはずなのだ。
他にもおかしな点がある。ノック音が、明らかに変なのだ。通常なら、トントンという硬いものが当たる音のはずである。しかし、今のはペチペチという感じの音だ。
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