兄がΩ 〜うっかり兄弟で番いましたが、今日も楽しく暮らしています。〜

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●行ってもいいですか?

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 ここしばらく、兄とろくに会話も出来ない日々が続いている。兄は夏祭りの準備に忙しく疲れている様子で、夜遅くに帰ってくると、ベッドに入って三秒で寝てしまう。朝は就業時間ギリギリに起き出して着替えるや、弾丸のような速さで階下したに降りて行く。
 午後の講義が休講になったので、僕はいつもより早く帰宅した。ちょうど兄が休憩所にいた。よかった。僕は兄にお願いしたい事がある。
「お前も飲む?」
 兄は冷蔵庫からサイダーの缶を取り出して言った。
「いいんですか?」
 休憩所の冷蔵庫には、ジュースや冷たいおやつが常備されているけれど、これは従業員専用。僕達は絶対手を付けちゃダメだと、子供の頃は両親からキツく言い聞かされていた。今は兄はここの従業員だからいいとして、僕は相変わらずの部外者だけど……。
「俺が許す」
 と、兄が言うので、僕は有り難く缶を受け取り、「座れば?」と勧められたのでテーブルに着いた。兄は一気にサイダーを飲み干してしまうと、煙草に火を点けた。どうやら機嫌は悪くなさそう。僕は周囲に誰もいないことを確認し、サイダーのプルタブを上げ、一口飲んでから切り出した。
「お兄さん」
「なに?」
 僕はテーブルに額が着くほど頭を下げた。
「お祭りに行ってもいいですか!」
「祭りって、街の?」
「いいえ、ここのです」
 顔を上げれば案の定、兄は嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
「うちは俺が出てるんだからお前は」
「ややっ、違います違います!」
 僕は慌てて両手を振った。
「見に行くだけですっ。真咲まさき姐さん達と」
「えぇ……」
 余計に渋い顔をされた。
 真咲姐さんから『祭り行こうぜ!』とメールが届いたのだ。姐さんのバイト仲間達も一緒だという。僕は断った。父の方針で、毎年僕と母は家で留守番だからだ。けれども姐さんは『んなもん説き伏せろ』と言って譲らない。
 事情を話すと、兄は顰めっ面のまま煙を吐き出した。
「じゃあ、親父に言ってオーケーが出たらな」
 ところが思いの外あっさりと、父の許可は下りた。

 祭り当日の午後は、家の中がどたばたと騒がしかった。
「じゃーん、見ろ!」
 茶の間に、真咲姐さんとその仲間たちが浴衣に着替えて勢ぞろい。とても眩しい光景だ。着付はうちの母がした。彼女達はお祭りを冷やかしたら、その足で『スナックゆりあ』に出勤するらしい。どうやら最初から、目当ては祭りというより着付だったようだ。
 母は額の汗を腕で拭い、
「若い女の子の着付けはやり甲斐があるわぁー、うちも女の子がいればよかったのにぃ」
 と言い、今度は僕に肩を当て、声をひそめて言った。
「あんたやアキちゃんが早く結婚してくれればねぇ」
「そんな、まだ早いですよ」
「何言ってるの、お母さんがあんた達を産んだのは何歳の時?」
「いや知ってますけど。でも女子と男じゃ精神年齢が違うので、無理です」
 そんなひそひそ話をする僕達をよそに、女子達は円陣を組んでいた。
「いざ、茜をからかいに、出陣じゃ! えいえいおー!」
 かけ声というよりもはや鬨の声と言ったほうがいい感じだ。
「茜ちゃん? 彼女がなんですって?」
「祭りに出るんだってよ」
 真咲姐さんは事も無げに言った。
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