凶気の呼び声~狭間の世界にうごめく者~

板倉恭司

文字の大きさ
50 / 73

鉄雄、計画を確認する

しおりを挟む
「正一、ガキは明日の二時に来るそうだ。チャカ拳銃は用意できてるな?」

 鉄雄の言葉を聞き、火野正一は頷いた。拳銃を取り出し、テーブルの上に置く。

「よし。ところで、天田とは連絡ついたのか?」

「いや、連絡ついたんですが……奴は今、仕事でしはらく手が離せないと言ってました」

 聞いた鉄雄は、溜息をついた。これはもう無理だ。天田士郎を計画に加えるのは諦めよう。正一と自分、そして陽一。この三人で、当初予定していた現金強奪計画を遂行するのだ。
 正直、無理がある計画だとは思う。だが、今となっては仕方ない。何せ、組員を襲った犯人が捕まらなければ、自分たちがケジメを取らされるのだ。運が良くても飼い殺し。下手をすると、犯人に仕立てあげられるかもしれない。



 鉄雄は、桑原徳馬の恐ろしさをよく知っている。他のヤクザと違い、そうそう暴力を振るったりはしない。その代わり、何のためらいもなく人の命を奪うし、時には殺すよりもえげつない手段を用いる。
 以前、銀星会の幹部の娘にさんざん貢がせた挙げ句、ぼろ切れのように捨てたホストがいた。当時、まだ一介の組員だった桑原はそのホストを拉致し、有り金を残らず奪った。
 だが、桑原の恐ろしさはそこからである。ホストを自分の息のかかった病院に入れ、麻酔で眠らせているあいだに性転換手術を施させ、女の体に変えてしまったというのだ。
 噂によると、そのホストは今もどこかで桑原の監視の下、体を売って生活しているのだという。しかも、戸籍上は事故で死亡したことになっており、さらにそのホストは精神に異常をきたしており、逃げることも訴え出ることもできないという噂だ。
 ちなみに、その一件で桑原は出世した。上の人間からは信頼され、周りからは恐れられるようになったのである。



 こんな真似をする桑原だ。鉄雄と正一を犯人に仕立てあげるくらいのことは朝飯前だろう。しかも、ふたりには何の後ろ楯もない。
 鉄雄と正一を始末した後、仮に真犯人が出てきたとしても……桑原を責めるだけの度胸のあるものなど、今の銀星会にはいない。彼の評判が多少は下がるかもしれないが、そんなことになったとしても……既に死んでいるかもしれない状態の自分には、何のたしにもならない。
 結局は、逃げるしかないのだ。

「鉄さん、あのガキと組むんですか? 大丈夫ですかね?」

 正一が、不安そうに尋ねる。

「仕方ないだろうが。銀星会を敵に回そうなんて奴がどこにいる? いないだろう。かといって、二人じゃ無理だ。あのガキを使うしかないんだよ。お前にはドライバーをやってもらう。俺とガキが奴らを襲い、金を奪う」

「不安ですねえ……」

 正一の表情が曇る。しかし、それも当然だろう。何せ、ニートの少年を計画に加えることになってしまったのだ。しかも、相手は殺気立っている状態の銀星会である。普段ならば、文句無しに中止にするはずだ。

「こうなったら、やるしかねえよ」

 鉄雄は言葉を返す。不安なのは同じである。だが、この状況では他に手がないのだ。銀星会を相手に、ヤマを踏もうという奴などいない。今すぐ確保できるのは、陽一しかいないのだ。
 しかも、陽一は銀星会には顔も名前も知られていない。鉄雄と陽一の付き合いは、つい最近始まったばかりだ。陽一の両親も、鉄雄の存在には気づいていないはず。陽一という点と、藤田鉄雄と火野正一という点を線で結ぶためには、かなりの時間がかかることだろう。
 仮に辿り着いたとしても、その頃には自分たち二人はとっくに高跳びを済ませているのだ。
 そう、陽一には荒事の経験はない。その点において不安ではあるが……手駒として使うには、まずまずの人材である。そこら辺のひねくれた不良と違い、素直だし、真っ直ぐな心根も評価できる。
 あくまでも、使い捨ての手駒ではあるが。

「もし上手くいったとしたら、ガキはどうするんです?」

 その問いに、鉄雄は口元を歪めつつ答える。

「死んでもらうよ。万が一にも、あのガキにベラベラ喋られたらマズいことになる。口は封じなきゃ、安心できない」

「やっぱ、そうなりますよね……」

 そう言う正一の表情には、かすかな哀れみのようなものが感じられる。鉄雄は目を細めた。

「てめえ何考えてんだ? 俺たちはな、銀星会に追われることになるんだぞ。タイに逃げたって安心できねえんだ。あのガキに分け前を渡して、また会おうぜって訳にはいかねえんだよ。可哀想だが、あのガキには死んでもらう。こっちの世界に踏み込んで来たのが運の尽きさ」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

モース10

藤谷 郁
恋愛
慧一はモテるが、特定の女と長く続かない。 ある日、同じ会社に勤める地味な事務員三原峰子が、彼をネタに同人誌を作る『腐女子』だと知る。 慧一は興味津々で接近するが…… ※表紙画像/【イラストAC】NORIMA様 ※他サイトに投稿済み

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人
恋愛
ある日、十七才の春に僕は病院で色のない少女と出会う。 それは、この場所で出会わなければ一生関わる事のなかった色のない彼女とモノクロな僕の 秘密の交流。 彼女との交流によって諦観でモノクロだった僕の世界は少しずつ色づき始める。 十七歳、大人でも子どもでもないトクベツな時間。 日常の無い二人は限られて時間の中で諦めていた当たり前の青春へと手を伸ばす。 不器用な僕らの織り成す物語。

【完結】幼馴染に裏切られたので協力者を得て復讐(イチャイチャ)しています。

猫都299
青春
坂上明には小学校から高校二年になった現在まで密かに片想いしていた人がいる。幼馴染の岸谷聡だ。親友の内巻晴菜とはそんな事も話せるくらい仲がよかった。そう思っていた。 ある日知った聡と晴菜の関係。 これは明が過去に募らせてしまった愚かなる純愛へ一矢報いる為、協力者と裏切り返す復讐(イチャイチャ)の物語である。 ※2024年8月10日に完結しました! 応援ありがとうございました!(2024.8.10追記) ※小説家になろう、カクヨム、Nolaノベルにも投稿しています。 ※主人公は常識的によくない事をしようとしていますので気になる方は読まずにブラウザバックをお願い致します。 ※「キスの練習相手は〜」「幼馴染に裏切られたので〜」「ダブルラヴァーズ〜」「やり直しの人生では〜」等は同じ地方都市が舞台です。関連した人物も、たまに登場します。(2024.12.2追記) ※番外編追加中・更新は不定期です。(2025.1.30追記)←番外編も完結しました!(2025.9.11追記) ※【修正版】をベリーズカフェに投稿しています。Nolaノベルでは全話限定公開・修正中です。(2025.10.29追記)

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...