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悪魔の教え(2)
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零士は、思わず後ずさっていた。
またしても、ペドロはこちらの思考を読み取ったらしい。しかも、これからどうするのかを尋ねているのだ。
どうにか息を整え、顔を引きつらせながら口を開いた。
「も、もし警察に、通報したら……その少年は、ど、どうなりますかね?」
聞いた途端、ペドロの目がすっと細くなる。
「質問に質問で返す、これは褒められた態度ではないと前にも言ったよね。君は、忘れてしまったのかい?」
一瞬にして、ふたりを包む空気が変わった気がした。これが、殺気と呼ぼれるものなのかもしれない……危険を感じた零士は、慌てて頭を下げる。
「す、すみません!」
すると、ペドロはくすりと笑った。
「フフフ、冗談だよ。俺と君との仲だ。この程度のことに、目くじらを立てる気はないよ。それに、君はまだ若い。ミスを繰り返すのも、仕方ないだろう」
その言葉の直後、場の空気が一気に和らいだ。少なくとも、零士はそう感じていた。このペドロという男、空気まで支配しているのたろうか。
ホッと胸を撫で下ろす零士に向かい、ペドロは語り続ける。
「さて、話を戻そうか。少年は犯罪を黙認せず、警察に通報するというわけだね。それは、間違いではない。この社会は、全ての市民が法を遵守することで成り立っている。逆に、法を遵守しない者が大手を振って歩いているようでは、皆が困るわけだ。したがって、脱獄犯のような無法者の存在を黙認せず、然るべき所に通報するのは市民の義務とも言える。上手くいけば、君は警察から表彰されるだろう」
そこで、ペドロは零士から目線を逸らせた。
「同時に、その選択には大きな危険も伴う。犯罪者には、独特の掟がある。そのひとつが、自身を密告した者を決して許さないというものだ。これは、個人的な感情だけではないよ。密告した者を放っておいては、彼は同業者から甘く見られる。そうなると、裏の世界での彼の立場は危ういものになるからね」
こんな状況にもかかわらず、零士はなるほどと思っていた。言われてみれば、もっともな話である。
これが、裏の世界のやり方なのか。いや、どこの世界にも、そうした部分はあるはずだ。自分に害を為した者を放っておいては、他の者に甘く見られる。ひいては、自分の立場が危うくなる。
考えてみれば、これまでの零士の周囲でも、似たようなことは起きていた。発端は、同級生にされた他愛ないいたずらだ。しかし、放っておくといたずらはエスカレートしていった。口でやめろと言っても聞かない。最終的に、零士はその同級生とはかかわらなくなった。
人間関係は、相手の善意だけを信じていると、いつか裏切られることになるかもしれないのだ。どんな人間にも、悪意はある。さらに、相手より上の立場でいたいという欲もある。それらを無視していては、人間関係は成り立たない。
「したがって、その少年は殺される可能性が出てくる。あるいは、犯罪者に復讐されるかもしれないという不安に怯えながら、残りの人生を生きなくてはならない。はたして、そこまでのメリットがあるのかな?」
ペドロの問いに、零士は慌てて答える。
「だ、だったら放っておきます」
「なるほど、見て見ぬふりをするというわけか。それもまた、間違いではない。警察が、苦労して脱獄犯を探していたとしても、君には関係ないわけだからね。ある意味では、それがもっとも安全な道かもしれない」
ペドロは、いかにも楽しそうな表情でうんうんと頷く。
だが次の瞬間、とんでもないことを言ってきた。
「だがね、件の脱獄犯がその後も罪を重ねていったとしたら? その場合、少年にも責任の一端があるのだよ」
「ど、どうしてですか?」
「未必の故意、という言葉がある。わかりやすく説明すると、放っておけば犯罪が起きる可能性があると知っていながら、見て見ぬふりをすることだ。日本の刑法にも、ちゃんと記載されている」
未必の故意、なる言葉を聞いたのは初めてだ。日本人でも知らないような専門的な用語を、外国人であるペドロが普通に使いこなしている。
しかも、そんな言葉を用いて零士に教えを説いているのだ──
「件の少年は、脱獄した挙げ句に殺人を犯した凶悪犯を見逃すことにしたわけだ。その後、脱獄犯は人をひとり殺してしまったとしよう。この場合、少年は罪に問われると思うかい?」
「そ、それは、その……」
これが限界だった。それ以上、零士は何も言えなかった。確かに、少年は何もしていない。だが、何もしていないことが罪になるということがあるのだ。
言うまでもなく、少年とは零士のことだ。ペドロは、お前にも罪の一端はあるのだぞ……と言っているのだ。
うつむく零士に向かい、ペドロは語り続ける。
「まあ、仕方ないことではある。そもそも十三歳という年齢の人間に、犯罪の可能性を想定し行動するなど不可能だ。恐らく、法的には責任を問われないだろう。だがね、道義的な責任からは逃れられないよ。少年が通報していれば、助かったかもしれない命がある。彼は、この事実に耐えられるかな」
「そ、そんな……」
「前にも言ったはずだよ。最善の選択肢を選んだからといって、最善の結果に結びつくとは限らない。だからこそ、即断即決が基本となってくる。同時に、感情をコントロールする術も学ばなくてはならない。そこで涙を流し後悔したところで、何もならないからね」
そこで、ペドロは言葉を止めた。零士の目を、じっと見つめる。わかったかい、とでも言っているかのようだ。
その眼力に圧倒され、零士は思わず後ずさった。この男の沈黙は、チンピラの恫喝より数十倍は怖い。逃げられるものなら逃げたかった。だが、逃げることすら出来ない。
少しの間を置き、ペドロは口を開く。
「件の少年は、殺人を告白した脱獄犯を見逃した。結果、もうひとりの人間が死んだ。少年は、罪悪感に苛まれるかもしれない。だがね、それは無意味なことだよ。少年がいくら泣き叫んで己を責めたとしても、死んだ者は帰って来ない。少年にとって必要なのは、罪悪感を捨て去ることだよ。そうすれば、楽に生きられる」
「どうすればいいんですか?」
「簡単さ。罪を重ね、より残酷な行為に手を染めていく。そうすれば、耐性が出来ていく。やがては、人を殺しても平静でいられるようになる。精神的ダメージを受けなくなるのだよ」
恐ろしい発言に、零士はそっとうつむいた。より残酷な行為に手を染めていく、つまり犯罪者になれということか。それは間違っている。
「僕は、そうはなりたくないです」
思ったことが、そのまま口から出ていた。すると、ペドロはにやりと笑う。
「どうかな。人生とは、皮肉なものでね。それに、己の宿命からは逃れられないよ」
どういう意味だろう。聞いてみようとした時、ペドロの口から妙な言葉が飛び出す。
「話は変わるが、君は鬼婆という妖怪を知っているかな?」
「は、はあ?」
素っ頓狂な声が出ていた。先ほどまで、犯罪に関する教えを説いていたかと思うと、次は妖怪である。話の振り幅が大きすぎ、どう解釈すればいいのかわからなくなっていた。
混乱する零士に向かい、ペドロは語り続ける。
「鬼婆とは、日本の様々な昔話に登場する妖怪だ。人間の老婆が鬼となったものを指すらしい。不思議だとは思わないかい?」
「いや、不思議とは……思わないです」
どうにか答えた。不思議も何も、そういう設定のもの、としか思っていない。そもそも、鬼婆自体が現実には存在しない生物である。何を不思議だと思えばいいのか、そこからしてわからない。
困惑する零士に向かい、ペドロは一方的に喋り続けた。
「鬼婆はいるが、鬼爺なる妖怪はいない。ひょっとしたら、俺が知らないだけで何かの物語に登場しているのかもしれないが、鬼婆に比べれば非常にマイナーな存在だ。これは、なぜなのだろうね?」
「わかりません」
「つまり、鬼という種族は女性が大半を占めているのかもしれない、ということだよ。鬼といえば男性のイメージが強いが、鬼女という言葉もあるからね。もし、鬼なる妖怪が現実にいるのなら、それは女性の姿をした者が大半を占めているのかもしれないということさ。ちなみに、ロシアにはバーバ・ヤーガという妖怪がいるが、これまた女性の姿をしていたらしい」
何を言っているのか、さっぱりわからなかった。その鬼婆と、この島と何の関係があるのだろう。それを聞こうとした。が、寸前で別の質問が頭に浮かぶ。
ここしばらく、零士を悩ませていた悪夢。ペドロなら、あれが何なのか知っているかもしれない。
「あの、あなたは……その、妖怪に詳しいのですか?」
「妖怪? どうだろうね。俺より妖怪に詳しい人間など、探せばいくらでも見つかるだろう。もっとも、俺の知識が及ぶ範囲のことなら教えられるよ」
真顔で答えるペドロに、零士は疑問を口に出そうとした。
だが、すんでのところで止める。冷静に考えれば、あまりにもバカバカしい質問だ。普通の大人に尋ねたなら、バカバカしいと一蹴されてしまうだろう。
ましてや、相手は凶悪犯だ。しかも、礼儀にはうるさい部分がある。そんなバカなことを聞くとは、いい度胸だね……などと、冷酷な目で説教されるかもしれない。
躊躇する零士だったが、そこで優しい声が聞こえてきた。
「何か、聞きたいことがあるようだね。ならば、遠慮なく聞きたまえ」
彼らしからぬ声音だった。その言葉に押されるように、恐る恐る尋ねてみた。
「あの、人を食べる妖怪はいますか?」
「それはまた、範囲が広すぎる質問だな。人を食べる妖怪など、探せばいくらでも見つかる。世界規模で考えれば、一万種どころではないと思うよ。先ほど話した鬼婆やバーバ・ヤーガも、人間を食べると言われているしね。他の特徴はないのかい?」
「ええと……肌が緑色で、牙が生えてて、目が紅く光っていました」
途端に、ペドロの表情が変わった。何やら思案するような顔つきで、さらに質問してきた。
「君は、それを見たのかい?」
「はい、一応は」
「それを、どこで見たのかな?」
一瞬、どうしようか迷った。だが、勇気を振り絞り答える。
「ゆ、夢で見ました」
途端に、ペドロはくすりと笑った。
「ほう、夢かい。夢ともなると、判断するのが非常に困難だな。君の空想の産物とも考えられるしね」
「いえ、違うんです。実は……」
そこから、零士は今までのいきさつを語った。母が死んだこと。その死体の状況と、夢で見た情景があまりにも似すぎていることを、つっかえながらも最後まで話した。
またしても、ペドロはこちらの思考を読み取ったらしい。しかも、これからどうするのかを尋ねているのだ。
どうにか息を整え、顔を引きつらせながら口を開いた。
「も、もし警察に、通報したら……その少年は、ど、どうなりますかね?」
聞いた途端、ペドロの目がすっと細くなる。
「質問に質問で返す、これは褒められた態度ではないと前にも言ったよね。君は、忘れてしまったのかい?」
一瞬にして、ふたりを包む空気が変わった気がした。これが、殺気と呼ぼれるものなのかもしれない……危険を感じた零士は、慌てて頭を下げる。
「す、すみません!」
すると、ペドロはくすりと笑った。
「フフフ、冗談だよ。俺と君との仲だ。この程度のことに、目くじらを立てる気はないよ。それに、君はまだ若い。ミスを繰り返すのも、仕方ないだろう」
その言葉の直後、場の空気が一気に和らいだ。少なくとも、零士はそう感じていた。このペドロという男、空気まで支配しているのたろうか。
ホッと胸を撫で下ろす零士に向かい、ペドロは語り続ける。
「さて、話を戻そうか。少年は犯罪を黙認せず、警察に通報するというわけだね。それは、間違いではない。この社会は、全ての市民が法を遵守することで成り立っている。逆に、法を遵守しない者が大手を振って歩いているようでは、皆が困るわけだ。したがって、脱獄犯のような無法者の存在を黙認せず、然るべき所に通報するのは市民の義務とも言える。上手くいけば、君は警察から表彰されるだろう」
そこで、ペドロは零士から目線を逸らせた。
「同時に、その選択には大きな危険も伴う。犯罪者には、独特の掟がある。そのひとつが、自身を密告した者を決して許さないというものだ。これは、個人的な感情だけではないよ。密告した者を放っておいては、彼は同業者から甘く見られる。そうなると、裏の世界での彼の立場は危ういものになるからね」
こんな状況にもかかわらず、零士はなるほどと思っていた。言われてみれば、もっともな話である。
これが、裏の世界のやり方なのか。いや、どこの世界にも、そうした部分はあるはずだ。自分に害を為した者を放っておいては、他の者に甘く見られる。ひいては、自分の立場が危うくなる。
考えてみれば、これまでの零士の周囲でも、似たようなことは起きていた。発端は、同級生にされた他愛ないいたずらだ。しかし、放っておくといたずらはエスカレートしていった。口でやめろと言っても聞かない。最終的に、零士はその同級生とはかかわらなくなった。
人間関係は、相手の善意だけを信じていると、いつか裏切られることになるかもしれないのだ。どんな人間にも、悪意はある。さらに、相手より上の立場でいたいという欲もある。それらを無視していては、人間関係は成り立たない。
「したがって、その少年は殺される可能性が出てくる。あるいは、犯罪者に復讐されるかもしれないという不安に怯えながら、残りの人生を生きなくてはならない。はたして、そこまでのメリットがあるのかな?」
ペドロの問いに、零士は慌てて答える。
「だ、だったら放っておきます」
「なるほど、見て見ぬふりをするというわけか。それもまた、間違いではない。警察が、苦労して脱獄犯を探していたとしても、君には関係ないわけだからね。ある意味では、それがもっとも安全な道かもしれない」
ペドロは、いかにも楽しそうな表情でうんうんと頷く。
だが次の瞬間、とんでもないことを言ってきた。
「だがね、件の脱獄犯がその後も罪を重ねていったとしたら? その場合、少年にも責任の一端があるのだよ」
「ど、どうしてですか?」
「未必の故意、という言葉がある。わかりやすく説明すると、放っておけば犯罪が起きる可能性があると知っていながら、見て見ぬふりをすることだ。日本の刑法にも、ちゃんと記載されている」
未必の故意、なる言葉を聞いたのは初めてだ。日本人でも知らないような専門的な用語を、外国人であるペドロが普通に使いこなしている。
しかも、そんな言葉を用いて零士に教えを説いているのだ──
「件の少年は、脱獄した挙げ句に殺人を犯した凶悪犯を見逃すことにしたわけだ。その後、脱獄犯は人をひとり殺してしまったとしよう。この場合、少年は罪に問われると思うかい?」
「そ、それは、その……」
これが限界だった。それ以上、零士は何も言えなかった。確かに、少年は何もしていない。だが、何もしていないことが罪になるということがあるのだ。
言うまでもなく、少年とは零士のことだ。ペドロは、お前にも罪の一端はあるのだぞ……と言っているのだ。
うつむく零士に向かい、ペドロは語り続ける。
「まあ、仕方ないことではある。そもそも十三歳という年齢の人間に、犯罪の可能性を想定し行動するなど不可能だ。恐らく、法的には責任を問われないだろう。だがね、道義的な責任からは逃れられないよ。少年が通報していれば、助かったかもしれない命がある。彼は、この事実に耐えられるかな」
「そ、そんな……」
「前にも言ったはずだよ。最善の選択肢を選んだからといって、最善の結果に結びつくとは限らない。だからこそ、即断即決が基本となってくる。同時に、感情をコントロールする術も学ばなくてはならない。そこで涙を流し後悔したところで、何もならないからね」
そこで、ペドロは言葉を止めた。零士の目を、じっと見つめる。わかったかい、とでも言っているかのようだ。
その眼力に圧倒され、零士は思わず後ずさった。この男の沈黙は、チンピラの恫喝より数十倍は怖い。逃げられるものなら逃げたかった。だが、逃げることすら出来ない。
少しの間を置き、ペドロは口を開く。
「件の少年は、殺人を告白した脱獄犯を見逃した。結果、もうひとりの人間が死んだ。少年は、罪悪感に苛まれるかもしれない。だがね、それは無意味なことだよ。少年がいくら泣き叫んで己を責めたとしても、死んだ者は帰って来ない。少年にとって必要なのは、罪悪感を捨て去ることだよ。そうすれば、楽に生きられる」
「どうすればいいんですか?」
「簡単さ。罪を重ね、より残酷な行為に手を染めていく。そうすれば、耐性が出来ていく。やがては、人を殺しても平静でいられるようになる。精神的ダメージを受けなくなるのだよ」
恐ろしい発言に、零士はそっとうつむいた。より残酷な行為に手を染めていく、つまり犯罪者になれということか。それは間違っている。
「僕は、そうはなりたくないです」
思ったことが、そのまま口から出ていた。すると、ペドロはにやりと笑う。
「どうかな。人生とは、皮肉なものでね。それに、己の宿命からは逃れられないよ」
どういう意味だろう。聞いてみようとした時、ペドロの口から妙な言葉が飛び出す。
「話は変わるが、君は鬼婆という妖怪を知っているかな?」
「は、はあ?」
素っ頓狂な声が出ていた。先ほどまで、犯罪に関する教えを説いていたかと思うと、次は妖怪である。話の振り幅が大きすぎ、どう解釈すればいいのかわからなくなっていた。
混乱する零士に向かい、ペドロは語り続ける。
「鬼婆とは、日本の様々な昔話に登場する妖怪だ。人間の老婆が鬼となったものを指すらしい。不思議だとは思わないかい?」
「いや、不思議とは……思わないです」
どうにか答えた。不思議も何も、そういう設定のもの、としか思っていない。そもそも、鬼婆自体が現実には存在しない生物である。何を不思議だと思えばいいのか、そこからしてわからない。
困惑する零士に向かい、ペドロは一方的に喋り続けた。
「鬼婆はいるが、鬼爺なる妖怪はいない。ひょっとしたら、俺が知らないだけで何かの物語に登場しているのかもしれないが、鬼婆に比べれば非常にマイナーな存在だ。これは、なぜなのだろうね?」
「わかりません」
「つまり、鬼という種族は女性が大半を占めているのかもしれない、ということだよ。鬼といえば男性のイメージが強いが、鬼女という言葉もあるからね。もし、鬼なる妖怪が現実にいるのなら、それは女性の姿をした者が大半を占めているのかもしれないということさ。ちなみに、ロシアにはバーバ・ヤーガという妖怪がいるが、これまた女性の姿をしていたらしい」
何を言っているのか、さっぱりわからなかった。その鬼婆と、この島と何の関係があるのだろう。それを聞こうとした。が、寸前で別の質問が頭に浮かぶ。
ここしばらく、零士を悩ませていた悪夢。ペドロなら、あれが何なのか知っているかもしれない。
「あの、あなたは……その、妖怪に詳しいのですか?」
「妖怪? どうだろうね。俺より妖怪に詳しい人間など、探せばいくらでも見つかるだろう。もっとも、俺の知識が及ぶ範囲のことなら教えられるよ」
真顔で答えるペドロに、零士は疑問を口に出そうとした。
だが、すんでのところで止める。冷静に考えれば、あまりにもバカバカしい質問だ。普通の大人に尋ねたなら、バカバカしいと一蹴されてしまうだろう。
ましてや、相手は凶悪犯だ。しかも、礼儀にはうるさい部分がある。そんなバカなことを聞くとは、いい度胸だね……などと、冷酷な目で説教されるかもしれない。
躊躇する零士だったが、そこで優しい声が聞こえてきた。
「何か、聞きたいことがあるようだね。ならば、遠慮なく聞きたまえ」
彼らしからぬ声音だった。その言葉に押されるように、恐る恐る尋ねてみた。
「あの、人を食べる妖怪はいますか?」
「それはまた、範囲が広すぎる質問だな。人を食べる妖怪など、探せばいくらでも見つかる。世界規模で考えれば、一万種どころではないと思うよ。先ほど話した鬼婆やバーバ・ヤーガも、人間を食べると言われているしね。他の特徴はないのかい?」
「ええと……肌が緑色で、牙が生えてて、目が紅く光っていました」
途端に、ペドロの表情が変わった。何やら思案するような顔つきで、さらに質問してきた。
「君は、それを見たのかい?」
「はい、一応は」
「それを、どこで見たのかな?」
一瞬、どうしようか迷った。だが、勇気を振り絞り答える。
「ゆ、夢で見ました」
途端に、ペドロはくすりと笑った。
「ほう、夢かい。夢ともなると、判断するのが非常に困難だな。君の空想の産物とも考えられるしね」
「いえ、違うんです。実は……」
そこから、零士は今までのいきさつを語った。母が死んだこと。その死体の状況と、夢で見た情景があまりにも似すぎていることを、つっかえながらも最後まで話した。
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