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エピローグ
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あの事件から、一ヶ月が過ぎた。
伽倻と譲治は今、白土市に来ている。目的はというと、吉良徳郁の家を訪ねるためだ。
怪物を仕留めた後、ペドロがどこかに電話したのを覚えている。
その後、彼は伽倻に言った。
「ここでお別れだ。今すぐ、この場所を離れたまえ。ここから先、君らはかかわる必要がない。約束通り、俺は日本を離れメキシコに行く。だがね、君たちの前には、また姿を現すことはあるかもしれないよ」
伽倻には、最後まで理解できないことがあった。
吉良徳郁という男と、あの怪物は本気で愛し合っていたのだろうか?
少なくとも、怪物が徳郁を愛していたのは確かだ。あの時、怪物が本気で戦っていたなら、自分たちは勝てなかっただろう。ペドロが徳郁の首を切り落とし、ボールのように投げつける。その行為に、怪物は本気で怒り悲しんだ。
結果、大きな隙が生まれ、自分たちは怪物を仕留められたのだ。
さらに、徳郁についても考えた。あの怪物の姿形は、本当に不気味なものだった。あんなものを、徳郁は本気で愛していたのだろうか?
ましてや、自らの命を懸けてまで守ろうとしていたのだろうか?
その疑問だけは、伽倻の頭からどうしても離れなかった。その疑問に決着をつけるため、もう一度ここにやって来たのだ。
テレビのニュースや新聞などの報道によれば、吉良徳郁は火の不始末による火事で自宅を全焼させてしまった。徳郁自身も焼死、ということになっている。今となっては、彼の家があったはずの場所には焼け跡しか残っていない。
真相は違う。伽倻は、ここで何があったかを見ている。全ての事情を知っているわけではないが、少なくとも徳郁を殺したのは彼女なのだ。複雑な表情で、跡地を見ながら佇んでいた。
その時、とぼけた声が聞こえてきた。
「おや犬さん、久しぶりだにゃ」
言ったのは譲治である。
彼女が周囲を見回すと、森の中から一匹の犬が姿を現していた。毛の色は白く、体のあちこちに傷痕がある。おそらく、この辺を縄張りにしている野犬だろう。十メートルほど離れた位置で立ち止まり、ふたりを見ている。襲いかかってくる気配はないが、立ち去る素振りもない。
譲治は車のドアを開け、中から焼きそばパンを取り出す。先ほどコンビニで買ったものだ。
袋から出して、その場にしゃがみ込む。
「ほうら犬さん、食べるかにゃ?」
優しい声を出しながら、譲治はパンを小刻みに振ってみせる、すると、犬は興味をそそられたのか近づいてきた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
不安になった伽倻は、そっと尋ねた。だが、譲治は平気な顔だ。
「大丈夫だにゃ。あいつとは、前にも会ってるのんな」
「えっ? 前にも会ってた?」
怪訝な表情の伽倻とは対照的に、譲治は親しみのこもった目で犬を見ている。
犬の方は、警戒する様子もなく歩いてきた。譲治の差し出したパンを、そっとくわえる。
直後、向きを変え森の方に進み出した。だが、途中で立ち止まる。首だけで振り返った。
見つめ合う譲治と犬。両者の間に、不思議な空気が流れる。しかし、それはほんの一瞬だった。犬は、すぐに歩き出す。森の中へと消えていった。
「あの犬、あたしたちの前じゃ食べたくないのかな」
伽倻が誰にともなく言った。すると、譲治はかぶりを振る。
「違う違う違う。あいつは、あのパンを愛する誰かのもとに持っていくのんな。で、その愛する誰かがパンを美味しく食べるところが見たいんだにゃ」
聞いた伽倻の表情が歪んだ。直後、彼女の口から質問が出る。
「あのさ……あいつは、本気であの化け物を愛してたのかな?」
「あいつって、キラ?」
「そう、吉良徳郁。吉良は、あのサンを本気で愛してたのかな?」
未だに、彼女の心から離れない疑問だった。
サンという怪物が、徳郁を愛していたのはわかっている。だが、徳郁の方はどうなのだろう?
「愛してたに決まってるでしょうが。でなきゃ、ペドロみたいな魔王と戦わないのんな。アホ言わないでちょうよ」
返ってきた譲治の言葉は、彼にしては珍しくしんみりとしたものだった。
しかし、伽倻は納得いかなかった。
「それってさ、ペットを愛でるような感覚なんじゃないの? 男女の愛とは、全然違うものなんじゃないかな」
その時、譲治はこちらを向いた。
「俺バカだからわかんないけどにゃ、キラにとっちゃその違いは意味なかったんちゃうかな。あいつは、サンを自分の全てを捨てられるくらい愛してた……ただ、それだけなのんな」
語る譲治の表情は真剣なもので、伽倻は思わず目を逸らした。
直後、もうひとつの疑問が口から出る。
「ねえ、あたしがあんな姿になったら、あんたどうする?」
「んっ?」
聞き返す譲治に、伽倻はもう一度尋ねてみた。
「あたしがあんな化け物になったら、あんたどうする?」
「そん時は、誰も来ないような山ん中に行こうよ。そこで、ずっとずっとふたりっきりで暮らすのんな」
即答した譲治。だが、そこで次なるアイデアを思いついたらしい。さらに言葉を続ける。
「そうだ、無人島でもいいのんな。そこでさ、犬とか猫とか鷹とかワオキツネザルとかガラパゴスゾウガメとか飼おうよ」
「はあ? なんでガラパゴスゾウガメ?」
「だってさ、ガラパゴスゾウガメでかいじゃんよう。上に乗れば、竜宮城に連れてってくれっかもしれないのんな。それにさ、ワオキツネザル賢いから、教えたら一緒にゲーム出来るかもしれないにゃ」
その時、伽倻の頭に映像が浮かんだ。譲治とワオキツネザルが、真剣な顔で対戦格闘ゲームに興じている場面である。思わず、くすりと笑ってしまった。
「あーあ、あんたと話してると真面目に考えてるのがバカバカしくなってくるよ」
言った時だった。譲治は、再び何か思いついたらしい。ぽんと手を叩く。
「そういやさ、伽倻ちゃんオヤジの居場所を聞いたんだよにゃ。どうすんの?」
譲治に言われ、伽倻は苦笑した。
あの日、ペドロは伽倻に一枚の紙を手渡した。父親の住所と電話番号等が書かれたものだ。
この仕事を引き受けたきっかけは、父親と会うためだった。幼い自分を捨てた報いを、この手で受けさせるつもりだった。
しかし、今となってはどうでもいい。あんな人間、手を下す価値もない。
徳郁とサンの姿を見た今、本気でそう思える。伽倻にとって、父親は永遠に無関係な存在となっていた。
「どうでもいいよ、あんなの。死んでいようが生きていようが、何とも思わない」
「ふーん、そうなん。ま、伽倻ちゃんがそれでいいなら、俺もそれでいいのんな」
・・・
シロスケは焼きそばパンをくわえたまま、悠然と森の中を進んで行く。
だが突然、前方の茂みがガサリと音を立てた。シロスケは、すぐに立ち止まる。
のっそり現れたのは、一匹の野犬だ。体はシロスケより大きく、毛は茶色である。じろりと睨み、威嚇するような声を上げた。
シロスケは、じっと野犬を睨みつける。もっとも、焼きそばパンはしっかりとくわえたままだ。
威嚇の唸り声を上げながら、野犬はゆっくりと近づいて行く。何を言わんとしているかはわかっていた。くわえているものを置いていけ、と言っているのだ。シロスケは、少しずつ後退して行く。
その時、凄まじい勢いで、その場に突っ込んで来たものがいた。
クロベエだ。黒猫は恐ろしい形相で唸りながら、自分より遥かに大きな野犬に飛びかかっていく。前足での強烈な一撃を、鼻先に叩き込んだ──
野犬は不意を突かれ、慌てて飛び退いた。しかし、クロベエはそれで済ませる気はないらしい、唸り声をあげながら、なおも野犬を睨みつけている。
一方、シロスケは焼きそばパンをくわえたまま、何事もなかったかのように睨み合う両者の脇を通り抜けていった。
シロスケは、どんどん進んで行く。と、斜面にぽっかり空いた洞窟らしきものが見えてきた。入り口の周りは、草や木の枝などでさりげなくカムフラージュされている。遠くからでは、洞窟があるとは分からないだろう。
だが、シロスケは迷うことなく歩き続ける。怪しげな洞窟の中に、のそのそと入って行った。
それは、とても不思議な光景であった。
暗い洞窟の奥には、ふたりの赤ん坊がいた。そろそろ寒い時期にさしかかろうというのに、裸のまま平気な顔をしているのだ。赤ん坊の周囲には、人骨と思われる物が散乱している。さらに、白い石の欠片も散らばっていた。よく見ると、石というより卵の殻にも見える。
ふたりの赤ん坊は、そんなことにはお構い無しだ。楽しそうにニコニコ笑いながら、焼きそばパンを仲良く分けあって食べている。
赤ん坊の傍らには、クロベエとシロスケが控えていた。クロベエは尻を地面に着け、前足を揃えた姿勢で佇んでいる。喉をゴロゴロ鳴らしながら、いとおしそうに赤ん坊を見つめていた。一方、シロスケは伏せの姿勢でじっとしている。しかし、上目遣いで赤ん坊を見つめている点は、クロベエと変わらない。
そんな猫と犬は、まるで赤ん坊の忠実な部下であるかのように、右側と左側とに分かれて控えていた。
ふたりの赤ん坊は、嬉しそうに焼きそばパンを食べていた。さらに、傍らに控えている獣を撫でている。クロベエとシロスケも、目を細めて赤ん坊からされるがままになっている。時おり、赤ん坊の手を舐めたり顔を擦り付けたりしていた。
不思議な事に……どちらの赤ん坊も、左右の目の色が異なっていた。右目が赤く、左目が緑色なのだ。
暗い洞窟の中、赤ん坊の瞳は妖しく輝いていた。
伽倻と譲治は今、白土市に来ている。目的はというと、吉良徳郁の家を訪ねるためだ。
怪物を仕留めた後、ペドロがどこかに電話したのを覚えている。
その後、彼は伽倻に言った。
「ここでお別れだ。今すぐ、この場所を離れたまえ。ここから先、君らはかかわる必要がない。約束通り、俺は日本を離れメキシコに行く。だがね、君たちの前には、また姿を現すことはあるかもしれないよ」
伽倻には、最後まで理解できないことがあった。
吉良徳郁という男と、あの怪物は本気で愛し合っていたのだろうか?
少なくとも、怪物が徳郁を愛していたのは確かだ。あの時、怪物が本気で戦っていたなら、自分たちは勝てなかっただろう。ペドロが徳郁の首を切り落とし、ボールのように投げつける。その行為に、怪物は本気で怒り悲しんだ。
結果、大きな隙が生まれ、自分たちは怪物を仕留められたのだ。
さらに、徳郁についても考えた。あの怪物の姿形は、本当に不気味なものだった。あんなものを、徳郁は本気で愛していたのだろうか?
ましてや、自らの命を懸けてまで守ろうとしていたのだろうか?
その疑問だけは、伽倻の頭からどうしても離れなかった。その疑問に決着をつけるため、もう一度ここにやって来たのだ。
テレビのニュースや新聞などの報道によれば、吉良徳郁は火の不始末による火事で自宅を全焼させてしまった。徳郁自身も焼死、ということになっている。今となっては、彼の家があったはずの場所には焼け跡しか残っていない。
真相は違う。伽倻は、ここで何があったかを見ている。全ての事情を知っているわけではないが、少なくとも徳郁を殺したのは彼女なのだ。複雑な表情で、跡地を見ながら佇んでいた。
その時、とぼけた声が聞こえてきた。
「おや犬さん、久しぶりだにゃ」
言ったのは譲治である。
彼女が周囲を見回すと、森の中から一匹の犬が姿を現していた。毛の色は白く、体のあちこちに傷痕がある。おそらく、この辺を縄張りにしている野犬だろう。十メートルほど離れた位置で立ち止まり、ふたりを見ている。襲いかかってくる気配はないが、立ち去る素振りもない。
譲治は車のドアを開け、中から焼きそばパンを取り出す。先ほどコンビニで買ったものだ。
袋から出して、その場にしゃがみ込む。
「ほうら犬さん、食べるかにゃ?」
優しい声を出しながら、譲治はパンを小刻みに振ってみせる、すると、犬は興味をそそられたのか近づいてきた。
「ちょっと、大丈夫なの?」
不安になった伽倻は、そっと尋ねた。だが、譲治は平気な顔だ。
「大丈夫だにゃ。あいつとは、前にも会ってるのんな」
「えっ? 前にも会ってた?」
怪訝な表情の伽倻とは対照的に、譲治は親しみのこもった目で犬を見ている。
犬の方は、警戒する様子もなく歩いてきた。譲治の差し出したパンを、そっとくわえる。
直後、向きを変え森の方に進み出した。だが、途中で立ち止まる。首だけで振り返った。
見つめ合う譲治と犬。両者の間に、不思議な空気が流れる。しかし、それはほんの一瞬だった。犬は、すぐに歩き出す。森の中へと消えていった。
「あの犬、あたしたちの前じゃ食べたくないのかな」
伽倻が誰にともなく言った。すると、譲治はかぶりを振る。
「違う違う違う。あいつは、あのパンを愛する誰かのもとに持っていくのんな。で、その愛する誰かがパンを美味しく食べるところが見たいんだにゃ」
聞いた伽倻の表情が歪んだ。直後、彼女の口から質問が出る。
「あのさ……あいつは、本気であの化け物を愛してたのかな?」
「あいつって、キラ?」
「そう、吉良徳郁。吉良は、あのサンを本気で愛してたのかな?」
未だに、彼女の心から離れない疑問だった。
サンという怪物が、徳郁を愛していたのはわかっている。だが、徳郁の方はどうなのだろう?
「愛してたに決まってるでしょうが。でなきゃ、ペドロみたいな魔王と戦わないのんな。アホ言わないでちょうよ」
返ってきた譲治の言葉は、彼にしては珍しくしんみりとしたものだった。
しかし、伽倻は納得いかなかった。
「それってさ、ペットを愛でるような感覚なんじゃないの? 男女の愛とは、全然違うものなんじゃないかな」
その時、譲治はこちらを向いた。
「俺バカだからわかんないけどにゃ、キラにとっちゃその違いは意味なかったんちゃうかな。あいつは、サンを自分の全てを捨てられるくらい愛してた……ただ、それだけなのんな」
語る譲治の表情は真剣なもので、伽倻は思わず目を逸らした。
直後、もうひとつの疑問が口から出る。
「ねえ、あたしがあんな姿になったら、あんたどうする?」
「んっ?」
聞き返す譲治に、伽倻はもう一度尋ねてみた。
「あたしがあんな化け物になったら、あんたどうする?」
「そん時は、誰も来ないような山ん中に行こうよ。そこで、ずっとずっとふたりっきりで暮らすのんな」
即答した譲治。だが、そこで次なるアイデアを思いついたらしい。さらに言葉を続ける。
「そうだ、無人島でもいいのんな。そこでさ、犬とか猫とか鷹とかワオキツネザルとかガラパゴスゾウガメとか飼おうよ」
「はあ? なんでガラパゴスゾウガメ?」
「だってさ、ガラパゴスゾウガメでかいじゃんよう。上に乗れば、竜宮城に連れてってくれっかもしれないのんな。それにさ、ワオキツネザル賢いから、教えたら一緒にゲーム出来るかもしれないにゃ」
その時、伽倻の頭に映像が浮かんだ。譲治とワオキツネザルが、真剣な顔で対戦格闘ゲームに興じている場面である。思わず、くすりと笑ってしまった。
「あーあ、あんたと話してると真面目に考えてるのがバカバカしくなってくるよ」
言った時だった。譲治は、再び何か思いついたらしい。ぽんと手を叩く。
「そういやさ、伽倻ちゃんオヤジの居場所を聞いたんだよにゃ。どうすんの?」
譲治に言われ、伽倻は苦笑した。
あの日、ペドロは伽倻に一枚の紙を手渡した。父親の住所と電話番号等が書かれたものだ。
この仕事を引き受けたきっかけは、父親と会うためだった。幼い自分を捨てた報いを、この手で受けさせるつもりだった。
しかし、今となってはどうでもいい。あんな人間、手を下す価値もない。
徳郁とサンの姿を見た今、本気でそう思える。伽倻にとって、父親は永遠に無関係な存在となっていた。
「どうでもいいよ、あんなの。死んでいようが生きていようが、何とも思わない」
「ふーん、そうなん。ま、伽倻ちゃんがそれでいいなら、俺もそれでいいのんな」
・・・
シロスケは焼きそばパンをくわえたまま、悠然と森の中を進んで行く。
だが突然、前方の茂みがガサリと音を立てた。シロスケは、すぐに立ち止まる。
のっそり現れたのは、一匹の野犬だ。体はシロスケより大きく、毛は茶色である。じろりと睨み、威嚇するような声を上げた。
シロスケは、じっと野犬を睨みつける。もっとも、焼きそばパンはしっかりとくわえたままだ。
威嚇の唸り声を上げながら、野犬はゆっくりと近づいて行く。何を言わんとしているかはわかっていた。くわえているものを置いていけ、と言っているのだ。シロスケは、少しずつ後退して行く。
その時、凄まじい勢いで、その場に突っ込んで来たものがいた。
クロベエだ。黒猫は恐ろしい形相で唸りながら、自分より遥かに大きな野犬に飛びかかっていく。前足での強烈な一撃を、鼻先に叩き込んだ──
野犬は不意を突かれ、慌てて飛び退いた。しかし、クロベエはそれで済ませる気はないらしい、唸り声をあげながら、なおも野犬を睨みつけている。
一方、シロスケは焼きそばパンをくわえたまま、何事もなかったかのように睨み合う両者の脇を通り抜けていった。
シロスケは、どんどん進んで行く。と、斜面にぽっかり空いた洞窟らしきものが見えてきた。入り口の周りは、草や木の枝などでさりげなくカムフラージュされている。遠くからでは、洞窟があるとは分からないだろう。
だが、シロスケは迷うことなく歩き続ける。怪しげな洞窟の中に、のそのそと入って行った。
それは、とても不思議な光景であった。
暗い洞窟の奥には、ふたりの赤ん坊がいた。そろそろ寒い時期にさしかかろうというのに、裸のまま平気な顔をしているのだ。赤ん坊の周囲には、人骨と思われる物が散乱している。さらに、白い石の欠片も散らばっていた。よく見ると、石というより卵の殻にも見える。
ふたりの赤ん坊は、そんなことにはお構い無しだ。楽しそうにニコニコ笑いながら、焼きそばパンを仲良く分けあって食べている。
赤ん坊の傍らには、クロベエとシロスケが控えていた。クロベエは尻を地面に着け、前足を揃えた姿勢で佇んでいる。喉をゴロゴロ鳴らしながら、いとおしそうに赤ん坊を見つめていた。一方、シロスケは伏せの姿勢でじっとしている。しかし、上目遣いで赤ん坊を見つめている点は、クロベエと変わらない。
そんな猫と犬は、まるで赤ん坊の忠実な部下であるかのように、右側と左側とに分かれて控えていた。
ふたりの赤ん坊は、嬉しそうに焼きそばパンを食べていた。さらに、傍らに控えている獣を撫でている。クロベエとシロスケも、目を細めて赤ん坊からされるがままになっている。時おり、赤ん坊の手を舐めたり顔を擦り付けたりしていた。
不思議な事に……どちらの赤ん坊も、左右の目の色が異なっていた。右目が赤く、左目が緑色なのだ。
暗い洞窟の中、赤ん坊の瞳は妖しく輝いていた。
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